どんぶらこ、どんぶらこと揺られてポートへと無事に帰還する事に成功した。今回は特に何らかのトラブルが発生する事もなく、片手間に魔法のレベリングを行いながら魔法グラフィックの作成に集中できた。途中から船にテレポートで乗り込んできた師匠の手伝いがあったおかげで、
なんと《氷魔法》はこの短期間でレベル10に上がった。驚きのペースだ。それでもレベリングに数日かかっているのだが。師匠に頼んで《氷魔法》を削除した枠に《土魔法》を突っ込み、爆速でレベルを2にまで上げた。《結界術》もあと少しで10に届くという感覚もあり、これが終われば俺が自分自身の力でテレポートを使用する事が出来るようになる……行ったことのある場所限定ではあるが。それでもファストトラベルが解禁できるのは移動に関しては大きな変化だ。
ともあれ、丸1日船の上で揺られてからエルディアに帰還すれば、漸く感じられるしっかりとした大地の感触に背筋を良く伸ばし、深呼吸する。やはり熱帯のリゾート地とこっちでは全く空気の味が違う。こういう空気の違いを感じるのも旅行の醍醐味だよなぁ、なんて事を考えながら後ろにぶら下がるニーズヘッグを引きずりながら歩く。
「ボス。ボス」
「えぇい、鬱陶しい。離れろ」
「ぼーすー」
「駄目だ。アレは今日は使いものにならねぇな」
本日は甘えたがりな犬の存在をガン無視して正面を見れば、此方に手を振っている少年の姿がある。直ぐ横に立つ屈強な護衛と共に来ているのはアーク王子の姿だった。どうやら俺達が戻ってくるのを知って、事前に迎えに来てくれたらしい。
「兄上、アインさん、そして皆さんお帰りなさい。お疲れ様です」
「帰ったぞアーク! 兄ちゃんの武勇伝を語ってやろう!」
笑いながら船から降りて行くパーシヴァルがアークを持ち上げると笑いながら一回転し、担ぎ上げる。直ぐ傍にいる護衛達が少し困ったような表情を浮かべるが、それを咎める様な事はしない。わはははと笑っている中の良い兄弟の姿を見て、こっちもエルディアへと向かうか、と歩き出す。久しぶりに馬を走らせてやりたいし、こっちで移動するかなぁ、なんて考え。
そして、
「兄上」
「ん? まあ、土産は少し待て。実はだな―――」
「いえ、兄上。ヴェルサス兄は……?」
アークの聞いてくる言葉にパーシヴァルがアークを持ち上げたまま停止した。
「あっ」
「や、やった! やらかしやがった! 要救助者放置して忘れやがったアイツ!」
「俺達も忘れてたけどな!」
「ああ! 大体印象の大半はトレイター戦に持ってかれたしな!」
「そう言えばそんな話もあった気がするわね」
「誰も覚えていなかったんですか……!?」
だってばぶぅ様が降臨されたし……あんな後で覚えてろって言われる方が無理あるだろ……。アレは完全なる衝突事故で誰も悪くないだろうし……。
いや、まあ、でも忘れられた本人が悪いか。
「ま! 忘れたもんはしょうがないだろ!」
「しょうがなくないです」
「はい」
開き直ろうとしたパーシヴァルをアークが一喝して黙らせた。そのままアークが睨むとパーシヴァルがアークを降ろし、そのまま目の前で正座した。これから良い歳した大人がショタに説教されるんだなぁ、というのを愉悦の心で見守ろうとすると、アークの視線が此方へと向けられて一瞬びくり、と体を震わせる。
「アインさんたちはどうぞごゆっくりお休みください。今回は本当にお疲れさまでした」
「ああ、楽しい旅だったぜ。今度飲みに」
「兄・上」
「はい」
敬礼だけ残して港を去る事にした。俺達は帝国の要人を確保した。だが本来の目的である王族の保護を完全に忘れていたのだ。
俺達、ただあのリゾートで遊んで帰ってきただけじゃん……そんな感慨を胸にクエストを完了させた。
街道の方へと楽し気に去って行くアインの背中をパーシヴァルは見つめていた。その視線をアークは追いかけてから視線をパーシヴァルへと向ける。それで口を開こうとするのをパーシヴァルが先に言葉で制した。
「周りは」
「城の者しかいません」
「なら良し。お前ら、何も聞いてないという事にしろ」
「はっ」
パーシヴァルの言葉に兵士たちが即座に応答する。その場にいても彼らの意識は言葉を忘れる。単純に聞いていなかったことにし、死ぬまで聞いた内容を忘れておく。絶対に口にしなければそれは聞かなかった事に何も変わりはしない。単純に忠誠心として、それを死ぬまで実行する覚悟が兵士達にはあった。故にそれを信頼している王族の2人はこの場に置いて多少の秘密を零す事に躊躇はしない。だがそれは同時に、稀人であるアイン達には語れない内容がここにはあった、という事の証でもある。
「パーシヴァル兄上の事です。確実に仕事はなされましょう……忘れて帰ってきた、という事だけは絶対にありえません。他の目がある手前こういう風に接してしまいましたが……」
「良い、気にするな。仲の良い兄弟である事をアピールするのは悪くないしな。稀人はこれからも付き合いをしていく連中だ。なるべくこっちが結束している姿を見せていたい」
そこで一旦パーシヴァルは区切り、本題に切り込む。
「兄上が死んでいた。妻のリヒデア共々、な」
パーシヴァルの口から出た言葉に一瞬でアークの顔色が変化する。当然だ。何故ならヴェルサスはこの国における第一王子、第一継承者なのだから。国王が不在である状況で、この国の舵取りを行うべき人物だったのだ。それが死んで発見されている。だがそれをアイン達は知らない。つまりアイン達には態々黙っていただけの理由があるのだとアークは即座に判断する。少年ながら王族の風格を纏わせつつある少年は確かに、パーシヴァルがいない間に成長していた。その様子を見てパーシヴァルの胸中には頼もしさと寂しさが混在していた。
だが今はそれを振り払い、生き残っている王族として行動する。
「ルートヴィヒとの交渉は俺が引き継いだ。兄上が死んでいたし。だからまずそこは安心しろ。だけど問題は兄上の死体の方だ」
いいか、とパーシヴァルは念を押すようにアークに注意を促した。
「
パーシヴァルの言葉にアークは少しだけ首をひねるも、即座に応えにたどり着く。脳裏に展開されるのは断絶と人の関係だ。報告として断絶内部での人間は結晶に覆われ、行動と活動不能の停止状態にあるという報告を受けている。実際、パーシヴァルもそうであった。そして結晶に閉じ込められている間は全ての活動が停止する為、数日から数か月結晶漬けになっていても死ぬような事はない。
当然、ジュエルコーストも断絶による結晶化の影響を受けていた。
だがその中で死後から日数が経過した死体が出現したのだ。
つまりヴェルサス王子は、断絶の最中かその前に死んだのだ。それは当然ながら不可解な死だ。
「ちなみに帝国は白だし、リゾートの人間も軽く洗ったが白だ」
「……死因はどうでした?」
「心臓を一突き」
「兄上はアレでも並の騎士よりは強い筈なんです……ですが死んだんですよね?」
「あぁ、間違いなく即死だ」
それはつまり、
どうやって? なぜ? 誰が?
疑問は尽きる事がない。だがこれは同時に、ヒントでもあった。
断絶は稀人でなくても侵入できる。
その事実を兄弟は確信し、ゆっくりと笑みを浮かべた。
おや、エルディアの様子が……?