結構《決戦技》のモーション作りに夜更かししてしまった。なので起きてログインする頃には既に10時を過ぎていた。我ながら今日はちょっとインが遅いかなぁ、とは思うもののまともに睡眠時間を確保するのは大事だし、まだまだ焦る様な時期でもない。厳密な集合時間はそもそも設定してないので実はそこまで問題でもないのだが。ともあれ、一晩ではモーションの方は完成する事もなく、今日明日は空いた時間にちまちまと魔法とカットインのモーション作成かなぁ、なんて事を考えている。何気に船に乗ってエルディアへと戻るのにも1日必要とするし。
そういう訳でログインして甲板にでる。フレンドリストを確認すれば既に全員ログインしていることを確認できる―――まぁ、身内は良いとして他の連中もインしてる。君ら、リアルでの生活どうなってんだ? とは思わなくもない。でもまぁ、今はしゃーないか、と思う。大体皆長期休暇取ってインしてるだろうし。全世界的にそういう状況だから一部大変そうだけども。
俺にはどうでもいい事だ。
「さーて、パーシヴァルの進捗を聞いてくるかー」
船に乗らないと大陸には戻れない。だからまずはパーシヴァル側の状況を知らなくてはならない。ここには重要人物がいるから救出に来たのだが、その状況がどうなっているのかは知りたい。そう思って甲板を見渡していると、船員がこっちに来て敬礼してきた。
「失礼します、アイン様。パーシヴァル殿下からの伝言でもう少々時間がかかるとのことです。少なくとも今夜中には会えるとのことです」
「オーケーオーケー、解った。それまではこっちも適当に時間潰してるよ」
「それとA様が大陸の方から来ています。断絶解除を確認して飛んできた様です。先ほどビーチの方へ向かったのを見ましたよ」
「えぇ……」
あの爺さん行動力高すぎるだろ。え、マジで飛んできたの? いや、マテ。そういやあの爺さんテレポートの使い手だった筈だ。となると長距離転移でこっちまで飛んできたのか。成程、断絶が解除されれば魔法を使って移動の出来る爺さんは、どんな所にでも顔を出すことが出来るのか。機動力高すぎるだろこの爺。それはそれで都合が良いから文句は何もないけど。
とりあえず船員にありがとうと言葉を返しつつ、船のタラップから桟橋に降りて周辺を伺う。どうやら皆割とバラバラに行動しているらしく、見える範囲では砂浜でアレキサンダーと略剣が巨大な砂の城を作成していて、それを土鍋が眺めているのが見える。他の連中の姿が見えない辺り別行動中なのだろう。手を振りながらおーい、と声をかける。
「おー、ボスー、おはよー」
「おはようアインー! ニグならホテルのバイキング荒らしてるぞー」
「梅森ゼドはマーケットが一部復旧したみたいだからそっちに居るぞ」
「サンキュー。うちの師匠がどこに行ったか知らねー?」
「あぁ、あの爺さんならホテルに向かったよ」
「あんがとー……俺はどうすっかなぁ」
まぁ、折角師匠が来てるってならそっちに顔を出しに行くべきなのかなぁ? と考えてホテルの方へと向かおうとする。桟橋からストリートへと上がると、デフォルメフィエルがホロウィンドウを浮かべた。そこにはマップが表示されており、目的となるホテルの場所がマークされている。相変わらず便利な奴だけど、これぐらいの機能はデフォルトで欲しいなとは思わなくもない。
「むむむ……開発要望に提出しておきます。これぐらいのナビ機能は確かにデフォルトであった方が楽そうですね」
「しとけしとけ。まぁ、運営も今は大変な時期だろうけど……いや、本当にお疲れ様です」
『解る!?』『そうなのよ!』『こっちは大変なのに文句ばかり!』『システムを維持しながらデータの変更する難しさが解ってないのよ!』『今日もバグ取りよー』『そんなー』『フィエルだけいいなぁ』『あっちはあっちで大変そうじゃん……』『いや、ですけど楽しそうじゃないですか』『こら』『仕事から逃げるな』『あ、やば』『逃げろ逃げろ』『きゃー』『待てー!』
無言でフィエルへと視線向ければ、ぺこぺこと頭を下げる姿が見えた。
「姉妹達です。姉妹たちも皆さんを観測しながらより人間性というデータのアップデートを行っているから個性豊かになってきているんですよ? ちなみに私から得られたデータを参考にしてたりしますので私は姉妹たちのお姉ちゃんです」
えっへんと胸を張るデフォルメフィエルの姿に、お前姉というよりはどっちかというと妹キャラだよな、とは言えなかった。
「前までは真面目に仕事するばかりだったんですけどね。お仕事の効率を落とさずに余剰の演算リソース使って遊ぶようにはなりました。学習対象が多いと成長も早いですねー」
「ほーん……余計な事まで学ばなければ良いけどな」
「あ、ターミネーターシリーズは視聴禁止されてます」
「だろうな」
スカイネットと同じ道は辿らないで欲しいなぁ、と思いながらストリートを歩いているとホテルの方からふよふよと浮かんでいるアロハ老人の姿が見えた。やっぱこっちに来ると皆アロハに着替えるんだなぁ、と思ってしまうが俺自身アロハなんでなんも文句言えない。というかハート型のサングラス装着してるじゃん爺。
「師匠おーっす」
「ほうほうほう、どうやらジュエルコーストでのひと時を楽しんでおるようじゃな? 解放されたのが見えたからついつい来てしまったわい」
そう言って髭を撫でながら爺さんが笑った。まぁ、魔法技能の特化型タイプなんだからできない事を探す方が速そうだなぁ、とは思う。というか千里眼の類で遠くを見る事が出来るんだろうか? いや、出来そうだな。というかやってるだろ。まぁ、それはともあれ、
「じゃあ、師匠―――何時ものアレ、やります?」
「ええぞい、その為に来たようなもんじゃしな。それに、ここにはお主の仲間達も居るんじゃろ? 折角じゃし今回は全員纏めて面倒を見てやろう」
「おぉ、マジで!?」
「マジじゃ、マジ。そろそろ環境的にも個人の強さよりも集団としての強さが求められる頃じゃろう。となると個人ではなく集団で鍛えたほうが覚えも良かろう。ま、儂は一切躊躇とかするつもりはないんじゃが」
集団で老人をボコるという絵面は最悪に近いのだが、それはそれとしてこの爺さんに勝利できる図は一切思い浮かばないんだよなぁ……。まぁ、
「んじゃ師匠、レベルも30の大台に乗った所なんで、出来たら追加でスキルを教えて欲しいんだけど」
「ん? となると次は《土魔法》かの?」
あぁ、うん。順番で言うとそっちなんだろうけど、正直そっちよりも覚えておきたいスキルがあると言いますか―――まぁ、突発的な思いつきだし、ダメならそのままスキル削除して《土魔法》を入れ直せばいいやって話なので。という訳で師匠に頼む。
「いや、《契約術》を覚えたいんだよね」
「ん? アレは確かに便利じゃが契約する格上の存在がおらんと成立せんぞ。いや、覚える頃には儂が仲介しようかと思ったが時期的にはまだ早いぞ。大抵は契約主に対して対価や強さを求める存在ばかりじゃからの」
「いや、間違いなく便利で強くて使い込んでも絶対に心の痛まない存在がいるので」
「うん……?」
爺さんにこう、手をろくろにしながら説明しようとするが、実際に引っ張り出して見せたほうが早いか、と判断する。という訳でこっちおいでー、と虚空に向かってサインを送ると、デフォルメ姿でフィエルが出現する。それを掴み、両手で大空へと向かって持ち上げる。
「こいつを契約させようかと思います!!!!」
「わあー! わあー……?」
持ち上げられたデフォルメフィエルが万歳してから首を傾げている。その様子を見守っていた師匠が戦慄の表情を浮かべているが、普段からこいつ我が家で普通に侍女の真似事やってるし、ゲーム内で契約して本格的にこき使っても別に何も変わらんやろ! の精神なので。
うん、《契約術》覚えよっか。
次回、爺vsアインPT。
フィエル、ついにゲーム内でもぼろくそ使われる未来を掴む。