第六次聖杯戦争〜偽善者の聖杯〜   作:黒猫街夜

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キャスター

「天秤の守り手よ──!」

 

魔力が部屋に吹き荒れる。机に置いてあった紙の資料が部屋に散っていく。

魔術師、アレックス・セルリース。彼の家系は、身体強化に振り切った魔術を使う家系だった。根源に到達する方法として発案されたのが、身体強化を繰り返し、己の肉体を人間として完成系に近づければ、到達できるだろうという酷く曖昧(あいまい)なものの時点でお察しである。

この街に来たのは、聖杯戦争に参加するためである。

()()()()()()()()()()

この男、サーヴァントを相手に、自分が戦うつもりなのだ。サーヴァントを召喚する理由は、正当に戦う理由が欲しいのと、戦うためのパートナーが欲しいというだけだった。サーヴァント、人類史に刻まれた英雄達。彼らに自分達が伝えてきた魔術は、拳術は通用するのか。それが知りたい。

 

そして煙が晴れ、現れたのは。

 

「初めましてキャスターよ。……不運ね、あの触媒で私を呼んでしまうなんて」

 

美女だった。今まで出会った中の誰よりも綺麗な女だった。美しい金の髪に、水晶のように澄んだ青い瞳。絶世の美女という言葉は彼女のためにあるのだと、今確信した。

 

「惚れた」

 

「……は?」

 

気がつけば言葉は口から滑り落ちていた。

しかし止まらない。止めるつもりもない。

 

「あんたに惚れた。俺と結婚してくれ」

 

色々と過程やらなにやらを吹き飛ばした会話に、美女の方が困惑していた。その焦る表情すら愛おしい。

 

「な、名前も知らないのに?」

 

「……あんた名前は?」

 

うっかりしていた。流石に色々飛ばしすぎた。

 

「はぁ……教えないわ。どうせ私役立たずだし」

 

「関係ねぇ、俺が惚れた」

 

「んなぁ!?」

 

はわわと困惑するのが可愛い。

元はと言えば共に戦えるパートナーを呼ぼうとしていたが、もう関係ない。パートナーの意味合いが変わっただけだ。

 

「俺はアレックス・セルリース。拳法家兼魔術師だ。あんたは?」

 

「……教えないわ」

 

それは拒絶だった。しかし寂しそうに、そして深い諦観がこびりついた拒絶だった。もはや優しさすら感じるそれは、アレックスにとって初めて向けられる感情だった。

 

自分の顔はそれなりに整っていると自負している。

そりゃあ流石に何度か袖にされたり振られる事もあったが、まるで俺をを気遣うような拒絶なんざ初めてだぜ。

 

いつもならこれで諦めるんだが……

 

「諦めんぞ、まずは名前を知る事からだ」

 

攻略難易度は高そうだが、だからこそ燃えるってもんだろ?

この世から弾かれたかのような悲壮感に溺れる美女。俺の嫁さんにするなら、こういう女がいいね。救ってやりたくなる。

 

「まぁ見てな、とりあえずかっけぇとこ見してやるからよ」

 

「……はぁ? 何言ってるの?」

 

「ん? これからどっかに襲撃すんぞ。後々面倒だし、アサシンの拠点を探す」

 

アレックスは馬鹿だが、戦いに関しては馬鹿ではない。戦う前に戦略を練り、戦いの最中であろうと戦術を練れる。

そして戦いに関しては結果論主義であり、相手に勝てるのであれば、それでいいと断言できる。暗殺者に負ければ、暗殺に対応できなかった落ち度であると言い切り、魔術師に遠距離攻撃ではめ殺しにされようと、遠距離への対応策を用意しなかったのが悪いと言いながら、近くの石を拾い全力で投げつける。

勝負とは敗北か勝利かに別れており、同時に生か死かだと思っている。負ければ死ぬのが当たり前、生きれば相手の生殺与奪を握るのは当たり前。

しかし戦争特有の勝てば敗者の周りすら略奪していくのはとても嫌いだった。それが戦争だと分かってはいるが、戦いに関わらなかったヤツらから奪い取り、女を陵辱しても許されるあの雰囲気は、アレックスの肌には合わなかった。

アレックスが望んでいるのは闘争のみ、己の全てと、相手の全てをぶつけ合う殺し合い。それに酔いたいのだ。そしてそれがいつまでも続けばいいと思っていた。

 

しかしどうやら彼女にはそんなアレックスの心情など知る由もなく、突拍子もない発言に目を白黒させて反対する。

 

「ちょっ、何考えてるの!? まずは敵の情報とかその辺を……じゃなくて! ……私は戦えないの、分かる? 足手まといなのよ。期待させておいて悪いわね。私を読んでしまった以上、どんな願いがあったのかは知らないけど、それは叶わないわ……」

 

今度は打って変わってシュンとした様子でうつむいた。

しかしアレックスは、逆にキョトンとした。

 

「うん? まぁ気にすんな。俺がやるし」

 

「へ?」

 

キャスターにとっては信じられなかっただろう。まさかサーヴァントを召喚しておきながら、自分が戦うなど、聖杯戦争、そしてサーヴァントというものを知っているのなら、その行動は狂気としか言いようがない。

 

「な、何考えてるの! ほんとに何考えてるの! 死ぬわよ! 人間のあなたがサーヴァントに勝てる訳……」

 

「おい」

 

「ッ!」

 

言葉は続かなかった。アレックスから吹き出す何かによって、威圧されたのだ。もしも言葉を続けていれば、殺されかねない。サーヴァントであるキャスターをもってして、そう予感せざるを得ない何かだった。

 

「俺は始める前から諦めるヤツは大っ嫌いだ。二度と口にすんな」

 

「あ、う……」

 

怯えているキャスターを見て、バツが悪そうに頬を掻き、威圧を解いた。彼の流儀に従えば、女を脅すのは主義に反する。

 

「悪ぃな」

 

「うぇ? ……気にしないで」

 

心無しか、さっきよりも距離が若干開いたような気がして、アレックスは悲しくなった。

しかし自分が説明不足だったのも確かだと思い直し、説明する事にする。

アレックスは無謀と蛮勇の違いを弁えているのだ。

 

「これを使えば、サーヴァントにやり方次第じゃ、サーヴァントに対抗できるはずだ。理論上はそうなってる」

 

そう言って取り出したのは、瓶にぎっしり詰められた赤い錠剤だった。

 

「先祖代々、何代にも続いて受け継がれてきた薬でな。原材料は俺らの血と()()()()()を混ぜ合わせて作ってる」

 

「ちょっ、ちょっと待ちなさい……幻想種? 今幻想種って言った?」

 

「まぁな、手に入れたのはほんとに偶然らしいし、幻想種としてのランクもかなり低めだったらしい。まぁそれでもこの薬を使えば、英霊よりも少し低い程度の性能は発揮できるはずだ。後は技術でなんとかする」

 

確かにそれなら理論上は可能かもしれない。難易度が桁外れている事に目をつぶれば、それは上手くいく可能性の高い賭けだ。しかし彼らは英霊である。そう簡単に行くはずがない。

 

「まぁ死んだら死んだで来世に期待するさ」

 

お気楽な口調でそう(のたま)うアレックスの目は、しかしながら殺意と戦意でギラついていた。

()()()()()()()()()()()。その事実に絶望しているキャスターを放っておいて。

 

「じゃあ行くか」

 

彼らは夜の街に繰り出した。

 

 

 

 

 

 

集いし英霊は六騎、イレギュラーは多く、主催者ですら混乱している最中、それでもなお戦争は始まった。

 

 

 

 

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