第六次聖杯戦争〜偽善者の聖杯〜   作:黒猫街夜

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バーサーカー 獣

 「お疲れ様、悪いね、最初の役がこんなので」

 

 「構わんさ、存外悪くないものが見れた。楽しくなりそうだ」

 

 仮面の人物の、全く悪いと思っていなそうな謝罪に、クツクツと笑いながら答える黄金。自らを唯一にして絶対と信じる男は、右手の令呪を爛々と光らせていた。

 天井の崩壊という偶然によって引き起こされた逃走は、副産物としてサーヴァントをも呼び寄せた。

 

 「では私もこれから召喚に入るとしよう」

 

 「そうか、まぁ楽しみにしてるよ。とりあえずここからは引き上げよう。彼女が呼んだサーヴァントに目をつけられるのは面倒だ」

 

 そう言って()()()()()()()は何処かへと去っていった。昔、気になって何処に消えるのかと尾行してみた事があるが、ことごとく巻かれている。目を話すつもりは微塵も無く、気配も消え失せる寸前まで捉えていた。しかしそれでも巻かれてしまった辺り、やはり彼は本物だ。

 

 サーヴァントの基本法則、サーヴァントはサーヴァントでなければ倒せない。逆にサーヴァントが人間を殺す事は、それ程労力を使わずに遂行する事ができる。悲しいが、戦力差とは常々そういうものだ。

故に私もサーヴァントを召喚し、対抗手段を持たなければならない。召喚陣は既に用意してある。では行くとしよう。

 この街に存在する六つの霊地の一つ、諏訪州図書館。その地下に禁書庫と呼ばれている、いわゆる魔道書と呼ばれる書物を管理している場所であり、中には既に百年が経過しているにも関わらず、未だに血の匂いを撒き散らす物もある。どれもこれもが普通じゃなく、もしかしたらそれこそ聖遺物すらあるかもしれない。

 しかしそんな物に頼りはしない。元より狙うは、私に近しい存在。人でありながらも、その在り方を獣とした人でなし。相性召喚、触媒である聖遺物を用意せず、召喚者の性質から縁を結び、相性の良いサーヴァントを呼び寄せる召喚方法。あぁ楽しみだ。どんなサーヴァントが召喚されるのか。

 

 教会から出て少し歩けば、学校をサボったのか、女子高生が数人たむろしていた。それらを眺めながら去る人々。嫌悪や侮蔑の目を向けられようとも、彼女らが気にする事はなどないのだろう。

 まぁ目下の問題としては、轟々と音を立てて燃えていく私の中身。言ってしまえば獣性。あらゆる存在は私の獲物であり、我が衝動を向けるための案山子に過ぎない。傲慢にしてどこまでも人から外れた私の衝動。

 ハインヴェール曰く、私の起源とやらはどうも《獣》らしい。人を喰らい、本能のままに暴れる私の本質が獣であるのは別に何とも思わない。しかし獣は同胞には何かしらの感情を強く抱くものだ。しかし私はそんなものを抱かない。そこらにある雑多である人間、彼らでは私の飢えを満たす事などできはしない。

故に求めるのは闘争、それも魂をベットした極上の殺し合い。

 

 気づけば私は目的地である地下に居た。入るのは数回目だが、それでもここの陰鬱さは依然として変わらない。怨念と混沌を混ぜ込んだ魔女の鍋。ここはそれらの集合地。

 だからこそ霊地にしか安置できないという因果な物達。

 

 故にこそ、私にはここが相応しい。

 魔道書が並べられた棚を引き倒すと、棚の下に隠されていた召喚陣が現れた。人の血で書かれたそれは禍々しく、見る者に生理的嫌悪を覚えさせるのが目的かのようにも思えた。

 

 蓄えた()()が沸き立つのを感じる。もうすぐでこの地が死と謀略渦巻く土地へと変貌を遂げるのを察しているのだろう。

 それらを押さえ込み、()()()()()()()()()を謳う。

 

 『来い』

 

 たった一言、しかしそれはあらゆる物が(ひざまづ)く至上の命令。人にして人に在らず。そう自覚するレオンは、何よりもそんな自分と縁を結ばれて召喚されるサーヴァントに興味を示していた。

 

 ギチリと空間が(たわ)む。血の陣が部屋全体を侵食していく。もはやこれは英霊召喚とは呼べない。ハインヴェールに教えられたたった二つの魔術の一つ。もはやこの世界に収まるには、過激が過ぎる獣性を持ってして、それを持て余す男、レオン・ハイドライト。そんな彼の血は、あらゆるものを蹂躙し、捕食する王者の証明。故に今回の召喚陣は、レオンの血を混ぜていた。

 結果は見ての通りであり、規定に収まっていたそれは、激しくのたうち回り、理解の及ばぬ何かへと変わる。鉄の匂いが部屋に蔓延し、そしてそれらがまるで惹かれるかのようにレオンへと向かっていく。

 

 「……私の血は私の物であり、それで染めた物は、既に私の物か……」

 

 事実、この召喚陣はレオンの一部として、レオンの中へと回帰しようとしていた。しかしレオンがそれを許すはずもなく。

 

 「役目を果たせ、私は友の期待に応え、そして私の望みも叶えるのだ」

 

 その言葉を聞き、召喚陣が高速で回転を始める。宙空に浮き上がり、実態を持っているかのような動きを見せる召喚陣は、数秒して、真っ赤に部屋を染め上げる程輝きを放つ。

 そしてその悪しき輝きが収まると、そこには────

 

 「おぉ! 我が友よ」

 

 そこには虎が居た。獣、確かにそうだがこれはいささか拍子抜けだ。

 

 「あぁ友よ、我が生涯の盟友()()()! こうしてまた出会ったのは運命だ! しかし私はきっと獣に呑まれ君を食らうだろう……それは嫌だ、それは嫌なんだ」

 

 「ほう」

 

 袁傪、確か中国の詩人だったか? よく覚えていないが、確かそのような者だった気はする。

 だがそんな事はどうでもいい。この獣は間違えた。それを正さなければ。

 

 「貴様誰を食らうと?」

 

 「……袁傪?」

 

 「この私を……食らうと言うのか? そのようなちんけな牙で!?」

 

 レオンは珍しく激昂していた。期待していた。どのような英霊が来るのかと心待ちにしていたのだ。

 

 「私を誰だと思っている!」

 

 レオンの怒号に合わせて、部屋に大圧が押し寄せる。虎はそれに臆したのか、獣はらしからぬ動きで、下がっていく。

 

 「貴様如きが、我を殺せると思うか!」

 

 事実誰も殺せなかった。

 

 「答えろ虎ァァァァァ!」

 

 「おぉ袁傪よ! 君は、私の牙を、私の獣を拒絶しないと、そう言うのか!」

 

 「あぁそうだ虎よ! むしろ食えるのならば食ってみろ!」

 

 レオンは袁傪ではなく、虎もまたただの虎ではないが、どこか噛み合わないその会話は、奇跡的に成立していた。危ういバランスの上に成り立つ、本来なら薄氷を渡るような慎重さが求められるであろうが、レオンはそれを嫌っていた。『ただ在るがままに』、自分はそうして生きてきた。それを高々虎なんぞに否定させるかと、彼は吠えていた。

 

 「…………はは、ははははははははは!!! 素晴らしいぞ袁傪! どうやら私は君を見誤っていたらしい! 謝罪しよう、君は私のマスターだ!」

 

 「あぁそうだ! 私はレオン・フォルゲリー・ハイドライト! 貴様のマスターであり、人間の完成形よ!」

 

 ここに獣のペアが完成した。

 しかし彼らは知らない、バーサーカーは既に現界している事を。原則として、聖杯戦争に召喚されるクラスは七つ。被る事などありえはしない。

 しかし今回の聖杯戦争は異常中の異常。普通の状況になる方が珍しいとまでいえる。

 

 「さぁ食らおうか袁傪! 全てを!」

 

 「いいだろう虎、いや李徴よ! 全てを蹂躙するがいい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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