断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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パーフェクトコミュニケーション Ⅻ

「鍋の野郎の行動カノジョにチクっとくか……」

 

 ログアウトして真っ先にメッセを送る。売られたら売り返せ、倍返しだ。

 

 とりあえずのノリで土鍋に復讐したらその後で晩飯の準備を整えたり、部屋の掃除、空気の換気とかをしておく。ここ最近はずっとMMO生活が続いているので生活ルーチンもそれに合わせて最適化されている。後はついでに軽い運動を入れておかないといけない。シャレムからログアウトするとPCのスクリーンの方にフィエルが移動し、メールプログラム等を開いて色々とチェックしてくれたりしている。こいつが生活をサポートするようになってからはほんと、生活の細かい所が楽になった。

 

 ともあれ、そんなんで運動も夕飯の準備も終わらせると、1日の終わりのフリータイムがやってくる。

 

 いつも通り、PCの前でパンツにシャツという格好で椅子に座る。

 

『アインさんアインさん、メッセージが来てますよ。えーと、土鍋さんからですね ”助けて”だそうです。どうします?』

 

「消しといて」

 

『はーい』

 

 お前の事等知らん。どうせ口だけでどうにかできるだろうし心配するだけ無駄だ。次のメールは婚約報告でよろしく頼む。俺も人の事を言えないだろうけど。いやあ、マインスイーパーは大変だなぁ……。良し、忘れよう。それよりも今日は何が他にあるか、という話だ。寝るまでの数時間の間、グラフィック関連のあれこれを詰め込んでも良いけどそれじゃあつまらないしな。

 

「っと、そうだそうだ。最近纏まってきたスキル関連のあれこれをWIKIに乗せておくか」

 

『あ、やっておきましょうか? WIKIへの情報提供』

 

「頼む」

 

『了解ですー。えーと、シャレムネットワークから自分を切り離して記録データとログからの情報のみを提供します。《深境》は非公開、と』

 

 いや、本当に助かるなぁ、とフィエルがWIKIを更新しているのをスクリーンの片隅で確認しつつ、テーブルの上に置いてあるARグラスを見る。今ではVRが世界的なメジャーになっているが、AR環境もかなり充実している。それこそひと昔前ならARはゴーグル型でないとスペックが足りなかったが、ARグラスを装着さえすればどこでもAR環境でスクリーンをタッチ、操作できる程に技術は進歩している。

 

 グラフィック関係のワークはこのARグラスを装着しての作業の方が効率が良い。というのも、VR環境と一緒でグラフィックそのものを掴んで引っ張ったり変形させたりという作業が、この方が遥かに細かく出来るからだ。ペンタブも、マウスも、今では古い装備だ。今の時代はARグラス装備だ。これにAR接触用のグローブを装着すれば作業は出来る。

 

 とはいえ、これ凄い疲れる装備でもあるのであんまり使いすぎたくはない。という訳で効率が悪くてもいいからPCでぽちぽちと作業してたりもするが、今夜はそんな気分でもなかった。創作はやる気でクオリティの乱高下が凄まじいので、やる気の入った夜に一気に全員分を終わらせる事を決めている。

 

『あ、メールが新しく2件来ました』

 

「はいはい、今度はなんだ?」

 

 ツブヤイッターを広げて数日中に恐らくは固定募集の条件を公開するとツブヤイッターに流すと、リプライで”明日だな……”とか言われるのは解せない。明日は流石に無理やろお前!!

 

『1件目はレオンハルトさんからです。連絡の件を了承したのと向こう側乗り気という話です。深夜早朝と日曜日以外であればいつでも会えると言っていたので希望する日を教えて欲しいそうです』

 

「あー、明日は無理だし明後日かそん後か……いや、細かいスケジュールはどうなったもんか解んねぇな。そもそもこんな早く話がつくとは思わなかったし。あ、いや、爺にテレポート頼めば明日にはできるか……? 無理か。明後日か明々後日って事で。細かいところはこっちの都合でまだちょっと解んない」

 

『了解です、こっちで文面整えて送っておきます。そして2件目は運営の方からです』

 

「え、俺なんかやった?」

 

 適度にショートカットとかはしてるけど明確にルールをぶっ壊してるつもりはないんだが……? それに常にフィエルに監視されている状況だから何らかのチートやバグを活用しているつもりもないし。マジで運営になんか言われる覚えがないんだが。あ、いや、まさか、

 

「フィエル、お前……?」

 

『違いますよ!! 運営の方から……というよりも本社の方からアインさんが就職先を探しているという話を聞いたらしくて……』

 

「人の職業事情探らないでぇ??」

 

 ARグラスを装着してフィエルからメールを展開して貰うとマジで勧誘が来てた。グラフィッカーの方がタンバリン片手で踊りながら歓迎してくれるらしい。いや、評価されるのは嬉しいんだけどぶっちゃけこの手の技術、俺よりも上手な奴って割とゴロゴロいる気がするんだよなぁ。にやにや動画で良く見るCG系アニメとか。ああいうの個人で制作してる人の方をスカウトした方がええんじゃないか。

 

『でもアインさんだけですよ』

 

「んー?」

 

『私みたいなAIを作業に混ぜて完成させられるの』

 

「あー」

 

 お忘れかもしれないが、我が家にはフィエルがいる。誰よりも、何よりも電子という世界に馴染んでいる生物だ。俺がARグラスとトラッカーを装着して作業するよりも、フィエルに口頭で指示を出したほうが10倍近く早く、そして綺麗に作れる。そういう事で今使っている一部の魔法、配信外で作成したもんは自分の手で弄りながら作業しつつ、フィエルに口頭で指示を与えながら共同作業で作ったもんだったりする。

 

 だけどそうか。

 

「これ、かなりの特殊技能か……」

 

『ぶっちゃけ世界的に見てオンリークラスの技能ですよ。運営の方でも一緒に作業するって事は意識や環境のすれ違いから機能しませんし』

 

「お前と俺」

 

『私は自分の性格や思考をアインさんベースに最適化しているので……でもぶっちゃけ、この最適化を行うと汎用性が失われてしまうと言いますか、個性の方向性が出来てしまうと言いますか』

 

 こいつのポンコツはそれが原因だったんだな……。いや、でもまぁ、割と真面目に息が合う感じはあるから助かってはいるんだが。でもそうか、これ特殊技能扱いなら入社する為の能力になるのか。ならもうちょい気合入れて作業してもいいかもしれないなぁ、と思う。

 

「まぁ、今はちょっとフリーでいたいんで。今はちょっと無理かなぁ……って感じで。その内受けたくはあるけど」

 

『ではそんな感じで返答しておきますね』

 

 フィエルがこうやって働いてくれると秘書を持ったような気分になるのが不思議だよなぁ。真面目な話、就職は物凄い魅力的だがそうなるとシャレムという世界をもうただのゲームとして楽しむ事は出来なくなってしまいそうな怖さがある。その事を考えるとやっぱり、ゲーマーとして楽しめるだけ楽しんでからこういう話は受けたい。

 

 それに結婚したり家族を持つようになったら定職を得る必要があるし。そん時は真面目に就職してぇーなぁーってのがある。

 

 まぁ、今は無理だ。ただこういう話を考えるとちょいやる気が出てくる。

 

「……うし、寝るまで出来る所やっておくか。ツールとファイル開いて。1時間ぐらい集中してやるわ」

 

『はーい。今準備しますねー』

 

 髪が目に入らない様にヘアバンドで前髪をオールバックで流しつつ、両足を椅子に乗せた体育すわりスタイルに移行する。手に装着したトラッカーでVR内……よりは反応は悪いが、それでも同じように手で弄って作業は出来る。

 

 これを使ってモーションやエフェクト、グラフィック周りを構築する。まずは自分の決戦技回り、次は身内のだ。魔法は更新が激しそうだなぁ、と思いつつ、

 

 今夜も今夜とて、シャレムの事に時間を費やして終わる。




 パフェコミュも今回でおしまい。

 安定感に定評のある土鍋。
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