更に1時間ほど狩りを続けて休憩を1度挟む。いったんログアウトして、トイレと軽い食事を済ませたら再び戻ってくる。そして此方でも軽い食事をとる。この街道に出るまでに購入したサンドイッチを2人で分けながら食べる。街道横の草地、黒く染まったその上に座り込みながら休憩する。ここまで結構狩りをしてきた影響でレベルは既に6まで上昇している。コボルト狩りを開始してから凄まじい勢いでレベルアップしているのだ。だけどここまでレベルアップしたところで、未だにコボルトの名前表記は赤かった。つまり、まだまだ格上の相手となっている状態だ。まぁ、ここが元々10レベルからの推奨エリアだと考えるとここに出てくる強めの個体は11、12レベルぐらいはありそうだよなぁ、とは思う。つまりまだまだ経験値ブーストがある。ブーストというか格上狩りで経験値圧倒的に美味しいボーナス状態という方が正しいかもしれない。
少なくとも今のこの美味しい美味しいフィーバー状態はずっとは続かないだろう。後になればなるほど複雑なAIを持つエネミーが増えるだろうし、その影響で今の様な瞬殺が続けられるかどうかは怪しい。だからここで他のプレイヤーたちに対して、レベルの差でスタートダッシュを決めたい所だ。この最初のスタートダッシュ差が後々のアドバンテージになる。
まぁ、どうせエンドコンテンツまだ実装されてないだろうが。
「はあー」
息を吐きながらサンドイッチを咀嚼すれば、現実と寸分の狂いもない感覚が下と喉に通る。信じられない事に今、俺はこの仮想現実で食事をしている。そしてそれを食べると凄い満足感と共に自分の腹が満たされる感覚を覚えるのだ。
「やっぱ不思議な技術だよなぁ……こんなもん、どうやって民間に触れられるレベルになったんだろう?」
「さあ? 少なくとも私には解らないわ。それに興味もないし。自分が全力を出せるって事の方が楽しくて大事だわ」
「まぁ、そうだけどさぁ! いや、まぁ、俺が話す相手を間違えたか」
「そうよ」
「誇るな」
まったく、と言いながらも笑ってしまうのは付き合いがあるからか。それともこいつという生き物を良く理解しているから。いや、まぁ、他の連中相手でもきっと笑えてしまうだろう。基本的に楽しい事が好きだし。それにしてもまぁ、好き勝手やるもんだとおもうけど。
「お前は良く動くなぁ」
そう、かしらとニーズヘッグが首を傾げる。
「でもリアルよりも動かしやすいのよね、体が。反応してから肉体へのレスポンスが早いというか。うーん、イメージした通りに体が完全に反応する感じ? たぶん動作の出力の仕方が現実とは全く違う方法だからかなぁ」
そう言うとニーズヘッグは立ち上がり、その場で軽くバク転、側転、宙返り、そして片手逆立ちし、その姿勢を維持する。
「うん、体が簡単にイメージに追いつく。追いつくというかまんま? 実現可能な範囲でイメージが肉体に対応される感じ。だからイメージが詳細なら詳細な程細かく、良く動く」
「はぁーん。となると元々体動かしてるやつの方が有利なんだな」
「たぶんそう。でも一番強いのは反射神経が高いのと、想像力が豊かなタイプかな……そっちの方が動けそう」
「ほーん……じゃあ、俺も理論を脳内で詰め詰めにしてイメージ構築すれば理論上はニグと同じぐらいのスペックを出せるのか」
「は? 糞雑魚太郎でそれは無理でしょ」
「キレるぞお前」
飛び上がり蹴りをかますが、華麗に回避され、そのまま逃げだすニーズヘッグを追いかけ始めると、少し離れた位置にいたコボルトに見つかり、そのまま数匹トレインしてしまう。休憩中だったのにいきなりトレインからの乱戦に発展し、急いで2本の杖を取り出しながら襲い掛かってくるコボルトの顔面に蹴りを入れ、蹴り飛ばしながら次に来るのを杖でガードし、押し返しながら詠唱に入る。
ごちゃわちゃしながらなんとかコボルトの処理を終えると、溜息を吐きながら元の場所に戻り、座り込む。
「何を話してたっけ」
「さあ……?」
まぁ、忘れたのなら大したことのない話だが、さて、
もうそろそろ終わりが見えてきたなぁ、という感じだ。
街道の先へと視線を向ければ、麓が段々と見えてきた。これなら後1時間ぐらいで到着する、というぐらいだろうか? もっと短いかもしれない。いや、狩りをしながら進めばそれぐらいだろう。あそこに到着するまでには最低でもレベルを8ぐらいにまでは上げておきたいが、コボルトの狩りペースが間に合うかどうか、という所だ。スキルのレベル上げも2から3は結構大変なもので、今日中に上がるようには思えない。
「ま、あるもんで勝負するしかねーか」
「私たちなら何とかなるでしょ」
「ま、最強だしな」
「トップだものね」
そう、俺達は最強だ。トップに立つ。それだけを目的に、目標に全力疾走している―――だから他の誰かに負けるという気はしない。何事も正面突破して勝利する。
「うっし、休み終わったし行くか」
食べてログアウトして休み終わったし、これでパフォーマンスも戻る。長く遊ぶ時こそ合間に休憩を入れるのが集中力を持続させるコツだ。という訳でこれで休憩は終わりとして、立ち上がって体を伸ばす。やっぱり感覚がリアルと全く変わらない。だがニーズヘッグの言う事が事実なら、もうちょい自分の動きを最適化できる気がする。
と、立ち上がりつつニーズヘッグが口を開いた。
「うん。あ、この先にIDあるんでしょ? どうせだったら配信でもしてみる?」
ニーズヘッグにしては珍しく面白い事を言う。
「面白いな、それ」
その発想を実現する為にメニューからミーツーブがあるのを確認し、そして配信オプションがあるのかも確認してみる。そこには当然の様に連携オプションも、そして配信の選択肢もあった。これ、普通にプレイしている様子配信できるじゃーん、と笑顔になる。だってこれ、つまりは一番先を走っている自分の姿で他のプレイヤーや抽選の敗北者達を遊んでいるだけで煽れるという事なのだろう?
最高じゃん。
「運営最高かよ……そういやログインしてるから知らねぇけど、Vの者とかも配信してるんだろうかねぇ、これ」
「してるんじゃないかしら。確認できないの?」
「どうだろ……あ、普通に動画見れるじゃん。たぶん単純作業をする時に飽きないようにする為なのかなぁ……」
「まぁ、何でもいいわよ」
せやな、とニーズヘッグの言葉に頷いて今は連携だけを終えて再び狩りと移動に戻る。なんだかんだで単純作業ではある。〈バインド〉投げたら串刺しにして、動けないところを魔法で殺す。この時、ニーズヘッグがいい感じにチェーンソーで臓腑を抉ってくれるので、後1発で死ぬという範囲までHPを調整してくれる。ここら辺はやっぱりダメージ表記をONにしていないと難しい所だろうと思う。
インフェクティッド・コボルト狩りを再開する。まとめて良いなんて油断の仕方はしない。《火魔法》の2は3への修練までに1から2の数倍の討伐数を要求してくるが、これはもっと簡単に纏めて蒸発させられるエネミーで練習するので放置するとして、1対2という状況を絶対に崩さないように注意しながらサクサクと処理して行く。
もう完全に慣れてしまったので事故を起こす要素もなく、ドロップと経験値を回収しながら更に奥へと進んで行く。
更に闇が深くなる。それでも明るい。黒い太陽が浮かんでいるからだ。黒い癖に明るい。その異様さがこの空間を一層不気味にしている。だがこれがゲームだと理解しているからか、この不気味さもまた面白いと思えてしまう。
そうやって景色とシチュエーションを楽しみながらコボルトを処理していれば、レベルはあっさりと上がってしまう。レベルはそれによって6から7へと上がり、更に1時間続けて狩りを続ければレベルは8へと上がる。
1日目でここまでレベルって上がるもんなんだなぁ、とは思うものの、MMOのレベリングとは元来低レベル帯はかなりサクサクに上がるものなのだから、当然なのかもしれない。というかMMO自体がカンストしてからが本番だと100万回言われている。
どのMMOもカンストしてからはメインシナリオが終わり、次のパッチまでの虚無期間が始まる。
逆に言えば運営はカンストしたプレイヤーをどうにかして繋ぎ留めなくてはならない。だからコンテンツというものは、レベルのカンストが終わってからが本番だ。そしてそれにたどり着けないのは中々のストレスだ。だからこそ、レベル上げの辛いMMOは自然と淘汰されている。ただVRMMOはやる事成す事全てが新鮮で新しい。レベル上げの作業ですら楽しいのだから正直、レベリングが多少重くても問題はないレベルだと思う。
そんな事を考えるだけの余裕が少なくとも俺とニーズヘッグの間にはあった。コボルトの狩りも単純にパターン化されればそうなる。後半になるにつれて段々とコボルトの姿が密集するようになるが、1体ずつ釣りだせば何も問題はない。
だからそうやってレベリング込みの1時間が過ぎ去れば、
場所はその終わりへとたどり着く。
空を覆う巨大な闇色のオーロラ。世界を少しずつ侵食する、断絶現象の一部。このエルディアに巣食う病の一つであり、マルージャとの交流を断ったオーロラの一つだ。その闇は深く、完全な黒としてさえも表現できる濃さを保っていた。ここまで来ると息苦しい、とさえ表現できる圧力がオーロラに存在し、
世界の壁として、先行きを阻んでいる。
そう、俺達は誰よりも早く―――この世界の端に到達したのだ。
次回、配信テロ。