断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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もしや無理ゲーなのでは? Ⅳ

コメント『やっぱ馬はずるいよな』

 

「悔しかったらガラドアまで行って購入してこい。あっち、牧場再開したから馬とかの販売開始してるぞ」

 

コメント『高いわ!』

コメント『クリア報酬いいよなぁ!』

コメント『でも真面目に考えるとコスパ良いんだよな、馬』

コメント『このゲームかなり移動するしな。歩きだけだと時間足りないわ』

 

 そうなんだよなー、だから馬はクッソ便利なのだ。マジで入手して良かったと思える。ガラドアの町長さんには心の底から感謝してる。まぁ、それはそれとして無事に封鎖領域から脱出した。やっぱり馬に騎乗して移動すると今までのめんどくささが嘘みたいに楽になった。多少はエネミーに感知されても、馬の脚であれば無視できる速度で振り切れる。もう暗くなってきたこの時間帯になると正直一時的にログアウトもしたいし、安全圏に到達したいという気持ちも強かった。

 

 何よりも闇だ。

 

 この暗闇は正直ヤバイ。

 

 冒険の為にランプを購入してはおいた。だが電灯の存在しないこの街道でランプを俺とニーズヘッグで1個ずつという数で照らすのは正直、かなり心細い光量だった。できる事ならもっと大きな光源か数のランプが欲しいぐらいに暗く、そして空は満天の星空で満たされていた。ノルトの背に騎乗し、ダリルシュタットへの帰路を行きながらも天体を見上げていた。

 

 現代の街中では絶対に見る事の出来ない、澄み切った夜空がそこにはある。

 

「どーしたもんかなぁ」

 

「ねー」

 

 呟きながら思い返す。あのボスは反則だろう、と。正直自分とニーズヘッグの1人だけだと勝ち筋が存在しないレベルだ。だからアレは間違いなく攻略される事を考慮していない。少なくともサービス開始から1か月か2か月の間は。その後の期間に、第2陣がこのゲームに到着してからが本番という気がする。まぁ、マルージャの方はテロによって突破されてしまったのだが。

 

コメント『NPC連れ込めたら楽なんやけどな』

コメント『仕様的に無理だけどな』

コメント『じゃあボス引っ張り出すのはどうよ』

コメント『入口からかなり距離あるのに無理だろ』

 

 配信画面のコメントはかなり白熱していた。どうやってあの大橋の上に陣取っているアビサルドラゴンを排除するか、倒すかを想定している。まぁ、あんなもんが出てきたら確かにどうやって倒すかを考えさせられてしまうだろう。ただやはり、結論は出ている。アレを倒せるプレイヤーは存在しないだろう。そしてアレを外にまで引っ張り出す事は不可能だ。逃げる場所と遮蔽物があそこまではなさすぎる。アレを引きずり出すまでに倒されてしまうだろう。

 

 少なくともあんな強そうな姿をしていて移動方法がよたよた歩きだとかいうのは絶対に信じない。絶対に飛び掛かってくるタイプの動きだよアレ。そして弱ったら翼とか生やす奴。

 

コメント『まぁ、無理だよな』

コメント『は? 無理とかやらなきゃわからねぇだろ!』

コメント『じゃあやってみろよ!』

コメント『やってやろうじゃねーか!!』

 

 配信画面、荒れてるなぁ、と思いながら眺めていると門まで戻ってきた。そこには昼間そのまま、門番の姿があり、此方を見かけると軽く敬礼をしてくる。

 

「良く帰ってきてくれた、稀人。その様子を見ると中々の成果だったみたいだな」

 

「とりあえず封鎖領域の核になる敵は見つけた。詳しい報告は明日の朝改めて王宮に報告に行くって伝えてくれると助かる」

 

「了解した、此方から王宮に伝えておこう」

 

 門番がそう言った瞬間、門の方から闇へと向かって全力で走る姿があった。

 

「やってやろうじゃね―――かぁ―――!」

 

 叫びながらそのままその姿は闇へと消えた。馬上からその姿が完全に闇に消えるのを眺めてから、片手で顔を覆う。

 

コメント『えぇ……(困惑』

コメント『え、いや、うん……』

コメント『マジでやるのか』

 

「……さーて、ログアウトする為に街に入るか!」

 

 門に入る前にノルトから降りる。ありがとうよ、とのその首を軽く撫でてからガラドア牧場へと送り帰すと、同じようにセクエスを帰した後で近づいてきてがしり、と腕を掴んできた。

 

「ラーメン!」

 

コメント『これは犬』

コメント『見捨てられませんわ』

コメント『深夜帯に食べるラーメンって背徳的だよな』

コメント『時間的にまだ夕飯ぐらいだけどな』

 

「……晩飯食った後じゃダメ?」

 

「だめ。今食べに行くわよ」

 

 そのままずるずる此方を引きずるように市街地へと引き込まれる。その様子を門番がお疲れ様、と苦笑しながら見送ってくれる。いやぁ、もぅ、

 

 本当にお疲れ様。あの人たぶん帰ってくるまでずっと待っててくれたんだろうな……。

 

 時間は夜、ここまでくると完全に暗くなっている。引きずられ続けるのも面倒だし逃げないから、とニーズヘッグに告げて両足で立って歩く―――向かう場所は当然ながら昼胡麻団子を食べたイェン兄妹の屋台だ。どうやらあの味が気に入ったらしいし、ラーメンも非常に楽しみにしているようすだった。諦めてこっちでラーメン食べてからリアルに戻るか、と決める。

 

「しかし夜は夜で良い感じの騒がしさと静けさがあって良いな。昨日はガラドアで夜を過ごしたからこっちは見てないんだよな」

 

コメント『娼館あるで』

コメント『第一声がそれか??』

コメント『昼と夜とだと雰囲気違うよな』

コメント『この静かなBGM好き。眠くなるけど』

コメント『わかるまん』

 

 苦笑しながら落ち着きを取り戻した配信画面を視界から外し、屋台の多い広場へと戻ってきた。そこでは夕食や夜食向けの料理を作っている大量の屋台が並んでいる他、客引きの声やランタンなどが飾られており、場が輝いているように見えた。

 

「ガラドアから仕入れた新鮮な肉だよ―――!」

 

「こっちは野菜! 新鮮な野菜あるぞ!」

 

「魚! 残り僅かだぞ! 魚団子食わねぇかぁ! ここで逃したら次何時食べられるか解らないぞ!」

 

「魚……魚か、そうか、港が封鎖されているから捕れないんだな」

 

 ついでに塩も回収できなさそうだ。岩塩の類がこの近くで掘れるかどうかは不明だし。海方面が封鎖されているのって実は思っていたより健康的にもヤバイのではないのだろうか? やっぱり船や資源を含めて、海側を解放したいよなぁ、と思う気持ちは割と強い。それはそれとして歩いていると匂いだけで食欲が刺激されてくる。あぁ、ダメだ。俺も食べたくなってきてしまった。あまりこっちで豪華に食べるとリアルでの食事が辛いのに。

 

「ラーメン!」

 

「はい、いらっしゃい。2人前で良いですか?」

 

「2人前でお願いします」

 

「良く来たな2人とも。兄上の拉麺は絶品だぞ。なぜ絶品であるかは疑問があるがな」

 

「イェン?」

 

 中華兄妹屋台にやってくると元気に店番をやっている姿があった。兄妹の仲の良さに笑みを零しつつ、早速店主の方が作っているラーメンを受け取る。夜になると屋台の前にテーブルと椅子を出しているおかげですぐ前で食べられるようになっている為、屋台の直ぐ前にラーメンを置いてニーズヘッグと二人、向かい合う様に麺を啜る。

 

 うーん―――辛い!

 

 辛いけど味にコクがあって美味しい。肉みそが乗っている辺りは担々麺を思い出すが、単純にそれだけではないのだろう、口の中が辛さだけに支配されないように調整が施されている。スープと麺を口の中に一緒に運べばあっさりと喉を通って行く……味は濃い筈なのに、しつこくはない。これはまさに職人技という奴だ。うーん、これを食べると餃子とライスもセットで欲しくなる。

 

「……言いたいことは解るけど、米はなくてね。実は麺の為の小麦粉でも割とぎりぎりなんだ」

 

「船が動かせれば米の輸入も可能かもしれんがな。或いは西の先にある湿地帯であれば野生の苗があるやもしれん」

 

コメント『そう言われるとやる気出るよな』

コメント『というか飯テロぉ!』

コメント『ニグちゃん幸せそうに食べるなぁ』

コメント『いっぱい食べる君が好き』

 

 ……まぁ、美味しそうに食べるニーズヘッグの姿は幸せそうだから好きだけどさぁ。それを何も知らない奴に言われるのはちょっともにょる。お前はうちの子の何をしっているんだ? って気分。独占欲と言う奴なのかもしれない。

 

 長年この大型犬に付き合ってきた飼い主としての。

 

「で、どうだったのだ? 東の様子を見に行ったのであろう?」

 

 イェンがラーメンを食べている此方を見てニヤついてくる。相変わらず帽子を被った格好のままだが、やっぱり帽子の下でぴょこぴょこ何か動いているようだ。なんだろう、アレ。いや、まぁ、先に答えたほうがいいか。

 

「あぁ、封鎖領域の中核まで突っ込んできたよ。ちょっと倒せそうにない奴が陣取ってたんで撤退したけどなー……ずるずるずる」

 

「ずるずるずるー。アレはちょっと無理ねー」

 

「ほう、どういう奴だ?」

 

 イェンが興味を抱いたのかスツールを引っ張ってくるとテーブルまでやってきた。兄の方は少しだけ諫めようとするが、イェンには精神的に勝てないのか溜息を吐いて諦めた。

 

「アビサルドラゴンって奴だよ。白くて長くて大きいドラゴンの」

 

「あぁ、獄淵龍か……また大層なものが現出しているな」

 

コメント『名前クッソかっけぇな』

コメント『それだけ強いんだろうな』

 

 イェンは名前からどうやら相手の事を知っているらしい。腕を組むと足も組む。なんかちょっと足元パタパタしてない? 視線をイェンの足元へと向けると、ロングスカートの中で何かがゆらゆらと動いている気がする。

 

「アレは確か国軍を動かす必要があるレベルの怪物だ。都市の1つ2つを余裕で食べる程の胃袋の持ち主でな、過去に東大陸の小国がアレで滅ぼされてる。魔郷から呼び出しでもしなければ絶対に地上には出現しない奴だ、おそらくは番人として配置されているんだろうな」

 

「アレかあ」

 

 思い出すように今はラーメン屋の店主が目を閉じた。

 

「えーと……」

 

「あぁ、そう言えば名乗っていませんでしたね。フォウです。イェンが慣れ慣れしくて申し訳ありません。どうやら気に入ってしまったようで……」

 

「あ、いえいえ」

 

コメント『美女に気に入られて困る奴なんていないよ!!』

コメント『それ』

コメント『問題は俺達が対象ではないってことだ』

コメント『それ』

 

 あ、そういや配信切り忘れてたな。それでもまだ人がいる事に驚きだが。まぁ、ログアウトするまでは配信続けておくか。ラーメンが伸び切る前に食べ終わらないと。

 

 それはそれとして、フォウの話に耳を傾ける。

 

「獄淵龍は厄介な奴ですよ。個人的には相手をしないのが一番ですね。それでも相手をしなくてはならないとなると……そうですね、今の稀人達では絶対に不可能でしょう。まず攻撃が皮膚や甲殻を貫けませんね。英傑―――それこそ灰の騎士ジークフリートや、城砦のダグラス辺りが出っ張らないと単体で保つというのは不可能ですね」

 

 やっぱジークフリートさんそういう次元のトンでも存在だったのか……。

 

コメント『あ、アインさん。馬使って誘導出来んの?』

コメント『馬の移動速度かなり早いもんな』

コメント『全力ダッシュすれば引きずり出してエルディアアタックできるんじゃね?』

コメント『悲 劇 再 び』

コメント『連携できる立場にあるんだから連絡しようよぉ!』

 

「あー、フォウさん。馬に乗った速度で逃げ切れると思う?」

 

「ずぞぞぞぞ―――おかわり!」

 

「はい、少々お待ちを。えーと、馬で逃げ切れるかというかと無理ですね。1馬差を一呼吸で詰めますよ。戦うなら正面から向き合って攻撃を抑え込む事前提じゃないと無理なタイプですね」

 

コメント『解散!!』

コメント『無理ゲーで草』

コメント『やっぱカンスト前提なんやなぁ、って』

コメント『うおお、海産物がぁ……』

 

 配信画面に流れてくるコメントにはぁ、とため息を零す。食べ終わって空になった器をフォウに返しつつ、肩ひじをテーブルに突いて考える姿勢を取る。そのすぐ横では楽し気に此方を見つめる碧色のイェンの瞳が見える。その表情は楽し気に此方を観察している。

 

 ……まるで、何かを期待しているかのように。

 

 まぁ、そうやって期待されてしまうとちょっとやる気が出てしまう。ニーズヘッグがまだラーメンを食べているし、

 

「ちょっと真面目に攻略法を考えてみますかー」

 

 食後のちょっとした脳の運動にはちょうどいいだろう。




 つまり1秒30メートルの距離を詰めてくる。馬が1秒20メートル前後。疲れず、追いつかれたらワンパンで消滅する。

 やはり無理ゲーなのでは?
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