第六次聖杯戦争〜偽善者の聖杯〜   作:黒猫街夜

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先に言います。この二人推しの人、申し訳ない


セイバー ②

 「……」

 

 目を覚ますと、そこは知らない天井だった。いつの間にか布が被されており、どうやら助かったらしい。

 

 「目覚めましたかマスター」

 

 「目覚めたか人間」

 

 二人の英霊が霊体化を解いた。赤い落書き……恐らくは令呪を通してこの二人が私のサーヴァントである事を教えてくる。

 真名は気絶する直前に聞いた。確か……

 

 「ディオスクロイだっけ」

 

 確かアルゴノーツに乗っていた双子の英霊、空に上げられ双子座となった双翼。カストロとポルクス。

 

 「ふん、人間如きが我らの名を……」

 

 「まぁまぁ兄様」

 

 改めて安全を自覚し、ついつい力が抜ける。どうやら腰が抜けたらしく、立てない。それとも立てない理由が身体中がボロボロだからだろうか。しばらくは刀を握る事すら無理だろう。魔術刻印はどうやら無事らしく、それだけは安心できる。

 しばらくは傷を癒す必要があるだろうが、治療に専念すれば数週間で治るだろう。真尋さんからの仕事はその後。ここまで負傷すれば続行不可能を申し立ててもいいかもしれないが、仕事に就いてから数時間でリタイアなんて真似ができるはずもない。そんな事になれば、もしかしたら真尋さんに嫌われるかもしれない。何をおいてもそれは避ける。

 

 「とりあえず服は着せておきました。人間はあれでも風邪を引きますからね」

 

 「あ、ありが……」

 

 「人間に気遣いなど不要だ妹よ。人間、人間っ! その響きだけでも憎らしいわ!」

 

 「兄様、落ち着いてください。一応はマスターです」

 

 「……認めんぞ俺は」

 

 「兄様……」

 

 カストロは霊体化して何処かに行ってしまった。まぁ残念だけど、あまり話が通じる気がしないし、ポルクスに話を聞くとしよう。

 

 「とりあえず聞きたい事があるんだけど……」

 

 「その前にあなたの現状を教えてください。まさか好き好んであんな所に全裸でいた訳ではないでしょう?」

 

 クスクスと若干の嗜虐性(しぎゃくせい)を含ませて笑う目の前の英霊を見て悟る。彼女もまた性格が悪い。

 

 母さんもそうだった。私は魔術的、そして呪術的なデザイナーベビー。母さんは結局のところ母胎としての役割を与えられただけだった。そういった行為を数回しただけらしく、結局のところ、胎児以前の受精卵から調整に調整を重ねた子供なんて、実の子供だとは思えないとはっきり言われた。

 幼少期からバレない範囲で虐待を受け続けた。しかしそれらの傷も、異常な特性故か、数日で治っていた。しかも成長すればする程、身体能力も肉体の回復速度も上がっていき、自分でも人間ではないと、実感せざるを得なかった。でもそれに関しては何とも思わなかった。どうやら無茶な調整を受けたせいで、感情は薄く、寿命もかなり縮んでいるらしい。

 結局それらを他人事みたいにしか受け入れられない時点で、人としては決定的に終わっているのだ。しかし()()()()()()()()()()()

 

 でも真尋さんは私を気遣ってくれた。傷だらけで放置されていた私を看病し助けてくれたのは真尋さん、遊園地を教えてくれたのも真尋さん、あの人が居なければ私はここには居ない。

 

 とりあえず事情を説明する。上司からの依頼で聖杯戦争の調査に来た事、その過程で令呪を押し付けられた事、魔術品を含めて衣服を剥ぎ取られていた事を伝えた。

 

 「あぁ成程、そういう趣味がある訳じゃなくて安心しました。……それで質問ですが……」

 

 「何?」

 

 「処女は守れたのですか?」

 

 「……………………………………………は?」

 

 長い沈黙の後に、絞り出す事ができた一言がそれだった。

 

 「だって話を聞いている限りだと、気絶させられて裸に剥かれたんでしょう? ならその心配は当たり前では?」

 

 今度ははっきりとその笑みに嗜虐的なものが混ざっていた。そうであればいいのにというのが、透けて見える。英霊とは、サーヴァントとはそういうものだったのか。それともこのサーヴァントの本質がそうなのか。どちらにしてもいい気分はしない。

 

 「まぁその心配はないわ」

 

 「あら、どうしてですか?」

 

 しつこいが、答えなければ、さらに追求されるだろう。

 

 「私の魔術体系的に、そういう事には敏感なの」

 

 「ふーんそうですか……まぁそれはいいでしょう」

 

 ギラリと目が光ったような気がした。それに今日はよく殺意をぶつけられる日らしい。

 

 「あなたは聖杯の調査に来たと言いましたね?」

 

 「えぇそうね」

 

 「では戦争への参加の意思は?」

 

 あぁ成程、確かにそれは重要だろう。サーヴァントが聖杯に呼ばれる理由なんて、自らの生前の願いを叶える事以外にあるわけが無い。私が聖杯に関する調査に来ている以上、聖杯戦争に参加する理由は無い。それどころか、戦争の発生を防ぐと思うのは当たり前の事だろう。

 ……それに関しては正直悩み所だけど……

 

 「……参加はする」

 

 「参加()ですか」

 

 「えぇ、私が依頼されたのは聖杯の調査と破壊です。この聖杯は本来の聖杯の残りカスの再利用品らしいから、どこまで願いが叶えられるかは知らないけど、使用した後に破壊するのであれば、構わないと思うわ」

 

 「ふむ、まぁいいでしょう。兄様もそれでいいですね?」

 

 ギョッとして振り向くと、そこには苛立った様子のカストロが立っていた。

 どうやらそばに居たらしい。今戻ってきたのか、最初からそこに居たのか、それは分からないが、どちらにしても私に対して、欠片も好感情を抱いていないらしい。これから前途多難な聖杯戦争を生き残るにしては、中々悲しい事だ。

 

 「……いいだろう人間、契約はしてやる。ただし契約だけだ。マスターとして認める訳では無い」

 

 「それでいいよ、じゃあよろしく」

 

 そう言ってから手を出す。

 

 「……何だその手は」

 

 二人の目が若干殺意を帯び出す。

 どうやら何かを間違えたらしい。

 

 「……握手?」

 

 「何故疑問形なのですか……」

 

 「人間なんぞと手を繋ぐ訳ないだろうが」

 

 困惑と拒絶、最初のコンタクトにしては中々悲しいが、どうもポルクスからの悪感情というか、加虐心が少し抜けたように見える。今も薄く微笑んでいるし。

 

 「ともかくこれで我々は一心同体、妹以外の、しかも人間と一心であり同体などと、寒気と吐き気に同時に襲われそうだが、まぁそれはこの際妥協してやろう。貴様が我らの願いを叶えるが為に奔走(ほんそう)し続けるのであれば、この聖杯戦争の一時のみ、貴様を我らの契約者として認めてやろう」

 

 「どうか短い間でしょうが、よろしくお願いしますね? えっと……」

 

 あぁそういえば名前を名乗っていなかった。

 

 「四季森彩、よろしく」

 

 あぁそれからこれも聞いていなかった。

 

 「ねぇ、あなた達の望みは? 今回の聖杯が残り物の絞りカスだと思って答えてね」

 

 「……その偽物の聖杯とやらはどこまで願いを叶えられる?」

 

 「その調査の途中だったの」

 

 「あぁそうだったか……」

 

 二人して考え込むかのような仕草の後、二人同時に口を開く。

 

 「我らの望みは、人間共が愚かにも捻じ曲げた、(兄様)が零落した原因を、全て消し去る。それだけだ」

 

 聞けば、彼らは古き双神であった。しかし後に人間が彼らの存在を捻じ曲げ、ゼウスの血を引かぬ兄カストロと、ゼウスの血を引く妹ポルクスに分けられたそうだ。その逸話を根底から消し去り、元の双神としての姿を取り戻す。それが彼らの望みらしい。

 

 「勘違いするなよ、我らは聖杯などというくだらない物に頼ろう等とはしていない」

 

 「既に神では無いこの身といえど、それなりに無茶をすれば権能の一時的な使用ぐらいはできます」

 

 「しかし魔力が足りない。決定的にな」

 

 「故に、我らは聖杯の内に溜まる魔力が欲しい」

 

 「聖杯には決して頼らんが、まぁ我らが手に入れるべき物を寄せ集め、我らが手にするまで保管するぐらいは許してやるのが器量というもの」

 

 「故に捧げなさい」

 

 「それが我らの望みである」

 

 あぁ成程、それは正しい。かつて自らの役目を得られなくなり、ただそこに居ただけの人形だった私には分かる。彼らは奪われた物を取り戻そうとしているだけだった。自分達を零落させた人間の作った聖杯に頼るのではなく、その過程で集まる物を奪い取る。言ってしまえばささやかな仕返しといったところだろうか、であれば協力しよう。どうせこの街が滅ぼうが、例え万の人間が死のうが、真尋さんと私が無事ならばそれで全ては解決する。

 むしろそれこそが私の望むべき世界ではあるまいか、くだらない倫理や理屈に突き動かされて、心の内に湧き続けるこの情動を抑えるだなんて、私には決してできない。

 

 恋せよ乙女、その想いは全てに(まさ)る。

 

 私も全力を尽くそう。私とて魔術師の端くれ。真尋さんの横に並び立つに相応しい実力があればなどと、何度願ったか分からない。

 聖杯、万能の願望器。今回のは盗作で絞りカスで再利用品(リサイクル)らしいけど、もしも英霊を、サーヴァントを七騎も呼べるなら、きっと叶えられる。きっと到達できる。

 

 聖杯は破壊する。けれど私の願いを叶えた後だ。

 私は狂った訳じゃない。この胸を焦がす甘い痛みは、もう誤魔化せないし、誤魔化さない。

 

 最後の望みはきっと単純で、私はきっと破滅する。昔からそれだけは理解できていた。この恋が単純かどうかは悩むところだが、後者は間違いない。私は私の想いに潰される。四季森彩(凡人)では駄目だ。式守彩(怪物)でなくては、何もできない。無力、この世で最も罪深い。生まれ持った物でそれらは決定づけられるのか? もしそうなら私は真尋さんと永遠に結ばれない。

 これは証明だ。

 決して(たが)えられぬ。

 

 豹変? それは違う。私は最初からこうだった。誰しもが必ず持っているであろう心の仮面が、私のモノは少しだけ分厚かった。それだけの話なのだ。

 

 「理解したわ、であれば私も最善を尽くす」

 

 逃げてたまるか、諦めてたまるか。

 私は幸せ(真尋さん)が欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 




まともなキャラになるはずだったのに……
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