断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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エルディア王 Ⅶ

「めちゃくちゃありがたい申し出なんですけど、先になぜ、って言うのを説明して貰ってもいいですか?」

 

「もちろんじゃ。いきなりこんな申し出をされても困るじゃろう」

 

 さて、と呟いたAはどこから話したものか、とため息を吐く。

 

「そうじゃのう……儂の立場から話をするとしよう」

 

 その言葉の先を促すように頷けば、Aは話を続ける。

 

「では改めて―――儂の名はA、魔導至高天の”A”、この世に比類なき魔導の深淵に立った者として記憶されている。最も魔導の深淵に到達した者として認識されておる。まぁ、それは事実じゃ。恐らくこの地上で儂を超える魔導士は存在せんじゃろうな。儂がエルディアに世界断絶が始まる前に逃げてきた事も儂がそれを事前察知することが出来たからじゃ」

 

「はえー」

 

 意外と凄い爺さんだったんだなぁ、と驚く。いや、NPCとして格があるのは解っていたが。それでもそこまで凄いNPCだとは思いもしなかった。だがよく考えればあの時、謁見の間で自由に口を挟む事の出来る爺さんだったんだ。そう考えると実力と立場、その2つを併せ持った奴じゃないと無理だろう。

 

「儂もかつては最強を目指した身。この頂を目指す為に多くの無理と無茶をこなしてきた。そしていざ到達してみればどうじゃ? あるのは束縛と不自由と名ばかりの名誉ばかりじゃわい。まったく、嘆かわしい。求められるのは後継者の育成と研究ばかりで、実践の為に戦いへと赴く事さえも許されんわで全く、呆れかえる」

 

 あ、なんか愚痴っぽくなってきたぞぉ。

 

「良いか? 魔導とは研究室で生まれたものではない。それは奇跡でありながらも困難を打破する為に生み出された破壊の力じゃ。目の前にある障害を、絶望を、破壊するもんじゃ。そうじゃ、魔導の本質は圧倒的な破壊。なのに探求だか知識を高める等と実に馬鹿々々しいわい。誰もが本質を忘れておる。そして儂の弟子入りを求め、送り込まれた後継者候補はどれもかれもがそれをはき違えて真なる叡智をとか言いだす」

 

 このお爺さん、さては本質的にDPS狂いだな?

 

「そして最終的に魔導は、魔法は学問という形に落とされてしまったわい。求め、学び、身に着ける教養へ。かぁー! 勿体ない! かぁー! 嘆かわしいわ! そうじゃないんじゃよなぁー! もっとなぁー! こうのぉー! 魔導の深淵とはそうじゃなくて……もっと奇跡とかでもなくて……こう、こう……!」

 

「語彙力失ったオタクになってる……」

 

「解るじゃろ!? 今の魔導の形には夢も浪漫もないんじゃよ! 深淵を求めるにはそれが一番重要なんじゃよ。他の何でもない、夢を追い求める心と姿勢こそが深淵へと推し進む最も強い原動力となるじゃよ。その点お主が良いぞぉ、何よりも魔導の世界に夢を求めておる。言っている事の大半はさっぱりじゃが―――」

 

 まぁ、大半が理解できるとは思ってなかったが、楽しそうに爺さんは笑った。

 

()()()()()()()()()()()()のは解ったわい。それだけで使命感や自らを高める事を目的とした連中よりは100倍マシじゃよ。そして楽しそうじゃ、これは儂的に+1億点じゃ」

 

「点数がバグった」

 

「そして稀人じゃ。体が現世に馴染むまで成長限界(レベルキャップ)があるじゃろうが、それでもその素質と才能は確実に保証されているものじゃろう」

 

 あー、と呟く。そうか、PCという時点で成長が約束されているのだ。レベルキャップは確かに存在するが、少なくとも解放と共に成長するのだ。だから確実にどのNPCよりも将来的にはつよくなるのが確定できる。その事を考えると確かに素質として見ると最高クラスなのだろう。

 

「だが! だが何よりもその姿勢じゃ」

 

 うむ、と爺さんは頷いた。

 

「夢と実利の両方を目指し、尚且つ全力を尽くす姿勢こそが一番欲しいものじゃ。まるで若いころの儂自身を見てるようで心にふつふつと湧き上がってくるものがあるわい。お主を弟子にすれば間違いなく大成する。それが儂には見えておる……ま、儂がお主を弟子にしたい理由はそんな所かの」

 

「ふーむ」

 

 ―――たぶんこれだけが理由ではないんだろうなぁ。

 

 まぁ、間違いなく隠している事はいくつかあると思う。少なくともこんな大魔法っぽい事で部屋を移動させてくるなら実は他の弟子さんとかも避難させられたんじゃない? とか思わなくもないだろう。なのに今、この爺さんは1人でこっちにいるっぽいし。という事はこの爺さん、自分の国の他の人間を全て見捨てたってことでもあるんだよね。それに弟子にする理由としては軽すぎる様な気もする。

 

 だがそれを考慮した上で、この”A”という爺さんの弟子になるという選択肢は物凄い魅力的になるのは、目の前の師事選択ウィンドウに表示されている内容込みでの事もあった。

 

 そこには師事する事にはい、いいえでの選択肢の他、師事する事によって得られるメリットとデメリットが描かれている。

 

 メリットは短期的内容では火、氷、土、風、光、闇属性のスキルトレーニングが全て割引される為に非常に上昇しやすくなる事である。長期的となると専用の秘伝スキルというものを習得する事が可能となり、独自のスキルや魔法を習得する事が可能となる。

 

 ただし、そのデメリットとして特定の属性に特化する戦闘スタイルを選ぶことが出来なくなる。つまり火と氷だけをピックし、その2つを補助する為のマスタリー系スキルを取ってメインの属性魔法の火力を向上させるという手段が取れなくなる事だ。だがそれを補うメリットが存在するのだろう、この秘伝スキルと呼ばれるものには。恐らくこういう特殊なNPCから習得できる限定されたスキルなのだろう。

 

「悩むか」

 

「先行きが見えませんからねー」

 

「じゃろうのぉ……ならちょっとしたリップサービスじゃわい」

 

 お、と声を零すと良いか、とAが言葉を置いた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ただし、それはソレ相応の時間がかかるではあろうが。完成するまでは部分的に他者や特化型に劣る部分もある。だが完成さえすれば完全な永久機関として常に高位魔法を放ち続ける事も可能となる―――どうじゃ、魅力的に思えるじゃろう?」

 

「う、ぐぐぐぐぐ……」

 

 その言葉に一気に揺らぐ。相手は魔導における最高峰のNPCだが、まだ隠しキャラの類は結構隠れていそうなんだよなぁ、と思っている。そもそも世界が断絶している最中だから優秀な師匠候補NPCは世界を拡張していけばそれだけ出現しそうな気もする。だけどNPC側はPCの都合とか全く考えない事実もある。実際、これとか完全にNPC側の都合で申し込まれているんだと思う。

 

 ただなぁ……。

 

「言っておきますけど、自分は政治的都合とか全く考慮しませんし、考えませんし、手伝ったりしませんからね?」

 

「あぁ、そこらへんは期待しとらんから問題ないぞ」

 

 本当かなぁ……と呟きながらも、そう答える分には期待している自分を自覚している。

 

 しゃーない! デメリットが予想してた程重くはないし、賭けるか。

 

 師事する選択肢を選び、手を出す。

 

「これから宜しく楽しみます師匠(せんせい)

 

「これから頼むぞ、弟子よ」

 

 手を出して握手を交わす。ここに契約が完了した。ホロウィンドウにAの弟子となった事が表記され、また《Aの弟子》という称号が手に入った事を表示する。まぁ、正直こっちの称号よりも1st称号の方が好きなんでそっちから付け替えるつもりは一切ないのだが。ただこれで弟子入りかー、と思うとちょっと不思議な気分だった。相手は人間じゃないのに、AIという立場の存在でそれを自覚していないのに弟子入りが成立するんだな、と。

 

「ほうほうほう、これで漸くここでの生活も楽しくなりそうじゃのぅ」

 

「師匠が弟子を取った理由の大半それでは」

 

「何を言う! 半分じゃぞ!」

 

 半分もあるんじゃねーか! ……とは言えない。そもそも俺が遊んでいる理由が楽しむ為なのだからそこらへんはなんも言えない。とはいえ弟子入りしたのならしたで、スキルの育成とビルドがコレからは明確な目標や指針が作れる。

 

「じゃ、正式に弟子入りしたんでギブ・ミー・スキル情報!」

 

「では何を習得しているのかを儂に教えてみなさい」

 

 とりあえず今の習得スキルをお師匠に伝えると、成程と頷かれる。

 

「ふむ……マスタリーと《二刀流》の選択肢は悪くないのう。それはそのまま伸ばすと良い。まずはそのまま《火魔法》と《時魔法》を鍛え続けると良い。魔法を成長させれば自ずと自分で魔法を組むときが来る……それがそれからの魔法戦の主力になる事は解っておるな?」

 

 きっと、魔法エディットの事だろう。だけど主力が自分で組んだ魔法になるのは初耳だった。だがとりあえず理解はしたので頷く。それを見てAが話を続ける。

 

「一定の段階までは魔法の修練を重ねる事で魔法の型を覚えるじゃろう。だが一定の段階を超える事で魔法が何で構築されているのか、というのを理解するようになってくる。例えば弟子よ、お主が最初に使える様になった〈ファイアーボルト〉、これは〈形状:矢〉、〈属性:火〉、〈性質:炎上〉、〈規模:小〉、〈攻撃補正:150〉、〈射程:25〉という風にパーツ別に分類されて構成されておる」

 

 成程、魔法エディットは1つ1つの項目を自分で設定して形成していくスタイルらしい。確かにこれは面白そうだ。

 

「更にここに細かく規模や範囲を設定して行く事で魔法は完成する」

 

 師匠はそう言うと空中に作成途中の魔法の画面を表示させ、それで構築の様子を見せてくれる。空中に半透明な氷の矢を生み出すと、それに手で触れて矢の形をもっと尖らせて、先端に返しを付けた形状に変化させる。こういう風にどうやら形を指定してから細かい調整まで自分の手で行えるものらしい。

 

 これはマジで”ぼくのかんがえたさいきょうのまほう”が捗る。

 

「故に特化型魔法はこの手の魔法を最適化し、単一属性によるバフでダメージを伸ばしつつ決め手となる魔法を連打するタイプの魔導師になるんじゃが―――まぁ、儂らには関係のない話じゃ」

 

「関係ない」

 

「まるで面白味がないからのぉ」

 

 で、と言葉が続く。

 

「この魔法を構成するパーツじゃが」

 

 浮かんだままの師匠が手を広げる。そこに複数の魔法が展開され、別々の属性の初期魔法が投影される。雷の槍、火の矢、氷の針、土の柱、風の刃。それが入れ替えられ炎の柱、土の針、雷の刃、風の矢が生み出された。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んじゃ。ま、理解する魔法の幅を増やせば選択肢が増えるのは当然の事じゃろう。だがな、これを求めるとなると明らかに容量(スロット)が足りなくなるじゃろう」

 

 その言葉に頷く。

 

「じゃろう? だがな、これにはちょっとした裏技があっての。解るか?」

 

「いや、ノーヒントじゃ無理です。もしかして自慢のつもりですか? 年上として恥ずかしくないんですか?」

 

「儂、そこまで言われなきゃならんの……?」

 

 少し勿体ぶってから、答えが出る。

 

技能(スキル)忘れた(削除)所で、覚え、身に着けた知識(エディット)は消えんのじゃよ」

 

「それは―――」

 

 つまり属性魔法を習得し、それをスキルトレーニングして育てたら魔法エディットのパーツが手に入る。だが習得した後で大元となる魔法を削除したところで習得した魔法エディットのパーツ自体は消えないのだ。そして魔法戦の主力は習得魔法から、自己作成の魔法へと変わる。それはつまり、習得したものを引き継いだままスロットを開けられるという事に他ならない。

 

「それでも魔法スキルに付随するパッシブは消え―――あ、でも複数使い分けるなら1属性のパッシブを残した所で意味はないのか。全体にバフをかける方針で開いた枠にパッシブ系のスキルガン詰めした方が最終的には火力が伸びる……」

 

「そして儂は複数の属性を効率的に、そして更に強くする為に運用するシステムを長年をかけて構築した。それが儂の秘伝スキルじゃ」

 

 それは間違いなく茨の道だ。すべての属性魔法を習得しないといけないという大前提があるだろう。だがそれを込みにしても非常に魅了的な話だ。これが完成すれば、俺を真似できるプレイヤーなんてどこにもいないだろう。これは、物凄い夢と浪漫にあふれている。そして何より完成すればこの爺さんみたいになれるのかもしれないのだ。

 

 これでやる気が出ないわけがない。

 

「ほうほうほう、どうじゃやる気が出てきたじゃろう? さあ、まずは我が第1の秘伝を受け取り、使いこなす為に研鑽を重ねるのじゃ。鍛錬の果てに新たな境地がお主を待っているぞ」

 

 やる気十分、気合十分。A師匠の言葉と共に秘伝スキルが授けられる。残された空きスロットは1つ、だがそれを取らない選択肢はなかった。

 

 こうやって新スキル、《深境》を習得した。




 アインの方向性が決まった。スタイルとしては完全なる大器晩成型、本番は6属性全てをマスターしてからだぞ!
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