断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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もしや無理ゲーなのでは? Ⅱ

 黒い太陽が輝いている。

 

 魔晶石が街道脇に生えている。

 

 黒い水が街道に薄く張っている。

 

 整っていたはずの街道は荒らされた形跡と共に封鎖領域に飲み込まれていた。そこにニーズヘッグと2人で乗り込んだ。ガラドアの時と同じ空気を感じる。微妙に輝く黒い粒子が風に乗って不安と絶望感を掻き立てる。まさに世の終わりの様な景色がここにあった。先ほどまであった美しい……とまでは言えないが、自然で溢れた整えられた景色はここになかった。

 

 ちゃぷん。

 

 足を前に運び出すと薄く張った黒い水が跳ねる。まだ街道が見える程度にしか水は張っていないが、この水が体に良さそうな物には見えない。難易度が高いこちら側の街道に合わせ、環境ももっと変質していた。或いは、もっとダリルシュタットから離れた場所であれば更に環境が変質しているのかもしれない。ここはまだ王都に近い、その影響でこの程度なのかもしれない。どちらにしろ、今日はここの確認来たのだ。まずはIDの存在があるのかどうかを確認しなくてはならない。

 

「……ニグ?」

 

「……」

 

 先に進む前にニーズヘッグの準備を確認しようとすると―――耳をピン、と立てた犬の様に正面を向いて警戒していた。いや、耳なんてものはないんだけど。だけどニーズヘッグの見せている威嚇するような、警戒するような表情は奥へと向けられており、それはつまりニーズヘッグが警戒するレベルの存在がこの封鎖領域にはあるという事だ。

 

「なにか、大きなものがいるわ」

 

「オッケー、なら何時も以上気を付けていくとしようか……と、その前に」

 

 ホイッスルを取り出し、馬の召喚が可能かどうかをテストする。笛を吹いてノルトの召喚を行うと、魔法陣からノルトの姿が出現してきた。どうやらノルトも普通にここに入る事が出来るらしい?

 

女神『あ、マウントはプレイヤーの加護を分けて貰っているという設定で持ち込めますよ。IDは無理です』

 

「設定とか言いきったなフィエル。だけどマウントが使えるのはありがたいな」

 

 でもやっぱりあの苦労天使、ちゃんと監視して仕事してるんだなぁ、というのも伝わった。質問を思いついたらしてみるのもいいかもしれない。とりあえずノルトの出番は今はない。少なくとも走り狩りの出来るレベルのエリアではないだろう、ここは。そんな事やってたら処理できない量のエネミーに囲まれて一瞬で詰むだろうし。なら、徒歩で移動するのが一番安全だ。

 

「……良し、いいな? 進むぞ」

 

 ニーズヘッグの頷きを確認してから武器を手に、歩き出す。と言っても歩き出して直ぐにエネミーとエンカウントした。

 

 本来のぶよぶよした肉体に魔晶石を鎧の様に各所に纏った大きなカエル―――名称はインフェクティッド・トード、ジャイアントトードの侵食個体だった。しかも生えた魔晶石によって体が部分的に保護されているせいか、クソ体力が更に強化されている感じがある。間違いなく面倒な相手になるとは解っているが、

 

 経験値の為、しょうがない。何よりも奥へと進む道を阻んでいるのだから倒すしかない。

 

「エンチャ完了……ゴー」

 

「わおーん」

 

 コミカルに吠えて一気にニーズヘッグが飛び出した。彼女の動きはジークフリートに26回殺された事により更に最適化された。チェーンソーと言う意味不明な武器を使っての戦闘、その動きをシステムに頼らず自分の肉体で制御するようになった。無駄な大振りは省き、的確に、最小限の動きでチェーンソーを叩き込む様に動きが進化した。

 

 故に、《両手剣》スキルのアビリティで一気に突進し接近したニーズヘッグは下から突き上げる様にチェーンソーを必要以上に力を入れず、スイッチを起動させた回転刃を目に突き刺した。そのまま先制を取って吠えそうなトードの口の中に突いて戻す刃を差し込んで舌を切断する。そこから更に刃を突き上げて上口を突き破る。

 

 いや、最適化しすぎでしょ。1時間で出す成長じゃねぇぞ。

 

 早速覚えた〈バースト〉で援護しつつ残虐ファイトを駆使すれば凡そ30秒で決着がつく。命を失ったインフェクティッド・トードは倒れながら顔面から崩壊して崩れる。報酬ウィンドウを指でデコピンではじいて消し去りながら、杖を肩に担ぐ。

 

「2体は無理だなこれ」

 

「結晶体は刃が多分通らないわ。そして2体目に乱入されると恐らく舌の攻撃の対処が面倒になるわ。負けるつもりはないけどキャパオーバーね」

 

「経験値が美味しいから狩るけど2:1の状況は崩さない方針で。何匹か固まってるようなら迂回して進行で」

 

「りょか」

 

 方針決定。とりあえず経験値は美味しい筈なので道すがらトードを狩る。他に狩りやすそうな個体が居るのであればそっちを優先する。警戒は怠らない―――と、

 

「ごめんごめん、忘れてた」

 

 ゲリラ配信を開始する。ツブヤイッターにリンクを流して、準備は終わり。特に宣伝とかする予定はないので、これで良い。

 

コメント『わこつ』

コメント『でたわね問題児』

コメント『告知しろよぉ!!』

コメント『また封鎖領域に突入してるよこいつ……』

コメント『他のプレイヤー待てないのか?』

コメント『でも抜け駆けしたいじゃん』

コメント『解るけど悔しい』

 

「おっすおっす。今度は東街道側の封鎖領域だ。という訳でほぼ作業配信に近いから。メモりたかったりWIKIに追加したい情報出てきたらそっちに任せるわ。こっちはちょっと気にしてる余裕ないかもしれんからな」

 

「いくわよいくわよいくわよ」

 

「ステイステイステイ……オーケイ」

 

 ニーズヘッグにハンドサインで落ち着く様に指示を出してから進む様に指示を出す。西側は正直、あまり難易度が高くはなかった。だがしょっぱなから強化個体が思った以上に強かったのが問題だ。これレベルのエネミーが後半、大量に出てくる事を考えるとちょっと余裕がないかもしれない。いや、全体的な難易度の向上を考えると他にもエネミーが追加されているのを考慮すべきか。

 

「油断せずに行こう、ニグ」

 

「オーケイボス」

 

 今回は割とガチ目の進行。

 

 

 

 

「B舌、C突進、D水鉄砲。5秒後バースト」

 

 魔晶石を纏った()()()()()()()()。ニーズヘッグ目掛けて突進してくる姿は大きくても1メートル程度しかなく、しかし魔晶石の鎧をまとう姿は十分に硬い。それがまともに命中すればダメージは免れないだろう。だがその前にトードが舌をニーズヘッグ目掛けて伸ばしてくる。そしてまた別に出現している魚が口をすぼめている、水鉄砲の予兆だ。迷うことなく伸ばされた舌にチェーンソーを突き刺すと、それを引っ張って突進してくる魚にぶつけ、そのまま存在を二つとも水鉄砲に衝突させることでカバーにする。そしてまとまった所に〈イラプション〉を入れる。

 

 敵全体にダメージが入るが―――低い、求める程のダメージではない。

 

 だがそれは副産物的な物だ。本命は違う。

 

 〈イラプション〉の起爆は範囲が広く、そして吹き上げるもの。軽い存在であればそのまま上へと打ち上げられ、同時に巻き起こる爆発で一時的に視界が遮られる。その瞬間、五感を使って探知するタイプのエネミーは目標を失う。

 

 即ち、一方的に殴れるバーストタイムに入る。

 

 ニーズヘッグのチェーンソーが稼働する。舌を引き裂きながら突き上げて打ち上げられた魚を貫通させる。それをそのままトードへと向かって突き刺そうとする姿にあわせ、〈詠唱消去〉からのバーストを浮かび上がった2尾目の魚に叩き込む。放つ方向を調整して放たれたそれはニーズヘッグの前に割り込む様に落ちてきて、

 

 そのまま連続で貫通、

 

 そして更にチェーンソーの回転刃がトードの額に刺さる。

 

「雑魚。落ちて」

 

 纏めて突き刺した上で更に押し込む。援護するように〈バースト〉をトードの脚に叩き込み、その動き出そうとする姿勢を焼いて崩す。その間にもチェーンソーの刃が更に激しく突き刺さり、抉り込まれてゆく。やがてその圧力に耐えきれずトードの方が先に根を上げて死亡する。破壊された姿が魔晶石となって砕け散り消える。それと同時に2度目のレベルアップのエフェクトが発生した。

 

「ふぅ―――今のでレベル15だな」

 

「結構硬い。賢さも上がってきて波状攻撃してくるのめんどい」

 

コメント『タンクもなしにまとめ狩りしてるのマ?』

コメント『ニーズヘッグちゃん可愛いんじゃぁ~』

コメント『やってることは欠片も可愛くないけどな!』

コメント『煽るだけのPSはあるよな』

 

「本気でやれば相手できなくもないけど1戦1戦の精神的コスト重いな……辛いなぁ、これ」

 

 最初はまばらにインフェクティッド個体が存在していただけだが、奥へと進もうとすれば露骨にグループで待ち構えているのが解る。それも魔晶石の塊の裏に隠れていたりして、注意しながら進まないと奇襲を受ける様な形になっている。俺が注意深く進んだり、ニーズヘッグがアンテナを立てて歩いていなければ何度か奇襲を受けるハメになっていただろう。だがそれだけ苦労する事もあってレベルがガンガン上がっている。恐ろしいスピードで上がるのは正直、楽しい。

 

「……大分夜が近づいてきたな」

 

 まだ夕暮れだ。それが完全に暮れるまではそこそこ時間がある。それにここで馬が出せるのも解った。帰りはノルトに騎乗して帰ればすぐに帰る事も出来るだろう。そう考えたらもう少し奥まで踏み込んでも問題はなさそうだが……。

 

「……行くか」

 

「正気?」

 

「正気も正気よ」

 

 最悪1デス喰らっても良いというのもあるが、結論から言うとレベルアップの速度が速くてリソースが予想以上に減っていないというのもある。それに、

 

「ニグ、感覚はどうだ」

 

「近い……感じがするわね」

 

「ならせめてそれだけ確認したい」

 

「ん。それならそう時間もかからなさそうね」

 

「そんなに近いか?」

 

「結構。あんまり進んでないのにね」

 

 あんまり良い予感はしないなぁ、と頭を掻く。

 

「ランドギル、トード、フロートフィッシュ。汚染水棲生物で纏まってるしIDがあるとしたら水辺モチーフか……? 水棲系ボスだってのは解るけど」

 

 それとも港そのものが舞台になるか。どちらにせよ、西側と比べての難度の上がり方がえげつない。間違いなく強敵、激戦が待ち受けている事だけは事実だった。何がこの先に待ち受けているのか、それを一目見る為にも周辺に気を張らせながら進む。




 敵の数とグループの組み方も最初とは違って複数が混ざっている。つまり同じ攻撃ではなく遠隔と近距離が混ざっているし、タイミングもバラバラ。無論、パーティー単位で突入する事前提の難易度。

 この二人がそれでもペアで戦闘を成立させてるのは長年のコンビネーションもある。つまりアインは長年ドッグブリーダーを務めてきた。
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