断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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もしや無理ゲーなのでは? Ⅲ

 慣れてしまうと忘れがちだが、

 

 ()()()()()()()()()()B()G()M()()()()()()()。そしてネトゲとBGMの歴史と言うのはかなーり長い。

 

 というのも近年ではMMOのBGM外注ではなく、会社で抱えるバンドを使ったり、或いはバンドのスタッフに歌わせた曲を使ったりもする他、それをアルバムにして販売したり収入の1つにもなっている。雰囲気を作る意味でも自分のスタッフを使うのが一番話が通しやすい。BGMと言うのは空気、世界観を構築する上では非常に重要な要素だ。現実では生活音や環境音ばかりだが、シャレムはゲームの世界だし、イヤホンもヘッドホンもウォー〇マンも存在しない。つまりお気に入りのBGMをかけながらお散歩するという現代的な楽しみが出来ないのだ。

 

 いや、まぁ、本当に耐えられないのなら外部サイトへとアクセスして動画サイトで音楽を流すのも良いだろう。

 

 だけどそれってルール違反だろう? いろんな意味で。

 

 だからやっぱり、BGMってのはゲームを遊ぶ上では大事だ。特に長時間集中するようなネトゲでは、だ。それはこの遊んでいる世界観を補完するものでもあるのだから。だからBGMというのは割と重要なものだと思う。何故ならそれを聞けば今、どういう状況なのかを、その空気を一発で掴めるからだ。例えばおもちゃで構築されたステージがあるとする。明るい音楽がかかってればなんとなく楽しそうな場所だなぁ、と思うだろう。だがここでおどろおどろしい音楽がかかってれば、この裏では何かが起きている……と思わせられるだろう。

 

 だからBGMも1つのヒントとなる。

 

 レベルが15から16に上がった辺りで、スキルレベルも上がった。《二刀流》、《詠唱術》、そして《杖術マスタリー》が上がった。やはり格上相手に戦っているのが美味しいのだろう、サクサクとレベルもスキルトレーニングも進む。だが正直、それらの成果を喜んで楽しむだけの余裕はなかった。

 

 なぜなら連続で集団から集団の攻撃が相次ぎ、ぎりぎりのレベルでの戦闘を強制させられていたからだ。トードx3のトループを処理したと思えばトードの盾にフィッシュの射撃という組み合わせ、そのあとで突撃してくるフィッシュの群れ。連続でこれを切り抜けるころには日が暮れる寸前、闇が本当の意味で空を覆う直前まで来ていた。それだけ時間を取られる相手で、場所だった。

 

コメント『アレをタンクなしで処理するかぁ』

コメント『シャレムのPLランキング出せばたぶんレオ様と同格やろな』

コメント『いやあ、あっちは対人特化やしな……』

コメント『というかアインの指揮が上手い。事前にコマンド仕込んでそれに素早く犬が反応してる』

コメント『連携が上手いんだな』

 

 褒められると普段ならうれしいものだが、それでもまだ奇襲があるかもしれない。そういう警戒心はより強まっている。

 

 ()()()()()B()G()M()だ。

 

 先ほどからBGMが消えた。まるで音の移り変わりに待機するように、完全にBGMなしの静寂が空間を包み、遠くから聞こえるトードの鳴き声が嫌によく聞こえる。そしてそれと入れ替わるように、

 

 呼吸音だ。

 

 正面、闇に包まれた先に何かがいる。

 

 街道の先、薄く黒い水が張った先―――そこには大橋があった。

 

 ダリルシュタットからポート・エルまで丁度中間にある大橋だ。こいつを越えて行けば港が見えてくる。だがその上が薄暗い闇に覆われており、見えづらくなっていた。ただ良く視界を凝らせばその奥に、赤い2つの光が静かに瞬きながら此方へと向けられているのが解る。完全に此方を捉えているのかどうかは不明だが、グリムビーストとは比べ物にならない程の威圧感を闇の中から感じていた。

 

 おそらく、アレがボスだ。

 

「ID式じゃなくて、レイド式だったか……」

 

コメント『マルージャ崩壊伝説』

コメント『トレインしたら国が滅びかけるとか思わんやろ!!』

コメント『せやな……無敵あると思うもんな……』

コメント『ないんだなぁ、これが』

コメント『君もマルージャ復興に手を貸そう! クラフター大募集!』

 

「うーん、やばいわボス。アレ、勝てないわ」

 

「やっぱそうか」

 

 勝ち目が皆無というレベルらしい。少なくとも気配だけでそう察している。もう少しだけ、せめて王宮に報告する為だけに情報を集めたい。最悪、デスは許容できる。そう判断しながら周りを見て、不自然にエネミーの存在が途切れたのを確認し、嫌な感じを受ける。やはり大橋の上でレイド戦をする想定の設計か、これは。

 

 周辺には大型の魔晶石が生えそろっている。それにカバーを取る様に素早く隠れつつ、少しずつ接近する。

 

 だが相手の反応はなく、そして近づくにつれ闇が薄まって行く。その存在が認知されるのと同時に覆われていた闇ヴェールがはがされるように、

 

 大橋の前、その柱の裏に隠れるように到達すれば、その姿が完全に露になる。

 

 それは竜だった。

 

 その胴体は大きく、長い。恐らく余裕で40メートルを超えるだろう。その胴体は横幅の広い大橋に抱き着く様に巻き付けられていた。尻尾は静かに大橋の上で揺れ、その双眸から放たれる眼光で魂が凍てつくような悪寒を感じた。間違いなく、超大型ボスの気配だ。とてもじゃないが倒せるような相手じゃない。当然の様に表示されるレッドネームは、

 

「アビサルドラゴン……? 少なくとも確実に50レベは超えてるな」

 

コメント『はー、クソゲー』

コメント『無理ゲーを設置する運営の采配』

コメント『せや、こいつも王都にぶつければええんや!』

コメント『マルージャの過ち再び』

 

「エルディアまで崩壊したらこのゲーム終わるぞ??」

 

「うーん……耐えられない、避けられない、ダメージが通らないの三重苦ね。とてもじゃないけど相手にはならないわ」

 

 BGMもアビサルドラゴンの発見と同時に緊張感と絶望感に満ちている物へと変わっていた。あぁ、やっぱりこいつはそういうタイプのエネミーなのだ。根本的に1パーティーとかで対処する規模じゃない。恐らくはカンストしたプレイヤーの連合を組んで挑むタイプのボスだ。100とか200とか、そういう数を揃えて挑む相手だ。

 

 おそらく、マルージャに土鍋達がけしかけたレイドボスも、そういうタイプだ。エルディアに進む為にこいつをマルージャへとぶつけたのは最適解だったのかもしれない。

 

 少なくともまともに相手しようとすれば、こんなのまずは一定数のプレイヤーがカンストしてから戦うのが前提だ。恐らくこういうエネミーは早期攻略されると都合の悪い場所に設置―――。

 

「いや、違うな。エネミーを設置してるのは運営かと思ったけど違うよな? 敵勢力側がエネミーと断絶をしてるんだもんな。この世界はそもそも根本が自然構築型のワールドだから運営が細かい調整だけやって残りは完全放置だし。となるとこの先に行かれると都合が悪いのは運営じゃなくて敵さんの方だな?」

 

 腕を組み、柱の裏に隠れた状態のまま低く唸る。

 

「となるとマルージャ=エルディアのルートにレイドボスが設置したのも相手の都合だとして……大物を比較的近くに置いたのは国交回復を阻害するか時間を稼ぐ為か。少なくともマルージャ側で勝利したって事は被害を受けても勝てる相手って事だし目的自体は―――」

 

コメント『時間稼ぎって奴?』

コメント『本命は別だったりな』

コメント『考察捗る』

コメント『考察スレの住人が喜びそうだなぁ』

コメント『いや、情報量に発狂してるよ今朝から』

 

「草」

 

 いや、草じゃないけど。やっぱ草でいいわ。良し。

 

 とりあえずこれで偵察完了。一当て? 面倒だからしない。ぶつかった所で何かが見れるとは思えないし。多分ワンパンで蒸発するだけだろう。だがそれはそれとして、

 

「なぁ、ニグ」

 

「なにボス」

 

「……アレで50レベか」

 

 本当に50レベって領域なのか、アレは? 少なくとももっとやばく感じる所がある。

 

コメント『となると東は後回しかー?』

コメント『これ突破無理だろうしマルージャと同じことはできねーだろ』

コメント『となると南か西の続きか』

コメント『いや、この頭のおかしいコンビならこっそり横抜けてくれると信じてる』

 

「無理言うな」

 

 大橋の横を見れば奈落へと続くような崖になっている。大橋を回避して向こう側へと渡るというのはおそらく不可能だろう。もしくはかなり大回りして別の断絶に突入する必要があるかもしれないが、どちらにせよ非現実的な選択肢だ。こいつをどうこうするのは現段階では不可能と判断する。

 

「撤退だ撤退! 帰るぞ!」

 

「はーい」

 

 こんなん相手してられねーわ。さっさと帰って王子様にごめんなさいして寝よう。

 

 今日の封鎖領域攻略はここまでとして、引き上げた。




 これはやはり無理ゲーなのでは?
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