俺の言葉に対してアーク王子が首をかしげる。あ、アレは言葉の真意を探っている感じだな。ジークフリートとかの歳をそこそこ食っている連中は既に此方の目的を理解しているだろう。年若い騎士や一部の騎士は―――我関せず、こういう話には一切の興味を抱かずに命令に従うだけのスタイルを見せている。徹底しているなぁ、とは思う。いや、或いは逆にそういう所に口を挟まなきゃいけないのがジークフリートなのかもしれない。
いつの間にかアーク王子の横には老紳士が付き添っている。たぶんあのお爺さんが世話役かな? 気配も感じないし、まったく空気の流れが読めない。師匠やジークフリート含めて、大体の人間は感情、意思、体の動き、状態等を複合する事で大体何を考えているのか、何をしたいのか、どう動くのかというのが察知できるのだが王子に付き従う老紳士に関してはそれを極限まで塗りつぶすかのような読み辛さがある。
コメント『この国って結構人材豊富だよな』
コメント『というか開始前に避難してきた? って感じある』
コメント『一部は予見してたんだろうなぁ、手段は解らんけど』
コメント『普通のゲームなら設定で済ませられるけどそういうゲームじゃないしな』
コメント『ボスがんばえー』
―――まぁ、良いや。
話を持ち込めた時点で勝利だと思っているしぃ?
「アイン、それはどういう事だ?」
「簡単な話ですよ、王子殿下。一緒にアビサルドラゴンを倒そう、という話です」
ぶっちゃけましょう、と言葉を続ける。
「俺達稀人にはアビサルドラゴンを倒すだけの力はありません。ですがエルディア王国の兵士、騎士には渡り合い、倒すだけの力があります。だからここは役割分担して戦おうという話です」
「……稀人達が封鎖領域からアビサルドラゴンを引っ張りだし、そして王国の精鋭がそれらと戦う、という事だな?」
「はい、殿下」
新しくホロウィンドウが開いた。レオンハルトから検証してくれと頼んだ〈挑発〉の仕様に関する結果だった。その結果に関しては上級AIに確認を貰ってこれで正しい反応である、と結論が出されていた。その事実に心の中でガッツポーズを作った。レオンハルトが検証してくれたおかげで
少しだけ難しい顔をしてからアーク王子は、
「……余はガラドアを解放したアインの功績を覚えている。稀人にはそれだけの力があると知っている。だが少なくとも、今のアインや稀人達に、対処できるだけの力があるとは思っていない。少なくとも余が教えられたあの巨体を封鎖領域から引きずり出し、王国の兵で戦う事が出来るまで距離まで引き寄せるのは相当難しい事であろう」
「つまり殿下は我々にはアビサルドラゴンを戦える場所まで引っ張り出す能力がない、とおっしゃりたいのですね」
「……うむ、そうだ。悪くは思わないでくれ、余もあまりこういう事は言いたくはないのだ。だがその将来性には期待している。そして稀人は煌めく流星のごとく駆け抜けて成長する。なら余は待とう、稀人達の準備が整う所を」
「成程、確かに正論です」
解りやすいようにちょっと手振りを加えて―――良し、視線が此方に集中している。
直感に頼らない、次手を読むための技術もここの派生だったりする。
「ですので王子、宜しいでしょうか」
「うん?」
聞き返してくる王子はちゃんと集中してくれるし、此方の耳にも傾けて意見を参考にしてくれる。素直な聞き手だなぁ、と思える。世の中話を聞いているようで最初から意見を変えるつもりのない相手がいるからな……。
コメント『ショタをたぶらかす悪い男の図……良いな!!』
コメント『腐界にお帰り』
コメント『でもショタはセーフだろ!?』
コメント『アウトだが』
配信画面を盗み見たのをちょっと後悔してる。
「先ほど王子が提示した不可能であるという事の言葉に対して、今から可能である事の理由、根拠を提示します。それを通して俺は王子に是非ともこの場で稀人、エルディア王国で同盟を組んでこのことに対処したいと思っています」
「む」
「宜しい、でしょうか」
区切り、少し強い印象を与える様に言葉を止める。横からストップ入らない。誰もが視線を俺に集中させ、王子の次の返答と此方の話を待っている。あぁ、やべぇ、気持ちいい。この視線を浴びて場を支配する感覚、何度味わっても病みつきになる。
「良いだろう。余も別に、この件を後回しにしたい訳ではない。可能であれば障害を廃し、ポート・エルを取り戻したいと思っている。それが可能であるという根拠を提示できるなら―――アインよ、提示してみるが良い!」
少し悩んだ末に結論を出したアーク王子の姿に笑みを浮かべ、頷いた。
はい、勝ち申した。
「―――全く、無茶苦茶な作戦を提示しおって」
「やり申した」
ピースピース、ダブルピース。
王子? 陥落させるのに10分もかからないよ?
いや、だって。レオンハルトが検証してくれた〈挑発〉の仕様でヘイトが跳ねまくる事はないって事は判明したし。アビサルドラゴンのヘイト優先と知性の高さを実際に知っているジークフリートに裏付けして貰って、後はやる事を提示。それで大丈夫か? って聞かれたら
できたって証拠? 科学力見る限りカメラみたいな道具が工房にあるでしょ、って当たりを突ければ実際にあるし。それで映像を記録して提出すれば問題解決。まぁ半日後には結論が出てPCNPC連合が完成されるんじゃないだろうか。案件としてはかなりイージーだった。
何せジークフリートさん含め一部のNPCが物凄いレベルで戦意を見せていたからだ。もしかして自分の手で封鎖領域の怪物を殺して解放できるのかもしれない、と思うと滅茶苦茶やる気が出ているのだろう。アレを見て王子が止められるわけないだろうというのも算段に組み込まれていた。まぁ、実際無理だったのだが。
これで俺以外のPCにできる事を証明させる。
そうすれば俺が特別なのではなく、PC全体が優秀なのである、という認識が生まれる。信用を個人ではなく集団へと移し替えれば信用の底が上がるので説得しやすくなる。後は実証結果を出せば無事行動に実行できるだろう。まぁ、早くても実行するのは明日か明後日になるだろうが。
「でも正直、これが一番勝率高いですよ。というか確実です」
ごりっごりに根拠と証拠を固めてできるってのを証明して並べてるんだから。これでダメって言われたら完全に王子の精神的問題か、或いは騎士団を信じていないって話になってしまう。そうなってしまうと何をどうしても無理なのだが、あの王子は割と素直な性格をしている。
正直、国のトップの器じゃねーなー、とは思ってる。
国のトップをやるには素直すぎる感じがする。稀人とかここから成長飛躍が確定してるんだからもっとゴリゴリに縛っておかないと後々フリーダムさに困らせられるぜ。もう既に一部がフリーダムを超越した動きを見せてるけど。
という訳で―――今はもう、謁見の間を離れて師匠の部屋へと来ている。
本日の修行タイムだ。王子を口説き落とす仕事は終わらせたので、残りは他のPC達による実証フェイズだ。連中がアビサルドラゴンをトレインできる、というのを映像と記録で証明さえすれば王子は完全に行動に踏み切ってくれるだろうし、ここで1回練習しておけば本番でミスする可能性も減るだろう。ヘイトの跳び方を悪用した手段なので割と推奨されないというか仕様の穴を突いた方法だ、これは。だができるのだからしゃーない。
そしてこれはゲームという仕様である以上、絶対に修正できない部分でもある。
まぁ、高難易度レイドやコンテンツでは無効化されそうな予感はしなくもないが。
ともあれ、俺が頭を悩ませる部分は終わったので、配信も切って今の主役は他のプレイヤーたちに回している。纏め役にはVの者らや、他の有名プレイヤーたちが買って出ているからこっちはこっちで修行とかに集中できる。まぁ、俺も小規模な集団ならともかく、百とか千とかそういう規模をコントロールするのはちょっと無理かなぁ、とは思う。
「全く、1国の王子を惑わすとはとんでもない悪童を弟子にしてしまったもんじゃわい」
「俺より酷い師匠がそれを言う??」
「ほうほうほう、儂は自覚があるから良いんじゃよ。それよりほれ、折角じゃ。連中の期待に少しでも応えらえるよう今日は少し多めに時間を取って稽古をつけてやろう」
まだ2回目の修行タイムなんだけどなぁ、とぼやきながら杖を抜いた爺の姿を見た。あぁ、うん、滅茶苦茶楽しそうな表情が見える。
もしかしなくてもこの爺、アビサル殴りの時にしれっと参加するつもりだな?
それを確信しつつ今日も爺にぼこぼこにされる時間が来た。
アークは王族として物凄い素直で責任感の強いタイプだと今の姉と兄の代わりに代理として立っている時点で解るので、状況を改善することに対する動きは肯定的。それがあるうえで騎士団が何もできないというストレス抱えているのも聞かされている。そう考えるとこのショタはかなりストレスフルな環境にいるんだよね。
おそらく現時点、王国で一番精神的に参っている人物。なお顔には出ない。
そんなショタを誑かすなんて悪い大人だなぁー。