とりあえず1ワイプして大体マンモスの特性は理解出来た。後は発狂トリガーを引かない様に気を付けながらボスのギミックを処理するだけだ―――いや、発狂ギミックはあるがヘイトフリーに形式が近い事を考えるとギミックボスとは言えないかもしれない。なにはともあれ、こいつを処理しない事には何も始まらないのだ。
「5……4……3……2……1……GO!」
土魔法のメテオの着弾と同時に戦闘を開始。土属性を瞬間的に最大値まで引っ張ったら、火属性魔法を使って火力ループに入る。詠唱が終わる瞬間、そして入る瞬間の僅かな隙間と詠唱破棄スキルによって生まれる無詠唱時間を利用した滑り撃ちで何時も通り動く。キャスターの火力は動いていない時間に直結する為、火力を出す為には極力動かない事、動かされない事が大事だ。何時もの話だがキャスターに動きを要求する連中は全員死んだ方が良い。
だがうちのタンクはそこらへん、ちゃんとわきまえている。なのでしっかりとあちらから動いてくれる。正面からマンモスへ衝突すると、1回目の戦闘で最適化させた動きで相手を制限しに行く。その間にレティシアとニーズヘッグが側面に展開する。1戦目で解った事だが、こいつの側面への攻撃手段は少なく薄い。だから背面に回り込むよりは側面へと回った方が良い。側面へと回り込んだニーズヘッグ達は後ろ足を切りつけて攻撃し、その間に俺と梅☆は顔面目掛けて攻撃をする。ここでニーズヘッグ達と同じ箇所を攻撃しないのは、単純に顔面に攻撃を叩き込んでいるほうが遥かに効率が良いのと、後ろ足と顔面でヘイトを分散させる為だ。
実際、マンモスの動きは鈍く、そして困っている様子がある。簡単な散開図で言うとタンクが真正面、メレーが側面後方、レンジキャスが側面前方、そしてヒーラーが完全に側面を取っている。つまり大きく八方散開になる様にポジションを取っているのだ。これは両側にいるヒーラーが全体をヒールしやすいようにする散開で、両側をそれぞれヒーラーが担当する形になっている。またマンモスが誰をターゲットにしても被害が少なくなる形でもある。
「クッソ、重ッ! 一撃一撃が重いんだよこいつ……!」
「釘付けにするのが今までのボスとは段違いの難しさだな」
「文句言わないで仕事する」
「そんなー」
文句をたらたらと零すタンク共の姿を叱咤しつつ、マンモスが鼻を使った攻撃で薙ぎ払ってくるのを見る。大きく振り上げた鼻で大地を抉り、雪を津波の様に巻き上げてくる。全体軽減とバリアを展開する事で即座に対応しつつ、マンモスが大きく振り返りながら攻撃する姿に、少しずつマンモスのフラストレーションと呼べるものが募っているのを感じた。トリガーを引かなくても拘束期間が長いと発狂するのかもしれない。
「だったら早めの火力を集中させる方が良いのか……? まあ、火力で押し切れる分には押し切る方が早いか……レティ、デバフ頼む」
「了解よ」
足場を素早く作成すると、それにレティシアが飛び乗った。武器を使ってスキルを発動すると斬撃を脚から胴体へと滑らせるように放ち、そのまま体に突き刺した鎌を引きずる様に足場に合わせて顔面まで持って行く。そのまま顔面でデバフを付与する連続攻撃を数発叩き込むと長居する事もなく飛び降りた。迎撃の為に放たれる鼻による一撃を回避して着地すると、マンモスの下を抜けて再び散開位置にまで帰還する。レティシアの活躍により顔面に攻撃が通りやすくなり、相対的に俺と梅☆の火力が向上した。この隙にバフを使って火力を更に高め、火の鳥を生み出して正面に叩きつける。凄まじい勢いで減って行くMPを感覚的に管理しつつ、視線は決してマンモスから外さない。
戦闘開始から2分が経過した。HPが4割程削れたマンモスが後ろ足で立ち上がる様に前足を持ち上げ、体を軽くひねりながら側面へとターゲットを向けた―――その視線の先には土鍋の姿があった。
「ちょっと~タンク達ぃ???」
土鍋の声に梅☆が銃を構えながら片手で鼻をほじり始めた。
「ヒールヘイトやろなあ……」
「非ギミック型の自立思考AIっぽいから回復ウザいって認識できてるんだろ」
「顔がウザいし」
そんな事はない! そんな事はないわ! リアルの顔は凄く【検閲されました】
うわっ
リアルタイムで検閲されたの初めて見たわ
ふぃえる:サーバーこっちを噛んでるからリアルタイムで干渉できるんですよ
ポンコツ有能
「まさかの攻撃に俺もちょっと困惑ぅ―――!!」
土鍋が詠唱を放棄して、スタンピングしてくるマンモスの脚を転がって回避する。そのまま連続で暴れる様に踏みつける動きを走って避け、入れ替わる様にタンクたちがやってくる。だが漸く拘束から解放されたマンモスはそのまま暴れたそうにしている。当然ながら捕まらないように牙を大地に突き立て、ひっくり返す様に持ち上げたそれを、ブルドーザーの様にタンクへと向かって叩きつける。
「あ、コレ踏ん張れない無理!!」
「愚民共大変そうやなあ」
「せやな」
略剣とベルセが纏めて吹っ飛んだ。フィールドの端から反対側へと向かって突進するマンモスがフィールド外周でドリフトするようにブレーキをかけ、牙に突き刺さった岩塊を砲弾の様にヒーラーへと向けて投げる。追撃を行う為にニーズヘッグとレティシアが必死に追いかけてマラソンしているが、吹き飛ばされたタンクに怒りを叩きつける様にマンモスが地ならしをしながら再び突進しだす。略剣とベルセも復帰と同時に射線を被らせないように意識して動いているが、そのせいでマンモスが反対側のフィールドまでフルマラソン突進を連続慣行している。つまりニーズヘッグとレティシアも、それに付き合わされてマラソンしているのだ。
当然、俺と梅☆はマラソンする必要のないジョブなので、脚を止めたまま必死に走りまわるメレーとヒーラーの姿を眺めながらDPSを出していた。
「あー、らくちんらくちん」
「欠伸がでるわ」
「く、クソ! アイツら! なんとかヘイトをあっちに押し付けろ!!」
「良し、突進誘導だ!!」
「あ、こらお前ら!!! キャスターを走らせるな!!! おい!!!」
また身内で殺し合ってる……
一番キレて必死な形相を浮かべてるのニグちゃんなんだよな……
レティちゃんまだ走るのって顔してて草
そして突進で吹き飛ぶタンク共
唯一無事なバリヒラがキレながら戻してるのおもしれー
地獄絵図再び。俺達はどんな状況でも味方を追い込むというカルマからは抜け出せないんだ。
此方へと向かってくるマンモスをショートテレポートで素早く回避して背面に回り込み、そのまま杖を前へと差し出す。そこへマラソン中のニーズヘッグが追いついて飛び乗り、それに合わせてニーズヘッグを上へと押し上げる。
「とーう、すたっ」
すたっ、と表現するにはチェーンソー突き刺しダイブは少々刺激的すぎる音だとは思うが、素早く背の上に乗ったニーズヘッグは暴走していたマンモスの動きを止めるため、背筋にチェーンソーの刃を突き刺しながら頭上へと向かって一気に駆け上がる。雪の闇の中にモーター音を響かせながらエフェクトを撒き散らし、真っ赤に空気を染め上げる。激痛に喘ぐ様に身を捩じらせるマンモスからニーズヘッグが飛び降り、横に着地した所でハイタッチを決める。振り返りバックステップを取ればゆっくりとマンモスが旋回し、息荒げにニーズヘッグを睨んでくる。
だがマンモスの次のアクションよりも、タンクの突進のが早い。タンクが速攻でマンモスの前へと組み付き、動きを制限しに入る。
「暴れ出すと中々厄介だけど壊滅するってレベルじゃないな」
「面倒だけど強くない感じ。発狂トリガーさえ引かなきゃ安定しそうだな」
「必死にHP戻してるヒーラーの事をお忘れなく!!! お忘れなく!!!」
「HoTじゃ足りなくて手動で戻してるの解る!?」
ヒーラーじゃないから解らないなー! と俺らは並んで腕を組み、首を傾げる。それでヒーラー共を軽く挑発してから戦線を再開させる。
マンモス戦の安定はもう見えていた―――後はその動きを適度に制限しつつ、火力で削るだけだ。
解ってしまえばそう難しいボスでもなかった。
当然の様に配信で監視する土鍋の彼女氏。
所でクラス6残留マジ無理じゃね? ボーダー48万49万辛すぎる