なんだかんだで道中は突破した。発作的にヘイト取得合戦や先釣りレースを開催するが、ID攻略自体そう長く続くものでもないので割と早く奥に到達した。初見IDでもどうあがいてもかかる時間は良い所30分か40分ぐらいだろう、その中でも慣れているプレイヤーや高難易度戦闘をこなせるプレイヤーがまとめ狩り前提でマラソンするならそれこそ時間はあまりかからず、半分ほどの時間で突破出来るだろう。即ちここまで全体で20分ぐらいかかっている。
IDの攻略時間としてはかなり早い部類に入るだろうと思っている―――まあ、初見でこのタイムなのだから悪くはないだろう。
そんな俺達の攻略もいよいよ終わりが見えてくる。ダンジョンの終わりまでやってくると槍雨もなくなり、その代わりに遠くにボスのシルエットが見えてくる。最初は何らかの建造物の影でも見えているのかと思ったが、近づけば近づくほどそれが生体的な形をしており、尚且つ僅かに動いているという事が理解出来た。そして更に近づく事で光源が相手の姿を照らせるようになれば、その威容が目に入ってくる。
雪原は奥へと進めば進むほど道が広くなって行く。その代わりに道に凹凸が増え始める。まるで踏んで破壊されたような痕跡が増えるにつれ、周辺には道路の残骸や氷塊の残骸が増える。また遠く、闇の向こう側から聞こえる吠える様な音は……どことなく、聞き覚えはなくても解りやすい鳴き声だった。その音にボスが何であるのかを予感させつつも、到達した未知の終わりで見た姿はまさしく予測の通り。
それは巨大な姿をしている。本来であれば茶色の毛で覆われた姿は今は白と黒のまだら模様に浸食されており、体中から黒い結晶を生やしている。その四つ足は容易に人を踏みつぶす事を可能とする大きさを誇っており、長大な鼻は一巻きで人間を掴む事も出来るだろう―――その巨体からすれば、そのまま鼻で握りつぶしてしまえそう、と思えるほどにパワフルな姿をしている。
そう、それは、
「マンモスかー」
呟きに対して皆、似たような声の色を放っている。暖房の魔法を再使用しながら戦闘フィールドとなる場所を眺める。ぼこぼこになっている元街道の一角、ボス戦用に用意されたフィールドの中央にいるのは巨大なマンモスだ。それも大きさは30メートルという超巨体。これほど大きなサイズのエネミーは今の所、ダンジョン内部で見かけた事はない。ただHPもちゃんと設定されている感じ、普通に討伐対象として認識されているようだ。つまりイベントでもなんでもなく普通のボスだ。
「えぇ……クッソデカいぞこれ……どこから攻撃すりゃあいいんだこんなの……いや、俺キャスだから攻撃箇所には困らんけど」
フィールド手前で停止している俺達を浸食されたマンモスは息荒げに睨んでいる。今にも襲い掛かって来そうな勢いを感じるが、ギリギリフィールド外という事もあって攻撃してきていない状態だ。だがその勢いや気迫は今にも襲い掛からんとするものを感じる。まあ、アビサルドラゴン戦は完全に運営の想定外を感じるから参考にできないが、
「うーん、どこを殴れば良いのかしら。顔とかが通りが良さそうだけど」
「ニグえもんがそう言うのならそうなんだろうな。俺とアインは顔面集中で問題なさそうだが……?」
「レティ達が地獄を見るターンじゃないかしら? いえ、待って。ここに入ってからずっと地獄を見てる気がするわ」
「気のせいだろ! タンクとしてもどうやって攻撃を抑えれば良いのかちょっと解りづらいタイプのモンスターなんだよなあ、これ……」
「マンモスだしなあ……」
略剣とベルセが遠い目でマンモスを眺めている。あの重量からすると肉体全てが凶器だ。重量で潰すも良し、鼻で掴むも良し、突進してきたらそれだけで数百メートルは吹き飛びそうな感じがある。タンクでヘイトを維持しながら一か所に抑えるというのがあの巨体となると相当難しいだろう。正面から立って構え、受け止めるというのはある程度サイズ差が合うから出来る事だ。ここまで体の形状とサイズが違うと難しくなってくる。アビサルドラゴンの場合はまだ両手という概念が存在していて、動きも人間的な部分があったからこそ1人のタンクを前に立たせる、という戦い方が出来たのだ。今回はそれが難しいだろう。
「となると2人同時かこれ?」
「かもな……んじゃ俺は右取る」
「オッケ、こっちは左前脚担当するな」
「とりあえず2人がかりで前脚を抑え込んでみるか」
アビサルん時は乗り遅れたんだよなあ
ここで巨大エネミーを練習しろ、と
練習できる環境じゃないけどー??
あの巨体だし組み付けば楽そうだけどなあ
対策されてるやろ
でも超大型エネミー戦は燃えるんだよなぁ……w
わかるマン!
「ニグ、実際アレに組み付いた所でどう感じる?」
「ん-?」
ここら辺の判断が一番鋭いのはニーズヘッグだろうから、腕を組みながらマンモスの方へと示す。それを受けてニーズヘッグは首を傾げながら軽く唸るが、直ぐに返答してくる。
「そうね……まあ、まず対策はされているように感じるわ。間違いなく振り下ろしてくるし。それとは別になにかありそうだけど、そういうのはボスとレティのが解りそうね」
おめーはどうよ、と視線をレティに向ければ、
「……自分でやらないの?」
「俺の仕事は他人を使う事」
「自分でやれる事なら自分でやれば良いのに」
「それじゃあ成長するのは俺だけなんだよ、お嬢様。ほら、感じた事を口にしてみろ」
その言葉に土鍋が笑顔で頷きながら口を開いた。
「んほおおお―――!!!」
唐突に放たれた土鍋の喘ぎ声は森壁の手によって口の中へと叩き込まれた本によって塞がれた。
「こ、この人子供の教育に悪そうな事を! 一切の躊躇もなく無垢な子供の前で喘ぎ声披露しようとしましたよ!」
「いっけね、全国放送中だったっけ。俺の喘ぎ声が配信されちまう所だったぜ!」
「レティへの配慮はどこにいったの!?」
「そんな事はどうでもいいから、はよ感じた事を口にしろよ」
そんな事と言われたレティシアが頬を膨らませ、再び全国ネット配信で土鍋が喘ぎ声と奇声を上げようとする為森壁とニーズヘッグが協力して土鍋の口の中に雪を詰め込み始めた。鼻と口を雪で堰き止められた土鍋は窒息ダメージで徐々に死に始めていた。ライフバーが少しずつ削れるのを皆で眺めながらレティシアの話に耳を傾ける。
「そうね……なんか外側がちょっと騒がしいわね。なんというか、控えているというか様子見というか……そんな感じがするわ。何かをトリガーに増援が出現するかもしれない様に感じるわね」
良く言えたな……偉いぞ!
頑張ったじゃん!
えらい!
よーしよしよしよし
いいこいいいこ
良く頑張りました
◎
「皆してレティの事馬鹿にしてないかしら!?」
反応が良いからどうしても玩具にしちゃうんだよなぁ……。
それはそれとしてレティシアの言っている事は解る。恐らくこのステージのボスが援軍無しのタイプだとは思えない。組み付いたらそれで終わりというのはあまりにも40帯のボスとしては弱すぎるだろう。恐らくこのボスのコンセプトは巨体を妨害込みでどうやって処理するか、という所にあるのだろう。大規模戦闘とは違う、フルパーティーでの小規模戦闘での話だ。ボスも此方へと集中して攻撃することが出来る。単純に面倒なタイプになるだろう。
「ん-、《土魔法》でアップリフト使えば足場を作れるから、それで上がったり足場にしたりは出来るぞ」
「さっきレティを射出した奴ね」
「組み付くならそれで行けそうだな」
「問題は素直に行くかどうかって話だが……」
略剣の言葉にそうだなぁ、と呟きながら視線をマンモスへと戻す。まあ、一筋縄でいかないのは解るけども。それでも別に死亡したら全ロストのペナルティがあるという訳でもないのだ。だったらワイプ前提で戦闘すればよいのだ。
「何度かリトライする事前提でやっかー」
「おー」
とりあえずこのIDの最終戦を始める事にした。まあ、所詮はただのIDだ。2~3回ワイプしても5回はワイプしないだろうと思っている。調子が良ければ1ワイプで終わりだろうか? なんにせよやらなきゃ何も始まらない。戦闘前のブリーフィングを軽く終えたらバフの準備をし、
ボス攻略に向けて行動を開始した。
どうして! 春になったんじゃないのか!? なんか最近少しずつ寒くなってるよ!? なんでぇ!?
なんでぇ!(古戦場から逃げてトレセンに駆け込む