《深境》のスキルを獲得した。これが極意と呼べるものらしく、習得している属性が増えれば増える程その効果が増す。現状習得しているのは《火魔法》と《時魔法》だけだ。《深境》の習得によって視界には〈深境ゲージ〉が追加されており、そこには火属性のゲージが追加されている。見えるゲージは合計で4つ、土と氷と風の所が習得していないから灰色になっている。光と闇のゲージが存在しないようだが―――まあ、習得すれば解るか、と判断する。ちなみに時は属性カウントされないようなので、魔法エディットのパーツ集めようになるかもしれない。この感じ、後々で《毒魔法》も習得してパーツ取得した方が良いのかもしれない。
「《深境》を獲得したことでお主は様々な属性の組み合わせと効果による複雑な戦術、その入り口に立つ事が出来た訳じゃ。そしてそれぞれの属性には特色がある。これは非常に大事な事じゃから良く聞くんじゃぞ?」
「うす」
ついでにメモの用意をしておく。
「属性はそれぞれを使い込めば使い込むほど増幅し、それぞれの力が増してゆく。だが決してプラスの方向性になる訳ではない。火を使えば水・氷の力が下がり、土を使えば風が、という訳じゃ。だが何も属性の力は相反する訳ではない。世界は循環によって作用する。故に魔導もそうじゃ」
属性の相性は簡単に火>水>土>風という形になっているが、単純にこれでは完結しないらしい。
例えば火と土は互いを支え合う力を持っている。故に火を使えば土の力が高まり、土を使えば火の力が高まる。水と風も同じようにできている。
「そしてここが重要なんじゃが、火と土の力が上がる事で相乗効果が発生し、破壊力が増す。だが同時に消費が増える。だがこの破壊力の伸びは魔法を根本から弄る事よりも遥かに威力が伸びるんじゃよ。これは属性概念の固定化と安定化によって場と己の属性が支配されている事による影響じゃ」
「ほうほう」
「そして氷と風の力が高まると逆に流動性と循環能力が上がる。こうなると威力は多少下がるものの、それと入れ替わる様に
「おぉ、マジか」
つまり火土を使った火力ルートから氷風の回復ルートを交互する事で無限機関としてアイテムなしに成立するという事だ。これはまさしく自分が目標としていたキャスターとしての理想の姿なのだが、
「……これ、特化型だとどういう手段でMP確保するんです?」
「特化型は特定属性の消費魔力を大幅削減する手段を持っておるんじゃよ。それによって魔力の回復する手間を極限までカットできとる。その代わりに汎用性を失うがの」
「じゃあこっちのやり方が遥かに楽っすね」
「そう思うじゃろ? そうでもないんじゃよなぁ、これが」
そう言うと師匠は手を振り、杖を虚空から取り出した。1本、2本、3本、4本―――合計で6本の杖が出現している。その全てが別々の違う杖であり、何らかの凄い力を秘めているのが解る。
「儂も複数の杖を状況と相手によって使い分けておる。それぞれの属性別に杖を作成してな?」
「あっ」
それで大体察した。
「1本作るだけならまだいいんじゃよ。だけど複数の属性を使い分けたり、合わせて使うとなるとそれぞれが別の属性に特化したものを用意せねばならんじゃろう? そうなると最高級品を追求しないと1つ1つの属性が特化型に負けてしまうじゃろう? マスタリーを習得しない分は装備品で詰められる所を詰めないとその分で劣ってしまうから必然的に金を出す事になるんじゃが」
「うわぁ……」
「うん。儂のお財布もすっからかんよ」
特化型は防具、アクセサリー、武器も全てが1属性に絞った装備品で良いのだろう。だが複数の属性を運用する深境スタイルは様々な魔法を組み合わせて戦う事前提だから装備に着ける属性バフを1本化させることが不可能だ。その為、ベースとなる攻撃手段を切り替えるのに合わせて装備品も切り替えなくてはならない。
「覚悟するんじゃぞ。アホ程お金がかかるから。寧ろそっちが辛いまであるぞい」
「マジかぁ……」
レベル50になって装備厳選に入った段階が1番辛いのかもしれないという地獄の様な情報が入ってしまったが―――まぁまぁ、そこはほら、専業クラフターやスポンサーを募集して全投げしよう。資金稼ぎは任せるから早くスポンサーを見つけ出したい。
「後は……そうじゃの、《結界術》と《契約術》は取りたいのう」
「初期の選択肢にはなかったなぁ。どういうスキルなので?」
「どっちも魔法系統の技術じゃぞ。《結界術》は陣や結界を生み出すことで防御や回復、強化を行う空間を生み出す者じゃ。極めれば大雑把な空間跳躍と短距離転移が使える様になるし、敵味方の識別を魔法に編み込むことができるようになるの」
「クッソ重要じゃないですか」
「そうじゃぞ」
つまり大魔法、範囲魔法を放ってもフレンドリーファイアーしなくて済む魔法を生み出せるという事だ。これは必須だ、何故なら戦闘が激化すればそれだけ味方に攻撃の当たる確率が上がるからだ。だというのに味方を一切気にせず攻撃が出来るのはメリットでしかない。
「《契約術》は言ってしまえば《召喚術》の亜種だの。《召喚術》が協力的な精霊や幻獣を召喚する為のスキルだとすれば、《契約術》は本来は協力的ではない存在や従えられない存在を制限をかけることで部分的にその力や存在を使役するスキルじゃ」
「具体的な運用に関して3行以内でお願いします」
「え? あー……攻撃の合間に召喚挟んで数パンして返すから攻撃回数が稼げる。後召喚している場合みたいなガチガチの本体の能力低下デメリットがないのも良い」
「Naruhodo」
「気づいたんじゃけど儂、欠片も敬われておらんなこれ?」
「気のせいですよ、気のせい」
だけどそうか、そんなスキルが存在してたのかー、という良い話を聞かされた。流石お勧めされるだけはある。やはりチュートリアルで見たスキルがすべてではない。隠されている秘伝スキルの他にも意外なスキルがパーツとして優秀な能力を持っていそうだ。更にデータが出てくれれば完成形をどういう風に持っていけるのか見えるのになぁー、とは思わなくもない。
「……やれやれ、これは1つ、師匠としての威厳を見せねばならんようじゃな」
「はい?」
メモを覗き込みながらこれからどうするかあーだこーだを考えていると、師匠がそう言って杖を振るうと今まで座っていた椅子が喪失し、そのまま倒れそうになるのを急いでバックステップを取ることで立ち上がる事に成功する。
「良し、これよりアイン、お主に稽古をつけてやろう。我が《深境》の秘儀があるのだ。今までよりは遥かに成長しやすくなっている筈だ」
赤く染まっている杖を手に握るとそれを回転させながら手に取る。
「さあ、構えろアイン。なに、儂も同じ魔法で反撃するだけじゃ。身に受け、放つ方が良い稽古にもなるじゃろ。遠慮する必要はないぞ、この部屋は儂が魔法で保護しておるからの」
「お師匠、実は結構アクティブ派?」
杖を2本引き抜きながらやや笑みを引きつらせながら質問すれば、
「……自粛でストレス溜まる程度には、かのぉ?」
「バリバリのアウトドア派じゃねーか うお―――!」
アインの戦いが明日を救うと信じて―――!
「お、お疲れさまでした……」
「うむ、どうやら《火魔法》のレベルが上がったようじゃな。さて、限界の様じゃから今日はこれまでにするぞ? 1日1回であれば儂が稽古をつけてやるからまた明日この部屋へと来ると良いじゃろう」
「……うす」
完全敗北。
床に当然の様に転がされている。修練内容はひたすら魔法を使い込む事なのだが、格上相手だとこの回数が削減されるのと弟子入り効果で割引されていて本来と比べると凄い上げやすくなっているのだが、それでも1時間という時間内でスキルレベルを3から4へと師匠は―――いや、もう爺でいいや。あの爺は無理矢理上げてしまった。魔法を爺に向かって連射するというのは変わらない。だがそのついでに魔法戦の動きを叩き込むために爺も魔法で反撃するのだが、此方が使ってくる魔法と全く同じ魔法をカウンターとしてはなってくるのだ。
〈ファイアーボルト〉には〈ファイアーボルト〉をぶつけ、〈イラプション〉を使えば足元には爆炎が発生しそうになっている。しかもその反応から見てから発動したのではなく、此方が使おうとする魔法を事前に読み取って放ってくる。しかもそれでこっちの詠唱潰してくるもんだから辛い。〈ファイアーボルト〉を〈ファイアーボルト〉で迎撃する所とかドヤ顔しててマジでうざい。
なのである程度強引に杖でガードしながら魔法を放つか、接近戦に持ち込んで魔法を使って一気に押し込むか、それとも誘う様に先に詠唱させてから後から詠唱することでこっちが攻撃を差し込む様にするか。無理矢理魔法使いとの戦いを経験させられた。もう嫌だあの爺、滅茶苦茶だ。
「お主もエルディア王代理から受けた依頼があるじゃろう、体力が戻ったら早速東街道へと行くと良いじゃろう……間違いなく
「……うす」
「疲れたら城の客室を使えばよい。今の城下町で部屋を取るのは難しいじゃろうしな。儂から話は通しておく。そら、頑張ってこい若者!」
「はーい」
ぼろぼろになった体を持ち上げて部屋を出ようとすると、回復魔法が飛んできて喰らったダメージや疲れを全て消し飛ばされた上で装備の耐久値まで戻されていた。本当にそういう所は凄いんだけどなぁ、と思いながら部屋を出て軽く溜息を吐く。
まぁ、後である程度はWIKIに乗せておくか。
「えーと、ニグはどっちだ」
いや、アイツの事だし適当に歩いていれば俺を見つけるか。
ニグとはその内合流できると勝手に信じて城の入り口を目指す。初めて1人で歩き回る建造物だし、ガイドも存在しないが窓の外を見れば自分が城の大体どこら辺にいるかが解る為、そこまで困るような事はない。だからさっさと師匠の部屋のあった場所を脳内に叩き込んで、廊下を抜けて城の中央部分にまで戻ったら大階段から下の階へと降りて行くと、茶髪をポニーテールで纏めたロングスカートメイドの女性が階段の下で待っていた。
「アイン様、鍛錬の程お疲れ様です。アーク様よりアイン様、ニーズヘッグ様の世話を任されたシャーリィで御座います。何卒よろしくお願いします」
「あぁ、此方こそよろしくお願いします」
礼儀正しい相手には反射的に礼儀正しくなっちゃうよなぁ……。
キャラが崩れる。いや、まぁ、礼儀正しくて悪い事なんて何もないのだが。だが便利に使える人がいるのは悪くない。それにこの様子を見る感じ、アーク王子は自分たちの事を割と信用している……というより期待しているのが見える。少なくとも他のプレイヤーたちよりは優遇してくれているのだろうとは思う。
「あー、シャーリィさんニグ―――ニーズヘッグの事なんだけ彼女がどこにいるかは知らない?」
「ニーズヘッグ様でしたら先ほど26回目の死亡を経験した所で一旦休憩する為に部屋でお休みになられていますが」
「なにやってんの、あの子」
いや、マジで。26回死んだってどういう事?? え、もしかしてジークフリートにガチ殴りした?
えぇ……。
とりあえずはニーズヘッグの方からも報告を聞く為に一旦ゲストルームまで行く事にした。やっぱアイツ、絶対に1人にしたりこの世に放ったりする事は出来んな、というのを再確認しながら。
お城でのお話も次回で終わり。
準備を終えたらGo East Go。与えられたタスクは早めに消化するのに限るのだ。無論、それは可能であれば……という言葉がつくけど。