コメント『他に上に立てる人間他におらんかったのか』
コメント『おらんのやろなあ』
コメント『末期やんけ』
「姿勢を楽にしてくれ、それでは話しづらいからな」
「はい、ありがとうございます」
王の謁見の間で先導してくれた騎士が膝をついたポーズを取っていたので、反射的に同じ格好をしたのだがどうやら正解だったらしい。ここら辺、こういう教養のない人であろうと解る様に手本を見せてくれるの、超助かると思う。心の中でサンクス、と感謝しつつ立ち上がった。ここからなんて言えば正直、解らない。とりあえずタメは絶対に禁止なのはわかるから、後ろに回した手で絶対に喋るなよ、とハンドサインをニーズヘッグへと送る。
「わんっ」
「今、なにか―――」
「こほんっ! こほんっ! いやぁ、すみません、ちょっと喉の調子が悪くてですね……こほんっ」
「……う、うむ、何か飲むか? 余は気にせぬぞ、うん。喉の調子が悪い時もあるし」
コメント『滅茶苦茶気を使われてるの草』
コメント『優しい子なんやなぁ』
コメント『あのショタ短パンになってくれないかなぁ』
そろそろこの配信のコメントミュートしておくかなぁ、と思いながらいいえ、と遠慮しておく。とりあえずニーズヘッグよ、頼むから黙っててくれ。お前は考えるよりも脊髄反射でアクションと言葉を放つからこういう場で失言マシンガンとなってしまうから。頼むから何も話さないでくれ。それだけを祈っている。
「うむ……では話を戻すが稀人、其方の名はなんと申す」
「私はアイン、此方の相方がニーズヘッグと申します」
「ではアイン、そしてニーズヘッグよ。迅速な対応とガラドアの解放、誠に大義であった。王の代理として、この国を代表する身として感謝する」
「勿体なき言葉、ありがとうございます。未だにこの国に並ぶ騎士方と比べれば矮小な身ながら、こうやって役立てた事を誇りに思います」
コメント『嘘だぞ』
コメント『滅茶苦茶楽しんでたぞ』
コメント『そんな事欠片も考えてないだろぉ!?』
コメント『正直に言えよ!』
ぶっちゃけそこらへん何も考えてないに決まってんじゃん。でも、まぁ、こういう場だし多少はまともなことを言わないとね? ともあれ、此方の言葉にアーク王代理―――いや、アーク王子は満足したような様子で頷いた。
「うむ、良くできた稀人だ。中には暴れたり奇行に走るものもいてとてもだが神々の言う事が信用できるか不安でもあったが、こうやって成果を見せられてしまえば余とて信じるしかないだろう。其方ら稀人こそが希望であるという事実を。まさか降臨したその日にガラドアを取り戻されてしまうとは余も思いはしなかった」
コメント『ゲームとして考えるとなぁ』
コメント『まぁ、そこらへんはNPCの事情よな。我らは考慮しない』
コメント『というか一人だけこういうイベント独占するのずるくない?』
コメント『結局はトップ有利じゃん。クソゲー』
じゃあお前らも頑張れ、としか言えない。俺達がここにいるのは歴然たる事実として俺とニーズヘッグがトップを爆走して確保したからだ。それだけの話だ。他の連中が同じようなことをしないのが悪い。そこにぐちぐち文句を言うなら配信見るな、とゲーム止めろという結論でしかない。文句を言うような奴には向いてないよ、遊ぶの。今は謁見中でそんな事を煽っている余裕はないが。何よりも周りから向けられている圧が凄い。
魔導師、騎士、兵士、それがこの謁見の間に監視するように、或いはこちらの動きを牽制するように見張っている。PCは死亡しても復活が出来るからテロの警戒をしているのだろか? 正直、佇まいが威厳ありすぎて何かをするという気にもなれない。
……まぁ、考えてみれば異世界からやってきた正体も知れない未知の存在だ。警戒するのは当然か。
「良くぞ成してくれた。だからこそ成した其方らに頼みたい事がある……いや、依頼という形で頼もうかと思う。どうであろうか」
どう、と言われても困る。現状、その頼みを断る事は非常に難しい。
「是非受けさせていただきます」
コメント『圧迫面接で草』
コメント『不思議と嫉妬する気になれねぇんだよなぁ』
「無論、依頼に対する報酬は出そう。そして今回ガラドアを開放した件に関しても報酬を出そう」
コメント『は? ずるくね?』
コメント『はあ、独占とかほんとクッソ』
コメント『俺達にも寄こせ』
コメント『今日も元気に掌がぐるんぐるんしてるなぁ!』
ヘイトを今日も一心に集めている自覚を覚えつつも、では陛下、と声を置く。
「む、今の余はあくまでも代理である。その敬称は正しくはないぞ」
「えーと、では殿下、で」
「うむ。申してみよ、アインよ」
滅茶苦茶疲れる。喋るたびに精神が擦り減っている気がする。うおー、胃が痛い。早く他のプレイヤーを轢き殺させてくれ。騎馬突撃はかなり楽しかったんだ。あ、そうか、馬用の鎧を用意すればもっと楽しくなるなアレは……。うんん、ちょっと現実逃避入ってるかもしれないが、アレだ。
「その、殿下」
「うむ」
「私だけを優遇されると、他の稀人達にこう……いい感じに囲まれてしまうので。出来たら報酬みたいなものは私たちだけを対象にするんじゃなくて……」
「……稀人達は仲間ではないのか?」
あー、そういう所から認識違うのかぁ。根本的にPLという生き物を理解してないのかもしれない。いや、理解できてるのはメタを理解する上級AI達だけなのかもしれない。だからえっとですね、と言葉を置き、手を使って軽いジェスチャーを入れる。
「確かに身内数名と共にこの世界に来てはいますが、根本的な部分で大半の稀人は他人なんですよ、殿下。ですので基本的な意識は一緒に旅する仲間というよりは、現状は競争相手ってのが認識としては強いです」
MMOの開始初期ってのはリソースの奪い合いと熱烈なレース状態だ。一番最初に飛び込んだ連中は誰よりも先に! もっと先に! 俺が開拓するんだ! というすさまじい意欲で溢れている。そもそも最初からスローライフ目指す様な奴は最初のロットを必死に獲得しないだろうと思う。という訳でアレだ、
「私たちの身を優遇すると本当に敵作っちゃうので、出来高制みたいな感じで全体として競争意識高めてください。いや、しなくても割と真面目な話、勝手に動き出すでしょうけど。それまでの間ずっと目の敵にされてしまうので」
「う、うむ。そうか……神々の連れてきた最終兵器という話だったが、案外そこまで仲が良くなかったのだな……」
あ、ちょっとがっかりしてる。でもマジでそこはしょうがないんだって。だって根本的にMMOのプレイヤーって身内で固めない限りは他人同士なのだから。嫉妬したりするのは当然だし、空気が悪くなることだって多々ある。民度を高く保てるのは月額ゲーでちゃんと運営が環境のチェックとかをしている所ぐらいだ。
それに初のVRMMOというジャンルだ、ぎすぎすしない理由がないんだよなぁ。
「あい、解った。改めて調査してそこらへんは調整しよう。爺や」
「は、直ちに話を纏め手配いたしましょう」
アーク王子の横に一瞬で老人の執事が出現したと思ったら次の瞬間には残像すら残さずに消えた。うわぁ、こっわ。強さを確認する時間すらなかったあたり、相当ヤバイ部類だ。というか明らかにレベルキャップ超えている気がする。部屋の横の方で待機している全身鎧の人とか、明らかにレベル50では済まない強さを感じさせるし、魔導師のお爺さんもさっきからほっほっほ、と笑いながら微妙に浮かんでいるし。もしかしてNPCにはレベルキャップの概念が通じないのかもしれない。だとしたら怖いよなぁ、と思う。
だけどそんな彼らは自分達、プレイヤーの力を借りないとこの問題を解決できない。
なんというか―――非常に、不満が溜まってそう。顔も、名も知れぬ誰かの力を借りなきゃ何もできないのだ。
俺ならキレる。
「ではアインよ、其方とニーズヘッグ。報酬として求めるものはあるか? あまり派手なことは出来ぬが、一番槍としての責務を果たしてガラドアという重要な地を取り戻した其方らだ、褒美を与えぬば王家としての器量にもかかわる事なのだ」
「そう、申されましても」
ニーズヘッグへと視線を向ければ、半分眠そうにしている。おい、こら、寝るな。マジで寝るな。隅の方にいるお爺さんが笑いそうになってるでしょ。あ、騎士さんが咳払いしながら起こそうとしている。頑張れ、頑張れ。マジで頑張ってくれ。あ、目を開いた。
「あ、終わ―――」
「あー! では殿下ァ!」
「う、うむ。申してみるが良い……落ち着いてな?」
コメント『ギャグかな?』
今、部屋のどこからか誰かが噴き出したような声がした。お前、俺はマジでキレるぞお前。いや、そうじゃない。相手を待たせてはならない。今欲しいものは―――金? いや、それは稼げるだろうし……あー、長距離移動に馬車とか欲しいな。でもそれって金出せば手に入りそうだ。なら装備? いや、装備は定期的にアップデートするから直ぐに型落ちする。
ならずっと腐らないものと言えばアレだな。
「では殿下、情報をください」
「情報?」
聞き返してくるアーク王子の言葉にはい、と言葉を返す。
「私たちはこの世界に関しては不慣れで知識不足―――強くなるためにはスキルを習得し、成長せねばなりません。私も1人のキャスターとして邁進しておりますが、何をどう取得すれば強くなるかという道筋が、情報不足によって解りません。この先戦い続ける為にも是非、スキルに関する情報を教えてくださると」
俺がガラドア解放の報酬として求めたのはずばり―――スキルの情報だ。
何を習得できるか、何がどう進化するのか、そんなシステムはあるのかどうか。そういう事を知る為にも情報が恐らくは1番集まっている所から知りたい。
それが俺が今1番求め、そして今後も絶対に腐らないと思う報酬だった。
そもそもNPC側からすれば正体不明で無限に生き返る化け物が大量発生して、それに頼らないいけない状況だからね。本職の人はキレてもしょうがない。
しかも現れた一部は門の前で殺し合ってるんだ! 信用ならねぇな!
という訳で次回、王家の依頼。