レベルが21にまで上がる。ログアウト前には20に上がっていたので新しいスキルが習得できる枠が今は1個開いている。今、ここにスキルを入れないのはちょっともったいないなぁ、なんて事を考えている。だがスキルの習得には一旦街に戻って、学べる相手から学ばないとならない。そうなるとタイミング的には明日の朝、爺から学ぶのが一番無駄のないルートなんじゃないかなぁ、とは思わなくもない。ちなみに覚えるつもりなのは当然ながら《氷魔法》だ。これで火と氷で火力タームと回復タームで無限機関の第1歩が構築されるだろうし。流石に強敵1戦だけじゃもうスキルレベルは上がらなくなった感じもある。
強敵との戦いよりも日々の数をこなす事の方がスキルレベリングとして重要になった感じはする。いや、爺とのスパーリング経験してるとやっぱ質が一番重要だな、って感じはする。結局のところ、レベルが上がるならなんでも良いのでは? って感じはある。ともあれ、
「お疲れ様! ナイスファイト、カバーリング助かったぜ。ありがとうな」
ノルトの上から降りて、カバーリングに入ってくれたパーティーのタンク2人と握手をする。前に出ないでずっと此方の防御とガードに入ってくれていたおかげで、ずっと指揮に集中する事が出来たので、忘れず感謝の言葉を送る。
「あ、いえ、此方も非常に助かりました!」
「ありがとうございました」
「ヒーラーの人たちも! ナイスヒール、誰も堕とさなかったのでグッジョブ」
「こっちも楽しかったですー」
「機会があったらまたよろしくお願いします!」
「パーティー解散しまー」
とりあえずパーティーを解散する。これで組んでいたパーティーが解除されるが、即座に人混みを縫いながらニーズヘッグが合流してくる。褒めて褒めて、と表情を浮かべているがステイ、と視線だけで伝えて、他にやってくるプレイヤーたちの対応を行う。どいつもこいつもテンションが高く、ドロップの報告とかレベルアップに喜んでいる姿が見えるが、
「指揮助かりました、ありがとうございます!」
「助かりましたー!」
「ありがとよ!」
「こっちもありがとう! 汚い言葉で悪かったな」
「全然かまわないぜー!」
「寧ろそっちのは動きやすかったですよ」
流れてくるプレイヤーが解散しつつ挨拶と感謝の言葉を掛け合って行く。コミュニティとしてはまだまだ小さなもんだが、モラルが高い。ちゃんと感謝が出来ているしかなり民度の高いグループだった。この手のクリア後の挨拶がちゃんとできるコミュニティは民度が高く、プレイヤーも優良なのだ。これを強制するようになってしまったらおしまいだが、自分から笑いながら言い出せるうちは全く問題はない。
基本的にシャレム参加者、善人ばかりだなぁ。
クソキッズを全く見かけない。いや、悪くはないというか寧ろ良い事なのだが。暴言だったり、妨害だったり、そういう事でプレイを妨げる様な奴が一番邪魔で不要なのだから。寧ろこの状況で妨害に走るような奴が出てこないほうが驚きなんだが。
世の中時間短縮の為に勝手にボス戦はじめて全滅させたり、他の奴の都合を考えない奴とかがめっちゃ多い。そういうのが現れない感じ、今の環境はかなり良い。
と、10分も対応してれば人の流れが途切れて封鎖領域に散らばる。寄ってきたニーズヘッグの頭を両手で掴んでわしゃわしゃとかき混ぜてやると喜んでいる。それを直ぐ横でレオンハルトがドン引きした表情で見ている。
「君たちの関係はちょっと良く解らないな……」
「犬と飼い主だぞ。ログイン直後は多少取り繕う努力もしてたんだけどな、こいつ……」
「面倒になったわ」
「そうか……面倒ならしょうがないな……」
諦めたようなレオンハルトの声に苦笑を零す。まぁ、こいつとの関係は本当に特殊だから言いたい事は解る。だけど世間一般で言われるそういう関係じゃない事だけは断言させて欲しい。こいつの感情はそこまでそういう段階にはない。というかそこまで情緒が育ってるかどうかすら怪しい。マジで大型チワワみたいなやつなんだ。まぁ、説明したところで誰も理解しないだろうから言い訳なんてしないのだが。
ただこうやって構ってやらないと寂しそうな視線をするのは事実なので、定期的にカマってやるのは忘れない。
「あー、ボス。ちょっと今いいですか?」
「ついに知らない人にまでボスって呼ばれ始めたんだが? いいよ」
先ほどの戦闘に参加していた人が1人、片手に機械を持って近づいてきている。手に握っているのは何かの球体の様に機械的な球体の様に見える。それを此方へと手渡してくるので、軽く持ち上げながらアイテムの詳細ウィンドウを確認する。
「録画用スフィア?」
「ですです。機工房から貰った戦闘映像の録画用アイテムです。稼働させると録画用のホロフレームが出現するんで、それで取りたい映像をビデオカメラの様に回して、その間の出来事を記録するってアイテムです。これじゃ中身を確認できないですけど、機工房の方に専用の出力用機器あるみたいですので、そこで確認するらしいとか。俺達が渡すよりボスが渡したほうが信用あると思うんで渡しておきます」
「おっけおっけ、サンキュ。俺は早速こいつを渡してくる事にするか」
インベントリにアイテムを収納しつつ、これを渡して本格的な同盟を確定させる事にしよう。そう決意しながら視線をニーズヘッグへと向ける。
「どうするニグ? 俺は戻るけどお前は―――」
「一緒に行くわ」
「―――まぁ、聞くような事でもなかったな。うん」
という訳で、残念ながら美味しかった纏め狩りパーティーはここで解散する事をレオンハルトとレインへと告げると、寂しそうな表情を浮かべられた。
「そうか、かなり楽で美味しかっただけに残念だな」
「楽しかった」
「苦労させられたけど、こっちも楽しかったよ。機会があればまたな」
「また遊びましょう」
特にこの2人は今の所、スカウト最有力候補だ。マルージャ側がスカウト不可状態である以上、こちら側でTDHを1枠ずつ確保しなくてはならないのだ。真面目にあの強さならこの先もトップ層に居続けるだろう……絶対にコネクションを維持しておいた方が良いだろう。
くそぉ、なんで俺がこんな事を考えなくてはならないんだ。
1様『あの自称傭兵童貞野郎絶対に許さねぇ』
梅☆『なんでヘイト飛んでくるのぉ???』
略剣『生きてるからなんだよなぁ』
狂犬『存在を悔い改めて』
梅☆『存在罪』
土鍋『もし、産まれた事が罪ならば……それでも、生きるしかないんだ……!』
梅☆『なんか始まったな』
狂犬『人である事が許されないなら犬になればいいのよ』
略剣『実践してるやつの言葉は重いなぁ』
茶番で軽く鬱憤を晴らしたらノルトに再び騎乗して封鎖領域を出る事にする。もう既に結構な人が封鎖領域に突入しているが、外に出た街道でもかなりの数が居るのが見える。もうプレイヤーの大多数がこっち側で格上相手にレベリングする方向へとシフトした、とみてもいいかもしれない。そうなると、このトレンドというか動きを生み出したのは俺だろうか?
いや、確実に俺だろうなぁ。
うーん、個人的に散らばっていてくれた方が遥かに楽なんだけどなぁ。まぁ、影響力があるのもしょうがないかって感じはする。知名度上がればそれだけ顔が効くし、そういう意味では知名度を上げておきたいなぁ、と思う部分はある。
封鎖領域を出て街道を踏破すれば、直ぐにダリルシュタットの東門まで到達する。確認してみればそこにいる門番は普段見る人とは別の人だった。此方を見かけると敬礼を取ってくる為、馬から降りてアイテムを取り出す。
「提示用のスフィアを持ってきたんだが―――」
「そちらに関しては直接お渡しいただく様に指示を受けています。王城の方までお願いします」
「了解」
やっぱり形式的に、直接手渡しさせる事に意味があるのかもしれない。面倒だ。そう思いながらも王城へと向かう為に門をくぐり、市街地へと戻ってくる。
今日はもう、まともにレベリングできそうな気がしない。そんな予感を抱きつつ面倒なポジションに収まってしまった自分を恨む。こういうのは本当は面倒で嫌なんだよなぁ。
とっととアビサルドラゴンを始末して、冒険と開拓の生活に戻りたかった。
割と切実に。
一番早くNPCとコネクションを築いてしまっただけに便利なポジションを押し付けられ苦労するハメに。こうなると中々自由に動けなくなっちゃうんだよね。