「うわっ、ぼっろぼろじゃねーかお前」
「貞光も壊れる寸前だわ」
聞くたびにそのチェーンソー、名前が変わってるな……。
シャーリィに案内されたゲストルームはかなり広いもんで、高級ホテルのスイートを思わせる様な豪華さをしていた。調度品から装飾までの全てが上品でしつこくない作りになっている。これ、多分本来は外国の要人を泊める為の部屋なんだろうなぁ、という感じの作りをしている。そんな中で、ニーズヘッグがベッドの上でぼろぼろの状態で倒れていた。その服装は脱がれていて完全なる下着姿で、装備が端の方で積み重ねられている。髪の毛もやや艶を失っている様子を見せたままベッドに転がる姿に顔を顰める。
「お前さぁ……」
「めんどくさいわ」
「言う前から諦めるな……」
「ではニーズヘッグ様、此方の装備品ですが修理させていただきます」
「任せたわ」
室内のニーズヘッグに一切気にすることなくシャーリィは装備品を回収すると、修理用のアイテムを取り出す。ニーズヘッグの事を無視して、顎に手を当てながらシャーリィがまずは布関係の装備を修復する為に取り出したチューブを見る。
「シャーリィさん、それは?」
「装備品の修復に使う万能補助剤です。材料として活用する事は出来ないのですが、修復する時に使うと足りない部分を補う様に補助してくれるので修復する際はこれ一つで修復を行う事が出来ます。無論、修復する装備品に合わせた
「成程、生産スキルさえ取っていれば遠方でも自分の手で装備を修理できるか……」
となると装備の修復の為だけに生産スキルを習得しておく意味もあるのかもしれない。うーん、でもなぁ。育ててる余裕というか時間、ある? あ、でも爺‘sブートキャンプで1日1回1レベル魔法レベルがあげられるならスキルトレーニングの時間を余らせられるから楽になるのか? うーん、やっぱりわかんないなぁ。今の所情報というか上のレベル帯の感覚が全くつかめないから話にならない。
それはそれとして、
「修理、すみませんね」
「いえ、殿下より申し付かっておりますので。あ、ですが」
「はい?」
「この機械だけは修復に少し時間が必要ですね。機構ギルドかどこかの工房に頼まないと修理するのは難しいです。此方の方で依頼しておきますが、宜しいでしょうか?」
「お願いします……ちなみに代金の方は……?」
シャーリィは必要ありません、と言った。
「修復剤そのものは安いですし……それに此方の武装の方は修復の代金はジークフリート様が支払ってくれるそうでして」
「ジークフリートさん……」
「ちなみにですがお値段の程はこれぐらいでして……ごにょごにょごにょ」
「……うん……うんっ!? んおっ!?」
シャーリィが軽く提示した値段に目玉が飛び出そうになった。その勢いのままベッドに転がっているニーズヘッグに近づき、その両肩を掴んで激しく揺すった。
「馬鹿! このお馬鹿! どうして黙ってた! お前絶対アレのメンテナンス費用馬鹿にならないって解ってただろう! 馬鹿! 本当に馬鹿ァ!!」
「注意された気もしたわね」
「気もしたじゃねぇだろ! 絶対にビルドの時に忠告されただろうお前。おまっ、お前! ニグお前―――!!」
「ごめんなさい。でもその時考えずに発言したらこうなったの」
「お前さあ! お前さあ! 修理にかかる費用5桁やぞ5桁!! しかも初期状態でだぞ! 解ってるのかこのポンコツ! おい!! おい!!」
「頑張るわ」
「頑張るじゃねぇんだよ!」
はぁ、とため息を吐いた頭を抱えた。ジークフリートが今回の修理費を肩代わりしてくれて本当に良かった。危うくメインウェポンなしという事態に突入する事になっていた。もしくは……頭を下げて借金。だからこいつ本当に目を離しちゃいけないんだ。見てない隙に本当にこういう事やらかしてくれるから。いや、そりゃあ初期武器としちゃあ性能滅茶苦茶いいなぁ、と思ったけど。
こんな事ある?
「もういいや……一旦ログアウトして飯食うか……あっ、シャーリィさん、修理は何時頃……?」
此方の質問に修復作業を続けながらシャーリィが答えてくれる。
「修理の委託を行う必要があるので流石に半日程の時間を必要とします」
「んじゃログアウトして問題ないか」
ベッドに満足げに倒れている犬を無視して休憩の為にログアウトする。
本日の昼食はスパゲティ。個人的にスパゲティはミートソースとかカルボナーラの液体タイプのパスタよりも、ドライタイプの方が好きだ。特にチョリソーソーセージとか入っているとピリ辛で好き。パスタは割と手間もなしに作れるから素材としては非常に優秀なんだが、流石に3食パスタは飽きるので夕食だけは毎回意図的に何か真面目に作る事を考えたり、どっかで野菜を食べる事を考えている。まぁ、だが昼は軽めにパスタだ。これとスープとパンでおしまい。
昼食を食べ終わったら水分補給とトイレを済ませて再びログイン。
だが当然のごとく修理に出したチェーンソーはまだ戻らないし、メインウェポンのないニーズヘッグなしで新しいエリアへと進みたくはない。個人的には割と早く王族の依頼なんて物を消化したいのだがそれが出来ないのであればこの開いた時間を有効活用するしかない。
そう―――ダリルシュタット観光だ。
初日からぶっ飛ばしてきたのだ、実はまだダリルシュタットにどういう施設や組織があるのかというのをWIKI上の情報でしか知らない。ならここは1度、王都での観光を経験して初日見る筈だった施設の類を見て回ろう、という話になる。した。チェーンソーなんてキワモノが強いだけの武器だって絶対嘘だと思ったわ。
私服コーデなんて流石に用意してないので服装は戦闘用の装備のままだが、ガラドアシリーズは割と見た目も良いのでまるで問題ない。ただ、目立たないようにまた城の小門から外に出て、ダリルシュタットの市街地に出た。
そして見る、人で賑わう王都の姿を。
「開始時にも見たけど、やっぱすげぇなぁ……」
「ね。ここが仮想現実だってことを忘れそうよね」
路地裏から大通りへと出ると同時に、ダリルシュタットの街並みを見る。細部まで作り込まれた、というレベルじゃなくて現実として目の前に存在しているように見える。一体、どれだけの金と技術を使えばこんな世界を構築できるのだろうか……さっぱり解らない。ただ解かるのはこの世界、歩いていても楽しいという事だ。
「とりあえず軽く歩き回るけど……行きたい所ある?」
「何か食べたいわ」
「お前そればっかだな……」
いや、まぁ、良いんだが。異世界の料理というのも面白そうだし。
「後は冒険者の宿ってのもちょっと見たいんだよな」
「宿?」
「あぁ。この世界、ギルドじゃなくて酒場とか宿の依頼仲介タイプらしいね」
〇〇の〇〇亭、みたいな古典ファンタジー系統の世界観というか。冒険者協会とかそういうのは存在しないらしい。その代わりに商業ギルドとか魔術協会みたいな組織があるらしいのだが。そっちの方も後々確認する必要あるからとりあえずついでに寄っておくことを予定に入れておこう。とりあえず、チェーンソーの修理が完了するまでは一旦休憩だ。
純粋な観光を楽しむ事にする。
流れゆく人の姿、賑わう屋台の様子、純粋に世界を楽しむために歩き回る他のプレイヤーの姿、ケツを地面にバウンドさせながら超高速移動する変態の姿。
「……今のは見なかった事にするか!」
何やら必死の形相で上級AIっぽい気配の存在が全力疾走でケツワープを追いかけていたが、やっぱ変態っている所にはいるんだなぁ、とか野生のデバッガーってやっぱ実在するんだなぁ、とか色々と思う所はあるけど忘れる事にした。
忘れろ。
「ボスー、こっちこっち。コレ食べましょう、コレ」
そう言ってニーズヘッグがいつの間にかジェラート屋の前にまで移動していた。本当に食欲に素直な奴だなぁ、と思いながら残金を一応確認しておく。すっからかんという訳じゃないが、割と財布に余裕はない。やっぱり一度素材の売却を行って所持金の補充を行った方が良いかもしれない。というかしなきゃヤバイ。素直に王宮でお金を貰えばよかったか……と思いつつも、目を輝かせてジェラートを見るニーズヘッグを見ると、その姿をそう簡単には止められない。
「はぁ……まぁ、マテマテ。俺にも味を選ばせろ。なるべくごてごてしてない味が良い」
「そう言えばボスはあまり味が濃い物は好きじゃないわよね」
「濃いというか……アメリカンな濃さが苦手なんだよなぁ。科学調味料マシマシって感じのアレが。後砂糖の爆弾みたいな甘さも嫌いだな。マジで辛い」
ジェラート屋の表記値段を見るが、払えない値段ではない。これぐらいならまぁ、1個ぐらいいっかという感じでニーズヘッグに軽く追いつき、メニューを見る。お、使われている素材の名前はリアルと一緒らしい。まぁ、ここで独自の名前とか出して来たら割と困るってのはあるが。
「へぇ、やっぱ色々とあるんだな。お勧めとかある?」
「そりゃあ勿論ピスタチオだよ。ジェラートを食べるのにピスタチオを食べないのは馬鹿のやる事だ。買うならとりあえずで買って食えるぞ」
「じゃあピスタチオ1つと……後はこのチョコチップを1つ」
「あいよ!」
ニーズヘッグが口を挟む前にサクッと購入を済ませると、横からやや唇を尖らせたニーズヘッグの姿があった。
「別に奢ってくれなくてもいいのに」
「サンドイッチ、買っただろう? ならお返しって事だ」
「むぅ……なら仕方がないわね」
ニーズヘッグはこういう時、味を決めるのに永遠に時間をかけてしまうタイプだから、さっさとこっちで注文を取らないと終わらない。それで勝手に味を決めてしまっても大体は満足してくれるから助かる。
ジェラート屋の兄ちゃんからチョコチップ味とピスタチオを受け取り、とりあえずお勧めのピスタチオを渡してこっちでチョコチップを食べる。うん、濃厚なミルクの中にチョコの苦さを感じる甘みが混じっていて美味しい。お勧めはピスタチオらしいけどこれもこれで結構良いな。また今度、別の味も挑戦してみようか、そう思っていると横からニーズヘッグの口元が近づいてきて、食べている途中のジェラートに噛みついてきた。
「あ、こら」
「んむむ、こっちも美味しいわね。はい」
そう言ってピスタチオの方を差し出してくるからこっちも一口試してみる―――うん、ピスタチオの風味自体は失われてないのにジェラートとしてちゃんと甘さと冷たさが両立している。不思議なもんだなぁ、こういう菓子って。
「美味しいな」
「そうね……次は何を食べようかしら」
「WIKIの食いだおれフォーラム見てると甘いのではワッフルとか美味しいって書いてあるな」
「じゃあ次はワッフルね」
「その前に換金な」
ゆるーい空気の中、1日遅れのダリルシュタット観光を始める。つかの間の休息だからこそ、全力でエンジョイする事を俺達は忘れてはならないのだ。
へぇ、デートかよ。
きっと野生のデバッガーだって居るはずだ。かくいう私も黒い砂漠開始直後はバグ発見に走りまわって遊んでた。イカダ飛行バグとか楽しかったなぁ……。