断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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固定パーティー Ⅵ

「アレ、なにやってんだボス」

 

「見て解んないのか? 俺にも解らん」

 

「なるほどなぁ」

 

 土鍋が部屋に入ってきて、その後ろには森壁が一緒についてきている。これでこの部屋に全員が揃った。先に来ていた略剣ともう一人、略剣が選んだタンクが既に席についてシャーリィの入れてくれた茶を飲んでいた。そして土鍋が見ているのはレティシアとニーズヘッグの事だろう。泣いて命乞いをしていたレティシアはニーズヘッグという怪物を前に、今世紀最大の命の危機を感じていた。だが同時に、どこが絶対に安全なのかを理解していた。だからレティシアは逃げたのだ絶対に安全な場所へと。

 

 つまり俺の後ろに。

 

 座っている椅子と背もたれの合間、その隙間に潜り込んで姿を隠そうとしていた。そんな哀れな少女の姿を見て、俺はニーズヘッグを呼び寄せるとお手、おかわり、と犬芸で近くに呼び寄せて遊んでいた。つまり俺という僅かな壁の向こう側にレティシア人生最悪の恐怖が存在している状況を維持して徹底した恐怖時間を演出していた。それを見て土鍋が漸く状況を理解し、腕を組んで天井を見上げ、考える事を放棄した表情を浮かべた。

 

「良し!!! 全員揃ったな!!!!」

 

「おう……あ、ちょっと待って」

 

「ひっ」

 

 後ろに隠れていたレティシアを引きはがして目の前に降ろす。その姿を覗き込む様にニーズヘッグが顔を寄せてくる。ホラー体験にがりがりとレティシアの正気が削れて行く音がするも、

 

「待て……お座り!」

 

「っ! わん!」

 

 言葉に反応して即座に床にニーズヘッグが座り込んだ。その景色をレティシアは目を大きくして見ている。

 

「お手!」

 

 右手が乗って。

 

「おかわり!」

 

 左手へと入れ替えられる。

 

「ぐるぐる!」

 

 その場でぐるぐる回って。

 

「よーしよしよしよし」

 

「うぅぅぅ……わん!」

 

 良くできたぞー、と両手で顔を挟み込む様に手を添えてから頭をわしゃわしゃと撫でると喉を鳴らしながら喜んでいるような声をしている。それを俺の膝の間で見ているレティシアのリアクションは解りやすかった。

 

「うっわ……」

 

 ドン引きである。

 

 俺も引いてる。ここまで完璧にするとは思わないじゃん。それどころかニーズヘッグの方は表情が誇らしげだった。

 

「ふふん? どうかしら? 私達の間に入ってこれるかしら」

 

「え、なに。なにこの人。レティ、この人が違うベクトルで怖くなってきた」

 

「そこの嬢ちゃん。いいか―――これが特殊性癖って奴だ。ちゃんと覚えておけよ」

 

 余計な事を言う土鍋の顔面に迷わず拳を叩き込みに行ってカウンターで拳を貰う。しばらくどたばた殴り合っていると土鍋達の分の茶を運んできたシャーリィがやってきたので殴り合いは一旦解散し、とりあえず8人全員で再びソファに座って集まる。ニーズヘッグショックが完全に抜けきった訳ではないが、それでも茶番を挟んだことでレティシアの精神は持ち直した。

 

 結構酷い事したかもしれないが、持ち直したレティシアはニーズヘッグに苦手意識を持ちながらも対抗意識を抱いているようで、固定から抜ける様な姿はなく、股の間に座る様に自分の場所を確保していた。ニーズヘッグは当然の様に横に距離を詰めて座ってくるので何も問題はない。ちょっと狭いよぅ……。

 

「うーし、これで8人が揃ったな」

 

 梅☆が話を切り出した。その言葉に俺が頷く。

 

「漸く8人だ―――これが俺達の攻略パーティーになる。サブはない。メインだけだ。この8人でこれからこのゲームの最難関コンテンツを攻略する為の仲間にする。ここに新しく来た3人に確認するけど―――いいんだな?」

 

 その言葉に勿論、と最初に答えたのは森壁だった。今の彼の装備はあの頃よりももっと良いものにアップデートされているようで、北方―――つまりは耐寒ベースのヒーラー用の装備にアップデートされていた。しっかりと、あの後解散しても最前線に食らいついていたのが解る。

 

「ジュエルコースト以来、ずっとこうやってこのパーティーに戻ってくる事を、そのチャンスを待っていました。そしてついにその時が来ました。あの時の興奮の続き、最後まで見せてください」

 

 ぺこり、と頭を下げる森壁に軽く拍手を送る。たった7人の拍手だが、それは同時にこのコミュニティに認められたという事の証でもあり、森壁への拍手が終わるのと同時に略剣が連れてきたタンクが立ち上がる。こいつは金属胴の鎧を装着し、両手もガントレットに覆われている。だが所々革がベースに見えており、その背には銀色の熊の毛皮を被っていた。北欧系の神代の戦士をモチーフにしたような恰好な男だが―――こいつは、顔を見たことがある。

 

「大将よ、我の事は覚えてるか?」

 

「アビサルドラゴンの時に頭叩きつぶした奴だろ」

 

「はーっはっはっは! 覚えててくれたか!」

 

 見たのは一瞬、話したのも一瞬。だけどすさまじいインパクトのある奴だったし忘れるわけがない。あの時は本当に世話になった。レオンハルト含めた活躍のおかげであの時は生き延びる事の成功したのだから。

 

「我の名はべルゼ。このパーティーにおけるサブタンクを担当する。無論、やる以上は本気でナンバーワンを取るつもりだ。このゲームにおける最強のサブタンク、最強の火力を保有するタンクとして名を刻む。それが我の目的で目標。その為にも遠慮も躊躇もなしに頼むぜ」

 

 その勇気とどれだけ頼りになるかは既に見せて貰っている。アビサルドラゴン討伐作戦の参加者であるなら疑う必要はない。間違いなく頼りになるタンクだし、モチベーションは見れば解る。歓迎の為に拍手をならせば、次はレティシアが立ち上がった。スカートの端を持ち上げるとさっきまでの狼狽を振り払って、真剣な表情を作った。

 

「初めまして皆さま、レティシアと申します」

 

 スイッチを切り替える様に言葉遣いを変えた。そういう風にも出来るなら最初からやれよなぁ、とは思わなくもないが。彼女から感じる熱量は森壁とべルゼ、二人から得たものだった。最初にパンチを叩き込んだけど、良い方向に流れてくれたみたいだ。間違いなく子供の間にこの手の挫折というか格の違いを経験させてあげないと100%未来で狂うからなぁ。

 

 俺はほんと、直ぐ傍にニーズヘッグがいて良かったと思うよ。おかげで子供のうちに身の程を知れた。

 

「まず最初に謝らせてください。割り込むような、他の人の可能性を奪う横紙破りのやり方で近づいたことを……本当に、申し訳ありません」

 

 そう言ってレティシアはぺこりと頭を下げた。

 

「だけどレティは、私は絶対にその選択を後悔させません。私という選択肢が最適解であったという事実を認めさせます、証明します。私というピースがあって、皆さんというピースがあって完成したんだって事をこれから証明したいと思います。改めて、DD担当のレティシアです。宜しくお願いします」

 

 最後まできちんと言ったレティシアに手を叩いて拍手を送る。うん、最初はどうなるかと思ったが活動に対するスタンスは真面目らしい。躾も終わっているし、それと合わせて何の問題もなく固定活動の方に入れると思う。悪くない。いや、寧ろ良い。

 

 特化ヒーラー、超火力サブタンク、そして耐性破壊DD。この3人を加え、

 

「俺達のチームは完成だ」

 

 その言葉に全員、口を閉じた。だまり、視線を此方へと向けてくる。だから足を組み、手を組み、そして微笑む様に視線を返す。

 

「俺達は最強のチームだ。この8人でてっぺんを取る。ここまで1か月間、到達するまで長かった。だが()()()()()()()()()だ。俺達が8人が揃い、漸く始まる。今のトップが《レジェンズ》? 途中経過ぐらいは良い気分を味わわせておけ」

 

 何せ、

 

「最後に勝つのは俺達《レコードホルダー》だからだ」

 

 だからここから始まる。

 

 ここから始める。

 

 ここで証明する。

 

 ―――World 1st。最強の証明を。

 

 この8人で。




 チーム名はレコードホルダー。つまり記録保持者。

 他の連中全員に対して「記録は俺らのもんやぞw」と名前で煽ってる。
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