断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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王国同盟 Ⅶ

 昼飯を終えて軽く再ログインの準備を済ませてインすれば、他の連中は既に集まっていた。

 

「待たせたな。まだやってる?」

 

「めでたい事にまだ攻略できているパーティーが出てないからな」

 

「ほぉ、楽しそうじゃん」

 

 ログインするとレオンハルトが現状を教えてくれた。どうやら封鎖領域内部にフィールドボスが出現したらしい。恐らくトリガーは一定数のエネミーの討伐。今はかなりの人数が封鎖領域内部でエネミーを狩ったり検証したりで動きが多い。それでフィールドボスの降臨を招いてしまったのだろうと思う。当然ながらここは格上のエリアで、一番レベルの高い俺とニーズヘッグでさえまだ推奨レベルに到達していないレベルだ。つまりそれを超える強さの敵が出現しているという事だ。これは中々攻略できる相手じゃない。

 

 それでも攻略して経験値を求めるのだが。

 

「んじゃ現場まで行くか! ノルト!」

 

「レインはこっちよ」

 

「感謝」

 

 馬を召喚し、レオンハルトとレインをそれぞれ別の馬に乗せ、封鎖領域に突入する。馬の速度はやはり優秀だ。他のプレイヤーも遠くへと遠征するさいにはまずマウントを何種類確保する所から始めるのかもしれないが、今だけは俺達の特権だ。封鎖領域の外から一気に速度を上げて中へと突入すれば、封鎖領域内部の一角が騒がしくなっているのが解る。

 

 そこへと近づけば人ごみによって囲まれているエリアがあるのが見える。人の数は多いが、馬に騎乗した状態であればその上から様子を眺める事が出来る。

 

 見えるのは全長20メートルほどの巨大なカエルの姿だ。ただしこいつは真っ黒に全身が染まり、体中から棘の様な魔晶石が生えているというここにいるインフェクティッド個体を更に凶悪化させたようなビジュアルの持ち主だ。特に参戦人数とかに制限がある訳ではないらしく、今は20人ほどが囲んでいて戦っている。

 

 だがカエルの方が強いようで、まったくその頭上のHPバーは削れている様子がない。いや、違う。HPバーはかなりゆっくりとだが、削れている。だがある程度削れると適当のプレイヤーを舌で掴んで飲み込み、そのまま食べて回復しているようだった。食われているプレイヤーに関してはトラウマ獲得、ご愁傷様としか言えない。

 

「はあ、中々面白いのが湧いてるな」

 

「だろう? アレをとりあえず倒せば良い経験値になるだろうしどうだ?」

 

「ニグは―――聞くまでもないか」

 

「ぶおんぶおん」

 

 もう既にセクエスから降りてチェーンソーを握っていた。本当に手が早いなぁ、って感じがする。まぁ、レオンハルトもレインも武器を抜いてやる気満々だからしょうがないんだが。それはともかく、戦場全体を俯瞰するとまったく戦場の統制が取れてない感じがする。これじゃあまぁ、当然戦闘が全く進まないだろう。

 

「しゃーない、俺で指示と統制取るわ」

 

「狩りの時と同じ形で言う事を聞けば良いんだろう?」

 

「特技よ」

 

「任せる」

 

「お前らさぁ……いや、いいや」

 

 苦笑しながらフィールドボス戦の準備を素早く声に出して進める。

 

「ヒーラーとタンク! 2人ずつこっちに参加する奴いないか! 立候補者! 良し! 早かったお前ら4人採用! パーティー申請送るぞ―――良し、宜しく! 他の連中はパーティー組んでるか!? 組んでないなら一番近い奴と組んでおけ! 組めばリソース管理しやすいからな! オラ! なに戸惑ってやがる! タンク連中はボスの前に陣取れ! メレーは馬鹿正直に前に立つな! 一番攻撃しやすい背面に回れ! 聞こえてんだろうがッ! 動け動け動けッ!」

 

 馬上から杖を引き抜き、空に向けて〈バースト〉を放って此方に視線を集める―――攻撃はしてないのでヘイトも攻撃もこっちには来ない。だがこれで他のプレイヤーたちの視線と意識を奪う事ができた。まずは烏合の衆を統率。通常規模の戦闘であれば十分だが、相手がボスレベルの相手であれば話は別だ。

 

「メレーは背面つってんだろうがぁ! レンジ、キャスターは側面! 射線をメレーと被せるな馬鹿誤射する気か! 正面にいるタンクは4人までだ! ヒーリングは詰めなくて良い! ヒーリングよりもダメージを出す事を意識しろ! タンクはHPが減って辛く感じたら後ろのタンクと交代しろ! その為にも次のタンクはスイッチできるように待機! オラ、早くしろ!」

 

 怒声を響かせながら杖を振るって指示を出す。ついでに此方も戦闘での参戦経験値を得る為に魔法を一発だけ叩き込んでおく。流石にこの数を指揮しながら自分もまともに戦うのは難しい。ノルトに騎乗した状態のまま、他に指示を飛ばせるようなプレイヤーがいないのかを探るが、いないらしい。最前線まで突っ込んでくるのは脳味噌筋肉ばかりかー?

 

 あぁ、いや、違うか。

 

 単純にこの規模の人間をリアルで動かす経験がないから皆流されてるだけだ。

 

 日本人の事なかれ、流され主義だ。

 

 まぁ、それを今回は利用するが。

 

 フィールドボス、クリスタライズド・フロッグは全身の結晶を槍の様にはなったり、体当たりする事で戦うエネミーの様だ。その攻撃は激しく、口からマシンガンの様に結晶を放つ。

 

「何をボケっと立ってやがる! DPSの手は足りてるんだからタンクは妨害と軽減だけに集中しろ! 全体軽減札はないのか!?」

 

「あ、あります!」

 

「俺の合図で差し込め! そこ! 10人ほどタンクは右側へ! そっちの10人は左側へ回り込め! キャスレンジの前に陣取れ! 全体来るぞ!」

 

 フロッグの前身が膨れる。全身の結晶槍が増え、それが力を込められ射出される寸前であるのが見える。

 

「軽減! キャスターとレンジを守れ! メレーは自己防御!」

 

 カバーリングの行えるタンクが素早く低耐久の前に立つ。同時に一部のタンクが此方を守る様に前に立って、結晶槍を盾で受け止めてダメージを代わりに受ける。サンキュ、とそいつだけに聞こえる様に呟いて笑みを見せ、杖を大きく振るって見えるように指示を出す。

 

「レオ! 次舌が来る、切れ!」

 

「任せろ!」

 

 レインとニーズヘッグは指示を出す必要がない。全体攻撃を最低限のダメージで受け流した瞬間にはフロッグの巨体に肉薄し、バースト火力を一切の遠慮なくぶち込んでいた。手数とパワータイプのキャラなのだ、アレはバーストを邪魔しないほうが良い。ギミック処理を信用出来て攻撃の邪魔をして良さそうなのはフットワークが軽く、そして戦闘タイプがバランス型のレオンハルトだ。

 

 こいつはその性質上、指示を出してギミック処理の運用に使いやすい。

 

 レオンハルトが居なければニーズヘッグを使うのだが、アイツのバーストはかなり火力が出るのでこういう処理に動かしたくない。とはいえ、一番呼吸を合わせられるのはニーズヘッグだから、結局は楽しんでしまうのだが。

 

 と、思考している間にフロッグの舌が切断された。見事な斬撃によって切断された舌は切り離され、フロッグの回復手段が断たれた事を証明する。

 

 ―――えーと、前足に力を入れてるから次は正面タンク強攻撃か。

 

「正面スイッチ準備! 左右のキャスターはMPが切れたら遠慮なく攻撃範囲外まで下がってMP回復させろ! メレーもMPが空になったら火力が落ちるし攻撃できる範囲は決まってんだから大人しく次の奴に場所を譲れ! その方が討伐が早くなる! 慣れてきたか? 全体注意! 軽減差し込め!」

 

「シールド!」

 

 半円状のバリアがいくつか出現し、プレイヤーたちを覆う。同時に放たれる結晶乱舞がバリアを貫通しながらタンクたちによって受け止められるが、その威力は減退している。それでもタンクのHPが4割、メレーのHPが7割減っているのを見ればかなり威力の高い攻撃であるのが伝わるだろう。だがフロッグ自体も常にMPを潤沢に使っているDD共からのサイクルを組んでの連撃にHPがこれまでとは違う速度で減っている。明確に頭上のHPバーが%単位で減っており、その死期が近づいている。それに呼応するように再び全体攻撃の準備に入っている。バリア入ってアレだけのダメージだ、

 

「ヒーラー! 範囲ヒールをばらまけー! しっかり最大まで戻さないと死人が出るぞ!」

 

 笑いながら指示を出し、ヒールと軽減に入るタンクとヒーラーを見る。今この瞬間に必死に陣形を少しずつ整えながら攻撃しているDDを見て、本来のレイド、ボス戦闘とはこういう形になる筈だっただったんだろうなぁ、というのを見る。

 

 今回のアビサルドラゴン戦が変則的すぎるのだが、本来はこうやって大人数で囲んで、指揮し、そして統率しながら戦うものだったのだろう。だからアビサルドラゴンの前にこうやってフィールドボスと出会えたのは良かった。お陰で本来のレイド戦の空気、そして指揮官や統率者が集団戦では必要な事、それらが行える人材が此方には全く存在しないのが見えた。

 

 とはいえ統率さえしてしまえば簡単にまとまる。元々ゲーマーはこの手の祭りが好きだし、ここにいるのはその中でも特に祭り好きな連中だ。

 

「ラストスパート! MPに注意しながらHPを維持しろよ! 今まで通りの動きを繰り返せ! 焦る必要はない、パターンに変更はなし。これまで通り落ち着いてやればパターン通り処理できる! 良いぞ!」

 

 既にモーションは出そろっている。ステータス差は大きいが、それでもタンクが防御に専念すれば受け切れない程ではないし、DDが本気でDPSを出す事に集中すれば削り切れる範囲だ。あのアビサルドラゴンとは違って倒せる範囲のエネミー。だったら奇策なんてものに頼る必要はない。一度確定したパターンを維持してしまえば、後は無理矢理動かさなくても、

 

 徐々にフロッグのHPが減って行き、怒りと発狂の発露の様に回避不能な結晶乱舞を放ち続けるも、生命力が尽き、慟哭と共に倒れて動かなくなる。

 

 突発的な登場ではあったが―――良い経験と経験値になった。

 

 大量に発生するレベルアップの光と共に、全員で勝利の歓声を響かせた。




 MMOには必ずと言って良い程コミュ内で音頭を取れる人間がいる。リーダーシップにあふれているというか、優れているというか。そういう人がコミュニティを引っ張ったり、指示やコールをする事でコンテンツ内で人を成功に引っ張ってくれる。

 これが野良の集まりだとそう言う人も「身内じゃないのにめんどくせぇなぁ……」でコールしたり仕切ったりしなくなるのはマジ。この手のイケメンが野良で仕切り始めるのは明確にコンテンツの失敗や空気が悪くなった時だったりする。

 なので今回アインが仕切る前にも仕切れる人はおそらくいたけど、単純にめんどくさくて何もしなかったのかもしれない。

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