うおお―――痛ってぇ―――!
ペインシミュレーターを切ってないのだから当然だ。これを考えたやつは相当イカレている。だけどこれを使っている奴はもっと頭おかしいと思う。ちなみに当然ながら俺とニーズヘッグは使っている。だってそっちの方がリアルだから。まぁ、話はそこじゃない。滅茶苦茶痛い思いをしながら瓦礫に突っ込むと体がまるで動かない。今の1撃でHPを全て持っていかれたからだ。適正レベル以下のキャスタービルドではボスの強撃を受け止める事はガード込みでも無理らしい。つまり即死だ、即死。クソゲーここに極まる? いいや違う、単純に受けてしまった俺が悪い。
その証拠に、ほら。
こっちをまるで心配するそぶりも見せずに、回避を優先する動きをニーズヘッグは作っている。チェーンソーを片手で握り、右肩に担ぎながら左手を大地に着け、獣が瞬発するような姿勢を維持しながら攻撃を回避する。それだけに集中することでグリムビーストの初動を見切り、そこから回避と時間稼ぎに入っているのが解る。相変わらず生まれてくる時代を間違えたというレベルで適応力と戦闘能力が高い。いや、VRMMOで戦闘が出来る様になった時代なんだ。ある意味正しい時代に生まれたのかもしれない。
ただ小学生で父親にジャーマンスープレックスを決めて病院送りにするのはどうかと思う。
煽った俺も十分戦犯だけど。
まぁ、思考を戻そう。こちらが死んでいるから現状、ニーズヘッグはオートで回避して此方のアクション待ちになっている。アイツはこっちを心配するような姿を絶対に見せない。長年の付き合いで心配する必要がないという事を完全に理解しているからだ。正しいぞ、ニーズヘッグ。だからアクセスできるかどうかを確認し―――良し、外部のデッスコードにアクセスできるのを確認した。ついでにニックネームをシャレム仕様にしておこう。
1様『死んだまま観察するからそのまま回避優先でー』
狂犬『おかのした』
省略剣『はぁ~~~~~? 死んだのぉ~~?? だっさぁ~い!』
鍋類『お前の名前程でもない』
梅☆『お、ブーメランかな』
省略剣『キレちまったよ……表に出ろ』
今日も元気に身内で殴り合ってるなぁ! あっちもあっちで結構エンジョイしてるし、心配する必要はなさそうだ。それよりも問題はこっちだ、こっち。即死ワンパン攻撃が来るという事はこっちが一時的にカバー、或いは軽減するという手段を取ることはできないという事でもある。今、ニーズヘッグが全力で回避機動を行う事で戦闘内容が確認できているが、初見の動きが多くて徐々にHPが削られているのが見える。それでも即死しないのは防具の差と、HPの差だろう。ポーション節約しているのも削れている理由かもしれない。
直感的な回避動作を行っているが、事前に行動が解っている訳じゃないので、発生してからの回避はぎりぎりカスらせて回避する、という動作になる。必然的にダメージは積み重なり、敗北へと近づいてゆく。
飛び回り、走り回り、瞬発するニーズヘッグをグリムビーストが追う。距離が一定以上開いた時に大地を蹴って超高速で接近し、突進を繰り出してくる。そしてそのまま正面に捉えたニーズヘッグに連続で斧を振るい、切り刻もうとする。それを越えて横へと潜り込めば薙ぎ払う様に回転の斬撃を繰り出し、距離を開けると咆哮による衝撃波を打ち出す。その性能の一つ一つが高く、そして重い。
ニーズヘッグ、ソロで戦闘をし始めてから約3分。
HPが0になる。
お疲れー、と心の中で言いながら蘇生の選択肢を確認する。蘇生チュートリアルが表示される。このゲームのデスペナルティは非常に軽いものとなっているようだ。死亡時、蘇生アイテムや魔法、スキルによる蘇生はペナルティが付与されるが、それは一定時間の全能力10%の低下らしい。しかし死亡した後チェックポイントからの蘇生の場合はペナルティが付かないようだ。
今回の場合、IDの入り口で蘇生するらしい。装備、経験値のロストは存在せず、死亡によって少しだけ装備の耐久値が削れるだけで済むらしい。
デスペナルティとしてはかなり有情な類だ。MMOの中には経験値をロストしたり、保有しているアイテムをぶちまけたりを当然とするところもある。そういうペナルティがないだけに、割と雑に死ねる感じがある。
いや、待て。これってつまり死ぬ事前提コンテンツの難易度組んでない??
そっかぁ……と思いながら蘇生する。
一瞬の光に包まれると視界は再び景色を取り戻す。そこはガラドアIDの入り口だった。レベル、ステータス、確認しても何も問題なし。装備、確認すると確かに耐久と書かれている項目が僅かに削れているのが見える。あ、初心者装備が耐久5割切ってる。ずっと狩りし続けてからここに来た影響だろう。まぁ、帰り道は真っすぐ帰れば壊れる前に到着かなぁ、なんて事を考える。
と、ニーズヘッグも蘇生して戻ってきた。
その様子はちょっとしょんぼりしているようにも思える。
「負けてしまったわ……」
「ま、初見殺しの性能しているならしゃーないわ。たぶんアレがここの大ボスだし。或いは特殊トリガーボス? かなり強めの設定だからパーティー推奨なんだろうな」
パーティー設定を確認すると、どうやらパーティーの最大参加人数は8人らしい。フルパーティーとハーフパーティーでコンテンツを分けれるのは良いけど、問題は今のメンツが5人だから後3人は追加で戦闘要員募集しなきゃいけない事だな、と先のことを軽く考える。
まぁ、後だ、後。問題はグリムビーストをどうするか、だ。
「たぶん」
「うん?」
「正攻法はMTを前において、DDを側面か背面に配置、遠隔はヒーラーと距離を開けて待機、タンクが正面で攻撃を止めている間に仕留める形かなぁ、ってのはある」
事実、ニーズヘッグはある程度回避する事前提だが、動いてからある程度掠って生存している。つまりタンクの耐久力なら十分耐えきれる攻撃に設定されている。
「推奨13でボスがおそらく15ぐらいだろうし、大ボスならレベル16相当のエネミーかなぁ」
大体、6レベル差だ。ここまでくると結構能力の差的にキツイものがあるが、ようは攻撃に当たらなきゃ良いのだ。そしてその為の時間をニーズヘッグは先ほど稼いでくれた。おかげで十分に観察することに成功した。相手のAIがどういう風に動くかはまだ未知数だが、ゲームというものは攻略できるようにできているのだ。
だったらできないわけがない。
「ま、俺達でも余裕よ、余裕。任せなニグ。頑張るのは主にお前だけど」
サムズアップを向ければしょんぼり顔からきりっとした表情へとニーズヘッグが戻し、頷いた。
「任せて。MPも増えたからバーストタイムも増えたし、いけるわ」
ぶおーん、と口でニーズヘッグが言いながらチェーンソーを掲げた。彼女のチェーンソーも秒間でMPを食う装備だが、最大MPが増えた今、その時間も大幅に伸びている―――装備に付属している能力だと考えると、装備を更新すれば消費MPも増えるのだろうか?
そんな事を考えながらまずは入口に戻されてしまったIDを再び走り出す。
コボルトの再湧きはなかった。どうやら1度倒したエネミーはID内部だと復活しない。わざとボスで負けて、再び最初からマラソンしながら討伐する事はどうやら不可能だったらしい。ちょっと残念だなあ、美味しいのに……なんて事を考えながらももはやコボルトを恐れる必要もないのでさっくり屋根の上に登って迷路を無視して進み、再び広場まで戻ってきた。
こちらを待っていたかのようにグリムビーストの姿があり、両手の斧はそのまま、いつでも戦えるように喉を唸らせて待機している。やはり広場に入らないとこちらの事を感知しない、いや、反応しないのだろう。ここら辺はボスの共通事項なのかもしれない。ウォーリアたちもそうだった。となると戦闘開始のタイミングは此方で決められる。
―――良し、勝てるな。
杖を2本とも抜き出して両手で握り、ニーズヘッグもチェーンソーを抜いて肩に担いだ。
「開幕からバーストしてオッケー、次に来る攻撃は俺が1秒前に指示を飛ばすからそれに応じてリアクション取ってくれ―――何が来るか解れば回避できるだろう?」
「勿論よ。
連続で振るわれる斧、回転斬り、高速突進、その全てがどれが来るのかさえ分かれば回避できると言い切るのだから流石としか言いようがない。頼りになるし、それに甘えるのは男としてのプライドが許さない。
「咆哮と叫んだら即座に遮蔽に身を隠す。オーケイ?」
「おーきーどーきー」
「良し―――10秒カウントで始めるぞー」
「はーい」
気負う必要はない。既に成すべきことは解っているし、咆哮以外で此方へと飛んでくるダメージはない。だからこっちは常にMPを全開で攻撃魔法を連打しているだけで良い。スキル回しもくそも存在しない。楽ちんと言えば楽ちんだ、何せ攻撃コール作業しているだけで充分なのだから。
んじゃ、準備も整った。ポーションもばっちりなので、
「カウント10!」
「さっきは無様を晒したけど、今度はそうもいかないわよ」
「……お前、かなりの負けず嫌いだよな」
無言のサムズアップは全肯定の証明で、残り2秒の所でチェーンソーのエンジンに火が入った。また同時に詠唱を始める。1秒、ニーズヘッグが大地を蹴ってミサイルの様にグリムビーストへと突貫する。
「0!」
衝突、顔面に回転刃を叩き込んだ。同時に斧を握る手に〈ファイアーボルト〉が衝突する。これで手が焼ければよかったのだが、そう単純に焼けてはくれなかった。ならこれはダメージ狙いで顔面を焼き続けるのが得策かなぁ、と直ぐに攻撃箇所を切り替える様に詠唱を続けつつ、
「乱」
コールを行う。
宣告どおり、1秒後にグリムビーストが正面に陣取っていたニーズヘッグへと向かって連続で斧を乱れ振るう。ランダムに見える軌跡はしかし、グリムビーストの腕の稼働範囲と長さで限度がある。そして同時に、ある程度動きをコントロールしないと武器がぶつかってしまう為、本当に完全なランダム斬撃なんてものは不可能だ。故にそこから攻撃の軌跡を予測し、一切正面から動くことなくニーズヘッグは回避する。
それがあのモンスター女になら可能なのだ。
「強撃」
あの女はそれを即座に判断し、反応し、実行できる。その代わりに考える作業が苦手で面倒がる。そういう意味でいつも頭脳労働は俺の仕事だった―――なんて昔のことを思い出すぐらいには余裕がある。乱切りから正面強攻撃が跳んでくるが、それをわずかなスウェーでぎりぎりの回避を行った状態から手首に回転するチェーンソーの刃を噛ませ、盛大に血しぶきを上げさせる。悲鳴を上げながらのけ反るグリムビーストの顔面に追撃の〈ファイアーボルト〉を叩き込み、まだまだMPがある、バースト継続中のニーズヘッグの回転刃が膝を刺した。
衝撃が後ろへと跳躍するように逃げるのを事前動作と、行動パターンから割り出せる。即座に行動に入る前にコールする。
「突進」
「こうすると出来ないでしょ」
グリムビーストが跳躍する前にその姿にニーズヘッグが組み付いた。そのまま後ろへと向かって跳躍する時間の間、角に片足を引っ掛ける状態で一緒に付属するニーズヘッグの両手はチェーンソーをフリーで使用できる。
故にそのまま、顔面に刃を叩き落した。追撃で火の矢を何度も何度もコールをしながらも一切止めることなく連射する。だが圧倒的なバーストを火力を維持するニーズヘッグに火力では及ばない。何らかのシナジーかバーストスキルが欲しい。
「咆哮」
詠唱を切り、即座に転がっている馬車の残骸に滑り込む様に走りながら〈詠唱消去〉で〈バインド〉を放つ―――駄目だ、デバフがかからない。毒系統は解らないが、行動阻害系は通じない様子だ。それだけを確認して馬車の裏に隠れて数秒、轟くような咆哮が空気を震わせ、目の前の馬車の残骸を砕いた。それが馬車に届いたのを見届けてから即座に詠唱に戻り、
「突進から乱」
コールする。
直後、咆哮から隠れたニーズヘッグを狙ってグリムビーストが突進を直線上の障害物を粉砕しながら放った。
「とー」
それを、飛び越えた。
残骸を、そしてその破片を足場に疑似的な2段跳躍し、そのまま背面へと飛び越えた。
「3秒範囲」
3秒後、範囲攻撃のコールを行う。MPが増えすぎたせいで本当に回復の手間もない。〈ファイヤーボルト〉連打するだけの作業なんだが? 逆に言えば完全にニーズヘッグがヘイトを奪っているという事でもあるのだが。
「えいえい」
軽い声で3秒後の範囲を知ったニーズヘッグのチェーンソーが漸くMP切れで停止するも、放たれる回転斬りをしゃがんで回避しながら、片手でマナストーンを砕き割った。即座にMPが補充されるニーズヘッグがバーストタイムを継続することにした。
「もっかい範囲。パターン的にそのあと乱くるよ。20秒後咆哮な」
「良く解るわね」
「ある程度アドリブが入ってるけど大体パターン入ってるからなぁ」
だから攻撃の種別、範囲、威力、速度。それが判明してしまえば対処は簡単だ。これまでの経験から似たような攻撃をどうやって処理してきたのか、というのを取り出せばいいのだから。そして今回に限ってはその手のムーヴに関しては天才的な怪物がいる。
つまり対処は全部ニーズヘッグに任せればよい。
だから負けない。
だからここからは単純明快な作業。
すべての攻撃を適切に処理し、最低限のダメージで殺し続けるだけの作業だ。
じゃあな、グリム君。良い経験値と宝箱になってくれ。
デスペナは重い方が良い? 軽い方が良い? ってのは結構色々とあるけど、個人的には高難易度込みで考えるとデスペナは軽くないと気軽にそういうコンテンツに参加し辛くなるし、死亡でリソース消失するともう戦うのも冒険する事自体が怖くなる……みたいな部分あるし、デスペナは可能な限りデメリットなしで良いんじゃないかなぁ、と思います。
色々と遊んでるMMO参考にしつつ書いてます。かつての遍歴はマビノギ、メイプル、アラド、イカロス、MHF,PSO2、黒い砂漠、FF14、MHW……後まぁ、細かいのも色々と手を出してたかな。今でも現役なのFF14ぐらいっすね……。