断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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ぶらり、ダリルシュタット観光 Ⅳ

「煙たいわね。けほっ」

 

「いやぁ、世紀末かよこの王都」

 

 もやもやと煙が工房から溢れ出し、爆発が終わった所で慣れた様子で研究者や技術者たちが工房の中へと戻って行く。もしかしてお前ら、日常的にこんなノリなの? そう思っていると中から声が聞こえてくる。

 

「換気扇つけろー!」

 

「壊れてるわクソが! 代わりに除湿器使え除湿器!」

 

「それも壊れてるわ!!」

 

「じゃあドリル使うか」

 

 ぎゅいいいい、という音が工房から聞こえてまた何かが爆発する。それをしばらく眺めているとやがて煙が工房から消え始め、普通に営業を再開する。周りの人たちも爆発する瞬間だけは逃げて、そのあとは普通の生活に戻っている。え、まさかこれが平常運転なの? マジで? こんな面白い場所なの? まぁ、中世ファンタジーに科学を持ち込んでいる時点で面白だとは思っていたが。ここまでになるとは思わないだろう。

 

「えぇ……あそこにチェーンソー預けたのか」

 

「明日まで預けてたら勝手にドリルとか波動砲つけられそうね」

 

 ニーズヘッグのその言葉に腕を組んで目をつむる。

 

「……」

 

 マジでやりそうだなそれ。とりあえず改造されたらたまらないし、急いでニーズヘッグと一緒に工房の中へと飛び込む。なぜが高速回転するドリルが煙を工房内で円状に回転させて渦巻かせているが、楽しそうな表情をしているしそれで良いんだろう。とりあえず話をする為にカウンターに行くと、カウンターの向こう側には誰もいない。

 

「誰もいないわね……適当な人を捕まえれば良いのかしら?」

 

「言うて忙しそうだしな……」

 

 また後で出直すか? でも教会も変質者出現するしなぁ。

 

「ん? 工房になんか用か?」

 

 一旦下がろうかなぁ、と思った所で眼帯を装着し、たばこを口に咥えた男が話しかけてきた。肩からは巨大なケースをストラップで吊るしている。恐らくは何らかの武器を格納しているのだが、そういう事をする時点でPCではない事が証明される。

 

「あなた誰?」

 

「おっと、そうか、そうだったな。俺はライネル・ダガット。ここでテスターに雇われてるもんだ。なんか用事あるなら俺が話を聞くぜ」

 

 となると吊るしているケースの中身は試作品とかなんだろうか? ちょっと興味あるなぁ、と思いながら返事をする。

 

「いやぁ、実はここにメンテナンスを頼んだ武器があるんだけど……武器?」

 

「チェーンソーは立派な武器よボス」

 

 武器なのかなぁ、アレ? 殺傷力は確かにあるけど武器と言うジャンルは絶対に違うと思う。だけどニーズヘッグは何が解らないがアレを酷く気に入っているようだった。まるで長年の相棒を見つけ出したような様子だ。

 

「あの子が無事かどうか知りたくて」

 

「チェーンソー? チェーンソーなんてもんを使ってるのかオタク? あ、いや、待て……そういや稀人の誰かがチェーンソー使って封鎖領域を突破したって話だったな。お前かそれ? ひゃあ、稀人にも面白れぇのがいるんだなぁ」

 

 腕を組んでライネルがげらげらと笑っている。やっぱりこっちの人でもチェーンソー使うのは普通じゃないんだな。それが知れただけでも良かったわ。

 

「それはそれとして安心しろ。預かったもんはちゃんと保管して傷つかねぇようにされてる筈だからな。んー、ちっと待ってな」

 

 ライネルが工房の奥へと声を飛ばす。

 

「おい! ドク! 生きてるんだろドク! 上客だ! さっさと対応してやれよおい!」

 

 ライネルの声が奥へと響き、未だに煙が充満する工房の奥からビン底眼鏡を装着した白衣、猫背の男が現れた。

 

「な、ななな、なんだいライネル君。ん? やっぱりドリルが欲しいかい? 欲しいんだね!? まずは両手両目からドリルにしようよライネルくぅぅぅん!!!」

 

「両手まではやりたい事解るけど両目ってなんだ、両目って」

 

「い、いや、い、いいいい、いけるかなっ、って」

 

「無理があるわ。それよりもほら、お前向けの客だぞドク」

 

「んー?」

 

 ドク、と呼ばれた白衣の男が此方とニーズヘッグにカウンター越しに接近するように上半身を乗り出してくる。そのアクションに合わせて首元からロボットアームが出現し、モノクルをドクに装着させていた。言っている事、やっている事の1つ1つが発狂しているとしか言えないが、この謎技術の清らかさはリアルにはないものだ。しきりにふむふむと頷いて納得した様子のドクは離れると、

 

「で、誰だぁい、君らは」

 

「何を納得したんだこの人……」

 

「深く考えると脳をやられるぞ」

 

 完全なる狂人じゃん。ファッションとかじゃないマジもんの。ドクとかいう新たなる脅威の気配に僅かに怯えていると、あぁ、とドクが声を零す。

 

「成程成程、アレだな? 改造手術が欲しいんだねぇ!?」

 

「違います」

 

「預けた武器が大丈夫かどうかを見に来ただけよ」

 

 元々は見学の予定だったんだが、急遽預けたものは本当に無事かどうかをチェックする回になってしまった。ニーズヘッグもジェスチャー込みでチェーンソーの事を説明すると、ドクが再び頷いた。こいつ、本当に理解しているのか? そんな事を疑問に思わせるが、

 

「あぁ、対魔チェンソー試作32号君の使用者か。アレを勝手に神G()M()に持ち出された時は驚いたけどちゃんと使われているようで安心したよ。人が振り回す事を想定して設計してないからまともに動かせないかと思ったけど損耗具合を見る限りかなりの数狩っている様子だからね、良いデータが取れたよ。アレならちゃんと保管室にロックしてあるから安心すると良い」

 

「!?」

 

「いや、この人自分の分野の事なら真面目で有能なんだよ。それ以外が死滅してるだけで」

 

 ライネルが諦めた表情と口調で溜息を吐く。どうやら普段から相当苦労しているらしい。両手を合わせて合掌しておく。

 

「まぁ、興味がわいたからさっさとメンテナンスも終わらせてしまったしね。もう持って帰るかい?」

 

「お願いするわ」

 

「そうかい。マイヤーズ君、48番の物を取ってきてくれたまえー」

 

「ういーっす」

 

 奥から返答の声が聞こえ、しばらくすると台車にウェポンケースを乗せた男がやってきた。カウンターの横で止まるとケースのボタンを押し、それが開く。その内部からチェーンソーの修復された姿が露になり、それを片手でニーズヘッグが持ち上げるのを見て、運んできた男がマジか、と表情を変える。小さい声で体鍛えるかぁ、なんて言葉を零しながら男が去って行く。

 

「色々と作成したんだがねぇ、ガンブレードやらドリルやらマシンクロスボウやら、結局どれも新しいとかメンテナンスの手間とかで欲しがる人がいなくて困ってたんだよ。君はその子が好きかぁい?」

 

「えぇ、大変気に入ってるわ」

 

 ぶおんぶおん言いながら片手でチェーンソーを振り回すニーズヘッグの姿をドクが慈母の笑みで見守っているが、なぜかチェーンソーのスイッチを入れてやっているので絶賛稼働中。悲鳴を上げながらライネルと一緒に退避してる。駄目だ、あの空間はもはや変な領域に突入している。俺達ではどうしようもないのだ。あ、ドクの頭掠った。

 

「そうかいそうかい。ならお金や鉱石を集めたらここへ来ると良いよ。君みたいなモルモ―――有望な稀人なら是非とも優先してお手伝いしてあげたいからねぇ。そのチェーンソー強化したいだろぉ? 君に扱いやすいように強化してあげるから色々と貢―――持ってきてくれたまえよー?」

 

「ちょくちょく取り繕えてないな?」

 

「隠す気ないからな、ドク」

 

 はぁー、こわ。遠くから眺めておこう。

 

「解ったわ……いずれは神もばらばらにするチェーンソーの為にも、私は頑張るわ」

 

「ひっひっひっひ、良いねぇ、良いねぇ。僕たちじゃ無理だろうけど君たち稀人なら神々さえも倒せちゃいそうだね。それはそれで面白そうだし、個人としては応援するよ。ではライネル君、わ、わわわ、私は戻るよ! そそそ掃除が終わってないからね!!」

 

「頑張れー」

 

 とぼとぼと猫背のドクが工房の奥へと戻って行くと、再び爆発音が聞こえてくる。うーん、この騒がしさはあんまり嫌いじゃないかもしれない。ニーズヘッグもチェーンソーをインベントリへと戻した所で退避していた所から出てニーズヘッグの所へと戻り、軽く感謝の言葉をライネルに告げておく。その言葉によせやい、とライネルが笑う。

 

「感謝してるなら俺をその内暇なときにでも雇ってくれよ、今は仕事の大半がキャンセルになってて暇なんだよ。なんなら1回ぐらいはロハでやるぜ、ロハで」

 

「お、じゃあその内強敵と戦う時に呼びつけるよ」

 

「ははは、良い根性してるぜお前」

 

 軽く握手してから別れを告げて、工房を後にする。かなり科学よりの施設だったが、この世界に存在する以上はあの手のテクノロジーもこの世界のどこかで広まっているのかもしれない。やっぱり出てくるのだろうか、ロボットとか?

 

 まぁ、ごっちゃファンタジーには良くある設定とか背景だ。それも含めて楽しめれば良いんだ。運よくニーズヘッグの武器を早めに回収する事も出来たし、軽く消耗品だけ補充したら東街道へと偵察に出てもいいかもしれない。




 ニグさんぽは続く、ニグが満足するまで。
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