本日の王城、セカンド・シーズン。
つまり2度目の王城である。まさか1日でこんなに何度も王城に向かう事になるとは思いもしなかった。次来るのは明日になるかなぁ、と思ってたんだが。まぁ、これもコネを築いてしまった自分の有能さが悪いのだ。素直に仕事を果たそう、と再び小門から王城へと入る。王城内部へと入ればそこら中に兵士やメイドの姿があるので、適当なメイドに証拠品の提示を行えると告げる。するとメイドが一礼してくる。
「アイン様、ニーズヘッグ様ですね。お話は伺っております。直接アーク殿下にお渡し頂くように聞いておりますので、殿下の私室までご案内します」
「え、マジか。いや、違う。本当に?」
「えぇ、そう申しつけられております。再び王城を訪ね、証拠を提示すると言われた際にはお通ししろ、と」
「いや……解った。案内してくれ」
良いの? って視線をニーズヘッグが向けてくる。だが相手がそう指定してくるのならそれに従うほかないので腕を広げてしゃーない、のポーズを取っておく。先導するメイドに従って追いかけるように歩いているが―――なんというか、全力で囲い込まれている感じはする。現状、俺が唯一のコネ持ちである上にそれがPCとの懸け橋になっている部分はある。これで囲い込めば実質的にエルディア側のPCに対するコントロールを得た様な状況になる……イニシアチブが取れる。
それとも、他の国が復活する前に有望な稀人との太い関係を築いておきたい?
どちらにしろ、ここまで親身になられると何か思惑があるのは見える。ただそれが解っていても、従わないとまともに動けないのが今の辛い所だ。それも他の国が復活するまでの事だろうが。他の国ってどういう感じなんだろう? やっぱり新しいエリアの類は気になるのだが、現実逃避はここら辺までにしておく。
いつの間にか到着してしまったアーク殿下の私室を前に、メイドが頭を下げてから去って行く。どうぞこの先はご自由に、という事だろうか。あまりこういうシチュエーションは好きじゃないんだけどなぁ、と口にしないで呟くと、肩にタッチを受けて振り返る。
「ん」
サムズアップを向けてきたニーズヘッグの姿に苦笑し、ちょっとだけ勇気付けられる。本当に、ちょっとだけ。だけど遠慮なくノックする程度には出てきた。
こんこん、と2度扉をノックしてから声を出す。
「失礼します、アインとニーズヘッグです。提出しに来たら此方へと案内されたのですが―――」
「―――うむ、余がそう頼んだ。入るが良い」
「では、失礼します」
本当に誰にも止められる事なく中に入れてしまった。扉を開ければ王族という肩書の割には装飾の少ない……いや、それでもホテルのロイヤルスイートを超えるレベルの上品さを感じさせる部屋に入ってしまった。中にある調度品の1つ1つが最高級品なのだろうが、無駄なものを減らしているように思えた。ただその中央にはテーブルと椅子があり、そこで待っていたアーク殿下の姿があった。その横には老紳士の姿もあり、此方を見ると一礼してきた。
「良く来たアイン、ニーズヘッグ。さあ、早く扉を閉めて中に入ると良い。扉が開いていると気が休まらぬからな」
「え? あ、はい」
「うむうむ、入ってきたな? 扉は閉めたな? はあ―――疲れた」
扉が閉まったのを確認すると大きく溜息を吐いた王子がだらしなく椅子に座り込んでいた。それは謁見の間、玉座の上で少年が見せていた姿とはあまりにもかけ離れていたもので、とてもじゃないがこの姿を配信する気にはなれなかった。その姿にちょっと困惑しても、軽く息を吐いて気持ちのスイッチを入れ替え、
「あ……ごめんごめん、急に呼び出す形になっちゃって困ったよね。ほら、そこに座ってよ。爺の入れてくれた紅茶はすごく美味しいんだ―――あ、アインとニーズヘッグは紅茶って大丈夫? 苦手だったりしないかな?」
それはまるで年相応の少年の態度であり、公私を区別した態度だった。あぁ、この少年は今、この場、自分の私室でのみ少年らしい姿を取る事が出来るのだろう。
馬鹿野郎、これクッソ辛いぞお前。何がって俺の心がだよ馬鹿野郎!
内心ゲロを吐いていると、ニーズヘッグが両手を腰にやって胸を張った。
「何を言おう、私は苦手なものはないわ。でも紅茶の繊細な味は良く解らないわ」
「ニグ」
「いいよいいよ、アインもニーズヘッグも国民って訳じゃないし。異世界の人なんだよね? 態々僕たちの為にごめんね。でもこっちも色々と必死なんだ。あぁ、いや、こんな事を言われても大変だよね。とりあえず紅茶をどうぞ。何時も謁見の間で会うのも面倒だし今度はこっちにさせてもらったよ」
「いえ、それは構いませんよ。とりあえずこれをお渡しします」
「うん、ありがとう」
スフィアを取り出し、それを老紳士に渡せば、既にカップに紅茶が注がれて用意されていた。スフィアを受け取った老紳士は解ける様に消え、王子と自分達だけがその場に残された。王子に対面するようにニーズヘッグと2人で並んで座りながら、ティーカップを持ち上げて匂いを嗅ぐ。
……前、略剣の家で飲んだ高級茶葉よりも上等そうなものを感じる。
「ふぅ……これで全力で支援する名目が生まれたよ。ありがとう」
「いえ、どういたしまして……というか此方こそありがとう、と言いたいのですが」
即座に返した言葉に、アーク王子が笑った。
「いや、違うんだ。君たちが居なければそもそも僕たちはこの先、未来を掴む事さえできないんだ。唯一の手段があるのならそれに全てを賭けるのは当然なんだ。だってそれしか手段がないんだからね。だからこうやって現れてくれた事を感謝したいんだ。ありがとう。本当にありがとう、君たちのおかげでガラドアが戻ってきたばかりか、こうやって僕の無謀な願いを聞いてポートまで取り返しに動いてくれてる。本当に感謝するしかやれる事がないんだ、僕には」
このショタ、色々と背負いすぎているのではないか? とちょっとだけ内心引く。だけどそれをなるべく表情には出さないように、和やかに紅茶を楽しんでいる様に見せて―――まぁ、実際には味が解らないレベルでちょっとテンパってるんだが―――話の流れを変えてみる。
「あー、殿下が港を取り戻そうとしている理由を聞いてもいいですか?」
「うん? あぁ、別に隠している事でもないから良いよ。港にはね、上の兄上がいるんだ」
となると、アークよりも年上の王子が居るという事になる。
「正直な話、王家はもうぎりぎりなんだ。今、このダリルシュタットには1人の兄と1人の姉がいるんだ。だけどまだアイン達は会ってないよね?」
王族であれば真っ先に顔を出しそうな気配もするのだが、現状そんな人物が動いているという話も気配もしていない。それはつまり、
「……理由があるのね?」
ニーズヘッグの言葉にアークが頷いた。というかニーズヘッグはへたくそでも良いから敬語を使ってくれ。俺の胃にやさしくないシチュエーションなんだ、これは。というかなんで俺は唐突にショタハードを叩きつけられているの? なに? このゲームショタハードオンラインだったの?
「カイウス兄上は元々体が病弱なんだ。この状況になった時真っ先に陣頭に立つって言ったんだけど、そうしたら恐らくストレスと疲労で死んでしまうから表に出てこれないんだ。そしてクレセア姉上はこの状況で心が折れてしまったんだ。この状況だからしょうがないっちゃしょうがないんだけどね」
そう言ってどうしようもないよね、とアークは笑う。どうしようもねぇのは俺達の状況だ。なんて事を暴露してやがる。泣くぞ。
「だから残った僕が陣頭に立つ事にしたんだ。戦場で陣頭に立つのは王家の義務だ。だけど兄上も姉上も立てない。なら僕が立つしかないんだ。この服も、食事も、紅茶も、生活も、全ては民が働いた金を使って得たものなんだ。だったら僕はそれに支えられ育った者として、この有事の時に最大限民の安全と未来を確保しなきゃいけないんだ」
辛い。
「……あ、ごめん、いきなりこんな話をされても困るよね。ごめん。でも僕もどこか疲れてたのかも」
はは、と笑うアークの表情にはありありと疲労の様子が見えている。
「だけどね、それも港さえ取り戻せば終わりなんだ。港を取り戻せばパーシヴァル兄上が戻ってくるんだ。武にも政にも長けている兄上だったらこの国の舵取りを僕から引き継いで安定させられる筈なんだ。だから本当にごめん、無理矢理押し付ける様な事をして。勝手に期待しているようで。だけど今の僕には君たち稀人に全賭けする以外の手段が思いつかないんだ」
「ま、まぁ、気楽に殿下」
良いですか、と言葉を置く。
「俺達稀人は政なんてほとんどわかんねーんですわ。興味持たないのが大半ですし。根本では愚衆です。楽しければ良いんですよ。面白ければ良いんですよ。そういう刹那主義者ばっかりなんですよ、基本的には」
俺達はゲーマーだ。
俺達ゲーマーは常に楽しい事を求める。
俺達ゲーマーは常に面白い事を求める。
俺達ゲーマーは、他にはない体験を求める。
俺達人間という存在がその根本では愚かって事実はまぁ、一生変わらないだろう。現代日本と中世の教育を比べれば現代日本の方が100倍進んだ教育を行っているのだから俺達の方が賢いだろう、単純なインプットだけならば。だからといって頭脳戦で勝てるかと言えば否、だ。俺達は愚かだし、根本的にそうやって頭を使って生きるって事を放棄する方が楽で好ましい。
だから俺達は楽な方へ、楽しい方と流れる。
だけどこの中で事実が1つだけある。
「俺達稀人は、楽しかった事は絶対に忘れないですよ。嬉しかった事を絶対に忘れませんよ。優しくしてくれた人にいつまでも感謝しますよ」
偶にそういうのからはみ出たキチガイもいるだろう。だが基本的な民度の高いゲーマーってのはそういうもんだ。余程ジャングルのチンパンジーやゲーム界のヨハネスブルグにでも潜らなきゃそういう生き物とはエンカウントしないだろう。
「だから大丈夫ですよ、殿下」
俺達、そういう恩とか絶対に忘れねぇからな。
「殿下、俺達に優しく迎えて支援してくれましたもんね」
今回のレイドだって全力で国がバックアップしているし、
「俺達、そういう事の感謝は忘れないんで―――まぁ、何とかしますよ」
その言葉にアークは少し呆けてから笑みを浮かべ、そして笑い声を零した。
「ははは、そうか……忘れないかぁ。うん、それは……心強いな」
「任せなさい。おねーさんがなんとかするわ」
「お、ニグがやってくれるなら俺はサボるか?」
「駄目よ。ボスがいないと寂しくて死んでしまうわ」
「ちゃんと恋人の面倒は見たほうが良いと思うよ?」
「いや、これペットだし……」
「流石にそれは……」
「わんわん」
「ッ!? そ、そういう関係もあるんだ……!」
少年が何か、新しい性癖の扉を開けかけている気がする。もしやちょっとヤバイ事をしてしまったのではないか、と撫でを要求してくる大型犬を無視して紅茶を飲んだ。もう少しだけ、本気でやるかなぁ……なんて、事を柄にもなく思った。
ショタに厳しい世界。どうしてショタだけ苦しむんだ! じゃあロリも苦しめればいいのか。問題解決だな……?