断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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エルディア王 Ⅱ

 黒馬は俺が、白馬はニーズヘッグが貰う事になった。名前の方は既に元馬主である町長さんによってつけられており、黒馬の方がノルト、白馬の方がセクエスという名前だそうだ。兄弟馬であり、牧場の中でもとびっきり優秀な馬だったが、この度命を救ってくれた俺達にはぜひ使ってこの広い世界を救うのに役立てて欲しいという事だった。こそばゆい恥ずかしさはあるが嬉しい話なので、受け取ってそのまま乗って旅立つことにした。乗馬自体は試される大地にオフ会で向かったときに経験したので問題なく騎乗できるし。

 

 早速、ダリルシュタットへとノルトに乗って移動してみた。

 

「おぉ、すっげぇ安定する」

 

 手綱を握りながらノルトの背の上、恐ろしいぐらいに清らかに進んで行くノルトの挙動にびっくりする。なんというか、乗りやすさがまるで違う。ノルト自身も当然だ、と言わんばかりの視線を此方に向けていた。まだまだ速度は全然出ていない競歩程度のペースだが、それでも徒歩じゃない分かなり進みは早い。ニーズヘッグ? あいつは確認するまでもなくそこらへん、肉体でどうこうできる範囲はほぼ完ぺきなので見る必要すらない。

 

「このペースなら軽く速度出せば1時間以内にはダリルシュタットには到着できそうだな」

 

「ぶるるっ」

 

 1時間程度で良いのか? なんて視線をノルトは向けてきているが、そんな焦って行ってもつまらないし。適度に景色を楽しみながら進めばよいと思っている。それにほら、馬に乗って旅をするという経験もこれはこれで得難いものだ。だったら今は楽しめるだけ楽しむのが良いだろう。それはそれとして、そろそろログインして表示されたウィンドウの処理をしておこう。

 

「えーと、課金のススメか」

 

 アバター装備の販売とペットのカタログだ。アバター装備は純粋に見た目を変えるだけの装備。今着ている防具等の姿を上から上書きする形でもいいし、そのまま装備する形でもオッケーらしい。これによってファッション幅を広げる事が出来るとのこと。戦場でもファッションを追求したい人や、見た目にこだわりたい人用だろう。

 

 まぁ、俺も俺で結構見た目にはこだわっているが。それでもアバター装備、かなり見た目は良いが、数が少ない。今これを装備したりしたら、たぶん同じようなアバター装備している人見かけるだろうなぁ、とは思う。まぁ、これはいいや。

 

 ペットは純粋にペット。餌を与える必要はあるけど、一緒に旅をしてくれる癒し枠。戦力にはならないし、成長もしない。でも戦闘を除けば常に一緒に居てくれる存在とのこと。ぺットの種類も基本的な犬、猫、鳥の3種類だけが今は販売中だが、他のペットもちゃんとこのゲーム内で獲得出来たりするみたいだ。ドラゴンのペットとかニーズヘッグ欲しがりそうだな、アイツ。

 

 これもパス。今の所、特に課金したいものはない。

 

「ログボは……《エンチャントパウダーG5》? へー、《エンチャント》に使うのか」

 

 《エンチャント》はどうやら生産スキルらしい。装備に対して行う事の出来るスキルであり、エンチャント行為を行う事で様々な効果を装備に付与する事が出来る。この時、エンチャント行為に対して必要とするものがあり、1つはこの《エンチャントパウダー》であり、G1からG5までの5種類が存在する模様。Gの段階によってエンチャントの付与率が変動する模様。そして2つ目が消費される素材。これが装備に対して与える効果の元となるらしい。

 

 このG5は1番効果が出る奴らしい。装備を特化させるためにカスタマイズさせることを考えるときっと、湯水のように消費する奴だ、と他のゲームの嫌な思い出がよみがえる。成功率90%、オプション1抜け、50パリン、効果不安定、装備破壊……うっ、頭が―――。

 

「忘れろ忘れろ。沼った時のことは忘れるんだ……!」

 

 いろんなゲームやってきたけど、最強最高装備を狙ってエンチャントとかを目指すと平気な顔をして素材を数百とか溶かすんだよなぁ。アレ、マジで心臓に悪い。

 

「ログボ関係はまぁ、これぐらいか」

 

 と、ログボを確認し終えた所で街道の先の方に、エネミーの姿が見えてきた。見慣れたコボルト達の姿だったが、未だに魔晶石を体から生やした姿はインフェクティッド個体のものだった。その姿を前に、ノルトの脚を止めさせることもなく前進させ続けながら、

 

「〈ファイアーボルト〉……お、詠唱できるか」

 

 詠唱した。どうやら騎乗中の詠唱行動は詠唱キャンセルには入らないらしい。つまり、馬に乗っている間は移動しながら魔法を使う事が出来るという事だ。これは非常に強い。だってこの馬、非常に賢いから手綱を握らなくても勝手に調整してくれるんだもん。これは馬上戦闘が割と楽にできるかもしれない。

 

 そう思いながら〈ファイアーボルト〉を命中させ、減速する事のないノルトが前足でインフェクティッドを蹴り飛ばした。魔法と突進のコンビネーションで吹き飛びながらコボルトは消滅し、経験値とドロップとなって消えた。一旦ノルトの脚を止めながら消え去って行くコボルトの死骸を眺める。横にやってきたニーズヘッグもチェーンソーを抜きながら片手で手綱を握り、さっきまで生きていたはずのコボルトを見た。

 

「……これ、行けるのでは?」

 

「騎兵突撃、やっちゃう?」

 

「やっちゃうかぁ~」

 

 やる事になった。やってしまう。コレ絶対楽しいでしょ。

 

 思いついたからには実行せざるを得なかった。ノルトもセクエスも割と乗り気だったのが悪い。魔法詠唱を開始し、ヒャッハーと叫びながら街道周辺のコボルトを求めて一気に加速する。今度は《時魔法》のレベリングを求めて〈スロウ〉を連射して行く。無論、馬の速度についてこれないので一方的にコボルトが魔法を喰らい、

 

 その後ろからニーズヘッグ&セクエスの突撃、後ろからチェーンソー! が襲い掛かってくる。突進されて打ち上げられたと思ったらチェーンソーが突き刺さるとかいう地獄の様な連携コンボに逃げる事も出来ず、一瞬でコボルトが蒸発して行く。そのあまりの楽しさにちょっとペースを上げ、コボルトの数を増やす。だが〈スロウ〉が入ると確定で追いつかないのもあり、一方的にコボルトが空を飛び始める。

 

「ヒャッハァ―――! コボルトは抹殺だぁ!」

 

「今宵の龍神丸は血に飢えておるぞー!」

 

 爆笑しながらチャージして吹き飛ばし、殺してゆく。あらゆる意味で快適だった。常に移動しながら詠唱も攻撃も次への移行も同時にできるので、何もかも理不尽レベルで快適だった。コボルト達はダメージを与えるどころか防御する事すらも許されずに、ボーリングピンの様に片っ端から薙ぎ倒されてゆく。ボス戦の影響で上がらなかった《時魔法》君だったが、これは非常に良いレベリングとして機能してくれる。

 

 〈スロウ〉をひたすら見えるコボルト相手に連射して後ろからチャージさせる。このループだけでコボルト達が容易く死亡して行き、ついに《時魔法》のレベルが上がる。

 

 《時魔法》のレベルは2から3へ。習得魔法は〈ディスペル〉、割とよく見るおなじみの魔法。その効果もシンプルに指定した相手の強化効果を打ち消す事。どんなゲームでも大体見る効果だが、これはこれで割と凶悪な攻撃をしてくる敵の弱体化で必須な物だったりする。いつになったらヘイスト系統のおなじみ加速魔法は来るんだろうなぁ、と実はちょっと楽しみにしている魔法系統だったりする。

 

「む、コボルトが居なくなったか」

 

「遊びながらだったけど、結構早く戻って来ちゃったわね」

 

 コボルトの姿が消えて、ラージビートルたちの姿が見え始める。街道の姿に変化は全くないので、オーロラが消えた事で明確な境目が解らなくなっていた。前は見えていた黒い草とか全部消え去っているし、おそらくは断絶の除去によって本来の姿へと戻っているのだろう。

 

 そんな事を考えながらノルトがラージビートルを踏み抜いて潰した。

 

 完全な即死だった。

 

 馬、強い。

 

 そりゃあ騎兵突撃なんて戦術も出てくるわけだ。おかげでここまでの道のりが楽しいと快適の二言に尽きてしまった。しかもここでラージビートルを踏みつぶしてオマケの経験値まで貰えるのだ。滅茶苦茶楽しいではないか、これ。

 

「あ、見つけぎゃああああ―――!?」

 

 とか思いながらよそ見してたら前方から走ってきたプレイヤーを轢き飛ばしてしまった。鎧をまとったプレイヤーの姿がノルトの渾身の一撃によりを空を舞い―――、

 

「とーう」

 

 跳ね上がったセクエスの背中から跳び上がったニーズヘッグがチェーンソーで姿を両断し、回転してからセクエスの背に着地した。そのまま2人でしばらく無言のままラージビートルを踏みつぶしながら街道を進んだが、

 

 ―――もしや我ら今呼吸するようにPKしたのでは……?

 

「まぁ、ええか。PKしても他のプレイヤーに恨まれること以外デメリットないし」

 

「有象無象の1人減った所で誰も気にしないわよ」

 

 それもそうだ。じゃあ次にこっちに向かってきたやつも轢くか。そんな事を考えながらも、ダリルシュタットの遠い城壁は段々と近づいてくるのが見えてきていた。




 馬は急に止まれないもんね。死ぬのは前に出たのが悪い。
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