「楽しかったわ」
「そうか、それは良かったなー」
「うん」
満足げな表情を浮かべているが、今日は40回死んだ。恐ろしい事にそれだけ死亡回数を重ねても物凄いさっぱりとした表情を浮かべている事だろう。根本的にニーズヘッグは根が戦闘狂な部分があるのは事実だが。いや、この笑みで思い出す。
1度だけ、中学の時に、本気でこいつとやり合ったときの事を。
まぁ、その時の話はどうでもいいんだ。問題はニーズヘッグがまたチェーンソーをぶっ壊してしまった事だ。今回もジークフリートがしょぼん顔と共に弁償してくれるという話だから良いのだが、明らかに手加減とかそういう類の概念捨ててないあの英雄? 大丈夫? 死体に向かってビーム乱舞してたの物凄い楽しそうだったぞ? というか動きや攻撃の発生がフリーダムすぎてドン引きするわアレは。レベル50を超えた領域ってそういうもんなんか。
まぁ、チェーンソーは再び修理送りへ。1時間、2時間もすれば修理は終わるだろうから工房から回収して、その足で東街道へと向かって軽く様子を見てこよう。その時にはきっと、実験の方も終わっているだろうし。そういう事で再びゲストルームへと戻ってくる。今度はニーズヘッグを伴って。部屋へと戻ってくればシャーリィの姿がある。そしてその姿に当然の様にチェーンソーを預ける事になる。
「すいません、これをお願いします……費用はジークさん持ちらしいので」
「畏まりました。アイン様、あちらの本棚にA様より送られてきた書籍を纏めておきました。時間がある時に軽く確認すると良いそうです」
「ありがとうございます」
ニーズヘッグを迎えに行っている間にどうやら差し入れてくれていたらしい。折角だしチェーンソーが直るまではこれを見て勉強してみるか、等と考える。とりあえず本棚にあるものを軽くチェックしてみれば、入っているのはどれも属性魔法に関する知識、そして習得魔法、組み合わせ、作成できる魔法でお勧めのものが書かれている。
とりあえず今1番使用している《火魔法》の物を取って、ソファに仰向けで横になって本を広げる。
この本にはこの先、《火魔法》のレベルを上げた時に覚える魔法やパッシブ効果が記載されている。これを確認するのはややネタバレ気味になるが―――同時に、どういう魔法が使えるようになるのか、その疑問に対する答えにもなってくれる。とりあえず次のレベルで覚える魔法は水分を蒸発させる魔法で〈ドライ〉になるらしい。瞬間的に水分を蒸発させる事で水による攻撃や、水で構築された生物を一瞬で追い込める魔法とのことだ。
「へぇ、そんな魔法もあるんだな」
その次に覚える魔法は〈イグニートジャベリン〉で、これは単発の威力が〈バースト〉に劣る代わりに、戦闘前等に事前に発動させておく事で5発まで事前にストックが可能らしい。移動の合間に発動、戦闘開始時に一気に5発放ってバーストする為の魔法の様なものだなぁ、という感想を抱かせる。ただ複数弾ストック可能で連射可能な魔法という事は瞬間火力的にはめっちゃ優秀だと解る。単発130の無詠唱で5発トータル650も威力が出ると思えば開幕の瞬間火力としては漸くキャスターとしての高火力が出る、という感じだろう。
そして《火魔法》SL9は〈ファイアーボルト〉の更新。〈ファイアーボルト〉使用時に自分に30秒間、火属性ダメージが20%上昇するバフが付与されるという内容らしい。つまり一番最初の攻撃に〈ファイヤーボルト〉を組み込む事で30秒の間、〈バースト〉や〈イグニートジャベリン〉等の魔法が全て20威力が上昇するという事でもある。元々の〈ファイアーボルト〉から〈バースト〉への更新で威力が20上がったことを考えれば、実質的に新しい攻撃魔法を習得した事に近いだろう。それに範囲魔法の威力も上がっているのを考えればかなり強いバフだ。戦闘中、絶対に忘れずに29秒毎に〈ファイアーボルト〉を使ったバフ更新を行わなければならないだろう。
そして《火魔法》SL10で〈エクスプロージョン〉。これはどうやら現在の最大MPの3割を固定で消費する魔法の様だ。範囲は半径10メートルと今までのどの魔法よりも広く、消費MPもかなり重い。しかしそのデメリットを飲み込んでも有り余る威力、なんと数字にして威力400も存在する。こんなもの、味方がいる状態では絶対に巻き込むかメレーの攻撃を阻害するかで絶対に使用する事は出来ないだろう。しかもMPが3割も消費されてしまう。そもそもからして連発は不可能だ。
だけどそうか、MPを割合で消費する魔法はおそらく威力が高くなるのだろうと判断する。魔法戦の主力はスキルをマスターしてからだと、エディットで作成する割合で消費するのがメインになりそうだ。魔法を覚えれば覚える程エディットの幅は広がる。その事を考えるとやはり、幅広い魔法を習得しないとならないだろう。
「えーと、お勧めや人気の魔法ってのもあるのか……ぐぇっ」
「どーん」
本をソファの上で寝転がりながら読んでいると、ニーズヘッグが圧し掛かってきた。例によって装備を全部外した下着姿なので体の柔らかさが色々とダイレクトにやってくる。というか視線を落とせば押しつぶされたものとか谷間とか見えてくるので色々とヤバイ。素早く本をガードに差し込んだ。
「重い! 退け!」
「やだ」
「やだじゃねぇだろ。あ、こらっ! 暴れるなこいつ!」
「構って」
上の乗っかられた状態で軽く暴れるニーズヘッグ、自覚があるのかないのかは流石に良く解らない。だがそれはそれとして良い歳してるんだからそういう態度は止めなさい。暴れてくるニーズヘッグの姿を上から振るい落として床に転がす。
「きゃー」
「何がきゃーだ、何が。そんなに体力が有り余ってるならまた暴れてこい!」
「嫌よ。今日の分は終わったわ。だから今度はボスが構って」
放り落とされたソファの下からニーズヘッグが床に座りつつ覗き込んでくる。ほんと、顔と体は良いのに性格がなぁ。片手で本を握りつつ、もう片手でソファの下に陣取っているニーズヘッグの頭の上に手を乗せ、わしゃわしゃと頭を撫でる。そうやって頭をなでると一気に抵抗力を失い、腹の上に頭を乗せてくる―――こういう所、本当に犬そのまんまだよな。
「む、でも世間的にはあんまり割合消費メジャーじゃないのか……」
読んで確認していると、どうやらMP割合消費は非メジャーとなっているらしい。その理由は消費MPが大きい事で、MPの枯渇が早まり、最終的に回復によるコストが増えてしまう事があるらしい。どうやら1回1回の破壊力よりも、継戦能力を伸ばしているほうが好まれるようであり、割合消費は現代の魔法戦におけるセオリーから外れる部分がある、と書いてある。その為特化型魔法による固定消費タイプに消費軽減をつけて、比較的に威力の高い魔法を連打しているのが最も効率的だと言われている。
《火魔法》によるお勧めの組み合わせは《火魔法》+《火属性マスタリー》+《炎への親和》らしい。典型的なメインウェポンに強化ブースター、その上で特定属性の消費カットとブースターの複合スキルという組み合わせだ。《炎への親和》はどうやら《火魔法》と《火属性マスタリー》をそれぞれ10にしたら習得できるようになるスキルらしい。特化型はこれを必ず習得し、これをベースにサポートや火力向上スキルを詰めるのが基本になっていると書いてある。
「ほえー、面白いなぁ」
「手が止まってるわ」
「はいはい」
「むふー」
しっかりと頭をなでるとそれだけで満足する。触れ合い、というよりは明確に感じられる事を求めている感じに近い。ここら辺どうにかして矯正できないかなぁ、なんて事を思ったりもするがそもそもこいつの家庭環境が特殊なところもある。今更矯正するのは難しいかもしれないし、将来的にこいつの事をこのまま預かる道に進みそうなのが怖い。いや、決して嫌いじゃないんだけどさぁ。そういう事じゃないというか―――いや、忘れておこう。
とりあえずゆっくりと髪をぐちゃぐちゃにするように、頭は撫でておきつつ本を読む。
そう言えばこれまで毎日、冒険とレベリングばかりでこんなにゆっくりした時間は取ってなかったよなぁ、と。リアルでは寝ているような状態に近いのだが。まぁ、でもどうせ行動待ちか。そう思ってしまえば気は楽だ。
それにMMOというものは1人が突出したところで得られる成果は少ない。
エリアの攻略、そしてレイドの攻略、コンテンツの開拓、これらはマンパワーで解決しなくちゃならない事だ。だからこう……サボる時間も必要だと思っておこう。
動かないのも仕事だとか、たぶんそんな感じ。
でも1回だらだらしちゃうと結構尾を引くんだよなぁ……。
もうこのままゲーム内でひと眠りしちゃうか? いや、ゲーム内で眠れるのかこれ? 寝れるっぽいしもう寝ちゃうか。なんか今日は結構行き当たりばったりな感じあるな……。
顔に本を被せてもう寝ちゃおうかなぁ、と思うと扉がノックされる。
「シャーリィです」
「入って良いぞ」
「お待たせしました、修理に出しましたので1時間ほどで終わるとのことでして、その後は取りに行けば宜しいそうです」
「了解」
……終わるって言うなら後で取りに行ってレベリングするかぁ。やっぱだらだらし続けるのもあまり良くないし。そう思ってこの後の予定を脳内でスケジューリングしていると、シャーリィがつきましては、と言葉を置いた。
「湯浴みの準備を整えましたので、ご利用なされますか?」
「お風呂!?」
その言葉に思いっきりニーズヘッグが反応した。俺も王城の大型浴場には興味がある。ならとりあえず風呂に入ってから色々と考える事にしよう。
そうしよう。
そうすることにした。
人は時にぐだぐだし始める。だけどMMOでログインしたのはいいものの、その場でエモート放置しながらおしゃべりするのはよくある事である。
なお見ての通り、好感度で言えばニグは100/100はある。