断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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トップチーム Ⅵ

「おかえりなさいませええええええええええええ―――!」

 

 そう言いながらそいつは横に回転し始めた。無論、ドリルみたいにではなく。プロペラとかそういう系の回転の仕方だ。ぶるぶると震えながらプロペラの様な横回転をし始めたそいつはそのまま激しく荒ぶりながら空へと向かって垂直に発進する―――そして空中でボールをキャッチするように跳躍したAI女神に捕獲され、そのまま垂直落下のパイルドライバーを決めて大地へと叩きつけられ、消滅する。良い汗をかいたと言わんばかりに額を拭ったAI子ちゃんは此方を見るとぺこり、と頭を下げて姿を消す。

 

 その景色を俺達は門番と共に眺め、頷く。

 

「エルディアに帰ってきた感じがするなあ……!」

 

「これで??」

 

「勘弁してくれ」

 

「寝言を言うな」

 

「でも街の中ではケツワープしている子とかいるわよ」

 

「魔境じゃん」

 

「というかなんで出来るんだよ……」

 

 プログラマーがジョークで入れたんじゃないですかね……。まぁ、TAS勢とかRTA勢とかバグ勢とか検証勢とか常に存在するもんだしそこまで心配する必要はないと思う。何せ、初期のころは必死に追いかけるだけだったAI達がだいぶ情緒的に進化してバスケキャッチし始めているし。もうバグ修正するよりもAIに対処させてる方が面白いんじゃねぇかなぁ。まぁ、門番さんがいつも通りって感じでガン無視しているので、比較的に見慣れた光景なのかもしれない。

 

 そう思うとこのエルディアって国は面白い。

 

 外側の世界からやって来た稀人、そして土着の民であるエルディア人で違う文化や様式、それが混ざり合って今は社会を形成しているのだから。こういうものは反発必須なのだが、現状それが起きないのは国家的にピンチだからだろうか? まぁ、なんにせよ、一番やべー変化が起きてるのはマルージャだと思うが。建築しなおしは流石に笑うでしょ。気が付いたら森の中に高層ビルとか建ってたりして。

 

 そんなくだらない事をしながら王都の東門前まで戻ってくると、ゼド、アレキサンダー、そして森壁の3人が前に出て並び、

 

「今回はパーティーのお誘い、ありがとうございました!」

 

「本当に楽しかったよ!」

 

「本当にまた遊ぼうな!」

 

「こっちこそ、楽しかったよ」

 

「色々と助かったわ」

 

 臨時の3人と握手を交わし合い、別れを告げる。悲しい話だが彼らは今回はここまでだ。だがこのゲームの世界はまだ狭い、逢おうと思えばまた何度でも会えるだろう。フレンド交換自体は済ませているし。また遊ぶ程度だったら暇なときに、何時だって出来るし。だから今は別れを告げる。既に報酬の分配も終わっているし、特にする事もないのでさようならを告げて解散した。門を抜けて行く3人の背中姿を見送り、再び5人に戻ったパーティーを見る。

 

 背筋を伸ばして体を捻り、足を組ながら両手を頭の後ろへと持って行く。

 

「さーて、俺はこっからアポ入れてあるから行かなきゃな」

 

「おぉっと、リーダーは忙しいな。んじゃ俺がご一緒しようか」

 

「頼むわ略剣」

 

 俺と略剣が別パーティーへの交渉と渡りを行おう。既にレオンハルトに合流地点は伝えてあるので、今から向かえば良い。残されるのはニーズヘッグ達3人だがそっちはどうするんだという視線を向ければ、

 

「私は食べ歩きするわ」

 

「俺は売却用のアイテム売ってくるよ。チームの資金になるし」

 

「んじゃ俺はボスの言ってた工房を覗いて来るわ。銃がありゃあ万々歳だし」

 

「オーケー。んじゃ一旦解散って事で。用事があるなら連絡で」

 

「うーい」

 

 という訳で略剣を除いて一旦解散する。2人だけになった所で手をポケットの中に突っ込んで待ち合わせ場所である中央広場へと向かう―――一番解りやすい待ち合わせ場所なのだ。なので今向かっている最中だとメッセを入れながら歩き出す。だがそうやって歩き出すと直ぐに周りの視線が此方へと向けられてくる。

 

「おーい、ボスー! 次の配信は何時だよー!」

 

「俺の気分次第」

 

「ボスー! パーティー入れてくれー!」

 

「近いうちに条件はっとくからそれみとけー」

 

「ボスー! 早くニーズヘッグさんと結婚してくれー!」

 

「式場も確保してるぞ!!」

 

「〈煉獄蝶〉」

 

 街中で焼死体が出来た? いやあ……物騒な世の中ですね……。

 

 これが歩けばまあ、声がかかるかかる。中には見覚えのあるVの人のアバターまであって、手を振って来たり握手しに来たりする。そこらへん、あんまり邪険にする理由もないので足を止める必要がないのであればちょくちょく対応してあげる。ただ、まあ、俺もだいぶ有名になってきたなぁ、という感覚があった。まあ、コミュニティ的にトップ層を走っているのと話題をかなり独占している自覚はあるし、そこはしょうがない感じもあるが。横を歩いている略剣は眼鏡を拭きながら笑い声を軽く零している。

 

「お前も有名になったなぁ」

 

「配信なんかに手を出したからな。最近はスレを見るのが怖くて見てねぇ」

 

「草」

 

 いやあ、だってやっぱりスレで色々と言われてたらショックは受けるだろうしねぇ……? だからスレを見ないのが一番健全だと思っているし。それに追っかけていると無限に時間を取られるしアレ。だからスレを見るのは……そうだ、フィエルに任せよう。今度から家でのタスクにスレの巡回でもやらせようか。またなんか変な事を学習しそうな気もするけどそれはそれでいいわ。

 

「ボス! コースト配信面白かったです」

 

「あんがとよ」

 

「また配信してくださーい!」

 

「そのうちなー」

 

 手をひらひらと振りながらため息を吐く。今度からは街中でバレずに歩く為の装備でも用意しよっかなぁ、なんて事を考える。少なくとも顔を隠せる装備を用意しておいた方が一人で回る時、色々と便利かもしれない。やっぱ仮面かぁ? 仮面になるのかぁ? 仮面キャラはそれはそれで面白そうだよな……。

 

 とりあえず今は諦めるとして、堂々と胸を張って歩く。とりあえず声をかけてくる連中には適当に対応すれば良いし。ただ、まあ、その内勝手に話しかけてくるなって注意ぐらいは……いや、でもこの軽さがネットのノリだしなぁ。それを失うのはちょっともったいない気もする。きゃーわーされるのもMMO文化の1つだよなぁ、とは思わなくもない。

 

 それにこうやって生み出した属性の蝶をひらひらと自分の周囲に舞わせていると、うらやむような視線を向けられるんだ。これがまた楽しいんだよなー。今まではこういう類の憧れの視線とは無縁だったし、ちょっとした優越感があるのは否定できない。

 

「あんまり、ハメ外しすぎるなよ」

 

「解ってるよ。ガキじゃねぇんだから」

 

「おじさんからすりゃ年下は皆まだまだ子供よ」

 

「そんな事言ってるとウザがられるぞ。娘に」

 

「うぐっ……だがこれも愛ある言葉だから……あぁ、でも将来どう育つかなぁ……ちょっとお父さん不安だなぁ……でもさ、アイン」

 

「うん?」

 

「将来的にお前が背負う苦悩でもあるぞ」

 

「……」

 

 略剣の言葉に両手で顔を覆い、俯きながら歩く。いや、まあ、言っている事の意味は良く解りますよ? 解りますけど解りたくはないですね……。実質的に暗黙の了解というかなんというか、まぁ、皆良く解っている事なんだけども。まあ、ぶっちゃけそこまで先の事は良く解らないってのも本音の1つだけど。それでも子供かぁ……って思う所はある。略剣見ているとそういう家庭を作るのも楽しそうなんだよなぁ、って思う部分はある。

 

「まあ、俺よりも鍋のが先そうだけど」

 

「あぁ。アイツ絶対朝起きたら事後ってタイプだろ」

 

「縄で縛られたうえでな」

 

「想像できるわ」

 

 オフ会で鍋のカノジョとは会った事があるんだが、これまた物凄いハートマークを土鍋に対して向けまくっている娘なので絶対にゴールインするだろうなぁ、って俺達は見てる。うちのチワワはそこらへん必要以上にアタックしないが、土鍋の彼女はほら。

 

 ピッキング侵入してくるから……。

 

 電子ロックを導入したらクラッキング学び始めるあの執念だよ。愛って怖いなー。

 

 なんて、身内ネタで盛り上がっている間に中央広場までやってくる。そこにはロングコート姿に大剣を背負ったレオンハルトと、そしてその横に立つ洋風の冒険者衣装に腰に3本の刀を差した男の姿があった。恐らく彼が《レジェンズ》のリーダーだろう。軽く手を振りながら此方の存在を知らせて、合流する。

 

 さて、何事もなく話が済めば良いが。




 女神参式パイルドライバー。相手はカンストダメージ喰らって死ぬ。

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