断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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ぶらり、ダリルシュタット観光 Ⅱ

「はいよ! 素材売却しめて5万4千だ」

 

「どうも、ありがとうございます」

 

「いやいや、此方こそ良い商売させて貰ったよ。グリムビーストの素材は直接魔獄から召喚しなければ入手できない素材だからねぇ。手に入れるにしても召喚が出来る魔導士の協力が必要だし、第一制御可能な魔物じゃないからな! そういう意味では貴重な素材を売却して貰えてこっちも嬉しいもんさ。また何か見つけたら買い取るから売りに来てくれ」

 

「変に値切らなければ何度でも来ますよ」

 

「エルディア王の御威光ある限り俺達は真っ当な商売を続けるさ。稀人様、あんたにも神々のご加護を」

 

 素材屋、という専門の商店がある。素材の類はこういう専門の店で売るのが一番金になるらしい。少なくとも通りすがりのエルディア人数人に聞いてみればそういう答えが返ってきたのでそれを信じて売り払う事にした。意外と結構かさばっていた素材が高値で売れたことは喜ぶべき話なのだが、この売り上げが全部チェーンソーの修理費で吹っ飛ぶと考えるとちょっと憂鬱になってしまう。これだけやってこの稼ぎ……やっぱり根本的な金策不可避では?

 

 やっぱりどっかにスポンサーしてもらう必要がありそうだ。

 

 まぁ、今のところはそれを忘れておく。今はニーズヘッグとのゆっくりお散歩タイムなのだから。換金を終えたらその足でそのまま人気のあるというワッフルのお店へと向かったが、見てみれば既に結構な数の人―――というかプレイヤーが同じことを考えて大盛況という状況にあった。

 

「これじゃあ食べるまで並ぶ事になりそうね」

 

「他、回ってみるか」

 

「口の中がワッフル色だったけれどしょうがないわね。何か別のワッフルをしまワッフル」

 

「頭の中ワッフルだけじゃねーか!! ふわっふわかよ!」

 

 まぁ、気持ちは解らなくもない。だけど件のワッフル店が満員でどう見ても並ぶしかない状況なら適当に歩き回って何か探したほうが早いだろう。それにほら、

 

「見て、ボス」

 

 既にニーズヘッグの興味は別の食べ物に移っていた。その姿に笑い声を零しながら歩いて追いかければ、今度はパイを焼いている屋台へと近づいていた。ここで売られているのはどうやら果物を入れたパイらしい。またどうせ長々と悩むであろうニーズヘッグの為にも、纏めて3種類のパイを購入してしまう。

 

 アップルパイ、ミックスベリーパイ、そしてカスタードパイだ。それを受け取ったニーズヘッグが幸せそうに1つ1つ、かみしめる様に齧り始めるのを横目に、店主に話しかける。

 

「結構屋台とか多いけど、ここって普段からそうなのか?」

 

「はは、バカ言っちゃいけないよ。毎日こんなわけないさ」

 

「あぁ、やっぱりそうなのか……となると祭りというか、歓迎の意味で?」

 

 その言葉に屋台の店主が頷いた。

 

「あぁ……稀人様たちを迎え、気持ちよく送り出す為にな。ぶっちゃけ俺達のこれ、値段的には赤字なんだぜ? 食材だってこの状況だと無限に手に入る訳じゃないしな。それでもその分の費用を王家が補填してくれてるおかげでなんとかなってるんだ」

 

「成程なぁ……はいはい、あんむっ……ん、美味しいのは解ったから」

 

 口元へと突き出されたカスタードパイに齧りつき、嬉しそうに食べているニーズヘッグの頬のカスタードを指で拭って口に運ぶ。やっぱり甘い。こういう感覚の1つ1つを完全に再現しているこのVRMMOという世界、これがまだすべてのVRMMO史の始まりだと思うと、一体技術はここからどういう次元へと成長してしまうのだろうかと考えてしまう。まぁ、考えるだけ無駄なんだけど。

 

「仲の良い兄ちゃんと姉ちゃんだなぁ……それにさ、俺達の王子様の判断は何も間違っちゃいなかった。空を見ろよ! ガラドアの方をよ! もう既にあの忌々しい色の空が無くなっちまいやがった!」

 

 俺達がやった事だ、と言いたかったが嬉しそうなその姿を見てしまうと少しだけ恥ずかしさと、ガラドアの宿場町の人々の姿を思い出してしまい黙り込んでしまった。

 

 アーク王子は―――俺達プレイヤーに、全部ぶっこむ事を覚悟していたんだなぁ。

 

 ゲームだから、と言ってしまえば簡単だろう。だがその判断、覚悟、そして悩む姿をゲームの設定だからと片付けるのにはあまりにも難しく、生々しい感情だった。何もかもがリアルに感じられるせいで現実との境界線さえも揺らいでしまいそうで……ちょっとだけ、怖い。

 

「ご馳走さん。ニグ、次はどうする?」

 

「冷たいものが飲みたいわね」

 

「お、あっちでサングリアを売ってるな。ちょっと飲んでみるか……あ、お前は飲み過ぎるなよ?」

 

「解ってるわ。でも4杯までならいいわよね?」

 

「何も良くないが?」

 

 あ、またケツワープが跳んで―――あ、待って今通り過ぎたのスーパーZスライドのポーズじゃない? すげぇ、あんなことも出来るの? いや、バグか。明らかに追われてるし。無視しよ、無視。

 

 

 

 

 それからもうちょい屋台を見て回った。屋台を見て回るだけでも結構楽しかった。やっぱり中世ヨーロッパがベースになっているのか、出てくる料理のベースは基本的にそっちがメインとなっている。その中にどこかで見覚えのある北欧風の料理が並んでいたりして、ちょっと面白いカオスさを見せている。個人的に面白く感じたのはマヨネーズが既に存在している影響でマヨネーズチートが出来ないと嘆いている一団を見つけた事だ。

 

 生活感が各所に見えてくるのが本当に面白い。ここにいるNPC達は設定ではなく、実際の生活と思考を持って行っている。料理1つを取っても好みやアレンジでこだわっている部分さえある。

 

 それが楽しい。歩けば歩くほど新しい発見があって、常に新鮮さのブローに襲われているような気持ちだった。それだけじゃない。誰も彼もが生きる力で溢れているような、笑い声と笑みと活力で満ちていた。

 

 この都市は生きている。

 

 それを肌で感じられるような時間がここにはあった。

 

「最後にあれ食べましょう、あれ。それが終わったらもう終わりで良いから」

 

「もうかれこれ1時間食って回ってるんだけどなぁ……」

 

 それでも腕をニーズヘッグに引っ張られる事を良しとしてしまう俺自身にも問題はある。だけど屋台の方から香ってくるこの美味しそうな匂いには勝てない。惹かれるように最後と決めた屋台へと向かう事にした。最後の締めとして選んだのは胡麻団子の屋台だった。ここ、中世風の街並みには珍しい東洋風―――というよりは中華・モンゴル系の意図の屋台に惹かれたようだった。ふらふらと近づいてはニーズヘッグが指を1本立てた。

 

 帽子をかぶった青年の店主は笑みを浮かべ、

 

「1つですね?」

 

「10個欲しいわ」

 

「そ、そっちでしたか」

 

 ちょっとだけ頬を引きつらせながら胡麻団子を笹の葉に包んで行く。それを見ながらほえー、と声を零す。

 

「まさか東洋系の屋台まであるとは思わなかった」

 

「―――それは単純にこっちに取り残されてしまったからだ」

 

 声は青年の背後の方から来ていた。奥のスツールには銀髪、青年と同じように帽子を被っている女の姿があった。ご立腹と言わんばかりに足と腕を組んでいる様子はまさしく全身で不満を示す様子だった。どことなく、他の人たちよりは少しだけきらきらとした印象を受ける人だった。どっちかと言うとアーク王子に近いタイプというか。それと引き換えに店主の青年の方はジークフリートとかに近いもっとドロッとした感じに近い。

 

 存在感が濃いというか、濃密というか、詰まっている感じだ。

 

「イェン……」

 

「世界断絶などとはいい迷惑だ。港と王都が切り離された影響で帰る事も何も出来んとはな。これが不満でなければ何を不満だと言えば良いのだ全く」

 

 悲観でも、絶望でもなく、そこにあったのは怒りだった。静かに、確かに怒りを抱いている。

 

 このダリルシュタットを歩いてて感じて見えたのは希望と、そして僅かな逃避。縋っているとさえも言える。プレイヤーたちの存在を希望として、そしてガラドアが解放された事にすがっている。それが他の地域にも広がる様に、と。食料にも物資にも限界があるし、それが形として彼らには見えているのだろう。ここはよくあるMMOみたいに倉庫や在庫が自動的に補充される訳じゃないのだろうから。だから底を尽きればあとは死ぬしかない。その前に果たして俺達が成し遂げる事が出来るのだろうかどうか、それに希望と絶望が入り混じって今日という日を全力で笑って過ごしている。

 

 そのバイタリティの前向きさは凄い。だがこの女性はそれを怒りという形で溜め込んでいた。

 

「私が封鎖領域に飛び込めるのであれば今すぐ八つ裂きにしてやったものだが」

 

「止めてくれイェン、お前もそろそろ良い歳なんだから落ち着いてくれないか……」

 

「兄上こそ私の事を放っておいて国へと戻ったらどうだ? 私はこっちで商会を立ち上げて好きにやるつもりだからな」

 

「お前を放って帰る訳にもいかないだろう。父上にどう報告すれば良いと言うんだ」

 

「そんなの私が知る訳ないだろう。兄上が勝手に考えてくれ」

 

「あのなぁ……あ、遅れました。此方胡麻団子です」

 

「どうも、これは代金で」

 

 胡麻団子を受け取ったニーズヘッグがうっきうっきしながら笹を解くと胡麻団子を取り出して頬張る。幸せそうに頬を膨らませている姿を横に、軽く口論しかけている2人の流れを断つように言葉を挟みこむ。

 

「すいません、ちょっと話を聞いても良いですか? 海の向こう側にも国があるんですよね?」

 

「ん? あぁ、そうだ。私と兄上は海の向こう側にある大陸から来ている。西と東で交流があるがそこまで親しくはないからな……こっちで店を構えて東の道具を売れば金のある層に人気が出るのは見えているんだがな」

 

 イェンと呼ばれている銀髪の女の言葉に、帽子が触れてないのにもぞもぞと動く青年が言葉を続ける。

 

「いえ、その、海を渡るのってそれなりに危険な上に安くないですからね。個人で船を所有する程裕福ではない限りこっち側で店を構えて売りに出すなんてとても……」

 

「金なんてそこらへんで汚職している奴から奪ってきたのが元手だ、好きに使って良いだろう」

 

「そのお金も港に置きっぱなしだけどね」

 

「ぐっ……」

 

 その言葉にイェンは歯を食いしばった。

 

「だが最終的に私のこっちへと来るって判断は間違っていなかったぞ兄上!」

 

「それはそうだけどさぁ。結局東国も東国で飲まれちゃったみたいだし。だけどこれはそういう問題じゃないでしょ……」

 

「いや、そういう話だ。何、全て最後は丸く収まれば結構だ。それにここには噂の解放を成した稀人もいる。ガラドアを開放したように、港の封鎖も解除させてしまえば良い。ほら、何も問題あるまい」

 

 ふふん、と自慢げに言うイェンにあれ、と声を零す。

 

「……ん?」

 

 言いふらすのも面倒だから言ってない筈なんだがなぁ、

 

「なんだ、気づかれないとでも思ったのか? 話題に敏感な者であれば既に誰が解放したか、なんて調べてあるものだ。気をつけろ、稀人。貴様は今最も価値のある稀人だ。言い換えれば輝きの見えている宝石の原石だ。磨けば確実に光ると解る宝石が転がっているのだ、誰だって注目するし誰だって欲しがるに決まっているだろう」

 

 ビシッ、と指先を此方へと向けてくるイェンの圧力にお、おうと声を零す。

 

「誰も信用できないのであれば再び私の所へと来い。何、悪いようにはせん。何せ、私は嘘や謀の類は面倒でせんからな!」

 

「そこ、自慢する所じゃないよイェン。いや、本当に申し訳ありませんね、妹が。あ、これサービスの胡麻団子です」

 

「おいしい」

 

 ニーズヘッグ、完全に脳味噌を溶かして団子を食べている。まぁ、幸せそうならそれで別にいいけど。早くあっちのチームと合流して頭脳労働を任せたい。

 

「まぁ……考えておきます」

 

「良し―――見たか兄上、私の見事なコネクションの構築っぷりを」

 

「うん、やっぱり異国で1人にはできないなぁ、って確信したよ。あ、夜になったらここでは拉麺出してるから興味があったらまた来てください」

 

「ラーメン……!」

 

 あ、コレ夜になったらまた来る奴だなぁ、って確信する。どうするかなぁ、ラーメン。でも俺も食べたいなぁ、ラーメン。夜、来ちゃう? 来ちゃうか?

 

 騒がしい東国の兄妹と別れながらダリルシュタットの街並みに紛れる。夜はラーメンにするかなぁ、なんて考えながら今度は漸く街の施設を見る為に歩く。

 

 まだこれで屋台しか見てないんだからなぁ……見所で溢れすぎているな、この街。




 これはやはりただの犬のお散歩なのでは……?

 現地人は現地人の感覚と現実で生きている。彼らには彼らがNPCであるという自覚がないのである。
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