「おー、やっぱIDの中に入るとクリア前の姿になるんだな」
「まぁ、インスタンス・ダンジョンだしな……」
「まだトレイターさんに会えるのか!」
「ちょっとわくわくしてきた」
「トレイターさんをいじめるかぁ!」
そういう事になった。
爺の夏のメテオ祭りを乗り越えた俺達は一旦昼休憩を入れて、パーシヴァルの用事がまだ終わっていない事を確認してからパーティーを組みなおし、ジュエルコーストIDへ突入する事にした。目的は純粋なレベリングの為である。スキル、そして戦闘レベルはどっちもあげなくちゃならないし、この先のコンテンツをやっていくならレベリング作業にも慣れるべきだ。まぁ、他にも出来る事は色々とあるのだが結局のところ、戦っているのが一番楽しい。
という訳で一部メンツは爺経由で新しいスキルを覚えたり、魔法スキルの更新を行ったりで再びIDへと投入する。またあの黒紫色の空を見るのは憂鬱だが、新しいスキルを使って戦闘をするのはやっぱり楽しい。現実とは違って自在に暴れる事の出来るこの世界は、やっぱりフィクションではあるが解放感が違う。
という事でID周回を開始する。
既に1度クリアしているIDだけあって、道中のエネミーや道中の宝箱の場所、そしてボスギミックの内容まで全部把握している。もうすでにIDの内容が判明していると新しいスキルを試す事以外は大体が作業ゲーになる。今回習得した《契約術》をレベリングする為にも、レベル1で使用できる〈分体召喚〉を最初のエネミーのグループに向かって使う。
そうすれば召喚されるのはデフォルメ―――ではなく、ロリフィエルだ。大体歳は10前後の姿で、大人のフィエルをそのまま幼くしたような姿をしている。寧ろ最新の精神的部分を見ればこっちのが本体じゃねーの? とは思わなくもない。
現時点での召喚時間は10秒。略剣とアレキサンダーが敵グループをまとめた所でロリフィエルを召喚すれば、翼を広げながらフィエルが手を掲げる。
「出番ですね!」
放たれるのは《重力魔法》。ダメージを産まない重力の塊がブラックホールの様な球体を形成し、それに向かって周辺のエネミーを吸い込み、寄せ集める。ダメージはないし、それで敵が押しつぶされる訳ではないが、フィエルが放った《重力魔法》はタンクが敵のヘイトを取らなくても敵を一か所に集める事の出来る手段だ。
つまりヒーラーがヒーリングから解放され、タンクが攻撃だけに集中できる。
「範囲を置いて……はい、お仕事完了です」
燃える光の床を集めたエネミーの下に発生させると召喚限界によって姿を消した。次に召喚可能となるのはCTが切れた1分後になる。CT1分で10秒間召喚と考えると割と便利に使えるロリフィエルだった。
しかも使用する魔法、行動は固定ではなく自分の判断で切り替えてくれる辺りが実に便利。無論、対ボス用の単体強攻撃も用意してある。
元々《契約術》が上位存在や生物と契約して力を貸してもらうタイプのスキルである。その為、使役される側はAI精度が高めだ。
なお、《召喚術》の方は《契約術》とは逆だ。自分より弱い存在や精霊等を使役し、それを強化したり指示を出して効率化する魔法スキルらしい。
「これならもうちょっとグループ纏めてもよさそうだな」
「防バフ切る前提で4グループ纏められると思うな」
「んじゃ次回からは4グループ纏めるか。今ので纏められるなら一気に火力範囲で溶かしてボスまで直行できそうだな」
「周回の効率化助かる」
「タイム短縮するのは重要だからな」
ID周回はレベリングの必須要素ではある。その為、レベリングを効率化させるためにはやっぱり高速周回が大事だ。敵を攻撃して倒す回数が固定で解るなら、敵をなるべく数で纏めて一気に倒すのが一番道中殲滅は早い。だから敵を纏められる数が大ければ大きい程効率は良くなる。前提としてタンクが耐えられ、ヒーラーの回復が追い付くという前提があるが。まぁ、これさえクリアできるならまとめたほうが早いってのが事実だ。
という訳で道中の纏めを開始する。
そこから1ボス、2ボスサクッとクリアしてしまう。既にギミックもHPも火力も把握しているのなら後は効率化する為に最低限のヒールでヒーラーが回復を回し、火力に意識を向ける。これが出来るようになるとタイムは露骨に減る。
「2ボス終わってこれで3ボス!」
「いやあ、復活のトレイターさんだ!」
「待ってたんだこの瞬間を」
「わくわく」
2ボスを倒してしまえば奥から3ボス―――つまりトレイターが出現してくる。初回では即死ギミックてんこもりで地獄をさんざん見せつけてくれたトレイタ―だが、既に攻略法は俺達で発見している。となると最初にやったギミック攻略法をトレースしながら上がった火力と習得した《決戦技》を叩き込めばこれまでよりも遥かに楽に攻略が行える。
そういう訳でトレイターの登場を戦闘フィールドで待ち受ければ、2ボスを攻略した後に3ボスの姿が出現した。
だがその姿は記憶にあるものとはやや違っている。
本来であればフードを下ろしたトレイターの姿が見える筈なのに、出現した姿は黒い靄が人の形状をしている隠密状態のトレイターであり、それが姿を隠蔽している訳でもなく魂も存在しない、トレイターの模倣体であるように見えた。
そして模倣・トレイターが出現するのと同時に、その横にホロウィンドウが出現した。
『一身上の都合により、ここの担当を分身に任せます。トレイターより』
妙に悲しみを背負ったオーラを纏ったような模倣体が3ボスとして立ちはだかる。その姿を前に、片手で顔を覆って俺達も嘆く。
「と、トレイターさん……!」
「やっぱ相当ショックだったんだな」
「はぁ……」
「どうしたんだトレイター、疲れているのか?」
断絶によって浸食された都、そのバーの椅子に座るトレイターは片手に酒の入ったグラスを握りながらため息をついていた。その様子を千里眼で確認した仲間が近づき、肩をたたいたがトレイターは視線を下げた。
「俺はもしかして最低な事をしているのかもしれない……だけど……」
「仕方がないんだ……これも全て我らが明日を生きる為なんだ」
「いや、そうだがそうじゃないんだ……うん……」
「……あぁ、飲め。嫌なことは飲んで忘れるのに限るからな」
まさかの職務放棄。いや、でも経験した事を考えると責める事は出来ないかもしれないなぁ……とは思わなくもない。誰だってあんなもん再現したくないし、しばらくここに顔も出したくはなくなるだろう。それはそれとして、おそらく動きはこれまでのトレイターと一緒だろう。となると後はDPSを詰めるだけの作業だ。
「よーし、サクッと攻略して装備と経験値回収するぞー」
「このペースなら1周20分以内にクリアできるかな? もうちょい詰めれば18分切れるかも」
「決戦を2フェーズ目まで温存して一気にぶっぱすれば直ぐに終わらせられるだろうしそこがポイントかなー」
まぁ、そんな所やろ、と話し合って相談を終わらせれば直ぐに行動を開始する。ギミックに一切変化がないのは戦闘を開始すればすぐに解る事だった。だから事前相談通りに必殺系統のスキルを温存、アビサルドラゴンの召喚と相手の決戦技の阻止フェーズで此方がID攻略中に溜め込んだゲージを全消費すれば、前回までの攻略にかかった半分の時間で破壊に成功する。この簡単さを考えるに、元々これ込みで難易度調整されていたのかもしれないなぁ、と感じつつ決戦技を阻止して戦闘は終了。
トレイターの時とは違い、トレイターの影は阻止されるとそのまま消滅する。
これによって得られるのは経験値とクリア報酬のドロップだ。1回のみの攻略であれば話は変わってくるが、既に周回する事前提で話をしてある。その為出現する装備はDDが優先で、まずは火力を上げる事を決めてある。DDに火力が上がれば上がる程道中、そしてボスでの殲滅速度が上がるのだから周回効率が大幅に上がるという事でもある。
DDの装備が出なかった場合はタンクに装備を渡す事で耐久力を上げ、ヒーラーが火力に集中する時間を増やしてヒーラーのDPSを上げる。
最後にヒーラーに装備を渡してぎりぎりでのヒーリングの回復量を上げる。
こういう形でロット戦争の話には蹴りを付けている為、特に争う事もなく1回目のジュエルコーストID周回レベリングが完了する。
1週目の攻略タイムは様子見しながら攻略していた事もあり25分。30レベ以下の連中は全員がレベルアップ、俺とニーズヘッグも経験値が今ので80%ほど溜まった事を考えれば、かなり美味しいレベリング場所になる。
さあ、1周目が終わったら周回の始まりだ。
パーシヴァルが話を終えるまではまだまだ時間がある。それまでにレベルは上げれるだけ上げておこう。
ID周回に何時間も籠る思い出。非常なあるある。これでVCとか入れてると完全にゲームの内容そっちのけで話始めるんだよなあ。