エルディア王
今日も今日とて朝からシャレム―――の前にちょっとした運動とかを済ませておく。朝食もお腹いっぱい食べる。今朝はスープにサラダ、ベーコンエッグにトーストにジュースのセット。もちろん、デザートには蜂蜜を混ぜたヨーグルト。シンプルで作る手間がなく、それでいて美味しく食べられる朝食セットだと思っているので自分の中でこの並びは大事にしている。これを食べたら軽い運動の為に軽くジョギングしてくる。
その時間も大体1時間程度で終わらせる。忘れがちだが、VRMMOにダイブしている間は体は一切動いていないのだ。これが高級型のベッド付きタイプだったら全身を電気マッサージなどで寝ていても体を維持してくれるらしいのだが、あいにくとそれはマジで超高級品の富裕層向けの奴だったりするので、願うだけ無駄だ。なのでログインする前はちゃんとある程度の運動をこなしておくこと。それが終われば朝のシャワータイム、そしてログイン前の軽いチェックタイム。公式からの新着情報や身内からのメールを確認する。
「あ、再生数結構伸びてる」
昨晩、寝る前に編集してからアップした動画が軽くバズってる。最速攻略、スーパープレイ、そして期待の新人など好き勝手な感じで纏めブログとかでも転載されている。いや、まぁ、別にそれぐらい良いのだが許可もなく勝手にこういうのを纏めるのは人としてどうかと思う。
「……収益化申請、狙ってみるかなぁ」
この先も動画を作っていく予定だし。チームの宣伝とかにもなるから、ある程度の動画作成は必要なのだ。これでスポンサーとかついてくれれば良し、という感じだ。まぁ、そう簡単に誰か乗っかってくるとは思えないけど、それでも対抗チームとか触発されたプレイヤーが増えてくれるといいなぁ、と思っている部分はある。まぁ、暇なときに収益化に関しては調べるとして、時間を確認すればそろそろ合流の時間になる。
本日の冒険を再開する為にも早速ログインする。
「ん―――空が青い」
宿の部屋から窓の外を眺めれば、青く澄み渡った綺麗な空が見える。だがその遠くでは黒いオーロラが今日も美しく景色を濁している。今日もID突破するかぁー! と、言いたいところだが流石に昨日の今日で無理がある。今日はスキルのレベリングを行いながらガラドアIDを周回して、レベリングを行いたいなぁ、というのが本音だ。その前に装備品のメンテナンスとかでいったん街に戻らなくてはならない。新しいスキルの習得もある。そればかりは一度ダリルシュタットに戻らないとならない。
「うっし、今日も最強のWiz目指して頑張るか」
体を軽く伸ばしながら借りていた部屋を後にする。町長が取ってくれたガラドアの宿の一等室なのだが、見栄えは良いのだがログアウトしているから活用できてないのはちょっともったいないなぁ、とは思ってしまう。
時間があればゆっくりと観光とか楽しむのだが……とちょっとだけ全てが終わった後のプランを頭に浮かべつつ宿のロビーに出ると、ドーナッツをほおばっているニーズヘッグの姿を見つけた。片手をあげて挨拶する。
「悪い、待たせたか」
「ちょっと早めにログインしてただけだから大丈夫よ。はい、これ」
そう言って食いかけのドーナッツをニーズヘッグが差し出してくるので、そのままそれに噛みついて一口だけ食べてみる。シンプルな揚げドーナッツだ。特に砂糖とか何かしらかかっている訳ではないが、
「素朴な味だけど……美味しいな」
「うん。ミセスドーナッツのマシマシ感も悪くはないけど、こういうのも好きだわ。実は貰ったの」
そう言って視線を宿のカウンターにいる人へと向けると、笑顔で頭を下げてくる。餌付け、本当にすみませんね、と此方も軽く頭を下げる。申し訳なさが滅茶苦茶ある。いや、相手からしたら恩人なんだろうが、そこらへん本当に全く考えずにヒャッハー! 楽しいぃ―――! うぴゃあ―――! ……な精神で突っ込んでいたんだ。
「この大型犬め」
「わうー?」
「改善する気もねぇしよぉ」
まぁ、そういう性格だってのは前々から知ってた事だし諦めるとする。それはそれとして、本日はいったんダリルシュタットへの帰還と、これからの為に色々と本格的な準備をする為の時間が欲しい。確か町長が特別なプレゼントをすると言っていたからそれを待っているのだが―――その間にちょっくら、戦利品のチェックをしてしまおう。
つまりはクリア時の装備確認だ。
クリアした時に取得したのは《ガラドア・キャスター・チュニック》と《ガラドア・キャスター・グローブ》だ。つまり胴装備と手装備だ。早速装備してみればステータスが大幅に上昇する。どちらもキャスター用装備なのでINTが伸び、そして防御力とHPが伸びた。これで初心者装備からだいぶ卒業出来てきた。
チュニックの方は黒をベースとしたシャツに、その上から数枚の帯の様なものが各所に巻きつけられており、どことなく神秘的な感じの服装になっている。半袖のチュニックに合わせてか、グローブの方も手首までのタイプの黒いものだった。うん、今まで使っていた物よりも遥かに優秀だし、店売りの品よりも強い。こいつだけでレベル16、ぎりぎり18ぐらいまでは使い続けられるんじゃないだろうか?
いや、グリムビーストの一件を考えたら火力が足りなくなる可能性あるし、こまめに更新した方が良いかもしれない。
「あ、そうだった。アレも装備しておくか」
メニューウィンドウを操作し、称号メニューに進み、そこから〈夜明けの先駆け〉の称号を装備する。これで名前と称号の表示設定を行っているプレイヤーは嫌でも俺のことを見て、最強のWizだってことに気が付いてしまうだろう。はー、優秀なのって辛いなぁー!
「また悪い顔してる」
「してない」
「そうね、何時も通りの悪い顔だわ」
「今さり気無くディスらなかった?」
「そんな事ないわよ」
ドーナッツを幸せそうに頬張る大型犬の姿に軽く溜息を吐いてやれやれと呟きロビーのソファ、ニーズヘッグの対面側に座り込む。
「次に取得するスキルはどうしたもんかなぁ。別の属性か、《瞑想》か、それとも新しいスキルを発掘してみるか……そうだよなぁ、チュートリアルセット以外にも取得できるスキルは存在するんだよなぁ……」
「私はもう決めてあるけどね」
「え、そうなのか?」
「うん。《機工技》って言うんだけど、機械に関連する武器を強化したり運用する為のスキルよ。初期に《両手剣》とどっち取得するか悩んだのだけれど、突進技が優秀だったからそっちにしたわ」
「バフ関係取りに行くことにしたか……うーん」
バフ、デバフ。効率よくダメージを通すのなら必須なんだよなぁ、それ回りが。シナジー合わせとバーストタイムの事を考えると複数のバフを味方で共有して発動させて、発生した相乗バフ効果で一気に火力を叩き込むのが強いんだ。強化魔法みたいなスキルは存在しなかったが、その手のバフ関連魔法スキルは絶対に存在すると思う。
「いやはや、お待たせしました稀人様方! そしておはようございます!」
「おはよう、町長。昨晩は世話になったな」
「いやはや、此方こそお助けいただいたのですから何よりですとも。ささ、それよりも此方へとどうぞ。アイン様とニーズヘッグ様への私、私たちからの贈り物があります故な! がっはっはっは!」
相も変わらずテンションの高いおっさん、町長がやってきた。先ほどまでは静かだった朝だったが一気に騒がしくなったような気もする。まぁ、こういう騒がしさは嫌いじゃないからまったく問題ないのだが。
ともあれ、町長のテンションが物凄く高いので、さっさとイベントを経てダリルシュタットに戻ることにする。町長に従って宿の外に出ると、町長が此方に近づき、何かを手渡ししてくる。似たようなものをニーズヘッグも受け取っており、それを持ち上げて確認してみる。
手の中にあるそれは、
「……笛?」
「えぇ、ちょっとした特別な笛です。というより我が牧場と繋がっている物でして……とりあえずは吹いてみてくだされ! それで登録も終わりますから」
「うーん……じゃあ」
ニーズヘッグと顔を見合わせてから笛に息を吹き込むと、綺麗な草の葉を撫でる風の様な音が笛から僅かに響く。そして直後、直ぐ地面に魔法陣が出現し、そこから2色の影が飛び出した。
片や黒、片や白。
「えぇ、稀人様方はこの後も戦い続けられるでしょうし、遠くへと向かうでしょう。でしたらやはり、重要なのは足、信頼のできる移動手段でしょうからね!」
それは黒馬と白馬の2頭だった。黒が此方の前に、そして白がニーズヘッグの前に止まった。理性的な、知性を見せる瞳を持つ2頭は俺達を覗き込むと、認める様に頭を下げてきた。その姿に手を伸ばし、軽く触れてみる。
「おぉ……すげぇな……」
「はは、どうでしょう、彼らは? ウチで若く、一番優秀な2頭ですよ。是非ともこれからの旅にご活用してくださいね。あぁ、送還する時は同じように笛を吹いてください。その間は此方で預かっているので」
それは立派な馬だった。馬具も用意されて騎乗に適した2頭の馬。
それが報酬―――いや、感謝の形としてイベントでもなく、救ってくれた気持ちとして送られてきた。
圧倒される程のサプライズに言葉をなくしながらも、笑い声を零す。
ただゲームだから、というだけじゃなくて。もうちょっと真面目に世界を救ってみようか。そう考えてしまう程度には嬉しかった。
という訳でどこでも呼び出せる移動手段を獲得したアインとニグ。馬だけじゃなくて魔導バイク、飛空艇、他にも乗れる生物もあるよ。購入したり捕獲したりでゲットしよう。