レベルが4に上がった。そして《詠唱術》と《二刀流》のレベルが2に上がった。残念ながら《二刀流》のレベルアップによる恩恵は何もなかったが、《詠唱術》は思ったよりも凄いアビリティが解禁された。
その名は〈
そういう敵を相手する場合があるかどうかは解らないが、少なくともそういう動きを取るような相手であれば、〈詠唱消去〉で2連射の魔法を叩き込んで一気にダメージを稼げるだろう。
3分に1度、というコストは本当に重い。今の所大体戦闘は長くても15秒以内には終了している。そこまで長引くとは思えない。だから纏め狩りで1度使えばしばらくは使えないだろうが、その事を込みにしても即座に魔法を差し込めるというのは魅力的すぎるアビリティだった。
《詠唱術》、神スキルだった。これが初期から選択可能ってマジ? 壊れじゃね? とりあえず同じキャスタービルドの仲間には必須クラスの化け物性能なので、これをデッスコードでマルージャチームにも共有して、シャレムWIKIにも記入しておく。この手の情報は自分から率先して公開するのが先駆者、開拓者の義務だ。
この手のデータが積み重なる事でより緻密なビルドが可能となる。お互い、協力して楽しいゲームを遊ぶのが一番。ついでに自分の保有しているスキルでWIKIに記入されてないものも追加しておく。それが終わった所で再び移動は再開し、
ついに、街道は境目を超える。
それまではのどかな道路の様子だった。街の近くは整備されていたが離れると段々と整地されただけの道路となり、その脇には緑が広がっている、そんな何でもない風景だった。遠くに視線を向ければ山が見えて、そして闇色の空が手を伸ばしているのが見える。だが段々とその景色も、黒く染まり始める。
最初に感じたのは空の暗さだ。まだ時間は明るい頃なのに、空が暗くなり始めた。見える太陽の色が黒い気がしてくる。そして粒子だ―――黒い、輝く粒子が空気に乗って漂っているのが見え始める。一言で言えば汚染されている。そんな印象を受ける環境だった。空をじりじりと侵食する闇色が空から地上に降り注ぐ。その濃い色が影となって地上を染め上げ、この世界の住人達では触れる事の出来ない環境を生み出す。
ここから先は、NPC達の踏み込めない領域だった。
この先に進むためには、PC―――つまりはプレイヤーたちの力が必要となる。ここを攻略するのがプレイヤーの目的でもある。
「ついに来ちまったなぁ、封鎖領域」
「本番はID(インスタンスダンジョン)らしいからまだ先みたいね」
「多分ここまでぶっこんで来てるのは俺達ぐらいだろうなぁ……後はあっち側の馬鹿達か」
「私たち、安定したレベリング放棄してるものね」
ニーズヘッグと俺というコンビだからこそ出来ている纏め狩りのペースでもある。リアルで知り合い、付き合いも長い。だからお互いに大体呼吸が解っているし、直ぐに意見の交換もできる。その上で元々ニーズヘッグ本人のスペックが超人だ。簡単に反応し、動いてくれる。例えばラージビートルからの攻撃もヘイトを引き付けた後は全部紙一重で簡単に回避しながら釘付けにしてくれるし、おかげでターゲットがぶれずに魔法に巻き込める。
こういう連携、野良だと絶対にできないだろう。
「おー、オープニングでも見たなあの結晶」
「魔晶石だっけ? 浸食されている地域には生えているらしいのよね」
黒く染まった空の下で街道にぽつぽつと生え出す魔晶石を手に取る。透き通った黒紫の水晶という感じの石だ。インベントリにしまえるかなー? と考えたら普通に取得できた。インベントリに入ったそれを確認してみれば、やはり名称は魔晶石となっていた。正確に言えば《魔晶石(小)》となっている。
「なんだろうな、コレ。素材もそうだけど何に使えるんだろ」
「それは《鑑定》出来るプレイヤーか、NPCに頼まないと駄目ね」
「まぁ、流石に余計なスキル取る余裕はないしな。とりあえず何個か採取しておけばいいだろ」
NPC達が入ってこれないエリアで手に入るアイテムなのだから、そこそこ価値のあるもんなんじゃないかなぁ、とは思う。まぁ、それはさておき。ここからは新しいエリアに入ったんのでエネミーの方も更新されているだろう。今まで相手してきたラージビートルの様なイージーな相手だと思って戦えば簡単に死んでしまうかもしれない。
「ちょっと警戒しつつ進もうか」
「そうね……でもちょっとどういうエネミーが出てくるのか気になるわ」
その気持ちは解る。やはりそこはゲーマーの性だろう。
納得しながら新しいエネミーに備えてニーズヘッグとの距離を詰めて歩くが、エネミーに遭遇するまでに必要とする時間はそう長くはなかった。10分ほど歩いた所で直ぐに最初のエネミーに遭遇することとなった。
それは2本足で立って歩く生物であり、しかし黒に浸食されているのか、ところどころ異形に変貌している。全身を短い毛に覆われたそれは人間の様な骨格をしておりながら、頭にあるのは人の顔ではなく、犬の顔だ。つまりこいつは人の形をした犬だ。ファンタジーでは定番となる種類の生き物であり、その名前も良く知られている。
「おぉ……インフェクティッド・コボルトだって」
「和訳すると浸食された犬鬼、か」
十分な距離、100メートルほどの距離をあけて街道をうろうろする姿を見ている。茶色の毛並みは所々黒く染まっており、そして体からは魔晶石が生えている。やっぱこれ、インベントリから捨てておくか。明らかに体によさそうじゃないもんな。
インベントリから魔晶石を捨てておく。じゃあな。
ニーズヘッグと共に軽くコボルトを観察し、その特徴をつらつらと口にする。
「棍棒を握ってるな」
「犬ベースだから足が速そうね」
「知能はあると仮定しよう」
「なら後衛を狙いそうね」
「力が強そうだ」
「格上判定ね。喰らったらワンパンもあり得るわ」
「先制して殴り殺すのが安定だな。ハメ殺し安定」
「ただ仮定があっているのかどうかは確かめたいわね」
「じゃあ軽く一戦こなしてから安定化させるかー」
考えた事を即座に口にして情報共有、意見の共有。お互いの考えをすり合わせて状況に素早く対応する。俺達の対応合わせとは大体こういうやり方でやっている。深く考えるよりも軽く口に出したほうがまとまるのが早いのだ。だからいつもこうして軽く考えを纏め、終わったら突撃する。
「〈挑発〉抜きでよろしく」
「あい」
解りやすいように武器を抜いて、ニーズヘッグを前に、そして自分を5メートルだけ後ろに距離を開けて前へと、コボルトのいる近くまで移動する。解りやすく足音を立てながら歩けば、コボルトの視線がぐるり、と此方へと向けられた。その目は真っ赤に充血していて軽いホラー感が強く、
「る、ぉ、オオ、オオオ―――!!」
狂ったように雄たけびを上げながら四つん這いになり、棍棒を握ったまま一気に近寄ってくる。その速度は人が普通に走るよりも遥かに早く、一気にニーズヘッグへと向けて距離を詰めてくる。どうやら完全に正気と理性を喪失しているらしい。
「理性なし、と」
「受け流すわね」
コボルトが地面を蹴って飛び掛かる様にニーズヘッグに攻撃する。それを両手で握ったチェーンソーで受け流し―――いや、チェーンソーでそんな事出来るのかと言われたら疑問しかないんだけども。それをなんかスキルも無しにニーズヘッグはやらかす。がきぃん、と音を立てコボルトの飛びつき棍棒はその威力のほとんどを失った。
それでも25ダメージの表記がニーズヘッグを襲った。
「ちょっと痺れる感じ―――ね!」
受け流しから回し蹴り。しっかりとブロッキングを行ったことではじいたコボルトの顎に一撃を叩き込み、上半身をカチ上げながらもう1回転加え、
チェーンソーが首元に突き刺さる。
そのまま引き倒す。
ニーズヘッグの動きは実に野生的だが、同時に合理的だ。的確に相手の攻撃をスタンさせる為の動きを入れて、次のアクションを封じている。だから1対1という状況であれば、ほぼ確実に完封に持って行ける。今この瞬間も足で手首を踏みつぶして棍棒を振るうのを封じ込めている。
「34、クリったかな? 87」
まだ死んでいない。ラージビートルであれば間違いなく死んでいるダメージだが、このコボルトは死なないようだった。その為、実験するように首にチェーンソーの刃を力づくで割り込ませてゆく。
「43、41、66、あ、死んだ」
首半ばまでチェーンソーが通った所でコボルトが漸く苦痛から解放され、壮絶な表情を浮かべながら塵となって消えて行く。その残骸を背後に、ニーズヘッグが立ち上がって軽く体を捻る。
「んー。やや物足りなさがあるわね」
「もっと数が多かったら怖いかもな」
だけど結構ダメージを必要としたのが辛い。というかHPが一気に増えた感じがある。これまでは魔法2発で処理できる範囲だったが、流石にこれは〈イラプション〉2発じゃ難しい領域になってきた感じがある。少なくとももうちょっと火力を盛らないと範囲狩りは難しそうだ。
「ニグ、何体までなら抱えられそう?」
「3までなら余裕かしら。4からは被弾しちゃうわね」
「じゃあ1体ずつ処理する方で良いな。サクサク殺して行こうぜ」
「いえすぼす」
という訳で先へと進む前に近くのインフェクティッドをもう1体狩る事にする。今回は1体釣って殺すタイプの狩りなので使用する魔法は〈バインド〉。今まではニーズヘッグの先制攻撃から戦闘を始めていたが、〈詠唱消去〉によって走りながら先制パンチを繰り出せるようになった俺は無敵になった。
コボルトを発見し、走りながら接近して無詠唱バインドを投げる。
コボルトが此方を発見して吠える為に威嚇しようとした状態のまま、動きを停止する。
その背後に素早くニーズヘッグが回り込み、
「ふぇいたりてぃー」
背中からチェーンソーをぶっ刺した。
「うぉっ!? うおうおうおうおうおうおヴぉおおお―――!?」
そしてそのままスイッチオン。超回転し始める刃がコボルトの体を中央から一気に開発し始める。血しぶきのファウンテンやぁ! と叫びたくなるようなグロい光景が発生する。というか胸の穴から色々と飛び散りながら90や100という数字を見せ、コボルトは痙攣している間に一瞬で消滅した。
「やっぱまだコスパ悪いわね、残虐アタックは」
「まぁ、そこはMP伸びてからのお楽しみって感じよ。その内1分ぐらいハイパー残虐タイムに入れる事を楽しみにしようぜ」
「そうね」
ぶおんぶおんと言いながらチェーンソーを振り回すニーズヘッグの姿を見て、こいつだけは絶対に怒らせないようにしようと心に硬く誓う。
当然の様にバックスタッブで心臓を狙う幼馴染。