風呂。
それは文化。
風呂。
それは癒し。
風呂。
それは人生。
日本人は風呂という文化、環境、ライフワークからは逃れられない。そう、風呂を嫌う日本人なんていない―――あ、いや、ちょっと主語を大きくし過ぎたかもしれない。だけどそれぐらいお風呂が好きだし、大体の人はお風呂が好きだろう? 1日の疲れを風呂に入って足を延ばしながらゆっくりと体をマッサージする事なんて極楽の一言に尽きるだろう。だから俺は風呂が好きだ。いつか自分の家を持てるようなときが来たら、風呂場は大きくしたいと子供の頃から思っていた。そして大きい風呂場というのはもう、それだけで気持ちの良いもんだ。
つまり王城の風呂場、すげぇ。
脱衣所で服を脱いで―――というかまず驚かされたのは全裸になれる事実だ。普通、センシティブとか色々あって服を脱げないのでは? 海外って法律とかでこういう関係滅茶苦茶厳しくて問題がなくても問題にしてリリース拒否されるぐらい厳しいのでは? なんて思ったりしたのだが、なんか普通に服を脱ぐことが出来た。やはり、年齢認証を行った影響なのだろうか? まぁ、どっちにしろPCでも風呂に入れるという事実は凄まじいの一言に尽きてしまう。もうそれ以上表現する言葉はない。
この電脳世界に限界はないのか? リアルよりも遥かに充実してない? 大丈夫? バーチャル死続出しない? 現実に絶望して自殺する人出てこない?
まぁ、そこら辺を考えるのは偉い人たちの仕事なので、我々消費者は全力でエンジョイする事に集中すりゃあいい。
そういう訳で、
「―――広っ」
脱衣所から出た先に広がっていたのは大浴場だった。これを1人で独占して良いの? って疑問を浮かべたくなるレベルで広い浴場だった。入口には使用中の看板も立ててあるし、他に誰かが入ってくる事もない。この王城の大浴場は今、自分というプレイヤー専用に貸し切られている状態だった。今の所細かい汚れが髪や体に付着するような事はシステムの限界故か存在しないが、風呂や洗顔洗髪の概念が存在し、行えるのは実に不思議な事だった。
「水の描写もやっぱりすげぇな……」
浴槽の端にまで移動して、片手を突っ込んで水の感触を確かめる。そこにはリアルと同じ水の感触と、そして温度。水面の揺らめきも凄いリアルだ。
「ほんと、どんな技術なんだろうな……」
スパコン何台用意してるんだろ? そもそもスパコンという概念さえも古い気がする。だが解るのはこのお湯の温度はサイコーだって事で、
「ひゃっほぅ」
湯船に身を沈めてみればその感覚がもうサイコーだってことだ。
肩まで湯船に身を沈め、ふぅーと息を吐いて背を浴槽に預けて腕を縁に乗せて、天井を見上げる様に目をつむる。
「はあ―――極楽」
「よっし、休憩も取ったしチェーンソー回収して封鎖領域行くか」
「おー」
混浴? ラッキースケベ? ちゃんと男女で区切られている浴場でそんな事が起きないのは当然の事だ。でもちょっと残念かなぁ! って健全な男子としては思ってなくもない。誰だって1度ぐらいは経験してみたい。まぁ、それはともあれリフレッシュが完了したので漸く王城を出る事にする。一応は朝のうちにこなすべき役割は果たしているので誰にも文句は言わせない。言えるはずもない。
という訳で、王城を出て街に出る。
既に城下町の方では王国と稀人の間で結ばれる同盟、或いは連合のうわさで持ちっきりになっているのか前よりも熱気と勢いを人ごみに感じる。どことなく忙しそうに走りまわるプレイヤーの姿を含めて、或いはサービススタートの日よりも人の動きと熱気が凄いかもしれないと感じられる。とりあえずは工房まで武器の回収に行かなくてはならない。溢れる人混みに逆らいながら進んでいけば、前見た時よりも忙しそうにしている工房の姿が見える。
受付にはライネルの姿があり、此方を見つけると片手で黒い長方形のケースを持ち上げてきた。
「おー、来たか。既にブツは用意してあるから持っていけ」
ライネルが背負っている物とは違うが、デザインの似たケースをニーズヘッグに渡し、それを受け取ったニーズヘッグが首をかしげる。
「これは何かしら?」
「ケースだよ、ケース。一応は精密機器だからな。水中とか砂漠とかでぶん回すと動作不良起こす可能性もあるからな。王宮が今回の作戦に当たって色々と金を出してくれたから、こいつはサービスだ。盾として使うのも良し、鈍器として使うのも良し、好きに使ってくれ」
「ありがとう、使わせてもらうわ」
「ついでにお前ら用の装備も王宮が発注したから、明日ここへ回収に来い」
「え、なにそれ聞いてない」
「何ぃ? マジか、やっちまったか? あー、聞かなかった事にしてくれ」
ライネルは頭をがしがしと掻くと手を振った。王子様が金をぶっこんでくれたのだろうか? 説得はしたが一応は出来るという証拠を提示する前の状態だ―――或いは、最初から乗り気なのか、此方にオールベットしている状態なのか。どちらにしろ、良い話を聞いてしまったかもしれない。これならこっちで装備を揃える必要もないだろう。
「あー、アレだ。一応20
「了解了解」
「楽しみにしてるわ」
「まぁ、期待してろ。予算貰ったからこっちも割と今はしゃいでるからな。それに俺も作戦には参加する予定になってる。期待してるぜ、ルーキー共」
色々と既に動いている……というよりはある程度未来の事を予想して事前に動いているのか? 王子がそこまで見て動けるとは思えないし、側近の人の指示かなぁ、なんて事は考えたりする。まぁ、そういう考えは後回しだ。今はそういう事を忘れてレベリングする為に移動しよう。
という事でニーズヘッグを伴い武器を回収した所で東門へと向かう。
「ボスー! 応援してるぜー!」
「ボス! こっちは気合十分だぞ!」
「ボス、フレンドいいっすか!」
「もげろ!」
「死ねカス! 目立ってんじゃねぇぞ」
「フィエルちゃんアレ、暴言なので対応よろしくな」
一瞬で暴言野郎が消え去った。消え去った姿を見て、心の中で雑魚め、と呟いておく。まぁ、これも有名税なのだが付き合う理由はない。民度塵カスのチンパンの民に関してはこれからも末永くBANさせていく方針を維持したい。
まぁ、こんなどうでもいい事はともあれ、一気に知名度が上昇してしまったからか、通りすがりのプレイヤーに挨拶されたり後ろを追いかけられたりするようになってしまった。ここは素直にちょっとやりづらいなぁ、とは思わなくもない。目立ち過ぎた弊害という奴だろう。これ、たぶんマルージャ組に笑われるだろう。
そんな事にエンカウントしつつも東門へとやってくると、流石にプレイヤーの数が多い。どうやら同レベル帯でちまちまとレベルを上げるスタイルからパーティーを組んで格上を狩るスタイルに環境がシフトしているらしい。まぁ、格上狩りは安定させすれば凄いスピードでレベルが上がるのだから当然と言えば当然なのだが、こっち側に人が増えるとこっちが狩りし辛くなるんだよなあ、と思う所はある。
「今日も来たか。話は聞いている。応援しているぞ」
「どうも!」
昨日と同じ人が門番をしていた。その人に片手でありがとう、と挨拶を返しながらノルトとセクエスを召喚し、騎乗する。それを羨まし気に見ているプレイヤーがいるし、近づいてくるのも見える。だがそれを待っていたら間違いなく触らせて、だとか乗せてくれとか面倒な事を言う奴が出てくるに決まっている。
なので他のプレイヤーガン無視で一気に駆け出す。流石に馬の速度に現時点で追いつけるような奴は存在しない為、一気に走り出せば全てを置き去りにして街道を駆け抜ける事が出来る。だが見てみればプレイヤーたちが大きく纏まってエネミーの相手をそこらかしこでしているのが見られる。基本的には4人から6人程度のパーティーを組んで、1体のエネミーに対して集団でぼこって戦っているようだ。必ずタンクを軸に戦闘を行っている辺り、タンクの需要は今後も尽きる事がなさそうだ。
まぁ、実際タンヒラ揃えた時の安定感は多数のエネミーを抱えていても余裕を感じさせるものだ。DPSオンリーで暴れまわるのとは全く違うもんだ。
攻略やレベリングの基本はやはりTHDx2、これが黄金の組み合わせだ。
「封鎖領域に入ったらタンヒラ探して、纏め狩りが出来ないか試してみようか」
「昨日よりもたくさん暴れまわりたいわね」
自由に、そして好きなだけ暴れる事の出来る環境を得たニーズヘッグもかなり楽しそうにしているのが解る。やっぱり、彼女をこっちの世界に誘い込んで良かった。
―――っと、思っていたのが10分前の出来事だった。
パーティーの王道がTHDx2だって? 誰だそんな事を言ったのは。
「それでは宜しく頼むぞアイン、ニーズヘッグ、レイン」
良い笑顔を浮かべたレオンハルトが封鎖領域の空の下、挨拶をしてくる。それを見て俺は頭を抱え、他のDD共はやる気十分という姿を見せていた。
「期待してるわレオンハルト」
「任せ……て」
イカレたパーティーを紹介するぜ!
ダメージディーラー! ダメージディーラー! ダメージディーラー! ダメージディーラー!
以上! 解散ッ!!
せや、死ぬ前に攻撃叩き込んで全部回避すればノーダメで勝利や! というのを突き詰めるチームが出来ちまったみたいだな……。
やだなぁ、ラッキースケベなんてある訳ないじゃないですかー。