「お前らマジでやる気あんの?」
「あるからここに集まったんだろ!!」
「説得宜しく!」
「レイドボスのドロップとか欲しいに決まってるじゃん!」
「レアドロップ寄こせ!」
「普通に狩りに出るより絶対こっちのが経験値美味しいだろうし」
「俺達にも封鎖領域クリアさせろ!」
「称号寄こせ!」
お、おぉ。軽いコールで凄まじい怒号が帰ってきた。そこまで殺気立つレベルかぁ? と思っていると地味にカバーリングできる位置にニーズヘッグが既に入っていた。無言で動きを見せずに配置を取っている辺り、割と真面目に殺気を感知しているのかもしれない。こういう本能的な部分は何をどう足掻いてもニーズヘッグに勝てる気がしない。まぁ、それを見てもうちょっと真面目に取り合うべきかなぁ、って判断する。
とりあえずツブヤイッターで配信告知の直後から配信する。
「オーケイ! 解った! とりあえず配信画面でこっちの行動は配信するし、これから王宮に報告やら何やらするから一旦解散な! 行動移す時とかは配信画面通じて呼びかけるから周りの迷惑にならないように一旦解散しろ解散!!」
手を大きく振って一旦解散するように指示を出すと、それに合わせて声を投げられながらもプレイヤーたちの集まりが解散する。その姿を眺めながら後ろ髪を軽く掻いて、溜息を吐く。こんなことになるなんて思いもしなかった―――だがなったらなったで本気でやらせて貰おう。何せ、港の解放に関しては俺も望む所だ。港が解放されたらその信用を利用してスポンサー探しも捗るだろうし、船が使えるようになれば行ける地域もエリアも探索範囲も移動速度も大きく上昇する。
デメリットよりもメリットが大きいのは明白だ。
「どうやらやる気を出してくれたみたいだな」
「レオンハルト……お前の仕業か?」
声をかけてきたレオンハルトはいいや、と言葉を置いた。
「ぶっちゃけ俺のフォロワーはそんなに多くないからな。お前の配信を見ていて賛同していたVの者に声をかけて人を集めた」
レオンハルトがそう言うと、横から整った容姿の女の子が飛び出してきた。スーツ姿の男性はツブヤイッターなどで見かける姿の1つだ。真っ黒なスーツにサングラスを装着したVの者、
「どうも~、黒沢カイトです。宣伝と便乗させてもらいましたっ!」
横に小柄の少女が並んだ。パーカー付きのジャケットのラフな姿の少女は見た目、10前後に見える―――いや、大きくリアルの姿と変更できないこの世界の法則にしたがうとすれば、リアルでも同じぐらいの年齢の少女なんだろう。
「羽田風子でぇーす! 翼は失いましたー!」
と、まぁ、とレオンハルトが言う。
「Vの影響力を利用したら面白いぐらい集まった、という訳だ」
確かに、今生配信を行っている層で1番視聴者を獲得しているのはVの者たちだろう。どれだけ話題性を獲得しようが、根本的なファンと知名度の数というものは覆せない。だからこの手のイベントに参加可能な視聴者を求めるとすれば、Vの者たちの知名度を使えば一気に人が集められる。
……というのを目の前で証明されてしまった。
「正直一晩でここまで集めるとは思ってなかったわ。舐めてたわ」
コメント『しゃーないしゃーない、ここまで集まるとは思わんやろ』
コメント『集まるんだよなぁ……』
コメント『絶対に楽しそうだしな』
配信の方でもコメントが流れ始める。どうやら配信画面の方に人が集まりだした様だ。この調子だと視聴者が一気に増えそうだなぁ、と思う。増えるのは増えるので別に良いんだけど、数が増えると変なのが増えたり荒れたりするから対処めんどくせぇんだよなぁ、とは思わなくもない。まぁ、荒らすのはIP開示要求から金をとりに行けるからまったくのロスではないのが救いか。
どうでもいい話だ。
「まぁ、俺はこれから王宮に話をつけてみるよ……あんまり、期待しないでくれよ?」
「任せてください、こっちはこっちで準備しておきますから」
「他の皆にも声をかけておくから安心してね」
「いや、あの、俺王宮と交渉」
あぁ、Vの者が物凄く楽しそうに走り去って行く―――。あの様子を見ている限りマジで準備万端にしてくるだろう。はぁ、とため息を吐きながら後ろ髪を掻く。まぁ、しゃーないと自分に言いつける。自分は自分でしっかりと役割をこなしていればよいのだ。ならそこまで難しい事ではない。んじゃ今度こそ王宮に向かうか、と思った所でレオンハルトが最後に声をかけてくる。
「所でアイン、その様子だとボスをどうにかして釣りだす方法を思いついているんだろうが……先に試しておく必要があるものはないか?」
レオンハルトの言葉にあー、と声を零す。ずびし、と指先をレオンハルトに向けた。
「〈挑発〉」
「ふむ?」
「〈挑発〉とヘイトの跳び方をちょっと検証してて欲しい。ソロで〈挑発〉して周辺に非戦闘状態のPCがいて、〈挑発〉した対象が死亡した時ヘイトはどう飛ぶのか、ってのを」
その言葉にレオンハルトが腕を組んで頷いた。
「成程、そういう事か……解った、此方で事前に試しておこう―――そっちも頼んだぞ、アイン」
レオンハルトの言葉に手をひらひらと振って返答し、歩き去る背中を見送った。レオンハルトも結構すかしたタイプのイケメンかと思ったが、実は割とわくわくどきどきを抑える事の出来ないタイプだなアレは? 明らかに楽しそうな表情を浮かべているもん。まぁ、気持ちは解らなくもないが。いや、本当に。
……。
……良し!
気分切り替え完了! プランも修正! やるならやったるわクソが! こっちの方が何枚も上手だってマルージャに証明してやるわ畜生!
「行くぞニグ! あの王子様を口説き落とすぞ! 絶対に戦力を捻出させてやる!!」
「おー。……で、私は何をすればいいの?」
「静かにしてて」
振り返ると露骨に寂しそうな表情を浮かべたニーズヘッグがいた。アレ、絶対に尻尾と耳があったら垂れているぞ。足を止めて振り返りながらニーズヘッグに近づき、その頭をがしがしと撫でる。
「いいか、俺とお前じゃ得意なことが真逆だ。俺が出来ない事をお前がやる。お前が出来ない事は俺がやる。そういうもんだろ、俺達は」
「そうね……そうね」
軽く言ってやれば、ニーズヘッグの目に気合が戻ってきた。良し、と息を吐きながら再び王城へと向かう為に振り返る。
……なんか、生暖かい視線を向けられている気がする。
向けられる視線を無視して少しだけ早歩きで向かう事にした。
「お待ちしておりました、中へどうぞ」
当然というか王城の小門まで行くと既に待機していた門番が直ぐに中へと通してくれる。中に入ると必然的に背筋が伸びる。少しだけ振り返って確認するニーズヘッグは―――まぁ、何時も通りの姿だ。それで良いのだが。
ここを訪れるのはこれで2度目になるが、何度来ても慣れる事はなさそうだなぁ、と思いながら案内されるがままに王城の中へと入り、そこから先日と同じルートで上の階へ、謁見の間へと移動する。
そこには先日同様の並びが、既に揃っていた。
玉座には王の代理としてアーク王子の姿がある。
昨日と同じ位置にまで移動し、習ったように膝をつく。それにニーズヘッグがちゃんと追従している。えらいぞ、よくできたな。
頭を下げたまま、王子からの言葉を待てば、直ぐに来る。
「良くぞ戻ったアインよ。うむ、昨晩戻ってきたと聞いてから報告が待ち遠しかった。さあ、早速余に何を見たのか、何があったのか、その話をしてくれ」
「はい」
アークの指定を受けて立ち上がり、昨日封鎖領域で見た事、聞いたこと、そして経験したことを口にする。中の様子だけではなく、何が出現するのか、魔晶石の塊の話、生物の魔晶石との融合と融和、そして最後に大橋の上を陣取るアビサルドラゴンの話をする。その話をすると露骨にアークが嫌そうな顔をした。
「聞いたことのある名前だな……ジークフリート?」
「魔境に住まう龍です。獰猛かつ貪欲、そして極悪。私かダグラス辺りであれば対処も可能でしょうが……」
「あ、素直に無理です。恐らく純粋なレベルで言えば俺―――私とニグが1番上でしょうけど、本気で戦っても多分傷すらつけられないのは理解しています」
「むう」
まぁ、だからこその大前提という話だ。ジークフリートは此方が何かを言いたそうにしているのを理解しているし、横の方で見ているA師匠も、理解しているようで浮かんだ状態で横になりながら髭をさすっている。アレはお手並み拝見、と思っているんだろうなぁ。
だから、まぁ、
割といつも通りのノリで、
「ですので殿下」
此方の呼びかけにアーク殿下の視線が向けられる。
「ん? 何だ?」
良し、興味を持っている。好感度も決して悪くはない。こっちにはガラドア解放という実績があるんだ。それがあるからこそここにいるし、アーク殿下も興味を向けてくれている。クリアできたからこそ次もできるかもしれない、という考えを持っていた。だからこそちょっとだけ、落胆している。逆に言えばクリアに足る要素を提示すれば、それは簡単に反転するという事でもある。
なので、ここは説得、交渉、誘導。
言葉をぺら回して
そしてこういうの、卓ゲを遊んでいる人間は割と得意だ。RP慣れしている人間はこういう時、どう喋れば相手を乗せる事が出来るというのを大体空気で察するからだ。なので、冷静に分析し、冷静に判断して、
笑みを浮かべた。
「ここは1つ―――俺達にベットしてみません?」
たぶん俺、今物凄く悪い顔してる。
集客、というより人を集めたりする能力に関してはおそらくVの者が一番能力が高い。元々から固定の視聴者を抱えているから、短期間で話題を伸ばしたとしても既に固定を稼いでいる人たちの方が影響力は遥かに大きい。
という訳でVの者に声をかける、バズる、拡散する、集まるという流れへ。