「失礼ながら殿下達はこの停戦に向けて、稀人の力を借りたいように見受けられました」
「あぁ、断絶解除は稀人にしか行えない事だ。必然的に稀人の力を借りたいと思っている」
「そしてその為に前回行ったアビサルドラゴン討滅戦の様に、我らがリーダーに代表となって率いて貰いたい、と」
「ま、そうなるな」
まぁ、今の所エルディアのPC代表みたいな立場に滑り込んでいるからなぁ、と思う所はある。何かあったらこっちに連絡が来る感じはある。正直面倒だし纏める気はないから勝手にやって欲しいんだけどなぁ、と思うのが本音だ。とはいえ、自分が率先してイベントを動かしていたからこういう形になってしまったのはしょうがないんだよなぁ、と思っている。まぁ、略剣に交渉や会話任せてれば失敗はないし別にいいか、と思う。信頼できる身内がいる事は実際、すごく助かる事でもあるのだから。
という訳で略剣へと視線を向ければ、そうですか、と声を零してから眼鏡をクイ、と持ち上げた。そしてやれやれともとれる両手を上げたポーズを取り、
「いやぁ~、申し訳ないですけどそれは難しいですねぇ~。私達この後はマルージャに行って復興を手伝う予定なんですよ。えぇ、クラフターのレベリングとか、支援してくれるクラフターを探す予定がありまして。後は新しいメンバー探しとか。それで色々と忙しい部分あるんですよ。なのでいきなり北方へ行けと言われても困るんですよねぇ……えぇ」
良い笑顔で応じ2人からの要請を断った。
……うっわ、こっわ。
パーシヴァルの目が一瞬だけ険しくなった。他の人に察知できるかは解らないが、一瞬だけ、本当に一瞬だけ雰囲気が変わった。この手のダビスタ血統の人間はカリスマと呼べるものを備えている。それは特定の状況で相手の判断を狂わせたり、無意識的に服従させたり、或いは
そして王族という血統はその手のカリスマが生来より備わっている。だからこそ人を前にした時、その畏怖で人を従えさせることが出来る。会話を通して都合の良い方向へと人を誘導できる。それが生まれながらの覇者の風格というものだ。
それを意図的にぶっちして無視したのが略剣であり、
「ま、そうだよなぁ。別に俺達ずっとエルディアに居る訳じゃねぇしな。北方とエルディアがそんな面倒な事になってるなら半壊してるマルージャへ行った方が楽だもんなぁ。あっちは復興祭りで楽しくやってるみたいだし。今なら俺達がレベルトップのチームだろう? ゼド達誘ってあっちで遊んでくるのも楽しいかもしれねぇな」
げらげらと笑いながら梅☆が室内の空気を上書きする。もっとライトでポップな物へと。最初にパーシヴァルとルートヴィヒが構築した厳かでシリアスな空気は略剣と梅☆の言葉によって上書きされた。いや、上書きされたのではなく意図して上書きしたのだ。
俺はここら辺、相乗りして合わせるタイプなので、手法としては全く別のタイプだ。赤の上から青を使って色を塗りつぶしている形だ。混ぜずに塗りつぶしているというのがポイントだ。見方によれば明確に喧嘩を吹っかけているようにさえ見れる。だが喧嘩を吹っかけている、ととられない理由はシンプルだ。
ぶっちゃけ、俺達は国所属の兵士でも騎士でもなく、ただのフリープレイヤーだ。依頼に従って動いているだけであって別に義務もない。
それに? 嫌になればログアウトして距離を取れば良いんだ。
そう、俺達に何かを強制する、という事は出来ない。
だからこそパーシヴァルとルートヴィヒの行動は早く、雰囲気を染めて調整している。多分2人でどういう風に会話を持ってゆくか、というのを事前に相談してある。その証拠にほら、ルートヴィヒもパーシヴァルもお互いの確認をしない。次にどう行動するか、どう判断するべきなのかを事前に判断してあるという事の証拠だ。
「此方で手配できるものがあるのならそれを報酬に働いて貰いたいんだが」
「あー、いや、そう言う事ではないんですよ。だってほら、俺達何かを強制されるように働くのって嫌じゃないですか」
「つまりは動いてくれない、と」
「いやいや、そう言う事ではありませんよ? そりゃ勿論王国と帝国が成功したら、って前提が付きますけども。成功したら報酬を支払う能力があるってのは疑っていませんよ? 今までちゃんと報酬出していますし、誠実に対応して貰ってもいますし。うちのリーダーだってどうやらかなり仲良くさせて貰っているようですし」
視線が此方へと向けられるのでお手上げサインを見せる。
「不満はないぜ? 楽しくやってるし。でも、まぁ、スケジュールを後から後から詰め込まれるのはちょっと忙しいよな」
「と、いう事ですよ殿下。私たちは元々国民でもなければ兵士でもないんですから、ぶっちゃけ急いで断絶解除する理由もないんですよね。何ならメゼエラ方面の方の攻略を先にしても良いし」
「ふーん?」
面白そうにその発言をパーシヴァルは見ている。反応からしてチップの方を上乗せ要求しているように見えるだろう。見えるだろうが―――まぁ、違うんだよなぁ。ぶっちゃけ国から金とかを引き出す事に興味はないのだ。それに国を敵に回すつもりもない。つまりはなんだ、略剣の言葉を簡単に説明してしまえばこう、だ。
言ってしまえばこのまま従っていると俺達の自由行動が潰れると言う話。イベントとやるべき事を提供されるのはゲーマーとしては楽しい事であるのに間違いはない。だがこのまま行くと便利に使われてしまい続ける。なのでその流れをいったん切ろうとする話だ。そうしなければ今回の様に遠くまでスケジュールを詰め込まれて連れ出されることもある。
断る事? もちろんできる。
簡単に断ってしまうとじゃあどうすりゃあ良いんだ、って話になる。ぶっちゃけエルディア側の行動はこのゲームにおけるグランドクエスト―――即ちこのメインシナリオを攻略する上では重要な行動だ。これを進める事によってこの大陸を断絶から解放する事が近づくのは間違いがないだろう。だけど俺達が主役って訳じゃないんだ。
主役はプレイヤー全体だし、
「ま、あんまり俺達が出っ張りすぎると恨まれるからな! 他の連中にも出番を与えないとな」
という所に尽きるのだ。MMOでは当然、有名なプレイヤーやトッププレイヤーは他のプレイヤーに良く知られる。そして一人でコンテンツを食いつぶす様な連中はマジで晒される。炎上の原因にもなるし、そこらへんはマジで一人で全部やらないようにしないと気を付けなきゃいけない。
炎上とか、アンチとか、粘着とか。この手のものに気を付けずバッシングを受けて引退したなんて話、ごろごろとある。
その手の話やこれからの事や立場、そう言う所を含めての話を略剣は持ち出している。
その手の認識に関してはこの世界の住人達は欠けている。英雄がいるのだから突出して活躍して暴れて少人数で総取りしても問題のない様に自然と考えている。だけど俺達はそうじゃないのだ。俺達は多くいるプレイヤーの内の一人で、ヘイトコントロールをしないとヤバイ部分があるのだ。
と、そこで略剣の横にメッセージを表示するホロウィンドウが出現した。それを略剣がちら見で確認し、軽く咳ばらいをしてから話を続けた。
「まあ……というのは私個人の考えです。ですが場合によってはこれらの問題は全てクリアされます」
「ほう……して、条件は?」
ルートヴィヒのどことなく状況を楽しむような言葉に、略剣は笑みを浮かべ、
「いやぁ、この手の話って担当者を通すのが基本じゃありませんか?」
その言葉と共に応接室の扉が開いた。突然の来客に驚かされるパーシヴァルと俺達。笑みを浮かべているのは略剣だけであり、部屋の中に入ってきたのは2人組の姿だ。
獣の耳と尻尾を備えた男女の姿。普段は見慣れた私服とは違う、それこそどこぞの貴族とも見れるような和と洋を融合させた上質な服装に着替えたイェンとフォウの姿であった。
大胆不敵。そうともとれる表情を浮かべたイェンは扇子を取り出すと己の口元を隠すように笑みを浮かべた。
「失礼する―――あぁ、
その登場と言動に、あからさまなしかめっ面をパーシヴァルとルートヴィヒが浮かべていた。
さあ、盛り上がってまいりました。
この状況に置いて一番みたくない奴&立場がMAX面倒な奴。
鍋「連れてきたで」