「―――ちと話を纏めるとしようか」
コメント『頼んだぜボス』
コメント『任せたぜボス』
コメント『やってくれボス』
ボス呼びがニーズヘッグから感染してるなぁ、と思いながらこれまでの情報を纏める。
「目標はアビサルドラゴン、レベル推定50。居場所は西街道の大橋の上、そこを塞ぐように陣取っている。それまでに出没するエネミーのレベルは高く、20は超えているという話。少なくとも俺とニグで戦っていて経験値が大量に入ってくるからそういうレベルのエネミーだと思われる。封鎖領域内部にいる為、突入はPCにのみ可能である―――ここまでは基本的な情報、確定情報だ。オーケイ?」
コメント『マジで基本的な情報だな』
コメント『だけどこれだけでも割と解るよな、強いNPC連れていけないっての』
コメント『やっぱ強いNPCに釣りだしたのを狩って貰うしかねーよ』
コメント『その話をするのはまだ早いだろ』
コメント『ボス話を続けてー』
「へいへい」
とりあえず続きだ。
「アビサルドラゴンは全長30メートルを超えている。とてもじゃないが攻撃した衝撃で動かせるようなレベルを超えている重量とサイズをしている。その上で非常に獰猛、尚且つ好戦的。1度戦闘が始まれば相手を食うまでは戦闘を終了しないだろうと思われる。それでいて足はあの巨体で早く、現状のプレイヤーが保有する移動手段、スプリントでは絶対に追いつけない速度を出してくる。その上でその攻撃力は高く、ワンパンで蒸発する」
コメント『バグ移動ニキはどうなのん? 逃げ切れん?』
コメント『バグ修正されたんでもう無理』
コメント『仕事早いなぁ』
コメント『まぁ、明らかに世界観を崩壊させるバグだったからね?』
コメント『今は壁抜けバグを検証してるよあの人』
コメント『さっき塵箱に上半身食われて音速回転しながら空に打ち上げられてたよ』
相変わらずバグってるなぁ。
「なおアビサルドラゴン自体は爪、牙の他に剣翼を生やして薙ぎ払う攻撃が行える他、腐食ブレスで装備破壊まで狙ってくる。その上で決して知能が低いという訳ではないらしい」
ここまでレイドボスの情報を並べて、腕を組み、首を傾げ、空を見上げる。
「無理ゲーなのでは」
「―――いや、まだ何らかの手段があるはずだと思う」
聞き覚えのない声に振り返れば、ポニーテールで金髪を纏めている灰色のロングコートの青年が笑みと共に片手をあげてやってきた。話に割り込んだ感じ、おそらくは配信を見ていた視聴者の1人なんだろう。
「すまない店主、ラーメンを1つ」
「はい、少々お待ちを」
「うむ、ありがたい。えーと、それで済まない。話の腰を折ってしまったな」
「いや、まぁ、俺は構わないけど」
ニーズヘッグは美味しそうに3杯目を楽しんでいるし。イェンはこっちを楽しそうに見ているし。この2人に関してはもう気にしない事として、横のテーブルに座った灰の青年が自己紹介する前にコメントが配信画面に流れてきた。
コメント『レオ様やんけ』
コメント『配信凸はマナー違反やで』
配信画面に流れてくるコメントを見て申し訳なさそうな表情をした。
「む、すまない。だがあまりタイピングは得意じゃなくてな……直接会って話したほうが意見交換も早いと思って」
「まぁ、俺はそこらへん特に気にしないしな。それよりも?」
「あぁ」
レオ様、と呼ばれた青年はラーメンを受け取りつつ箸を2つに割った。
「レオンハルトだ。配信を見させて貰っていた。そしてアビサルドラゴンを拝見させて貰ったが」
ずぞぞぞぞぞ、とラーメンを食べるイケメン。イケメンでもラーメン食うんだな。まぁ、俺の方がかっこいいけど。
「倒せる、って思ってるんだな?」
「あぁ。仕様の穴か、隙間か、或いは何らかの手段があるはずだと思っている。配信画面だとこういう話はレスポンスが遅くなってかみ合わなくなるからな……」
「あぁ、うん。解るけど……そうか、マルージャの話をしてるのか」
レオンハルトが頷いた。
つまりレオンハルトが言いたいのは、マルージャで可能だったのだからエルディアでも可能なのでは? という話だ。一見無茶苦茶にも無理ゲーにも思える事だが、実は意外な手段を活用する事で突破可能になるかもしれない……という話をしたくて来たようだ。
「何よりもあれだけの獲物、相手をしないのは惜しい。あのまま放置しておくのは楽しくないだろう」
「それは解る」
コメント『でも状況とスペック的に無理じゃね?』
「まぁ、釣りだしてNPCに処理してもらうという手段は悪くねぇべよ? だけど釣りだすって事自体がまず不可能じゃん。あ、ラーメンください」
「でも何か利用できるもんがあるんじゃね? 周りの地形とかを見てさ。ラーメンくださーい」
「ラーメンくださいー。いや、配信で見たじゃん遮蔽物すらない地形ってのが」
「そこはほら、俺達プレイヤーじゃん? 色々とあるじゃん、インベとかシステムとか。そういう所からなんか裏技を見つけてやれない事はなくないか? ラーメン2つお願いしまーす」
「はい、少々お待ちを。イェンもちょっと手伝ってくれ」
「仕方がないな……」
コメント『視聴者PC増えてるの草』
コメント『クッソ羨ましいんだが』
コメント『ワイ氏、参加することを求めてマルージャを飛び出し、道中で無事死亡する』
なんか人が増えてきたな。というか周りの屋台で飯を購入して合流してるやつが明らかに多い。これ、配信見てた連中が攻略会議をしたくて集まってきてるな? お前らもしかして暇なのか? いや、違うな……これ、単純に今度の攻略イベントから外れたくないだけだな?
「まぁ、レオンハルトの言いたいことは解らなくもない。オープンワールドゲーで低レベルエリアを徘徊するFoEを何とか処理する方法は常に用意されてる。シビアな手段だったりするけど、不可能って訳じゃないのは分かる」
「だろう? マルージャがその細い穴を通した形だと思っている。いや、割と真面目にやってはならん方法だと思ったが」
「だけどエルディアに関してはボスがコネあるし話を通せばNPCとの連合組めるんじゃない?」
「ボス、王家に結構信頼されてる形だったでしょ」
「ボス呼び定着したな」
周りで食ってるやつばかりだなぁ。俺もちょっとだけ何か食うか? いや、この後ログアウトして飯にするしちょっと我慢するか。腕を組みながらうーん、と首をひねりながら夜空を見上げる。たぶん今、この瞬間も王国の誰かに監視されているんだろうなぁ、とは思っている。だけど隠す様な事でもないし、知られても良い事だし。口に出していくか。
「まぁ……話をすればたぶん協力を得られると思うぞ? その大前提としてまず勝算を用意しないと話にならないけどな。動かすなら確実に勝てる算段が必要だ。この場合はジークフリートさんとかA爺さんとかが戦場に出る事になるけど、たぶん1番突っ込まれるのは戦う事の出来る戦場まで引っ張り出すことに対してだと思うぞ」
「やっぱそこかぁ」
コメント『どうあがいても立ちふさがる問題』
コメント『根本的に移動速度で敗北してる問題があるからな』
コメント『アレをどうやってあそこから引きずり出すかって話だけどなぁ……?』
「マルージャはレイドボス、どうやって引きずりだしたんだ?」
「あー、そう言えばなんも聞いたことないな……確かカオスベヒモスとかいうボスだったらしいけど」
4足歩行の大型の獣。此方もサイズは30メートル級だったらしい。ベヒモスと名付けられているだけあって巨大ですさまじいパワーを秘めたモンスターで、突進で大木すら根元から吹き飛ばすレベルで強靭、地面をプレートで剥がして角に突き刺して持ち上げ、それを上から投げ落として殲滅してくるような凶悪な生物だったらしい。と、今見ているWIKIではそんなことが書かれていた。まぁ、ええわ。
「ちょっとトレインした本人に聞いてみるわ」
「知り合いなんですか……」
「身内だぞ身内!」
「やっぱ身内だと同じ発想にいたるんだなぁ、って」
うるせぇ! 結果だしゃあいいんだろ!
デスコを起動する。
1様『という訳でどうやってマルージャまで引っ張った。きりきり吐け。』
土鍋『何がという訳だよ。配信見て笑ってるけど』
1様『は? 何笑ってんの? 最近経験した面白い事を暴露しろ』
土鍋『えっ』
略剣『じゃあ最近スーパーに行ったんだけど』
土鍋『お前が行くのか??』
略剣『丁度清掃中で転びそうになっちゃってさぁ』
梅☆『あるある』
略剣『あぶねぇ! 転ぶ! 踏ん張る! 良し! ってしたわけよ』
狂犬『それで?』
略剣『いや、踏ん張ったらパンツ真っ二つに割れた』
普通はそうならんだろ!!!
略剣『なったんだよなぁ』
土鍋『身内の恥が明らかになったから答えるけど、こっちは遅かったよ』
1様『移動が?』
土鍋『そうそう。その代わりに広範囲薙ぎ払ってきた』
梅☆『だから木の上に逃げたんだよねー』
土鍋『定期的に挑発飛ばしつつ大木の上から攻撃誘導って感じ』
略剣『俺の恥話はまだまだあるぞ』
1様『誰も求めてないから』
略剣『振った張本人がそれを言う???』
狂犬『ざこ』
略剣『はぁ!?!?』
というかやっぱり、かなりのバグというか反則技使ってるじゃん。
1様『大木吹っ飛ばすレベルなんだろ?』
土鍋『せやで。それもメッチャ太い奴』
略剣『でもまぁ、壊れてから衝撃に乗って跳躍すれば間に合うよなぁ、って』
「解散だ解散! 参考にならねぇわあのクソ共!! ほんと役に立たねぇなぁ!!」
デスコウィンドウを地面に投げ捨てて思いっきり踏みつけると周囲からまぁ、まぁ、落ち着けよと宥められる。
「だけどほら! 今の確認で攻撃反応するから誘導は出来るって判明したでしょ?」
「そうだな、ワンパンで死ぬけどな!」
そう、誘導なんて不可能だ。ワンパンで死ぬんだから。もう既に結構大量の数が集まってきているプレイヤーたちに向かって指をさしながら叫ぶ。
「いいか!? 俺達に勝ち筋があるとすれば
だけどな、それには凄い大きな問題がある。
「1! 死んでも良いぜってプレイヤーがいっぱい必要! 2! 〈挑発〉を投げるタンクの護衛をする他のプレイヤーも必要! 3! 王宮を説得して英雄NPC借りなきゃ倒せない!」
解るか? それだけのプレイヤーをどうやって集める? それだけやる気のある奴がいるか? 単純なPSではなくマンパワーが必要とされている奴だ、これは。そういう意味では運営は凄い絶妙な調整をしていると思う。誰か1人が飛びぬけて強いだけじゃどうにもならないのだ。この大きな攻略とショートカット、或いは早期攻略を行いたいのならプレイヤーたちのクソみたいな頭のおかしい団結を求める必要があるのだ。
それは可能か?
無論、無理だ。エゴイスティックなMMOプレイヤーたちが集まる訳ないだろ。
「という訳で解散解散! 無理ゲー! ……はぁ、落ちるか」
真剣に考えたのが急に馬鹿らしくなった。配信を切りながらログアウトする準備をしていると、後ろから声がかかった。
「なぁ、アイン」
「ん?」
レオンハルトの言葉に振り返る。
「もし―――前提条件として大量のプレイヤーが協力してくれることになったらどうする?」
「それ、100とかじゃ足りない話だからな? だけどまぁ、300人とか集められたなら」
まぁ、絶対無理だと思うけど。
「そうなったら王宮に俺から説得しに行くよ」
「言質は取ったからな?」
「はいはい」
あー、ラーメン美味しかった。それだけを感想として残し、8杯目を食べているニーズヘッグを放置してログアウトする事にした。
今日も実に愉快な1日だった。
最大の問題はこんなことに付き合うだけのマンパワーをどう用意するか? という所に尽きる。
君はトン単位のトラックが正面から突っ込んできて絶対に避けられない恐怖に打ち勝ちながら仕事をこなせる? という問題。レベルが上がれば耐えられると解るし、経験も増えてきてそこまで怖くないと思えるかもしれないだろう。
だけど現時点で巨大なエネミーと戦闘しているプレイヤーはエルディアにはいない。つまり巨大生物に衝突するという経験もない。怖いよね、大きな質量が襲い掛かってくるのって。
だから無理と判断している。まぁ、まともな精神じゃ無慮! まともなのじゃ!