断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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 何時も通りのログイン。だが何が違うかと言うと運営からの告知で来週からはスキルレベリングに対する+50%ボーナスが入るという告知が来てた。ログボを回収しながら通知される内容に、本格的なレベリング作業は来週に回したほうが時間効率的には良いのかもしれないな……なんて事を考えながらジュエルコースト滞在、3日目に突入する。

 

「ログイン状況は……まちまちか」

 

 まだ皆がインしている訳ではないのでID周回にも行けないし、ここ2日での復興状況を確かめる為に歩く事にする。歩きながら《契約術》と《結界術》のレベリングの為に両方を使ったり、《氷魔法》のレベリングの為に氷の蝶を生み出して自分の周囲に浮かべる。戦闘をするよりも遥かに効率は悪いが、それでも少しずつ経験値が溜まるならやるだけの意味はある。という訳でスキルレベリングをしながら散策開始。

 

 まずやってくるのはホテルの前だ。

 

 流石リゾート地というだけあってかなりの数のホテルがある。とはいえ、その中でなお稼働しているのは少数だ。理由はいたってシンプルで、定期便や資材を運んでくる船の用意が難しいからだろう。今の所、完全に機能しているのはパーシヴァルの船だけだ。そして確保されている航路はエルディア行きだけだ。この中で壊されたホテルや崩れた個所の修復用の資材を集めるとなると、エルディアに頭を下げる以外の事が出来ない。

 

 それに資産をどの国に預けていた、という話も出てくる。エルディア以外の国に資産を預けていた連中は今頃絶望顔を浮かべているだろう。

 

「船はどうだ?」

 

「第一便が今夜戻ってくる予定です」

 

「良し! それまで昨日と同じく片付けられる所を片付けるぞ!」

 

「おー!」

 

 直ぐ横を大声で張り切り作業員たちが走り抜けて行く。質問しなくても何が起きているのか把握できるのは、ちょっと楽しい。日本では全く見ない非日常の中を歩いているような気分を味わえるのはVRMMOの特権だろう。どんな高級なMMOでも、このリアルな体験には勝てない。自分の体を実際に動かしてるんだよなぁ、と横に召喚しては時間いっぱいまでお散歩して消えるロリフィエルの姿を見送った。

 

 と、歩いている内に昨晩交渉するのに使ったホテルに戻ってきた。ここもどことなくぼろぼろになっている箇所があるが、既に修復が始まっており、稼働可能になるまではまだあと数日かかりそうという様子を見せていた。ここでバイキングを朝食にもらえるらしいんだが、そういうホテル飯よりも個人的には屋台飯のが好きなんだよなぁ。そんな事を考えながらホテルを後にする。パーシヴァルやイェン達の交渉がどうなったか。後できっちりと顛末を教えてもらおう。俺達の活動に関する事でもあるのだから。

 

 ホテルを後にして向かうのはマーケットの方だ。もう昨日の時点である程度店が出ていた、という話を聞いている。こんな状況でも商売をする様なバイタリティ溢れる人間が結構いるもんだ、と思いつつID周回で慣れてしまった道路を歩く。

 

 燦々と照り付けてくる太陽の熱がじっとりと肌を焼き、汗を浮かび上がらせる。だが周囲を踊る氷の蝶が熱した体を冷やしてくれて、涼しい空気を自分の周りに生み出してくれる。そのおかげで回りの人たち程、熱い思いはしなくて済んでいる。もうちょい数を増やせば涼しいんだろうなぁ、って思ったりもするのだが……まぁ、この暑さを含めてリゾート地って感じはするし? 完全に涼しくして快適にするのは違うだろうとは思う。

 

「おー、ほんとだ。マーケットの方はもうほぼ通常稼働って感じだな」

 

 マーケットの方は露店や屋台を並べればそれでもう完成なので、破壊されても直すのも簡単なのだろう。もう既に結構な数の人たちが集まって商売に精を出していた。良く見れば元々断絶前にこのリゾートにいて、断絶に飲まれた事で取り残された観光客らしき姿もある。ホテルじゃなくてこっちで食事をとりに来たんだろうか?

 

「お、そこの兄ちゃん! 釣ったばかりの新鮮な魚を使った魚団子はいらんか?」

 

「お、じゃあ1パック宜しく」

 

「毎度アリ!」

 

 そうやって渡されたのは魚団子の入ったスープだった。つみれの様な魚の団子、それは透明なスープの中に浮かんでいて良い匂いを発していた。こんな状況なのにこういうものは作れるんだ、と驚きながら口の中にスープと魚団子を一緒に放り込む―――うん、コクと出汁がちゃんと出てる。これはこれで美味しいものだ。和か中のタイプかと思ったけど、どっちかと言うと味的にはベトナムとかそっち系かな? あっさりしているからちょっと味が濃い目のものと一緒に食べたいなぁ、ってなってくる。

 

 まぁ……匂いを嗅げば直ぐ近くからこってりとした肉の匂いがしてくるから、そっちに興味が移っちゃうんだが。

 

「上手に商売してるなぁ」

 

「ここで生きて行く為の知恵って奴だよ」

 

 まぁ、ええじゃろう。その思惑に乗ってちょっと散財してやろう。ここで生活している人たちもあるしね? ただどれを食ったもんかなー、って思っていると、太った褐色のアロハのおっさんがやってきた。

 

「やあやあ、君、何を食べるのか悩んでるね? ややヘヴィだけどこれとかどうだい? ハンバーグにライス! その上からとろーり生卵をかけて食べるのさ! んー、デリシャス!」

 

「朝からカロリー高すぎない?」

 

「気になるならビーチで泳げばいいのさ! ま、泳がないから私はこんなお腹になっちゃったけどね!」

 

 HAHAHAと笑っているおっさんの様子に苦笑を零す。まぁ、笑わせて貰ったしロコモコっぽい料理を購入させて貰おう―――うん、名前はそのままロコモコだった。やっぱり食べ物の名前とかは変にアレンジせずにリアルの奴をそのまま採用してるんだなぁ、って思う。変にこだわった所で困るのはプレイヤーの方だしな。

 

 ともあれ、ロコモコを購入。どんぶり型の器を貰い、食べ終わったら返してくれよと言われるのにサムズアップを向ける。朝から食いすぎかと思うけどここはリアルじゃない。多少のオーバーイーティングはなんも問題はないのだ……だってほら、ニーズヘッグの奴が結構食ってるしぃ?

 

 という訳でロコモコを口へと運ぶ。ハンバーグのジューシーな肉汁に味の濃いソース、そしてそれをご飯で一気に口の中にかっこむ! うん、文句なく美味しいと言える逸品だ。やっぱりホテルで食べるよりこういう屋台飯のが歩く楽しさがあるから好きなんだよなぁ。

 

「だけどお肉、断絶の影響もあったけど大丈夫なのか」

 

「大半は冷凍庫で凍らせて保存してるしね。駄目になったやつはまぁ、そこそこあるけど大半は大丈夫さ。そこはちゃんと保存しているからね。基本的にいつでも食べ物を提供できるように貯蔵しているからねぇ」

 

「ほえー……色々やってるんだなぁ」

 

 そういえば俺達プレイヤーはシステム的にアイテムをスタック出来るけど、此方側の世界の人たちはそれが出来ないんだよな。ちゃんと貯蔵庫用意してそこで保存してるんだと思うとマジで頑張ってるのが解る。だからこそ食材が腐ったり、資材が必要になったりするんだろうな。良くあるゲームみたいに資源も無限に取れる訳じゃないし。

 

「それはそれとしておっさんは観光客?」

 

「俺? ここの地主だよ。あ、俺と俺の土地を助けてくれてサンキューな。ところで謝礼って土地でいいかな? 言葉よりも解りやすく伝わると思うんだけどこの感謝のソウル」

 

「んー? んん―――????」

 

 首を全力で傾げながら自称・ジュエルコーストの地主と名乗る人物の姿を見て、もう一度首を傾げながら全力で頭の上にはてなを浮かべる。

 

 うーん―――どうすんのこれ?

 

 ……どうするのこれ?




 地主(世界最高レベルの富豪)。
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