断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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王国同盟 Ⅻ

 そろそろログアウトしたいし、時間も良い感じになってきたので最後の所まで連れてくる。

 

 これまで屋台、マーケット、大通り、教会、住宅街と様々な場所を巡ってきた。どれもこの街を流れる血だ。そこに住まう、働く人々の姿は王城の中にいては絶対に見れないものだ。彼らがどういうエネルギーを纏って生きているかは、直接会わなくては感じられない事だ。だからこそアークは見る必要があった。実感する必要があった。自分が一体何を支え、そして共に生きているのか。単なる知識としてだけではなく、経験として。

 

 だから、まぁ、それを見終わったらやる事はもうないので、

 

 もう既に馴染み―――というか常連感覚が染みついたイェン兄妹の屋台へと来てしまった。屋台から購入したラーメン……の、つもりだったのだが、今日はなんと汁なし担々麺だった。辛いものは地味に好きなので嬉しい。それを3人分、テーブルの上に並べて囲みながらずるずると食べている。あまり辛い物を食べた経験がないのか、目の端に涙を浮かべながら麺を啜っているショタの姿はその界隈のお姉さま方が発狂しそうな表情をしていた。やっぱ配信しなくて良かった。その手の変態が視聴者に増えても困るだけだしなぁ。

 

「あー、辛っ、旨っ。そうそう、この後に響く辛さが良いんだよ」

 

「私はどっちかと言うとぶわってくる感じの方が好きなのよね。激辛料理とか好きよ」

 

「そ、そう? この舌に来る刺激僕はちょっと苦手かも……あ、でもこの辛さの後に来るコクが美味しくて止められない」

 

「そう! それなんだよ! 辛さの中にコクがあるんだよ! そこなんだよ、辛さの美味しさってのは。その辛さを乗り越えたところに味があるんだよ……ただただ辛ければ良いってやつは味音痴だよ」

 

「そんな事ないわ。辛ければ辛い程良いわよ」

 

「お前のそういう所とは絶対に相容れねぇわ」

 

「奇遇ね」

 

 睨み合うけど直ぐに食べるのに戻る。美味しいからしゃーない。食べ物そのものには罪がない。そしてこの味を完全に気に入ってしまった部分がある。これからも夜は予定がないか、何かを食べる時はなるべくこっちに来ようと思ってしまう。うぅ、美味しい……現実でも美味しい担々麺食べたいけど、微妙に美味しいお店が遠いから食べに行けないのほんと辛い。

 

「見るが良い、兄上。アレは完全に飯の顔だ。胃袋を私に掴まれた、な」

 

「一応言っておくけど作ってるの全部こっちだからね? その理論で行くと胃袋掴んでるのはこっちだからね?」

 

 イェンとフォウが兄妹で漫才をしている。あの兄妹は珍しく仲の良い兄妹だよなぁ、と思いながら麺を啜る。大体兄妹ってのは育つと仲が悪くなったり疎遠になったり、生活が近いのが理由で割とお互いの事を鬱陶しがっている部分がある。そういうリアルでの関係を見ていると、

 

「イェンとフォウって仲良いよな」

 

「そうであろう? 兄上は私の事が大好きでしょうがないからな」

 

「今のを見て解ると思いますけど、このように妹は1人にするには不安すぎるんですよ。自信過剰というかなんというか……だから海を越えて付いてきちゃったんですけど。あぁ、父上怒ってるだろうなぁ……」

 

「負け犬である父上の事等忘れろ。この断絶を逃れた我らが勝者だ」

 

「父上が負け犬……えぇ……」

 

「このストロング兄妹はいつ見てても楽しいなぁ」

 

「ねー」

 

 この街の中でもぶっ飛んだ個性を持っている人たちなんじゃないだろうか? 仲良く言い争っている兄妹たちの姿の横では、麺を啜りながらも徐々に静かになって行くアークの姿があった。その姿を横目に捉えつつ、小さく微笑み、頭を撫でようと思って―――あ、流石にそこまでやると不敬にならないかな? そう一瞬だけ考えて頭を撫でた。今だけ、ここではアーク殿下じゃなくて、アーク少年だもんな。アーク少年だったら別に頭を撫でても良いだろう。

 

「アイン」

 

「ん?」

 

「今夜はありがとう」

 

「楽しかった?」

 

「うん、楽しかった」

 

「ならそれで良いよ」

 

 俺だって誰かに説教できる程長く生きている訳じゃないし。だったら少しでも自分が感じている事、感じたことをこうやって経験を通して共有するぐらいの事しかできない。だからこうやって遊んで、アークが何かを感じる事が出来たのならまぁ、それで正解なんだろう。少なくとも本人にとっては。そしてそれはそれで良いんだろう。たぶん。

 

 汁なし担々麺うまー。

 

「あ、ボスみっけ。やっぱここにいたいた」

 

「おーん?」

 

 アークに夜遊びを教えたことで本日の目的も達成したし、飯食い終わったらアークを届けてログアウトするかぁ、と思ってた所で知らないPCから話しかけられた。どうやら探されていたようで、おそらくは作戦に関する報告か何かなのだろう。正直一々俺に報告してくるのもどうなんだろうとは思わないけど、完全に俺が音頭取ってしまっているからしょうがない。

 

「なんだ?」

 

「あ、ボス。これ、本日の成果というか報告書です。現場の奴纏めてきましたよ」

 

「紙でぇ? なんでぇ?」

 

「いや、雰囲気っぽいとかいう理由で……」

 

 いや、それっぽいけどさ。発言に納得しながら本日のまとめを受け取り、内容を確認する。アビサルドラゴンの行動パターン、反応、どこまでトレインできたか、そのあとの行動は? というのをまとめた内容だった。ノリとは裏腹に内容に関しては凄い真面目なもので、外部の動画サイトに参考とチェック用の映像がアップされているらしく、それへのリンクまで乗っている。思っていた数倍ガチガチじゃんこれ。そこまで真面目にやるぅ?

 

 あぁ、でもガチ勢結構集まってるし、そんなもんかぁ。

 

「お、封鎖領域の出口まで誘導できたか」

 

「ヘイトリレー作戦成功ですね。俺達PCは痛覚OFFにさえしてしまえば死んでも特にデメリットもなく都市中心でリスポーンできますからね。死んでヘイトを宙ぶらりんにして挑発して引きずり出すの、現状フィールドが隔離されていない限りは一番有効な戦術までありますよ」

 

「そっか、これでほぼ封鎖領域外までの流れは確定できたし、後は作戦決行当日に気合を入れてやるだけだな。報告サンクス」

 

「いえいえ、こっちも楽しくやってるんだ! この調子だと明日にはもう実行できますよ」

 

「マ?」

 

 横にいるアークを見る。この会話は全部王子である彼には筒抜けだ。そしてそれを咎めるつもりもない。ここで聞いている事はそのままあっちにも伝わると考えれば良い。だから笑みを浮かべる。

 

「ま、可能なら明日中にも実行できるぐらい準備しておいてくれたら良いよ」

 

「たぶん皆余裕で行けると思いますよ。気合入って徹夜組とかボトル組とかいますから」

 

「ボトラーは帰せ」

 

 アレ、絶対に精神に問題を生じると思うんだよなぁ。人間のやる事じゃないと思う。後睡眠は大事。ログインしている時間とは別に普通に寝る時間をちゃんと8時間確保した方が良い。脳の働きの問題でパフォーマンスとか変わってくるから。

 

「参加してる連中にも睡眠、食事、そして暖かい風呂をちゃんとしておくことも伝えておけよ」

 

「了解です。それじゃあ行ってきます」

 

「あいあい、お疲れ」

 

 気合十分という様子で走り去って行く姿を軽く眺めてからはは、と笑みをこぼして、横にいる少年の姿を見る。

 

「どうよ、こっちは気合十分だぜ?」

 

「そうだね、凄いと思うよ。よくここまで頑張れるなぁ、なんて思ったりもする」

 

 だけど、とアークは言葉を置く。食べ終わった箸と器をテーブルの上において、覇気に満ちた表情で次の言葉を告げた。

 

「―――だけど僕の国の兵士のが、100倍凄いから」

 

「こりゃ明日が楽しみだ」

 

 こいつ、将来は絶対に大物に育つわ。ちょっと見てみたいなぁ、なんて思いながら夜は過ぎて行く。




 これで夜のお話は終わり。

 次からはいよいよアビサルドラゴン討滅作戦。集結するPC,踊り出す全裸、増殖する全裸、装備耐久削れるなら全裸で良いなと気づく全裸。次回からは祭りだ。
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