「……やっぱ土地じゃ重すぎる? じゃあ君とお仲間の分の永久フリーパスポートなんかでどうかな! 良し良し! こっちの方が自慢にしやすいだろう! 後で手配しておくから受け取って置いてくれよ」
「お、おう。まぁ、貰えるなら貰っておくわ」
断る理由はないし。土地だったらちょっと真面目に悩むけど、リゾートホテルの無料パスポートなら疲れた時のリラックスにでも来る事も出来るし、そっちの方が嬉しいかもしれない。交通の便を考えて拠点はエルディアの方がやりやすいんだよなぁ……東西南北全てが別の国へと通じるし。まぁ、そういう訳で土地は困る。しかしこのジュエルコーストの地主だなんて人物だったとは。
「なんでこんな場所に?」
「そりゃあ俺の庭だからだよ。ここを毎朝歩いて頑張ってる人達の笑顔を見るのが趣味さ。そのついでにお金が入ってくるならほら……人生幸せだろう?」
「あははは……」
なんというか……凄いユニークな御仁だった。地主というからには偉ぶった人間かと思ったらそういう傲慢さは欠片も見せずに、楽しそうに笑いながら立ち上がると手を振りながらマーケットの方へと向かう。どうやら色々と買い物をして金をばらまいているように見える。或いはアレが、彼なりのボーナスか復興支援なのかもしれない。大物なのか馬鹿なのか、今のところは良く解らないけど機嫌を損ねられない相手であるのは理解した。まぁ、そんな奴はそこそこいるのだが。
『あ、梅☆さんがインしました』
「お、来たか」
じゃあ、合流しちゃいますか、とマーケットを出てビーチの方へと向かおうとすれば、ホテルの方から出てくるイェンの姿を見つける。此方を見るとイェンは微笑みながら軽く手を振ってくる。それに手を返しながら歩いて近づく。その表情の明るさを見れば中々良い結果を得られたのが解る。
「夜通しで?」
「あぁ、長く話し合う事になったが中々納得の行く話し合いになった」
「そうか、お疲れ様イェン―――あ、今更だけど」
「構わん。その方が私にとっても心地が良いからな」
やれやれと言わんばかりに肩を振ってから横に並び、ビーチへと向かう。直ぐ目の前のビーチにはちょうど座れそうなベンチもある。並んでベンチに座る。夜通し話していたせいかイェンにはちょっと疲れたような様子も見えるが、それ以上に楽しそうなものが見える。肩がぎりぎりくっつかない程度にまで近づいて並ぶとイェンは指先を前に出す。何が欲しいのか解る為、氷の蝶を一匹その上に止めてあげる。
「んー、中々心地の良い綺麗な魔法を創るんだな」
「ま、趣味って所さ。これぐらいだったらそこまで手間もかからないしな。次回作はもうちょっと大きいのを予定してるから期待しててくれ」
「ふ……その時を楽しみにしておこう」
ふぅー、と息を吐いて蝶に見入るイェンの横顔を見る。頭の上ではぴくぴくと耳が動いている……偽物ではなく、本物だ。この手のファンタジー種族がちゃんと存在していると思うと面白いが、それがリアルな様子で存在しているのはなんとも不思議だ。だけどMMOだから存在するのはある意味当然なのかもなー。
「貴様らの事だが」
「あぁ」
「とりあえずは私が預かる事になった。まぁ、ここは当然かもしれないが。王家からの依頼を出す時はまずは私を通す必要がある。報酬回りの相談もこっちで行う。基本的な部分はここで落ち着いた……まずはいいな?」
頷く。そこら辺は略剣にもそういう形で落ち着くだろうって言われてた事だ。今回は先にイェンと契約していたから、理はイェン側にある。契約主であるイェン抜きでは話を通す事が出来なくなったのは俺達にとってはプラスになる出来事だ。そうでもなければずっと働かされ続けるかもしれないだろう。問題はその上で今回、どういう話をしたかって事だ。だからイェンが話の続きをするのを待つ。
「で、だ。改めてエルディア王家とアルスティア皇家から参加要請があった。帝国解放の戦線に他の稀人達を率いて参加して欲しい、と」
「やっぱそうなるか」
あぁ、とイェンは頷いた。
「そして私はこれを断った」
その言葉に驚き、ちょっと声を漏らす。視線をイェンへと向ければ、悪戯が成功したような表情を浮かべていた。
「ま、何でもかんでも貴様らに頼る形になっているのは情けない話だしな。それに好き勝手使われるのもあまりいい気分ではないしな。貴様らにも個人個人でやるべき事があるだろう? という訳で断ってきた。しばらくは自由時間になるだろうから仲間たちと共に鍛錬するも整えるも好きに時間を使うと良い……とはいえ」
イェンが腕を組む。
「恐らく3週間後にはまた参加要請があるだろうがな……」
「3週間? 意外と具体的だな」
「帝国までの距離と断絶の解除速度のざっとした計算だな。恐らく3週間後には帝都へと到達するだろう。そしてその時には総力戦になるであろう。その時にはまた支援要請が入るがその時は断るつもりはない。貴様らにも存分に活躍して貰うつもりだ」
「こっちとしてもそれで問題はないぜ。元々足りない仲間を補充するつもりだったしな。それに代わりに稀人を牽引してくれそうな連中にも辺りを付けておいた。いつでも会って話してくれるそうだ」
「ほぅ、それはなかなか手際の良い。いやはや、それは助かる。今夜話の続きをする時に良い話が出来そうだ」
「まだ続くのか……」
「面倒だがな」
「本当に、お疲れ様」
「何、お安い御用だ」
そう言うとイェンが距離を肩が触れる所まで近づいてくる。そのちょっとした接近に世界の壁を越えてプレッシャーを感じる気がする。おかしいな……アイツまだインしてないんだけどな……いや、でもアイツの事だし既に感知してそうだな……恐らく今頃必死にログインしようとしている所かもしれない。まぁ、ええわ!
「ふむ……前よりも度胸が据わったか?」
「俺としちゃこの距離感に相変わらず困惑するけどな」
それでもこの海は綺麗だ。青空と蒼海。白い砂浜に美女の姿。この絵になる姿が視界に入るだけでもだいぶ幸せになるもんだ。そしてこの開放的な空気は心までを開放的にしてくれる。何時もと違う環境は俺をちょっと大胆にしているのかもしれない。エルディアの方でここまで接近されたら俺、逃げ出す自信がある。それともちょっと、未来の事を真面目に考え出した事が影響しているのかもしれない。俺もなんだかんだで就職の事とか考えなきゃいけないしな。
「アイン」
「なんだイェン」
「私はな、恋がしたいんだ。燃える様な甘い恋が」
笑いながら、海を眺め、そして指に乗せた蝶を太陽に向けて掲げる様に、透けて輝かせながら眺めて言葉を続ける。
「東国の姫の出でな、私は」
「おう」
「生まれからどう使われ、死ぬまでを決められていた」
「うむ」
「だがな、ある日思ったのだ。その全部が面倒だと。なぜ従わなければいけないのか、と。どうして逆らえないのかと」
「おう」
「良く考えた結果国民の税金を使ってそれまで贅沢してきたから王族としての義務があったんだなぁ、と気づいた」
「うん、せやろな」
家出娘かな?
「だから私は気づいた―――私にかかったコストを返済すれば家との縁を切って飛び出せるな、と」
「おっと、ちょっと予想外の方向に話が飛んだな」
「それを父上に提案したら笑いながらやってみろって言いだしてな」
「本当にやるとは思わんかったんやろなぁ……」
「だから兄上を連れて汚職している連中を全員襲撃して資金を集めて返済した。おかげで国庫が潤ったな! 父上の表情は濁ったが」
「せやろな……」
そりゃあ表情濁るわ……。
一番の被害者はパパ上でも貯金箱扱いされた悪者でもなく、ロハで手伝わされた上に妹のことで心配で海外までついてきたら急に「恋がしたい! するぞ! 惚れた! 好き!」とか言っている妹の姿を守り続けなきゃいけない兄上だぞ。
お労しやフォウ上様……。