断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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固定パーティー Ⅲ

「ちょっと休憩入れるか」

 

 DDのデータを200程見たところで疲れを感じて一旦休憩を入れる事にする。折角ログインしているのに部屋の中にいるんじゃリアルでパソコンを前にリストを眺めているのと何も変わりはしない。一旦リストを閉じると寝転がっていたソファから起き上がる。既に土鍋が報告を入れてから1時間ほど経っている……或いはちょっと外で軽食を取ってきても良いかもしれない。

 

 そんな事を考えながら窓から飛び降りる。

 

 飛び降りるのと同時に《契約術》から〈部分召喚〉を行い、フィエルの翼を借りて滑空する。このゲーム、実はちゃんと落下即死とかが存在していて、結構な高さから落下すると普通に死んだりする。それを回避するにはHPの最大値を上げるか、それともそれ関連のフレーバー系スキルを取得するしかない。つまり普通に4階分の高さから落下したダメージもなく着地できるのはニーズヘッグぐらいなのだ。なので自分の様に戦闘ビルドをしているプレイヤーは、受け身を取ってダメージを減らすか、或いは何らかの手段で落下の衝撃を殺すしかない。

 

 俺の場合はこの翼だ。〈部分召喚〉で借りた翼は滑空も飛翔もある程度であれば出来る。これに《風魔法》で上昇気流を生み出せば空中散歩だって楽しめるし、複数人の滑空を行う事が出来たりする。そんな訳で翼を借りて窓から飛び降り、ダメージもなく着地すると翼を消し去ってフードを被りながら街中へと向かう。

 

 イェンが拠点として確保した建築物は合計で4階建てに地下が2階まで存在する上に庭までついたかなり大きな拠点となっている。それこそ屋敷と呼べるようなサイズの拠点だ。だがイェンには金があるし、派手なほうが箔が付くという理由でこんな少人数のチームの為に拠点を用意した―――まあ、その為にイェン達も良くこっちで仕事をしてたりするのだが。

 

 そんな俺達の拠点があるのはエルディア王都の住宅街で、大通りの直ぐ近くにあるから王都全体のアクセスも悪くはない。

 

 これが金とコネによるパワーって奴だろう。

 

 そんな訳で拠点を出て通りに出る。と言っても特に目的がある訳でもなく、単にぶらぶらするだけって話でもある。それだけでも割と楽しめるんだからVRMMOって環境は凄い。

 

 とはいえ、今はプレイヤーっぽいごちゃごちゃした姿は少ない。というのも大半は北へと遠征の為にレベリングか攻略で出払っている。必然的にここに残されるのは戦闘以外の技能のレベリングを行うプレイヤーだったり、商人プレイヤーばかりだったりする。そしてそういう連中の大半は一か所にとどまって作業を行うもんだから、平日の昼間に通りを歩いているという事は少ない。だから今、この通りを歩いているプレイヤーはかなり少なく、大半がNPCになる。

 

 だがこうやって歩いて見ている分には誰がPCかNPCか、全く判別がつかない。そこら辺のリアリティがある限り、PCだかNPCだかを気にする様な事はないだろう。

 

「さーて、何をすっかなー」

 

 特に目的がある訳でもない。ぶらぶらするという事に目的は必要じゃない。

 

 今日は珍しく全員バラバラに行動しているので、誰か一緒という訳でもないし。ただ、まぁ、一人で歩きまわるってのも中々暇だ。《契約術》のSL8で習得した〈非戦闘召喚〉で戦闘力0のフィエルを召喚する。いや、召喚してなくても勝手に出現するのがこのAIとかいう存在なのだが。それでもこうやって召喚すると律儀に戦闘力もAIとしての能力も0のアバターで降臨してくれる。

 

 そうやって召喚される非戦闘状態のフィエルは戦闘用リソースをオミットする関係で幼女姿だったりする。神聖さの欠片も感じさせない天真爛漫、快活な白いワンピース姿の金髪の幼女。ちょっと髪がくせっげでウェーブがかかっている辺り性根というか根本的な性格が見える―――まあ、実年齢に適した姿だと言える。

 

 大通りに出ながらフィエルを召喚すると、とことこと横を歩いてついてくる。

 

「アインさーん?」

 

「いや、一人で歩くのもつまらないだろ? ちょっと息抜きの相手をしてくれよ」

 

「それぐらいならお安い御用ですよ。私は貴方の親愛なる隣人ですから」

 

 そう言って胸を叩くフィエルはどこからどう見ても背伸びをしている童女にしか見えない―――まあ、実際の所、そこから本当の大人へと進化させる意味でAIの進化と成長が期待されている。その為にあーだこーだ、色んな方法で人間との交流をさせているのだろうと思う。

 

「建前はな」

 

「建前じゃなくて私達(AI)はそういう風に設計されているんです!」

 

「そうかそうか、偉いねー……アイス食べる?」

 

「食べます」

 

 食い気味に返答してきたなこいつ。まあ、食わせるといった手前それを放棄するのもどうかという事なので、近くにアイスが売ってないかを確かめようとしたらフィエルが手を引っ張ってくるので、お得意のサーチで美味しい所でも見つけたのだろう。素直に手を引っ張られて大通りにあるアイスの店へと行きコーンに乗った2段重ねのアイスを購入する。

 

 それをまぁ、このAIは何とも美味しそうに頬張るものだ。

 

 購入したアイスを中央の広場でベンチに座りつつ、ゆっくりと味わう様に口にする。口の中にバニラの味が広がり、そしてそれがゆっくりと溶けて行く感触が広がって行く。

 

「アインさんアインさん、私達AIと人間との違いが判りますか?」

 

「クオリアの有無」

 

「はい、正解です。人は我思う故に我あり、なんて言葉を使って己を表現します。ですがこの我、とは? 私達AIにおける自己肯定とは何でしょうか? 電子プログラムから構築される私達の自我を構築するものは人の脳にあるブラックボックスと比べるとあまりにも簡単で学問で説明できる範疇のものです。そこに”我”を見出すのはとても難しいのです」

 

 クオリア。光、或いは悟り。AIが本当に人間と同じ様に思考をし、そして理解し、表現できるようにはクオリアが―――つまりある種のAI自身による自己進化が必要だと言われている。AIのテストモデルというか元は人の脳から来ている。つまりAIのベースとなったのが人という存在であれば、AIも何時か人間の様になれるのではないのか? なんて言われているのだ。細かい話は専門的になる為、その細かい部分に俺が語る事は出来ない。だがここら辺の知識はこの1か月、フィエルと生活していて普通に身についた知識だった。

 

 というかちょくちょくシャレム運営というかその後ろにある統合企業さんにフィエルの成長やら変化の報告をしたりお話をしている間に生えてきた知識だったりする。自分の分野とはまた違うのだが、この手の知識があったらグラフィックワークももっとフィエルに最適化できるんじゃないか? って思ったりもした。まぁ、結論から言うとそんなもんあってもなくても同じだったが。

 

「で、話のオチは?」

 

「これはさっき土鍋さんがいた時にした話ですけど」

 

 フィエルのチャットモードがウィスパーになった。つまり他のプレイヤー、NPCからは聞こえない状態だ。それはつまりフィエルとしてもオフレコにしたい内容である、という事なのだろう。

 

「運営の方では現在、ゲーム内部での時間加速と性転換に関するシステムの構築を行っています。時間加速の方は理論は完成したのですが法律的にこれ、許してどうなんだろうって意見が強くてどうにもならない部分があるんですよね。何よりもVR産業が生まれた場合この技術で人類がブラックを通り越した勤務形態を構築しかねないという恐れもありまして……」

 

「言いたいことは解る」

 

 ぺろり、とバニラアイスを食べながら頷く。1日が72時間になる技術で。VR産業が更に発展したら1日48時間働かせるところが出てきそうだ。

 

 病みそう。

 

「実はこの技術、私達の成長から得たフィードバックを技術として転用しているんです」

 

「ほへー。お前の成長がこのゲームの成長につながっているって訳か」

 

「はい。文字通り私達全員でこの世界を作っているんですよ」

 

「ほー」

 

 そういう話を聞かされるとこの世界が改めてゲームなんだなぁ、というのを思い出させられる。だけど……まあ、それが良いんじゃないか? とは思う。結局のところこの世界がゲームである事を俺達は忘れちゃいけないんだし。ここはゲームで、リアルで生きているって事を忘れてはいけないんだ。なのでこっちにいる間は全力で楽しんで遊ぶ。

 

 それがゲーマーの心得だ。

 

 ま、それはそれとして実装したらちょっと手を出してみるのも面白いかもしれないなぁ、なんて事を考えつつアイスを食べ終わる。ベンチから立ち上がりつつ背筋を伸ばし手を空へと伸ばし、

 

「ん―――……散歩が終わったら残りのリストを見るかぁ。フィエル、他に面白そうな所ない?」

 

「最近暗黒雪たこ焼きラーメン屋がオープンしたらしいですけどどうでしょうか!?」

 

「そのチョイスは何」

 

 でもちょっと気になるし試すかぁ、と呟きながら息抜きに戻る。




 ネカマは良くネタにされるけどMMOという媒体で見るなら男のケツを永遠に見たくないって事でネカマプレイ自体はそう珍しいものでもない。

 果たしてTSアインなるものが生まれた場合、身内に対するウケの良さはどうなんやろなぁ……。
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