断絶世界のウィザード   作:てんぞー

13 / 135
ゴンドワ封鎖領域 Ⅵ

「……本当に、到着してしまったんですね」

 

 配信の準備を始めようとしたところで、聞き覚えのある声がした。その声に背後に振り返れば、この黒い太陽が照らす闇の明るさの中に正しい光が差し込んだ。闇を割る様に光が差し込んだところに出現するのは、ドレスを纏った翼の姿―――見覚えのある声と姿は、チュートリアルを担当したフィエルのものだった。両手を祈るポーズに、神聖さを演出するような登場だがその表情はどことなく呆れているとも思えた。

 

「フィエルちゃんちーっす!」

 

「えぇ、まさかこうなるとは思いませんでしたとも。本当なら後1日か2日はかかるという予想だったんですが……いえ、別に私はこれで良いのですが。えぇ、私は」

 

「それはつまり納得してない人たちがいるという事ね」

 

「開発かな?」

 

「GMかもしれないわね」

 

「現場スタッフ爆笑してそう」

 

「楽しくなっているのなら素敵な事ね」

 

「何も、素敵じゃないんですが」

 

 フィエルのちょっとだけ力の籠った声に、笑い声を返し、フィエルがはぁ、とため息を吐いて手を下ろした。

 

「いえ、本当に。ここって推奨レベルは10なんですよ? ここにたどり着くまでは11から12を想定して。でもアインさん、未だに8レベルじゃないですか。本当によく戦闘を安定させられますね……」

 

 その言葉にニーズヘッグと共に腕を組んで胸を張る。

 

「まぁ、最強の火力Wizだからね?」

 

「私は無敵最強のニーズヘッグ様よ。がおー」

 

「まるで悪びれないですね……、おかげでアインさんの担当に回されましたよ。私」

 

「ご愁傷様」

 

「ボスの周りはいつも賑やかで楽しいわよ」

 

 そういう事じゃないと思うんだけどなー。まぁ、AIが順調にストレスを増やしているようで何より。このままバグったらおもしろくならないか? いや、その賠償で一生分のお金が吹っ飛びそうなのでやっぱり止めて貰おう。直ぐに思考が脇に逸れてしまうのが自分の悪い癖だなぁ、と軽く呟きながらで、と声を零す。

 

「フィエルちゃんも遊びに来たって訳じゃないよね。いや、そもそもフィエルちゃんって遊びに出られるの?」

 

「え、私ですか?」

 

 フィエルが軽く驚いたような表情で答えた。

 

「私は時折街に出て遊んでますよ、休み時間はAIであろうとも与えられてますから。その時は気づかれないように軽く姿を変えてますけど」

 

「ほえー」

 

 AIも割と人権が認められてるんだなぁ、と思うと面白い話だ。疲れも知らない存在の筈なのに、パラメーターから排除すればすぐに働かせそうなものだがそうじゃないのだろうか?

 

 と、そこでぱぱっとフィエルが手を叩いた。

 

「はい、では説明をさせていただきます」

 

「ロールプレイ風にすると?」

 

「稀人様、よくぞここまで辿り着かれました。貴方様が成すべき事の一助となるべく参りました」

 

「やればできるじゃん!」

 

「やらせない、させないの違いでしょうに! ……と、とりあえずこの封鎖領域に関する説明に入りました。この封鎖状態でやってこないと意味のない事ですからね!」

 

 少しだけキレ気味にフィエルが言葉を叩きつけて、強引に話を持って行く。その間に配信の準備を進めて行く。まずは連携から外部のサイトにアクセスして、ツブヤイッターでこれからシャレムの配信をするよー、と告知しておく。とりあえず枠を取って、カメラを出現させる。お、半透明の配信用カメラが出現した。これで映像が撮られるらしい。あ、設定で視点設定も出来るのか。画面分割……するよりはこのカメラに自由移動させていた方が良い絵が撮れそうだ。カメラアングルはこのお勧めになっているAI設定でいこう。

 

「とりあえず、ここから先に進む事になりますがこの先はインスタンスダンジョンとなっています」

 

「IDだな」

 

 フィエルの言うID、インスタンスダンジョンとは事前に用意されているダンジョンマップはこれまでのエリアやマップの様にオープン状態ではなく、パーティーやレイド単位で管理される瞬時に生成された個別のマップだ。瞬間的に生成されたからインスタンス、役割が終われば消去される。そういうものをインスタンスエリアと呼ぶ。つまりIDはパーティー単位で突入し、突入したパーティー以外からは助けを貰えない専用エリアになっている、という事だ。

 

 IDに突入した後他の人がIDに突入しても、同じエリアにはたどり着かない。たとえエリアの外見が全く一緒であっても、だ。

 

「この封鎖領域の元、原因となるものはこのID内部、一番奥に存在します。そこには当然ボスが存在し、そのボスを討伐する事でその原因に手を伸ばす事が出来ます。その破壊を行う事でアインさんはこの一帯を封鎖領域から解放する事が出来ます」

 

「それが私たちプレイヤーの目的ね」

 

 ニーズヘッグの言葉にフィエルは頷いて。

 

「はい、そうなります。この世界におけるグランドクエスト、或いはメインシナリオというものは進行度が全体で共有されています。無論、超高度のAIで構築されているNPC達は話しかけたら同じ会話をループする訳ではありませんし、頼んだ所でお願いを聞くわけではありません。ですが封鎖領域の解除を進める度に、彼らは個人や国家の思惑としてアクションを取っていきます。そしてそのアクションは必ず、この世界を再び活性化させ、そしてグランドエンドへと目指す道筋となります」

 

「つまりメインを進めたければ皆で頑張って封鎖領域をぶっ壊していけ、って話だよな」

 

 とてもシンプルな話だ。封鎖領域こそがこの世界を今形成している。それを解除すれば行ける場所と、活用できる地域と、そして人々の繋がりが復活する。それによってこの世界は活性化し、この事態を引き起こした何者か、或いは何かに対する抵抗を開始する事が出来るのだ。

 

 つまりプレイヤーたちは救世主としてこの世界に召喚された特殊ユニットなのだ。

 

 この世界を断絶するものを破壊する為にやってきた破壊神とも呼べる。

 

 男の子としてこのシチュエーションは結構盛り上がる。

 

「えぇ、ですので是非とも攻略してもらいたいのは確かなのですが……ここ、推奨13ですよ……?」

 

 フィエルのおずおずとした言葉は間違いなく此方のステータス、スキル、そして装備を見ての事だろう。多分装備が整っていればそこまで苦戦する場所じゃないんだろうなぁ、とは思う。だけど俺達のレベルは8だ。そして装備もほぼ初期装備だ。事前情報? そんなもの勿論存在しない。だけどそれが俺達の諦める理由にはならない。

 

 だから配信の準備を進める中で、ニーズヘッグがフィエルに指をさす。

 

「いい、フィエルちゃん」

 

「はい?」

 

「困難であればある程、私たちは燃えるの。それがチャレンジャーという生き物なのよ」

 

「……そう、ですか」

 

 フィエルの納得がいかない言葉に笑いながら配信の準備を完了させた。だからカメラを片手で掴んで、ニーズヘッグと肩を組んで並びながら上から見下ろすようにカメラをセッティングした。最初のアングルだけはこれでオッケーだ。

 

「結局さ、フィエルちゃん」

 

「はい」

 

「俺達、楽しいからでやってんだよ。楽しいからガチなんだよ」

 

 究極のエンジョイ勢を自称するぜ、俺らは。という訳で配信スイッチ、オン。生配信が開始し、ミーツーブに映像が流れる。お、ちゃんと顔が映ってる。うーん、俺もニーズヘッグも良い感じにイケメンイケガール? で良い感じの絵になっている。皆さん、見てますか。この顔は作りもんじゃなくて自前ですよ。ついでにフィエルも引き寄せておこう。良い絵になる。

 

「あ、ちょ、ちょっと待ってください。私は良いですから! 別に良いですから!」

 

「良いから良いから、全世界配信しようぜ。お、いきなり人入ってきてるな。やっぱり話題沸騰のVRMMOの初日だからどんな動画でもいきなり人が来るか」

 

 まぁ、当然と言えば当然だ。皆興味津々だろう、そりゃ。

 

 という訳で、はい。

 

「ハロー! 全世界の抽選敗北者! 配信のタイトルに釣られたか? それともシャレムの配信なんでもよかったか? 正直Vの者の配信じゃなくてこっちを見ているのはどうかしてるかと思うけどな! そんなお前らに朗報だ。ここに来たお前らは実に運が良い」

 

「そうなの?」

 

「俺達の伝説を目の当たりにできるんだぜ。そりゃそうだろ」

 

「すみません、あの、本当に帰してください。私を動画から……!」

 

 やだよ、面白いじゃん。本気で嫌がってるなら絶対に即座に姿を消すだろうし。そうじゃないって事はセーフラインの範疇という事だ。だったらこの子も取れ高の為に使ってやろうではないか。ふははは、今の俺は軽く無敵状態だぞ。

 

 何せ、テンションが高い。

 

「いいか、諸君。あっちを見ろ。あっちだ」

 

 街道の方を指さし、それから空を指さす。そうだ、ここはどこだ?

 

「封鎖領域だ。俺は今、封鎖領域にいる。どうだ? 凄いだろう? このゲームはどういうゲームだ? そう、封鎖領域をぶっ飛ばしていくゲームだ。俺はアイン、こいつはニーズヘッグ」

 

「がおー」

 

「そしてこいつはチュートリアルと説明担当の被害者」

 

「解ってるならこの扱いをやめてくださいよ! もう! 入口を開きますからね!」

 

 そそくさと抜け出したフィエルはオーロラへと向かうと、そこに手をかざし、それを引き裂く様に手を横に振るった。闇のオーロラに亀裂が走り、その中を通る光の道が出来た。ただ完全な闇の中に生まれた道というよりは扉のようで、ここがIDの入り口になっているように思えた。

 

「では武運を祈っていますよ―――滅茶苦茶ですけど、きっと貴方達なら成し遂げちゃうと思っていますから」

 

 そう言葉を残すと数本の羽を残してフィエルの姿が光と共に消えた。それをニーズヘッグが拾い上げて、軽く掲げている。

 

「さあ、見たか視聴者の皆さん。どうだ? 他の連中はどうしている? 多分クッソつまらないレベリングの最中だろう。もしかして1個先のエリアに進んでる? それとも都市部を探索している?」

 

 まぁ、なんだって良いだろう。それは俺達の仕事じゃない。

 

「ま、そういう暇そうな事は他の連中に任せるさ」

 

 おぉ、どんどん数字が上がって行く。結構凄いスピードで視聴者が増えている。なんかコメントも同時に確認の画面に流れているが、それを今は無視する。質問も受け付けない。俺は配信で食う気も、稼ぐ気もない。

 

 自慢と煽りがしたくてこの配信をしているのだ。

 

 ざまぁみろ。

 

「良いか、覚えろ。俺達がナンバーワンだ。一番最初に封鎖領域を突破して、このシナリオを進めたトップにイカレた奴が俺達だってことを覚えておけ」

 

「楽しみね。今度は苦戦できるかしら」

 

「さてな。乗り込んでからのお楽しみだ」

 

 はっはっは、と笑いながら配信をしたまま、笑い声を響かせてフィエルが開いたポータルの中へと迷う事もなく突入する。一瞬で光が視界を満たす。フィエルの所から飛ばされた時と同じ転移の感覚を覚える。

 

 そして、始まる。いや、()()()。他の誰でもない。運営でもなく、他のプレイヤーでもなく、俺達が最初の、一番槍となって始めるのだ。

 

 この世界を再び一つに繋げる為の戦いが。




 次回からIDで暴れるニグアイン。

 配信? 荒れない理由がないんだよなぁ……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。