「―――ほう……で、なんだ? ん? 私抜きで話を進めようとするなんて寂しいではないか。あぁ、勿論そんな事で腹を立てる程子供ではないさ。でもこれはアンフェアじゃないか? 私と契約している者を横から了承もなく使おうとするのは……違うか?」
滅茶苦茶嫌そうな表情をパーシヴァルが浮かべているし、ルートヴィヒもめんどくさそうな表情を浮かべている。この状況で一番出てきて欲しくない人が目の前に準備万端と言わんばかりに登場すれば、それはそうなるだろう。イェンは此方へと視線を向けて微笑むと、手をひらひらと振る。
「では3人で、ゆっくりと、今後の事を話し合おうか?」
「面倒な事になったなぁ、おい」
「とはいえ、私は国の未来の為にこの話を成立させねばならない」
イェンが退室してもいいぞ、とサインを出すので軽く頭を下げてから部屋から出る。残りの政治ゲームはもうあの3人でうふふあはは笑い合いながらやってくれるだろう。護衛にちゃんとフォウもいるし。というか交渉事、フォウの方がやるかと思ったんだけど普通にイェンがやるんだなぁ。あの兄妹、良く解らんわ。ただ雰囲気の方はかなり楽しそうでイケイケだ。
いや、今回悪い人は誰一人としていないんだが。それはそれとしてご愁傷様、という感じだ。俺達にも都合がある。それを超えて行動をする事はやっぱり無理なのだ。それを穏便に理解してもらうには同じレベルで殴り合いが出来る人が必要だ。部屋を出た所で漸く解放された、と背筋を伸ばして腕をぐるんぐるん回す。
「おーい、アイン。良いか?」
「ん?」
「お前の知り合いで俺達レベルに動けるチームかパーティー知らないか? たぶん交渉自体は終わるけど着地点としては俺達を出せないって所に落ち着くだろ。最終的にこっちから同じレベルで動ける連中を紹介すればそれで済むはずだ」
「お前ほんとそう言うの良く解るな……」
「交渉ってのは事前に着地点を見据えてからやるもんなんだよ。今回は最初から最後までこっち有利だったしな。なるべく関係に罅は入れたくはないけど、全体の話をすると俺達にばかり頼り切られても困るって所だしな。ま、そんなもんだ。たぶん王国側も1つのチームに頼り続ける形も嫌だろうしな……」
「そうなんか」
「ま、解りやすい話をするとこうだ」
梅☆が解りやすく説明してくれる。
「ワンオペの店はつぶれやすい」
「超把握した」
「めっちゃくちゃわかりやすい」
ほえー、と腕を組みながら納得すると、更に続けられる。
「まぁ、正直な話パーシヴァルがその流れを作ろうとするのはおそらくこの次辺りだろうな。今回は帝国解放の旗印として俺達と組んで他のプレイヤーを率いさせたいのが本音だろうかなぁ。その後で使えるチームの多様性を生み出しつつ頼りきりにならず、エルディアでは稀人が活躍する場を用意できるとアピールするのが理想的な流れだっただろう。まぁ、今回は俺達がその前に事前に契約を結んでたから介入した形だな」
「俺達としちゃ活躍しすぎるのはヘイト稼ぐから困ったもんだし、他にもしなきゃいけない事もあるし帝国の事は勿論だけど他のプレイヤーに任せても良い範疇なんだよな」
「それOFそれ」
ぶっちゃけ帝国解放運動は俺達が主導でやる必要はねぇんだよなぁ、ってのが本音だ。勿論シナリオで目立つのは楽しいだろう。だけど今はその前にフルメンバーを揃えたいって気持ちもあるのだ。イェンが装備品や消耗品周りでサポートしてくれるって話は略剣と交渉でケリを付けてくれている。となるともうあんまりエルディア王家側の仕事を受ける必要はないんだよなー、って話になってくる。
ここからはレベリングと強化を重ねながらエンドコンテンツ用のフルメンバーを揃えるのが1つ。その練度を上げる為の訓練も必要だし、メインシナリオ攻略以外のことにも着手しなくちゃいけないのだ。いつまでもあっちこっち土地を移動している訳にはいかないのだ。それに拠点の1つだって欲しい。割と真面目な話、腰を落ち着けられる場所は必要だろう。
「ま、何時かはやらなきゃいけない事だったんだ。それが今回だったって話だ」
「ま、そこら辺はしゃーないわ。俺はとりあえず連絡入れてみるか……」
ホロウィンドウを開いてネットに接続。とりあえず現在活躍している有名チームの検索をしてみる。そこらへん、ツブヤイッターにアクセスすればすぐに見つけられるだろう。後はスレとか検索すれば問題ないかな? そんな事を考えながら検索しようとすれば、ホロウィンドウの中にデフォルメフィエルが出現し、これこれ、と指さししながら検索を手伝ってくれる。お前、さっき上の人間に怒られたばかりじゃないっけ? そう思いながら活動中の有名チームを確認する。
今の所トップチームは4組ある。
1つは俺、つまりうちの所。固定が5人で募集3人というのは既に把握されているらしく、正式名称もないので俺の名前をなぞらえて《ナンバーズ》だなんて呼ばれている。それでそういやあチーム名まだつけてなかったな……というのを思い出す。そっちの方も考えておくかー、なんて思いつつ次のチームを確認する。
こっちはエルディアを拠点にするチームで《レジェンズ》というらしい。20人規模のチームでエアポートの攻略にも大貢献、エルディアの中で最も大きなチームの1つになるらしい。攻略に意欲的で南部方面への道を広げており、断絶もこの数日中に解除成功している模様。
次が《辻斬り同好会》。PvP狂いのプレイヤーが集まった10人規模のチームで、文字通りPSを鍛える事とPvPで勝利し続ける事にしか興味のない連中。現状PSトップ勢はこのチームにいる奴だと言われているらしい。こいつらはダメだな。話にならないし忘れて良いだろう。そのうちPKギルドとかに変質しそうな気配があるから要注意ではあるが。
で、最後が《ワークマンズ・ショップ》、マルージャを拠点とするクラフターたちの集い。既に参加者は100人を超えていてまだまだ増えている、と。これは戦闘が関係ないし今はいいかな。クラフターを仲間に引き入れる場合はこっちに声をかければいいかなぁ、なんて事を考えながら選択肢から除外する。
実質的に声をかけられるのは《レジェンズ》だけかな? 確認してみるとエアポートの攻略の方も現在は終了して解放完了、エルディア側での祭りも今は後夜祭に突入して祝勝ムードに浸っているらしい。ならこっちから仕事を頼んでも問題はなさそうだよな、と判断する。とりあえずはメッセージを作成する。あて先はレオンハルトでいいか、アイツなんか顔広いし。
という訳で面識あるかどうかの質問をメッセにして送ろうとすると、メッセをホロウィンドウの中のデフォルメフィエルが掴み、そのまま出発する。お前本当にそれで良いの? ええんか? ……まあ、本人が楽しそうだしそれでええか! 諦めてフィエルを見送る事にする。だいぶ知能指数が下がってきてるのが割と心配だがアイツもう取り繕って最初のRPのままやるのも諦めてるしな……。
いや、或いはそれがAIの本来の年齢なのかもしれない。
彼女たちはまだこの電子の海で生まれたばかりなのだから。精神構造が学習に従うなら幼くて当然なのかもしれない。
まぁ、どっちにしろそこら辺考えるのはプログラマーの仕事だ。俺の仕事じゃない。今回の交渉は後はイェンに任せるとして、暗くなってきたし一度ログアウトして晩飯の準備するかなぁ、と思っていながら外に出ると、土鍋達の姿がそこにあり、
「よ! 援軍はどうだったよ? いやぁ、あのお嬢様にアインを売っただけの価値はあっただろ」
直後、顔面にチェーンソーが突き刺さって死亡した。
鍋「助けてくれたらアインを1日好きにする権利あげるよ」
イェン「乗った」