断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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エルディア王 Ⅲ

「おー、戻ってきた戻ってきた。1日ぶりなのに長い間離れてた気分だな」

 

「そうね、割と濃密な時間だったものね」

 

 ノルト達の速度を落としながらダリルシュタットの門が見える所までやってきた。ここまでくると完全に街の周辺に入るので速度を落として入りやすくするのだが、なんか、門の周りの地形がおかしい。地形というか、門の周りの大地が抉れてたり、折れた剣が大地に突き刺さってたり、砕けた防具が散乱していたりでまるで戦場の跡の様になっていた。誰か暴れたんやろなぁ、と思う。なんでやろなぁ、と思う。

 

 俺は悪くないよ。

 

 絶対に俺は悪くないよー。

 

 ともあれ、ここで何があったのかは完全に忘れるというか頭の外側へとぶん投げるとして、結末だけは聞いておこうと思って門まで近づく。そこにいた門番がおぉ、と声を上げながら表情を輝かせている。興味本位で軽くその強さを確認すれば、当然の様にそのネームは赤色だった。そう言えば聞いたことがあるが、門番という職業は要所を守る為の職業だから比較的に実力の高いエリートが選抜されることがある、という話だったっけ。

 

 まぁ、世界は滅ぶ瀬戸際なのだからそりゃあ強い奴が防衛に当たらされるか、と納得する。

 

「良くぞお帰りになりました稀人様。まずは感謝を、ありがとうございます。稀人様のおかげで我らは漸く希望を掴む事が出来る様になりました」

 

「お、おぉぅ」

 

 ガラドアでもそうだったが、ここまで感謝されるもんなのか……ゲームしてるだけなのになぁ、と思っていると横ではニーズヘッグが胸を張っていた。滅茶苦茶偉そうというか誇らしげだった。いや、まぁ、滅亡一歩手前だった状態から解放されたのだ、そりゃあ嬉しいか。

 

「ガラドア周辺には広大な穀物地帯が広がっているんです。世界断絶現象によって隔離される前に啓示によって食料の備蓄と農園の準備は終わらせていたのですが、やはり周辺で1番大きな穀物地帯と比べますと……」

 

「あぁ、成程」

 

 牧場があると聞いていたが、食料の供給も行っていたらしい。そう言えばこのゲーム、食事が必須だしそう言う意味ではかなり重要な場所だったのだろう、アレ。中世の城壁あるタイプの都市は都市の周りに畑とかあった感じだが、ここではガラドアが首都王都の食糧を支えていたのかもしれない。今更ながら、屋台とか店で遠慮なく食事ができたのってプレイヤーたちの降臨に備蓄の放出をしていたんじゃないだろうか……?

 

 こわー。

 

 最後の希望に賭けてた、って奴だろうか。それとも俺の考えすぎか。或いはそこまで世界観が作り込まれて―――いや、もう既にこの運営の変態っぷりは理解している。たぶんガチだ。ガチでそういう思考や設定、世界観を構築している。多分俺達が認知していないだけで、この世界は俺達がログインするずっと前から稼働していて、世界が運営されていたのだ。プレイヤーたちが遊ぶためのワールドを自然に積み重ねで構築する為に。

 

 どれだけ金がかかってるのやら……。

 

 まぁ、プレイヤーからの意見は面白い、楽しい、全力で遊びつくすという事に尽きるが。

 

「まぁ、此方も此方で目的があっての事だから」

 

「いえ、だからこそ我々は感謝しなければならないのです―――と、あまりここで言葉を重ねるのも良くないでしょう」

 

 門の向こう側を見ると、人が集まり始めていた。NPCだけではなく、個性的な格好やちぐはぐな格好をしてるプレイヤーたちの姿もそこには散見される。どうやら噂の開放者を確認する為に集まっているらしい。これ以上ここに留まったらすさまじい人ごみになってしまいそうだ。だが門番もそれを理解していて、

 

「城壁内部から案内します。此方へとどうぞ。つきましては―――」

 

 城壁の内側に入り込める扉へと向かいながら門番は、ゆっくりと次の言葉を口にする。

 

「―――我らが王、その代理たるお方が是非、感謝の言葉を送りたいと。そう申されております。是非、王城まで足を運んでください。無論、強制ではありませんが」

 

 腕を組み、空を見上げ、首を傾げ、視線を戻した。

 

「こんなん断れる訳ないやん」

 

「ははは……」

 

 強制イベントが入った。

 

 ノルト達はいったん笛で牧場に戻すことになりそうだった。

 

 

 

 

 当然ながらエルディア王国、つまり王様が存在する国家だ。王というトップが立ち、その下に支える民や家臣があって成立するタイプの国家だ。この国家形態が今現在の日本で見られる政治システムと比べて劣るのか? と聞かれるとうーん、と首をひねってしまう。確かに王政というのはトップが腐っていたり無能だと非常に困るタイプのシステムだ。だけど逆に考えてみよう。

 

 トップが有能なら問題なくね?

 

 民主制に移行する必要なくね?

 

 まぁ、そういう事になる。そしてエルディアは美しく栄えている。つまり今の王政には何も問題はないという事を証明している。

 

 つまりこの国のトップの人は有能であり、善性の人物だ。それは門番の人の優しさや礼儀正しさを見ればすぐにわかるだろう。だから王に会うという事自体特に不安に思う事はない。ただ単純に小市民として、王とかそういうランクの人物に会う事となると胃の痛みを感じるという事だけだ。

 

 皆はないだろうか? 先生に放課後、教員室で会う事になる時特に悪い事でもないのに妙にお腹の調子が悪くなってトイレに行きたくなる時。

 

 気分としてはああいう感じだ。

 

 なので今日も配信を開始する。根本的に調子が悪くなりそうなときは自分のフィールドに持ち込んでおくのが一番精神的に良い。そういう訳でツブヤイッターで告知し、そのままミーツーブで配信枠を取って配信する。

 

「ヴぇ、フォロワー増えてる」

 

「おめでとう?」

 

「ありがとう?」

 

 喜んでいいかどうかは微妙だけど。ともあれ、配信を開始すると同時にコメントを打ち込む。

 

アイン『現在エルディア王と謁見する所だけど、諸君らじゃ永遠に目の当たりにできないだろうし配信枠取ってあげたよ』

 

コメント『わこつ』

コメント『相変わらずの煽り』

コメント『早く炎上してくれ頼む』

コメント『わこ』

コメント『死んでくれ』

コメント『パーティー募集マダー?』

 

「おーおー、ヘイト高いなぁ」

 

「煽るの止めればいいのに……」

 

 そこはほら、エンターテイナーとして維持しなきゃいけない所だから。というか売れる為のキャラづくりって難しいんだぞ。他の配信者と被らないようにしなきゃいけないし、地味な奴だと見向きされないし。常に何らかのアクションが求められるからキャラを立てないと忘れられてしまうんだぞ。まぁ、その点俺はキャラ立ってるし、オンリーワンと言える要素を持ち出して配信しているので、嫌でも見なきゃならない部分が多い。

 

アイン『じゃ、王城に入ったら反応できなくなるけど配信はそのままにしておくから』

 

 既に城壁の中の回廊を抜けて、市街地を回避して王城へと向かっている。城壁内部にも多数の兵士や戦士達、騎士の様な姿があり、此方を見ると笑顔で手を振ったり、頭を下げてくる。その1つ1つのモラリティというか、意識の高さが見える。こんな状況もで自棄になっているような奴はなかった。そして1人1人のレベルが高い。少なくとも今強さを確認するが、どれもレベルがレッド帯にある。今は戦っても勝てそうにない奴らが多すぎる。

 

 だけどそれだけ強くても、封鎖領域に入る事は出来ない。

 

 その為、プレイヤーの力なしでは彼らは勝てない。

 

 そうやってエルディア兵に見送られながら城壁を抜けると、市街地の裏路地側に出る。そこからしばし歩けばこの都市で一番大きな建造物であるエルディア王城へと到達する。だが無用な混乱や注目を回避する為にも正面の大門から入るのではなく、関係者用の小門から入ることになり、横からこっそりと門番に見送られながら入る。

 

 王城の敷地内に入ると、今度は別の人が案内にやってくる。こちらは門番の人よりも上質な鎧に身を包んだ、騎士風の人物だ。金髪の首の後ろで束ねている男は胸元に拳を作って礼を取る。

 

「エルディア王代理がお待ちです。此方へどうぞ」

 

「あ、はい」

 

「広くて綺麗ねー」

 

 騎士の男に案内されながらニーズヘッグはきょろきょろと辺りを見渡している。だがそれよりも気になる事があり、案内されて庭園を越え、城内に入りながらも質問してしまう。

 

「失礼、王、代理って話……ですよね?」

 

 場所が場所だけに自然とタメで話すのを止めておく。そんな此方の疑問に騎士の男が答えてくれる。

 

「えぇ……本来のエルディア王、陛下は断絶の時は公務の為にダリルシュタットを出ておりまして」

 

コメント『この国やばくね?』

コメント『って事はこの国、今トップがいないんか』

コメント『終わりだ終わり! 終わったな!』

コメント『レイドボスで半壊したマルージャよりはマシやろが!!』

コメント『あっちはあっちでなんか戦後復興みたいな状況突入してるからな』

コメント『まるでこの世の終わりみたいだぁ……』

 

 この世が終わりそうなんだよなぁ。まぁ、終わらせないのだが。

 

 城内に入ると更に兵士や騎士が増え、メイドの姿も見える。その姿をニーズヘッグも興味深そうに眺めている。

 

「興味あるのか?」

 

「リアルじゃ着れるものでもないからね。興味はあるわ」

 

「成程」

 

 まぁ、ファンタジー世界だし探せば普通に売ってるんじゃないだろうかとは思う。ダンジョンから宝箱と装備が出現する世界観なのだから、メイド服ぐらい普通に手に入るだろう。まぁ、それもこれを乗り切ったらだ。

 

 階段を上がり、ホールを抜けて更に階段を上がる。中央をエスコートされるように登って行き、やがて王城の4階まで上がってくる。どうやらここがこの王城の謁見の間となっているようで、そこまで進めば異様に濃い気配を持つ騎士やら魔導師の姿が見え、その一番奥、玉座に座っている姿に目が行く。

 

 案内されるがままに赤い絨毯の上を進み、中ほどで足を止める。そして玉座に座る姿、

 

 ()()1()0()()()()()()()()()()姿()()()()

 

「―――良くぞ参った、異界の魂を持つ稀人達よ」

 

 少年王は、瞳と笑みを輝かせた。

 

「余がエルディア王代理、ヴィル・アル・アーク・エルディアである」

 

コメント『終わりだ終わり! 終わったな!』

コメント『閉廷! 解散ッ!!』

 

 今回ばかりはちょっと配信のコメントに言い返せないかなぁ……。




門番「蟲毒? 住民から苦情が出かねないので全て叩き潰しましたが」
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