その後大道芸をしているプレイヤーや、新しいバグの発見を行おうとしている一部の芸人プレイヤーの姿を軽く眺めて気分をリフレッシュさせたら、急務であるDDの選出を行う為に拠点に戻る事にする。まだまだリストには大量のPCが面接希望で集っている。正直、DDで誰が一番強いかなんて直接会ってどれぐらい火力を出しているのかを見せて貰わない限りは全く解らないので履歴書だけで判断するのは難しい所だ。
そこらへん、ヒーラーやタンクはビルドで解りやすく変わるからずるいなあ、と思う。一目見て役割が解る。だけどDDは違う。DPSを出す手段は多岐に渡るし、どういうビルドが最も効率よく火力出すかを判断するのは見て比べない限りは難しい。だからまずはリストを見て、その構築を見て、どれだけパッシブとアクティブにスキルを分別しているか判断し、そこから予測DPSの計測値を確認してランク付けする。それを行ってから上位の上澄みから分別しなくちゃならない。
だけど中には異形ビルドですさまじいシナジーを発揮するビルドもある。その事を考えるとただ単純に個人で火力を出せば良い! って訳じゃないのがまた辛い。
つまるところ、俺のフィーリングによる判断の部分が多いのだ、この選考は。だから変なのを引けば俺が固定に迷惑をかけるって事にもなる。なので割と頭を悩ませる問題でもある。ここら辺のチョイスに関しては略剣と土鍋を信頼しているし、アイツらが間違えるとも思ってはいない。
―――だけど、きっとアイツらも俺なら間違えないだろうって信頼してるだろうなぁ。
拠点へと通じる道をゆっくりと歩きながらため息を吐く。信頼されるのは嬉しいのだが、それはそれとして信頼が重くないか? とは思わなくもない。だけど信頼と信用には応えたいと思うのが身内の結束って奴だ。俺も真面目にやらなくちゃいけない。
「うーん、悩ましい」
呟きながら真面目に作業する事を考えてフィエルの召喚を解除する。そのまま見えてきた住宅街、拠点のある一角へと向かい―――拠点の入り口である門の前に立つ姿を見つけた。
拠点の前に立っているのは少女―――というよりは童女の姿だった。歳のほどは先ほどまで召喚されていたロリフィエルと同じぐらいだろうか。幼女をリリースして幼女を召喚! というフレーズが脳内に一瞬で出現するも、それを脳内から追い払う。まぁ、幼女という表現を使うのも相手には失礼だろう。ここはとりあえず、少女という表現をする事にする。
その少女は長い赤髪の少女で、服装は黒いゴシックロリータドレスというかなり凝った服装をしていた。恐らくはアバター装備の類だろう。少し前ならまだしも、今は装備を見た目装備として適応する事が出来る様になっている。その為、装備する為の武具とは別にファッションやアバターに気を遣うプレイヤーも増えてきた。
そういう意味では現実のファッションデザインに精通しているクラフターとか、かなり人気が出ている。ネットを通した画像提示でデザインを依頼できるんだからそりゃあ人気も出るだろう。
門の前に立っていた少女は此方に気づく様に振り返ると、髪と同じ血に濁ったようなの色の瞳を此方に向けてくる。アレ、精神的に何か問題がある訳じゃなくてそういう風にハイライトを消したキャラクリエイトしているな、というのを一瞬で察する。気配から狂気の類を感じないので解る。
本物は土鍋の彼女みたいな気配してるし。ファッションヤンヤンでは俺を騙せないぜ。
「あ、見つけた」
少女は此方を見つけるとにっこりと笑った。フードを被っているがプレイヤーネームの表示をオンにしていれば名前から俺が誰であるかなんてすぐに判明する。そして見つけた、と言う以上は俺が誰だか解り、そして探していたという事だろう。隠している意味もないのでフードを下ろして顔を出しながらも、
「おぉっと、お嬢ちゃん。悪いけど固定の申し込みに関しては文の通りだ。直接会いに来ても困るぜ」
ま、俺を探して会いに来るって事はDDの選考に関してだろう。正直な話、こうやって直接頼まれに来ても困る。この事はフェアに大量の募集者の中から選んでいる最中なのだから、こういうやり方はあまり好ましくはない。とはいえ、子供相手にあまりストレートな表現で諫めるというのも大人げないというものだ。
「あら、レティはこう見えてもちゃんと分別の解る女よ。子供扱いされるのは心外ね」
「残念ながらこのゲームでは元の体形からかけ離れた姿を取る事は出来ない。つまり君は必然的に見た目通りの姿となる訳さ」
そこらへん、システムとして上手くできているとは思うが。しかし童女とでも言うべき年齢の少女が昼間からMMOを、それもVRにダイブしているのは流石にどうかと思う。
「あら、その心配はいらないわよ。別に家が不仲でもなんでもなく、単純にレティには時間があるってだけの話だから」
「んー……?」
今の会話、物凄い違和感が―――あぁ、いや、解った。レティと名乗っている少女を見れば理解できる。悪戯が成功したようで気分が良くなっているし、彼女が言外に伝えようとしている事が。だがマジか? いや、特殊技能だし他に存在していても別に問題はないし。単純にそういうケースだったって事だろう。
「レティも初めて動画を見た時は驚いたわ。
「そりゃあいる所にはいるだろう。こんな所で会う事になるとは思わなかったけど」
まぁ、俺も自覚したのは子供の頃だし。そう思えば目の前の子が若くして技能を持っていることに違和感はない……のか? あぁ、どっちにしろ、やる事は1つだ。
「ほれ、来い。試してやる」
「ふふふ、ありがとうお兄さん」
「はあ」
解っててやってるんだからこの小娘は大物だ。ある意味じゃ俺の若い頃に似ている。成功すると解っていて言葉をかける。求められていると解るリアクションを取る。相手が欲しいものが解るから必然的に誰からも好かれやすい。自分でやる事、出来る事をコントロールしないとそれに振り回されて現ヘルチワワ、元ヘルクイーンみたいな生き物が誕生してしまう。
門を開けて中に入る。後ろから追いかけてくる少女が此方の意を組んでちゃんと門を閉めてくれる。よーし、偉いぞー、と心の中で思えばちょっと不満そうな表情を浮かべられる。どうやらあまり子供扱いされたくないようだ。まぁ、そんなの無視だ無視。閉じていた履歴書のリストを取り出すとフィエルが気をきかせてくれたのか、少女の履歴書が自動的にトップに出てくる。それを片手に掴みながら確認する。
PC名レティシア、スタイルは両手デスサイスで近接シナジーアタッカー、と。レベルは39で所属はなし。固定での活動もしておらず野良パーティーを転々としながら活動してきた、と。
「データ」
「うん?」
「ダメージ計算におけるバフとデバフは区別が変われば合算ではなく乗算での計算でしょう? だからレティは攻撃区別デバフと属性デバフをスキルに乗せて削る事が出来るわよ」
それはパーティー戦闘におけるシナジーを考えると、滅茶苦茶嬉しい要素でもあった。ステバフx属性バフx攻撃種別バフという形でバフが効果を発揮するように、デバフも同じような計算で相手に対して刺さる。バッファーを用意するならデバッファーもまた存在するだけでダメージ係数を一気に伸ばす事が出来るから欲しいと言っちゃ欲しいのだが……この手のビルドってダメージとの両立が難しかったりする。
という事でレティシアを連れて、拠点の裏庭へとやってくる。そこに立っているのはちょっと大きめの木人であり、DPSを数値として確認する為に用意してあるものだった。浮かべていたホロウィンドウを使って肩をトントン、と叩いていれば何をして欲しいのか、言葉にする必要もなくレティシアはインベントリから装備である背丈を超えるデスサイスを引き抜いた。
なんの気負いもなく、しかし同時にどことなく気品を感じさせるように片手でデスサイスを構える少女の姿に、自分は絶対に選ばれるという自信とそれだけの自信に見合う能力を感じさせられる。まぁ、実際こうやって突撃してくる時点で条件はクリアしているんだろうが。
―――これは決まりかもなぁ。
ぽつりと、そんな事を言葉にしない様に胸中で呟く。だが少女は、レティシアはその呟きの気配さえ拾い、構える姿に微笑を浮かべていた。
幼女を生贄に幼女を召喚。その昔、生贄って表現だったんだけど何時の間にかリリースとかアドバンスって上品な表現に代わってましたねえ! 私はいまだに生贄って言ってる。
犬のライバル、現る。