断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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エルディア王 Ⅴ

「ほうほうほう、であれば儂の出番かのう」

 

 アーク王子との話し合いに割り込んできたのは髭を生やしながらも地面から浮かんでいる老人の姿だ。いかにも魔導師、という風な全身を覆うローブに魔法使いの帽子、そして背には美しく装飾された杖を背負っている。微妙に浮かんでいる、という表現を使ったが自分に視線が集まったのを理解してから中空に漂う様に足を畳んでいる。アレは完全に重力の束縛から解放されている姿だった。

 

「えーと」

 

「うむ、我が名はAじゃ……この世であれば知らぬものも居らぬ程の名声を持った魔導師なんじゃが―――まぁ、異邦の者に求めるではないじゃろう。うむ」

 

 髭を軽く撫でたAと名乗る魔導師はほうほうほう、と笑う。かなり珍妙なお爺ちゃんだった。だけど浮かんでいる、その強さを測る事が出来ないレベルで格の違いを感じさせる。恐らく、レベルキャップも軽く超越している。英雄とか伝説とか、そういうレベルの人物だと思う。先ほどの王子が爺やと呼んだ人物も多分このレベルだし、王子の傍に控えている全身鎧の騎士もそうだろう。

 

 ……化け物が多すぎる。

 

「知恵を求めるのであらば儂が出そう。魔法使いとしての、魔導を行くものとしての叡智で最も優れておるのは儂じゃからな。正しく報酬を求めるのであらば、儂が差し出すのが筋じゃろう」

 

「……翁、卿は客人だ。エルディアの者ではない。勝手な口を挟むのは止めていただこうか」

 

 騎士が鋭い口調でAを遮った。それを受けても余裕の表情をAは浮かべている。

 

「そうじゃのう、儂はエルディアに所属している者ではない。儂はメゼエラの所属じゃ。だがこのような状況で所属等と言っている場合ではなかろう?」

 

「それを決めるのは卿ではない。殿下である。己の立場を弁えよ」

 

「面白いことを言う。弁えているからこそ言うているのじゃろう? それともなんじゃ、英雄様は団結する事を拒否する、と」

 

「卿の力が必要であれば、殿下がそうおっしゃる。卿の言葉は己の立場を超えるものだと忠告しているに過ぎない」

 

「その割には殺気立っているようじゃがのぉ」

 

 Aと騎士が睨み合って、その圧力だけで空間がねじ曲がっているように見える。コメントの方も2人の迫力に飲まれてか、段々と静かになってきている。化け物が2人、睨み合っているのだから当然と言ってしまえば当然なのだがこんな空間にはいとうない、いとうないんじゃと叫んで逃げだしたいぐらいには今、滅茶苦茶心地が悪い。

 

「ジークフリート」

 

「はっ……出すぎた真似をしました」

 

 アーク王子の一言で騎士は黙り込んだ。ただの王の代理であるからという理由だけではなく、今は仰ぐべき主君としてちゃんと王子の事を見据えているように思える。

 

 だけどなぁ、

 

コメント『1枚岩じゃないみたいですね……』

コメント『当然だけど仲良しこよしって訳じゃないんだな』

コメント『他の国解放したら戦争始めたりしてな』

コメント『え!? 国盗りだって!?』

コメント『おう! コレ倒して取れるならな!』

コメント『無理ゲー』

 

 迫力はちゃんと伝わっているらしい。数で囲んでどうかなぁ、とも思うけどMMOは基本的にレベルが上がれば上がる程数値がインフレするゲームだ。恐らくレベルキャップに到達したところでかなり無理のある挑戦になるだろうと思う。

 

「アイン、其方は魔導の道を目指すと言っていた覚えがある、正しいか?」

 

「はい、殿下。私は何人かの身内と共にこの世界を訪れました。そしてこの世界で最高最強のチームを作り、誰よりも最初にこの世界に名を刻む為に黒幕を倒すことを目標としています」

 

「ニーズヘッグよ、其方はどうだ」

 

 頼む、まともに応答してくれ。そう祈りながら真っすぐ前だけを見ていれば、

 

「私は、こう……ぶおーんと行って、ばびゅーんとやる感じよ……デスワ」

 

 両手で顔を覆った。謁見の間にいる誰かが噴き出した。

 

コメント『萌えキャラかな?』

コメント『チェーンソーでバラバラ死体を量産する萌えキャラとは新しい』

土鍋『ただの大型犬だぞ』

コメント『いやあ、苦しむ姿を見るのは楽しいなぁ』

 

 今、身内が混ざってなかったか?

 

「う、うむ、そうか。だが目指す以上、専門家に学ぶのが良いだろう。A殿、頼んでも宜しいだろうか」

 

「ほうほうほう、任せなされ王子殿下。この老体、やる事もなく暇を持て余しておったのじゃ、生徒の1人増えるのも悪くはなかろう。何せ本国の弟子は生死不明じゃからのぉ」

 

 これ、本当に大丈夫なのかなぁ、とは思うのだが。王子は話を進める。

 

「ではジークフリート、彼女の方を頼めるか」

 

「お任せください」

 

 どうやらニーズヘッグにはジークフリートとかいう騎士がスキルの指導? 或いは教導についてくれるらしい。Aを含めてどちらも英雄ユニットだろうし、教えて貰う相手としては何の不足もない。それにフィエルの様な上級AIとは違い、隠す理由もないしチュートリアルには存在しなかったスキルの類も教えて貰えるだろうし、これは報酬として悪くなかったんじゃないだろうか?

 

「では改めて、依頼の方に移させて貰おう」

 

「はい」

 

 本題の所だ。アーク王子が玉座に腰かけてまま、話を進める。

 

「今現在のエルディアは断絶に囲まれ、絶対絶命と呼べる窮地にある。この状況をどうにかする為には其方らがやってくれたように、あの封鎖領域を踏破せねばならない。だが余らにはそれが成せぬ。悔しいが、我らには触れられぬものなのだ。故に其方ら稀人に頼む以外の選択肢がない……故に其方に頼みたいのはとある封鎖領域の解除だ」

 

 無論、と王子は付け加える。

 

「これは其方だけではなく、稀人全体への依頼だと思って欲しい。最初に其方へとこの話をするのはその功績と、信頼できると余が判断したからだ」

 

コメント『現在進行形で配信によって裏切られてるんですがそれは』

 

 それな。

 

 本当に申し訳ないと思う。

 

「それで早急に頼みたい事がある」

 

「それは……」

 

「東街道を閉ざす封鎖領域をどうにかする事だ」

 

 東街道、それは北と合わせて出現するエネミーのレベルが高いから初心者向きではないエリアの1つだ。ちょっとレベルが上がってから向かう場所だ。まぁ、今のニーズヘッグと俺ならぎりぎり何とか向かえるか、と言えるレベルの場所だ。

 

「我が国は港を抱えているが、現状東街道の封鎖によって港へのアクセスが封じられている。港を取り戻せば海路がある程度取り戻せるほか……」

 

 そこでアーク王子は一旦言葉を言い淀むが、しかし直ぐに表情を戻す。

 

「兄上が立てこもっている故、迎える事が出来る。これは急務の1つでもある。故、他の稀人と合わせて其方らにこれを頼みたい」

 

 その言葉にどうしたもんかなぁ、と内心で呟く。いや、国のトップからのこれは実質的な命令だ。報酬が出るとは言われているが、この国にしかいられない状況で逆らうなんて選択肢はない。彼自身はそれを理解していないかもしれないが。だが問題はそういう事じゃなくて、方向がマルージャ方面とは真逆という事に尽きる。これを受けなくてはならない以上、マルージャ方面への接続が遅れるという事になるのだ。

 

 ただ、まぁ、これを断る事は出来ないし、

 

「お任せください殿下、私たちはもとよりその為に来たものです―――無論、それとは別にこの世界を隅々まで堪能する予定ではございますが」

 

 表面上は快諾したように見せる。というかしないと無理。そしてアーク王子は満足げに納得の表情を浮かべた。

 

「頼もしい言葉をありがとう、アインよ。其方らのこれからの活躍に期待している。それではこの場は解散する。A殿、ジークフリート、ここからは2人を頼む」

 

「ほうほうほう、お任せくだされ殿下。なぁに、この爺も無駄に長く生きているから人を育てるのも初めてではないからのぉ」

 

「主命、拝承しました」

 

 謁見の間でのやり取りは終わり、しかし個人的にはここからが本番となる。配信はここらへんで切るとして、まだ今日という日が始まったばかりである事を自覚させられる。ここからあの曲者A爺ちゃんに魔法スキル関連を学ばなくてはならないのだから、

 

 今日、絶対に疲れ果てる奴だ。

 

 それをこの時点で確信してしまった。




 政治は止めろ、止めるのだ! こんな状況でも政治! 政治! 政治! 人として恥ずかしくないのか!

 英雄・英傑ユニットのレベルは大体60~70あります。1国辺り英傑ユニットは大体1~2確定で存在し、エルディアは現在客将等のゲストを含めて6人程存在している。現状武力だけならトップに立っている国家である。

 ただし、封鎖領域に振れる事も入ることも干渉することもできない為、どれだけ武力を持っていても無意味。

 どれだけ鍛えていても無力。無念でしょうなぁ。
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