断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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ぶらり、ダリルシュタット観光 Ⅲ

 食べ歩きを止めた所でまず最初に向かったのは冒険者の宿だ。古典的ファンタジーだと冒険者ギルドではなく、店の店主がフリーランスの冒険者の仕事の斡旋等を行っており、仲介や宿に泊まって仕事をやらせたりするのだ。このシャレムの世界であってもこの古典的スタイルが採用されているようで冒険者ギルドという組織は存在しない。その為、戦闘を含めた冒険者としての仕事が欲しいのなら冒険者の宿に登録する必要がある。

 

 とはいえ、冒険者の宿とはカテゴリーを示す言葉であり、実際の場所を示す言葉じゃない。例えばコンビニと言ってもいろんなコンビニがあるのと同じ理論だ。つまり数多くある冒険者の宿から、自分が所属したい奴を探さなくちゃいけない訳だ。当然、多く冒険者を抱えている大手程優秀だったりサービスがしっかりしているもんだが、そういう所は冒険者が十分にいたり仕事が既に取られていたりするので、適度に自分の求めるのにあった所を探さないといけない。

 

 正直、こういうのを探すのも割とわくわくする。

 

 知らない街を走りまわって新しい店を開拓する楽しさをこうやって味わう事になるとは、思いもしなかった。

 

 ただ、今回は本所属する訳ではなく、色々と話を聞いてみたいというのが本音だ。所属するかどうか、そういう場所を探すのはまた今度として、今回は聞き込みで聞いた一番評判の良い”踊る金猪亭”を選んだ。

 

「おーおー、賑わってる賑わってる―――あ、お酒禁止だからな」

 

「まだ何も言ってないわ」

 

 でも不満げな表情を見てると言いたい事は大体解るよな?

 

 ともあれ、”踊る金猪亭”は繁盛していた。昼間からだというのに入口に入って見える酒場部分にはそこそこの人の姿が見られた。酒を飲んでいる奴もいれば、軽食を食べている奴もいるし、カードゲームで遊んでいる奴もいる。一目見て解るのは複数のグループにテーブル別で分かれていて、装備や恰好からして彼らが冒険者だってことだ。誰も装備している物は自分たちのそれよりも上質そうだ……恐らくは現地人の冒険者で、断絶する前に戦ってた人たちだ。

 

 今では戦う場所を奪われた、と言う形かな。

 

 あまり此方に向けられる視線が良くない感じがする。ここは軽く店主に媚を売る感じで行くか、と頭の中で勘定しておく。

 

 とりあえず足を止める事なく店内奥のカウンターまで行き、笑みを浮かべて片手を持ち上げつつ、もう片手でニーズヘッグに余計な事をしゃべるなよ、とサインを出しておく。

 

「初めまして、稀人です。こういう場所を利用するのは初めてなのですが……聞いたところ、ここらで1番評判が良いのはここですし、話を聞くならここが良いと思ってきたんですけど……」

 

 背後で数人、姿勢を正す様な音が聞こえた。そして店主も笑顔で対応してくれる。

 

「えぇ、ようこそ踊る金猪亭へ稀人様。今宵は此方に何か御用でしょうか?」

 

「えぇ、実はあまりこういう場所のシステムというか制度というか……冒険者の役割、仕事、報酬と依頼を出せる範囲はどういうものか、とか説明がして欲しくて……あ、これ依頼料必要ですか?」

 

「いえいえ、これぐらいでしたら何も問題はありませんよ。それで冒険者の宿の事でしたね」

 

「はい、恥ずかしながらそう言うものが私たちが元居た場所にはなくて……」

 

「ははは、誰しも初めてというものはありますよ。それで説明の方ですが―――」

 

 ちょっと長くなりそうなので適当な料理を頼んで、それを食べながら話してもらう事にした。やっぱりこういうのは軽く注文してお金を落とす事が基本だってロールプレイの初心者ブックにもあったしね。それに何かを食べている間はニーズヘッグも良く黙ってくれる。ただ美味しさはぶっちゃけそれほどでもない。

 

 システムに関してだが、冒険者の宿に登録すると基本的に専属になって、他の宿から仕事を受けない様になる。事情があったりするとまぁ、許される時もあるらしいが基本的には所属が決まる形になるから推奨されないらしい。その代わりにその宿に所属する冒険者は宿の名声を高め、そして宿の方は活躍している冒険者の事を宣伝してくれる。宿と冒険者の評判が上がれば依頼も増えて、Win-Winという関係が構築される。大体想像していた通りのシステムになっていた。ちなみにちゃんと冒険者にもランクはある模様。

 

 依頼を出すのも難しくはない。基本的には宿の主人に依頼を提示して、相場と動かせる冒険者を教えて貰ってそこから交渉する形になるらしい。

 

「思ってたよりもだいぶシンプルなシステムですね……」

 

「あんまり複雑にしてしまうと覚えられない人が出てきますからね。結局、冒険者という職業は上のランクの人間にならない限りは基本的に日雇いの便利人程度の認識ですからね。無論、ウチにいるのはどれも実力、人格が保証されている連中ですよ」

 

 まぁ、と言葉が付く。

 

「最近は自由に仕事が出来ずにちょっとピリピリしている分もあるので、そこだけはお見逃しを」

 

「封鎖領域ですか」

 

「えぇ……アレがあるせいで遠方への依頼が出来ませんからね。基本的に普通の人がやりたがらないような面倒な仕事や隙間の仕事が回されますからね。となると遠方への手紙運びや人が寄り付かない場所での仕事、或いは面倒な魔物の相手とか雑用になる。だけど封鎖領域が展開されていてそう言う仕事が潰されていて、ね」

 

 そしてそのまま小声で続けてくる。

 

「今じゃ封鎖領域に入れるから稀人様たちに仕事を頼む形になっているしね……ちょっとこっちは下火かもしれません」

 

 まぁ、それも、と声量を戻して続ける。

 

「封鎖領域が解放されれば、仕事はこっちに回ってくるでしょうから、期待してますよ」

 

 根本的な人に対する評判と信頼は現地人の方が上だから、利用するなら現地冒険者の方……という形か。

 

「あぁ、でもそうか……レンジャーやスカウトを探してるならここでガイドを雇えば良いのか。使えるな……」

 

 マルージャの方では深刻なスカウト、レンジャー不足が問題になっているらしい。当然ながらいきなり野伏や斥候能力を人間に生やせと言っても無理だ。アレは訓練して身に着ける能力だ。ニーズヘッグの様な突然変異でもなければ感覚と直感で最適解を出せる訳じゃないのだ。そしてこういうのは割と時間がかかる。その訓練を終えている人間を雇う事が出来るとするなら……たぶん、所属する以上の意味がある。

 

「話、ありがとうございました。たぶんまた来ます」

 

「その時をお待ちしていますよ。皆、仕事に飢えてますからねぇ」

 

 良い時間だった。面白味は欠片もないが。これ、露店で何を売ってるとか、欲しい素材の値段の相場とか。そういうのを確認するのにも使えそうだなぁ、と思う。とりあえず所属方向とかではなく、利用する方向で活用するかなぁ、と判断して外に出る。

 

「さーて、次はーっと」

 

「えー、まだつまらない所を回るの」

 

「回るんだよ! 施設の類は把握してないと後々困るからな。ほら、終わったらラーメン食べるからそれで我慢しろよ」

 

「ふぁい」

 

 まぁ、面倒なのは解るけどさー。

 

 

 

 

 それからもうちょっと色々と施設を回る。まずは商業ギルド。流通とか物流とかそういうのを管理している商人たちの集まりだ。屋台とか、露店とか、そういう店を出す事も商業ギルドに通達して許可を貰わないとならないらしい。そしてその時何を売りに出すのか、等を軽く検閲する事で違法な品が扱われていないかチェックもしているらしい。つまり欲しいものはここでチェックすれば大体どこで購入できるのか解るというシステムになっている。便利だ。さっきは冒険者を調査に雇うと考えたけどやっぱお前らの仕事ねーわ、悪いな!

 

 それから次は魔導ギルドへ。召喚士用の触媒や、魔法による戦闘を支える為の触媒、他には教本なども販売されている。魔法エディットで作成されている魔法のサンプルというものも結構な数があり、それが纏められていたりする。後はどの属性がどういう魔法を備えているのか、内包しているのかというのも低レベル帯であれば自由に閲覧出来ていた。あとついでに魔法の練習スペースもあり、魔法のスキル上げに最適な木人殴りも練習所で出来る様になっている。登録して所属しておくことで魔導師にしかできない仕事を斡旋したりしてくれるらしい。

 

 ……当然ながら魔法技能とは誰もが覚えられるものではなく、プレイヤーたる稀人が規格外なのだ。なのでこういう魔法技能を持てない奴とか、クラフター技能を全く上げられない奴とか。そういう連中が最後に行きつくのが冒険者というものだ。

 

 なんだ、屑しかいないじゃん。雑魚ばっかだわ。お祈りしとくわ。

 

 ちなみにA師匠に弟子入りしたからか、既に魔導師ギルドに所属している扱いだった。その気になれば《エンチャント》や他の属性魔法の習得を優先して補助してくれるらしい。やっぱり世の中コネだな。

 

 それが終わったら向かったのは教会だ。

 

 ここでは教会の前を全裸の男が疾走してたのでまた今度行くことにした。頑張ってくれ鬼の形相で大剣を2本振るってた神父、教会の平和はお前に任せた。

 

 盛大に教会をスルーして向かった先はエルディア機工房、このダリルシュタットで機工等のメカに関する開発、修理、強化を行う場所である。つまり今現在ニーズヘッグのチェーンソーが送られてメンテナンスされている場所でもある。ニーズヘッグの武器はチェーンソーと言う実に特殊なもので、生産も開発も強化も全部この工房でないと行えない。その為、これから装備を強化するうえで必ずニーズヘッグはここに来ないと武器の強化を行えないのだが、

 

 到着と同時に工房から走り出して逃げる人々の姿が見えた。

 

「セルドライト鉱石が臨界を超えて爆発するぞぉお―――!!」

 

「うわあああ―――!」

 

 慌てて逃げ出す姿を確認し、

 

「えっ」

 

 と声を零す。だが光が工房から溢れ出し、あ、これ解りやすいオチだ。そう思った瞬間には目の前にニーズヘッグを盾に引っ張り出した。

 

 そして全てが光に染まった。




 一切何の躊躇もなく女を盾にする男。それで本当に主人公かぁ?
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