断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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北方遠征

 さあ、出撃だ!

 

 ……と言いたいのは事実なのだが、流石に集まったその日に即座に活動できるって訳じゃない。

 

 補充や連絡、そして最前線にいる連中との連絡の取り合いなんてしなくちゃならないし、ツブヤイッターで募集締め切ったよ! ってのもやらなくちゃならなかったりする。その為に必要な時間は約1日。その為、集まったその日に出発する事はなく、全員エルディアに整ったまま翌日の朝出発する為にこまごまとしたあれこれを処理して貰う事にした。

 

 俺は同盟先への連絡と前線の状況を確かめる為に連絡をアレコレ入れる。略剣は新人組を連れてイェンや工房への挨拶を、残った面子は明日に備えて環境に合わせたアイテムの補充や準備などを行う。

 

 こんなことをする為に丸一日かかったりする。そしてそれが終われば漸く出発できる。

 

 そういう訳で翌日朝、俺達は再び拠点の前庭に集まっていた。今度は《レコードホルダー》の8人に加え、イェンとフォウの姿もそこにある。彼らはエルディアでやる事がある為、ここを離れることが出来ない。なので北方の攻略が終わるまでは一旦お別れだ。見送りの為にやってきたイェンは近づいてくると此方の首に手を回して赤いマフラーを付けてくる。

 

「北は寒い、体を冷やさん様にな。こっちの事は心配するな」

 

「心配はしてねぇよ。サンキュな」

 

 大人しくマフラーを首に巻かれてから振り返り、にやにやしている連中と、じーっと見つめてくる

ニーズヘッグを見る。レティシアは……肩をニーズヘッグに掴まれて震えている。弄られキャラが増えたおかげで我がパーティーも芸の幅が増えたなぁ、なんて事を思いながら皆の前に立って杖と魔本を抜く。

 

 ―――戦闘スタイルは杖二刀流から杖&魔本異種二刀流へとシフトした。

 

 その最大の理由は《二刀流》スキルのSL10アビリティにある。このスキル、何が酷いってそれまでは武器2個装備で2本目の2分の1の補正が乗るって内容だったんだ。それがSL10での習得パッシブアビリティの内容が”異なる2種の武器を装備している場合そのままの数値を加算する”というクッソふざけた内容だった。師匠はこの最終効果を無視する形でのビルドだった。だが俺はこれに従う事にした。魔法スキルをマスターした枠に《魔本マスタリー》を追加する事で魔本装備時を強化しつつ、異種武具同時装備でフル補正を受けて行くスタイルにシフトしている。

 

 まあ、少なくとも俺のビルドではそこまで問題にはならない。あるとすればフル装備を用意する時に更にお金に困るという事ぐらいだろうか。俺は武器で戦うタイプではないのでまだマシだ。これが近接組になると武器のバランスとかを考えてアビリティの補正を受けるか否かを相談しなくてはならないので取り得スキルから大きく外れてしまうのだ。

 

 9と10での2分の1という補正の差は物凄く大きい。その為に違う種類の武器を装備するとなるとバランスやパッシブ、攻撃スキルの問題が出てくる。俺みたいな魔法ビルドであれば武器を振るう訳じゃないから問題はそこまで噴出しないが、武器戦闘ビルドはやっぱり地獄を見るある意味罠スキルなのかもしれない。

 

「よーし、全員集まってるな? 北へ行く準備は完了してるか?」

 

「北への移動ルートはエアポートから飛行船に乗って半日で降下地点だっけか」

 

 べルゼの言葉に頷く。現状北への移動はそこそこ時間がかかる陸路、そして早いが金のかかる空路が存在する。とはいえ、王家からの依頼という形で北部の遠征が行われている為本来の10分の1以下の金額で飛行船に乗って最前線近くまで運んでくれるようになっている。その為、今は北へと行く場合は空路がメジャーになっている。

 

 まあ、陸路を通るなら既に攻略されているマップである森、平原、岩場、そして山を超えなきゃいけないんだ。陸路だとマジで数日でかかる距離なんで途中のマップに用事がない限りは空路で行くのが安定する。

 

「確かに空路が最適だけど、俺達は空路で行かないんだけどな」

 

「じゃあ陸路かしら? でも無駄に時間がかかるわよ?」

 

 此方の否定にレティシアが首を傾げる。最前線への移動に陸路を使うのは正直頭がおかしいと言えるもんだろう。だけどレティシアの言葉にも頭を横に振って否定すればべルゼとレティシアが並んで首を傾げる。だが唯一、前一緒に遊んでいた森壁が理解したかのように納得した表情を浮かべる。

 

「あぁ……Aさんから習得したんですね、アインさん」

 

「そそ。《結界術》マスターしたら短距離のを。《土魔法》をマスターしたら地脈マーキングが行えるようになったから長距離のをな。という訳で全員、俺の半径10メートル距離から離れるなよ」

 

 左手で持ち上げる魔本が手を離れる様に僅かに浮かび上がりながら開き、無限に頁をめくり始める。それに合わせて杖を軽く振るってホロウィンドウを出現させ、行き先を指定する。足元に魔法陣を出現させればその上にメンバーが収まるのを確認する。これにて準備は完了。必要詠唱時間は10秒。流石に戦闘状態でもないのに〈詠唱消去〉を使うのは勿体ない。

 

「これって、もしかして―――」

 

 レティシアの声がするが、その言葉が終わる前に魔法が完了する。故に言葉は一旦区切られ、光によってすべてが遮られ、一瞬で景色は一変する。切り替わる様に変更される景色は足元の感触を硬い大地からどことない柔らかさを感じさせるパウダースノーの大地へと変貌する。吹き付ける強力な風と冷気に一瞬で口から吐き出す息は白く染まる。空は紫色に染まりつつある大地で周囲からは人の喧騒が聞こえてくる。

 

「―――テレポ寒ッ! 寒いわ! 寒いわここ!」

 

「〈ヒートプルーフ〉。これで大丈夫だろ」

 

 《火魔法》《光魔法》《風魔法》《時魔法》を混ぜ込んだ作った耐寒魔法を発動させる。単純に温めるだけならもっと少ないコストで良いのだが、《光魔法》で熱量を増幅させ、《火魔法》で熱を維持し、《風魔法》で温めた空気を拡散から保護し、《時魔法》で継続時間を長期化させる。こういう風にスキルでパーツを細かく用意して構築するとコスパが優秀な魔法が作れる。これなら一々短時間で張り直す必要もなくなるのだ。

 

「テレポートの魔法か、凄いな大将」

 

「前Aさんが使ってくれた奴と同じ奴だよね」

 

 森壁の言葉に頷く。

 

「魔法自体を師匠から教えてもらう必要があるからスキルをマスターするだけじゃ習得できない優れもんだぞぉ! ……まあ、そこそこ実力と信用があるならかなり金がかかるけど売ってもらえるらしいけどな」

 

 テレポートは色んなバランスを崩壊させる魔法だから習得に関しては色々と厳しいチェックがあるとか。俺はそこらへん、今までの貢献と師匠の弟子って事でパスしている。他のプレイヤーはどうだろう、覚えるのに結構苦労するんじゃないだろうか? まあ、なんにせよ便利である事を覚えておけばなんも問題はないだろう。

 

「へえ……魔法の売買って確か可能なんだっけな」

 

「魔法はな。武器アビリティ系統は知らん」

 

 作成したモーションやエフェクトデータは渡せるってのは知ってるけど。身内には俺が作ったものを提供したり頼まれたりしてるし。ま、こういう話は後だ、後。今はとにかく到着した事に意識を向けよう。

 

 到着したのは山脈の麓にある簡易拠点だ。

 

 広大な山脈の麓にあるこの拠点は周りに木々が生えており、プレイヤーたちが最後の休息地として作った場所だ。山と木々のおかげで冷たい風が入りづらくなっており、他の場所よりは多少マシに休めるという場所になっている。中央には巨大な焚火が用意されてあってそこで温まっているプレイヤーの姿が多い他、商人プレイヤーたちが集まって前線向けの物資を販売している。休んだり眠る為のロッジハウスも設置されており、最前線で装備のメンテナンスが出来る様なメンテナンス用の施設も設置されている。

 

 ここは最後のエリアを突破する為の場所だ。

 

 現状、プレイヤーたちは数日間この先にあるエリアで足止めをされている。ステージギミックというか、エリアギミックがこの先には存在していてそれが攻略を阻んでいた。その為ここでは情報交換や攻略準備の為に足を止めているプレイヤーが多く、活気づいている。足止めされているからと消沈しているようなプレイヤーはいない。寧ろここからどうやって進めるかという難題に対して楽しんでいる気配がある。

 

 面白いのはここにはNPCが断絶の影響で入ってこれない為、ここにある施設等に関しては全てPCが用意してきたという事にある。

 

 ゲームが開始してから1か月もたてばこういう事をあっさりと構築できるぐらいには技術も能力もついてくる。本当の意味でゲームで自由に遊べる段階に入りつつあるのかもしれない。

 

「とりあえずここが最前線の少し手前。ここの北からは街道が伸びてるんだけどそこからが問題となってるエリアだ。とりあえず俺は他のチムマスに挨拶してくる」

 

「そんじゃ、我はちょい先に偵察に出てくるか」

 

「俺も見てくるかぁ」

 

「なら私はここで何か美味しいものがないか確かめようかしら」

 

「ならレティはにゃあぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

 最前線の買い食いツアーへと向かうニーズヘッグがレティシアの服の襟を掴むとそのまま引きずる様に去って行く。べルゼと梅☆はそのまま前線の偵察へと向かった。残された他の連中はどうするか、と視線を向ければ、

 

「適当にやってるさ」

 

「んじゃ観光でもしてるか」

 

「……ニーズヘッグさんとレティシアさんを一応見ておきますね」

 

「悪い、頼む」

 

 苦笑しながら森壁に軽く頭を下げて、他の皆を見送った。とりあえずこっちはこっちで会わなきゃいけない人たちがいるし、そっちの顔合わせを終わらせてしまおう。そう考えて風から逃れられるロッジを目指した。




 という訳で帝都解放編開幕。

 この1か月でプレイヤーたちもだいぶ能力が温まってきたので簡易拠点を現地で作ったり、物を持ち込んでサクッとビルドする能力が出てきた感じでもある。

 ここにいるプレイヤーで戦闘メインは大体40超えてる人たちばかり。
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