「ふぅ、やっぱ寝起きにはシャワーだな」
ログアウトして晩飯を食べたら色々とやっている内に時間はもう寝る頃になってしまう。1人暮らしは自由な時間が多い分、自分でやらなきゃいけない事が多いのが全くの面倒だ。この苦労を誰かと分かち合う事が出来れば少しは楽になるのだが、それはそれでまた新しい問題を呼び起こすだけだ。その事を考えればやはり、1人暮らしが気楽だ。遅く眠るのはパフォーマンスに響くという理由で封じている身からすればまぁ、遊んでいる時間が減るのは仕方のない事だと諦めるしかない。という訳で昨晩もかなり平和な時間帯に眠れた。
まぁ、動画の編集を軽くやってアップロードの時間を含めるとどうしても夜は潰れてしまう。大体夕食を食べた後は必要でなければログインする事もない。別段、そこまで時間をぎりぎりまで詰めてやる程今は忙しいという時期でもない。だから夕食の後は大体他の趣味や家事をする時間になってしまう。それが終わればもう就寝時間で、そして朝になる。
今日の朝食はデザートにフルーツと蜂蜜を混ぜたヨーグルトなんて物を用意しつつ、ログインする前に軽くWIKIやSNSを漁って新しい情報か更新された情報を漁る。1度ログインしてしまえばその後はずっと攻略からレベリング作業だ、細かく情報のチェックをしている余裕なんてものはない。
ない、のだが―――。
「げぇ、すげぇ通知来てるな」
明朝から凄い量のリプライとダイレクトメッセージがツブヤイッターから飛んできている。どうやら昨晩の話で進展があったらしいから早くログインしてくれ、という事。アイツらもしかしてマジで攻略する気なのかぁ? と首を傾げながらヨーグルトを口にし、とりあえずツブヤイッターに投稿。
『1時間後ぐらいにはログインしますよ、と』
流石にメッセージを1つ1つ全部見ていくだけの時間的余裕はないからバッサリと切り捨てる。
「おっと、そういや昨日はスキルのレベルが上がってたな……んー、WIKIにも追記されてないし、こっちで追加しておくか」
シャレム公式ウェブサイトにPCからログインすれば自分のキャラクターのステータスや状態、取得スキル等の状況を確認できる。
情報の更新は先駆者の特権だ。情報を秘匿する事に喜びを覚える奴もいるが、個人的に公開して問題のない範囲であれば公開しちゃった方が全体が楽しめると思うから、そうした方が良いと思う。それはともあれ、前回の封鎖領域探索でレベルが上がったのは《二刀流》、《杖術マスタリー》、そして《詠唱術》だ。
《二刀流》は補正が3分の1に緩和された。初期が5分の1だったのを考えるとかなり緩和されている。装備によってはそろそろ+1補正が+2以上になるのではないだろうか?
《詠唱術》は〈詠唱消去〉の性能更新で、クールタイムが3分から2分に短縮されるという内容だった。1分しか減ってないやん! と言いたい奴もいるだろうが、6分間の戦闘で発動回数が2回から3回に増えるのだ、これは意外と馬鹿にできない。
そして《杖術マスタリー》は念願の個人バフスキルだ。〈マイトマインド〉は自分を対象としたバフスキルで発動から20秒間の間、自分のINTが10%上昇するという内容のアビリティだ。アビリティ枠なので当然詠唱を必要とせず、即座に発動する。
なおスキルが枠を消費する習得枠で、アビリティは即時発動する技の様なものであり、魔法は詠唱を必要とする行動だ。
スキルからアビリティや魔法を習得する、と覚えれば比較的楽に覚えられる。
アビリティは無詠唱とも考えれば覚えやすい。
「……うっし、WIKIの更新完了! 神の恵みに感謝しろよ愚民共ー」
まぁ、こういう誰でも取得できる範囲での情報の共有を秘匿してどうなるの? ってなると、今回の様なレイドボスが出現した時に戦力不足で攻略不可! って事になりうるケースがある訳だ。情報が増えれば強くなれる、強くなれば攻略できる範囲が増える。何をどうあがいても世界の広さと要素の多さ的に全てを独占するのは不可能なゲームなのだから、共有できる範囲を共有して封鎖領域の解放を任せられる所はなるべく任せた方が遥かに賢いのだ。
「さーて、西の先に行かなくちゃいけないし忙しくなるなぁ」
アイツらもアイツらでそろそろ良い感じの所まで来ているんじゃないだろうか? まぁ、エルディアとマルージャで真っすぐ道を通しても徒歩数日ぐらいの距離は存在するらしいが。ゲームとして移動だけで数日使うのって明らかにバグじゃないかそれ? って言いたくなる気持ちはあるんだが。
まぁ、ええわ。
ログインしよ。
朝の諸々の日課を終わらせたので早速ログインする。
ログインして到着するのは昨晩ログアウトしたのと同じ場所―――つまりはイェン・フォウ兄妹の屋台前だ。
「本当に唐突に現れるものだな。やはり稀人とは摩訶不思議なものだ」
ログインするのと同時にイェンの声がする。振り返ると昨晩話し合っていたテーブルに座っているイェンの姿が見える。そしてその横では山盛りの料理を朝から食べているニーズヘッグの姿もあった。
お前、朝から食ってるのか……。
「あ、おはようボス。朝ご飯美味しいわよ」
「そうか……。あ、預かってもらったみたいですまん」
「気にするな。私もお前には期待している部分があるからな」
屋台の方を見るとフォウの姿がない―――恐らく買い出しか何かに行っているのだろうと思う。今はニーズヘッグが朝食の最中だし、これを食べ終わったらニーズヘッグを連れて王城へと向かって昨日の探索の結果を報告しなくてはならない。流石にあの幼い王子に東はちょっと無理かもしれないと報告するのは気が滅入る。まぁ、仕方がないと言ってしまえば仕方がない事でもあるのだが―――その代わりにマルージャまでのルートを開拓したら評価も上がるだろう。
正直、考えていることがある。
プレイヤーのスポンサー、いらなくね?
王国とか商人とか、NPCの富豪スポンサーつけた方が良くね?
いや、最終的にPCの方が強くなるだろうし、優秀になるだろう。だけど現時点でレベルキャップを越えた英雄ユニットやら、豊富な50カンスト人材が多くこの国や街にはいるんだ。だったらそういう人たちに協力してもらった方が遥かに効率が良いのでは? という話だ。そういう意味合いを込めて、王家とはなるべく仲良くしたい所だが……まあ、今回は無理だったという話だ。
「あぁ、アイン。お前が来たら伝えてくれ、と頼まれている」
「ん?」
「中央広場で待っているそうだ。伝えたぞ」
楽しそうにイェンはそう言うと屋台の向こう側へと引っ込んでいった。待っている、というとレオンハルトの事だろうか? アイツ、結構楽しそうに話してたし人を集めてきたのだろうか? まぁ、それでも十分な数が集まるとは思えないが。まぁ、でも、ネトゲの住民って割とお祭り好きだしなぁ。
もしかして100人ぐらいは集めてくるかもしれない。
「でも、まぁ、100人じゃ足りないと思うんだよなぁ」
距離を計算して、ワンパンで死ぬことを前提として。その上で〈挑発〉持ちのタンクジョブの数を考えると100じゃ絶対に足りない。タンク職は敵の攻撃を前衛で受けなきゃいけない前提がある為、かなりの恐怖感がある。その上で固有の動きが要求されるからDDやヒーラーと比べると地味に人気が少ない。
だからこそタンクはイケメンとか言われるのだが。
ヒーラー? 生殺与奪握ってるドSとかって呼ばれてる。
まぁ、会うだけ会うか。そう判断して美味しそうに朝食を食べているニーズヘッグの姿を今はしばらく眺めていることにした。
ニーズヘッグが2度目の朝食を終えたので屋台から離れて中央広場へとやってくる。此方も色々と屋台や露店が開いてたりする自由なスペースだだ、街の中心点だけあってそこはかなり広い空間になっている。
だがその中央広場がこの時だけは、異様な数の人たちによって埋め尽くされていた。
「―――は?」
人、人、人。広場を満たす人。その数は広場を越えて、通りにまで溢れ出していた。それだけの大量のプレイヤーたちが揃っている。なぜ解るかって? その判断は確認しようとすれば名前が出てくるのがプレイヤーだからだ。だから直ぐに大量のプレイヤーがいるって事が解ってしまう。そうやって集まっている大量のプレイヤーの前に呆然と立ち尽くす。
「どうだド腐れ魔法使い! 集めてきたぞ!」
「それも100や200じゃない! 600だ!」
「ははぁ! ざまぁみろ!! 舐めたな俺達を!」
昨晩ラーメンを食べている姿に見覚えのあるプレイヤーたちが腕を組みながら爆笑していた。いや、うん、素直に過ちを認めよう。ここまで人が集まるとは思わなかった。まさか600人もプレイヤーが集まるだなんて思いもしなかった。
だがよく考えてみよう。
オンラインアクティブプレイヤーが数百万人規模のMMOがある。その中で実装されているエンドコンテンツに参加するプレイヤーの割合が全体の1%だという話だ。
この1%という数字はすごく小さく見えるだろう。
だけど実際は数百万人の1%だ。プレイヤーが100万人だとしても、その1%で1万人だ。つまりそれだけの数のプレイヤーがエンドコンテンツに参加しているという話だ。
そして今、このVRMMO、シャレムの総プレイヤー数は数万人だ。それをマルージャとエルディアで半分に割っても、最低で1万人は各拠点にいるってことになる。そしてこんなゲームに手を出す様な連中は基本的にヘヴィからミッドコア層のゲーマーばかりだ、ライト層なんてものは基本的に存在しない。
それを考えたらまぁ、ありえる数字なのかもしれない。
「はぁ……いや、認めるわ。俺の負けだわこれは」
もう笑うしかなかった。勝ち誇った表情のプレイヤーたちを前に。こいつら全員、無謀に挑戦するだけの根性と気合があるんだという事実を。たった一晩でどうやってこれだけのプレイヤーを集めたのか、というのは本当に気になるのだが。
それはそれとして、
どうやら俺達はアビサルドラゴンに挑戦する権利を得たのかもしれない。
全体から見て1%という数字はアクティブ層が多きけれbあ大きいほど大きな数字になってくる。可能か不可能で言えば全然可能な範囲でもある。