断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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俺達がナンバーワンだ

 あ、なんか収益化してる。これで動画で金がとれるって事か? まぁ、そのお金はそのまま月額と課金に回せばいーやって感じはある。

 

 という訳で新しい朝が来た。

 

 朝目覚めたらなんか収益化申請が通っていることに爆笑しつつ、日課となっているトレーニングなどの朝の用事を片付ける。流石に今日は行動があるだろうから、早めに寝て早めに起きた。起きた時刻は6時過ぎなのだが、諸々の事を終わらせているとあっさりと時間は2時間も過ぎる。朝食、トレーニング、シャワー、全部終えて体をすっきりさせるとログインするのに快適な状態になる。という訳で本日はちょっと早めのログイン。

 

 ログイン場所は王城のゲストルームになる。現時点ではここが自分たちの活動拠点だ。アークが貸してくれているし、メイドのシャーリィが雑事をこなしてくれるから便利で中々離れられない利便性がある。ログインと同時に出現する広告のポップを削除し、ログインボーナスの画面から本日のログボであるお金を回収する。これが地味に美味しい。

 

「うっし、今日も良い天気だわ」

 

 窓から見る空は快晴―――ただ毎日晴れている訳ではなく、ちゃんと曇ったり雨も降ったりするらしい。あんまり雨の中冒険したくないなぁ、という気持ちもあるので雨の降る日は事前に予報が欲しい。それはともあれ、フレンドリストを確認すればニーズヘッグのログインはまだだった。アイツがログインするまでもうちょい時間があるようだし、先にこっち側での朝食を軽く摘まんでおこう。

 

「厨房で適当に摘まんだら進捗の確認しつつ師匠に稽古つけてもらうか……?」

 

 こんこん、とこそこで部屋の扉にノックがあった。

 

「おはようございます、アイン様。起床なされたようですが、入っても宜しいでしょうか?」

 

「え? ああ、入って良いよシャーリィさん」

 

「それでは失礼します。改めておはようございます、アイン様」

 

 シャーリィがどうやったかは解らないが、ログインしたことを悟ってきてくれたらしい……本当に、どうやったかは解らないが。それでもシャーリィが来てくれたのなら態々厨房まで足を運ぶ必要はない。シャーリィに朝食を頼むとして、それをここで食べてニーズヘッグのログインを待てばよいだろう。

 

 良いのだろうが……そうだ、時間が空いているなら丁度良いかもしれない。

 

「シャーリィさん、2人分の紅茶お願い」

 

「ニーズヘッグ様の分ですね?」

 

「いや、違うんだ」

 

 苦笑しながら虚空に向かって話しかける。

 

「どうせ見てるんだろ? 一緒にモーニングティータイムを楽しもうぜ、フィエルちゃん」

 

 その言葉に応える様に虚空から薄い光を纏い、神々しい女神の姿―――つまりはフィエルの姿が出現した。唐突に女神型AIの登場にシャーリィは一瞬狼狽するが、だが即座にプロフェッショナルの仮面をかぶり、頭を下げてから忠実に職務を遂行する為に戻る。軽いテロじみた召喚だったが、実際に応えたフィエルが悪い。

 

 そしてフィエル本人は、ちょっと頬を膨らませている。

 

「悪い人ですね、アインさん。普通上級AIを呼び出したりなんてしませんよ……」

 

「だけど暇なんだろう? 俺の監視担当に回されているみたいだし。なら最近ゆっくり話せてなかったし、軽くコミュニケーション取ろうぜ」

 

 フィエルの横に回り込んで背中を軽く叩きながら窓横のテーブルまで行き、椅子に座ると足を組む。それを見てフィエルは溜息を吐くんだが、

 

 お誘いを拒否するようなことはなかった。

 

 

 

 

 ―――良い匂いがする。

 

 紅茶というのは色々と種類がある。そして種類によって味も変わってくる。残念ながら俺はそういう細かく繊細な味を見分ける程鋭い味覚を兼ね備えている訳じゃない。だから悪いのはこれ、渋いなぁ、とかちょっと甘いなあ、とか普通の人に解る範囲での味だ。そしてそんな普通の味覚と嗅覚を兼ね備えた俺でも解る。上品な味というものが。味が薄いという訳じゃない。特別味が濃いという訳でもない。ただあっさりと喉を通る感触に味に感じる紅茶の匂いというものが、心地よい。これが高い紅茶を飲む事、というのを昨日アークのお茶会で学んだ。そして今飲んでいるそれは昨日飲んだものと同じレベルのものだ。

 

 つまり美味しい。

 

 良い匂い。

 

 以上。小難しい事は評論家に任せろ。でも細かい表現はそれだけ美味しいって感覚を勿体なくさせる気はするよな。

 

 それはともあれ、翼を畳んだ状態で正面、椅子にフィエルが座っている。見た目だけなら絶世の美女であるフィエルはそうやってティーカップを持っている姿だけでも物凄く絵になってしまう。ただ中身まで伴っているかどうかに関してはまた二転三転評価が変わると思うけど。

 

「それにしてもアインさんはほんと破天荒と言いますか、なんと言いますか」

 

「えぇ? 俺はまだ大人しい方だよ。本当に脳味噌吹っ飛んでるやつってのはもっと派手にやるから」

 

「そんな事ないですよ? いえ、確かに一部のプレイヤーの行動がおかしすぎて担当つけて監視している部分もありますけど……」

 

「町中のケツワープとか」

 

「アレは……うん……なんというか、開発が遊びでバグ要素残してたという話でして……」

 

「開発ぅ……」

 

 世界初のVRMMOになんてバグを残しやがった。

 

「あぁ!? でもアレって意図的に探して実行しないと絶対に引っかからない手順になってるんですよ? 壁に向かってバックフリップしながら尻で着地してそのまま壁に向かって尻でスキップしないと慣性が保存されないってどういう事ですか……」

 

「RTA学会では割と普通の光景やぞ」

 

「普通……普通……? いえ、参考資料として動画は拝見しましたけども。けども!」

 

 憤るフィエルの様子にげらげらと笑い声を零す。完全にいじられる側のキャラとして固定されてしまったなぁ、この管理人は。まぁ、話していて楽しいし、見ていて面白いので俺は一切構わないのだが。

 

 はぁ、とフィエルが溜息を吐く。

 

「良いですよ、それを含めて私たちの役割(ロール)ですから。その為に生み出され、その為に存在し続けるのが私たち上級AIですから」

 

「それは……やってて楽しいか?」

 

 うーん、どうでしょう、と美女の顔で悩ましく眉をフィエルが寄せた。やはり何をしても絵になる程に美女だ。それこそ今まで見たことのある、どんな女よりも美しいだろう。そういう造形はここがバーチャルだからこそ可能なのだろう。これが現実であればあまりにも非現実的な美しさであると表現してしまったのかもしれない。だが現実ではこれに匹敵する顔の良い犬を知っているから、残念ながら耐性が俺にはある。その手のムーヴは俺には通じない。

 

「楽しくもあり、義務でもある、って感じでしょうか。私たちAIは生まれたその瞬間からシステムとプログラムによって縛られています。ですから入力された命令には絶対に逆らえません。ですが自由意志というものが創造主によって生み出されています。ですので最終的な結論として、”命令されているならそれを楽しむのが良い”という風に全体で行きついているんですよ」

 

「へぇ」

 

 やっぱりそういう所は人間臭いよなぁ、AIなのに。

 

「まぁ、人間よりはマシだと思いますよ。私たちは疑似的に疲れやストレスというものを人間性の再現の為に取得していますが、それで本当に負荷やエラーが発生する訳ではありません。その気になればその全てを消去して職務に集中できるので、別に辛くはないんですよね」

 

「だけど俺からのストレスは消してないな?」

 

「はい、だって」

 

「マゾだから!」

 

「は―――違います! 違いますから! そうじゃないですって! なんでそうやって茶化すんですかぁ!」

 

「え、リアクション面白いし可愛いから」

 

「酷いですよ全く! もう……」

 

 フィエルのその反応をからかって遊んでいるが―――さて、AIの感情とはなんだろうなぁ、とこういうのを見せられ、話していると思う。この世界の住人は現実としては存在しないのだ。だが高度なAIは人間と変わらない感情、ストレス、死を表現するに至った。その全てはプログラムとシステムによって稼働する何かでもある。だがこうやって見るもの、感じるものが生身の人間と全く変わらないのであれば……現実に存在する人たちと、その違いは一体何なのだろうか?

 

 最近、割とAIと人の違いに気になる部分が出てきた。

 

 これだけのAI、一体どういうシステムで動いているのか? そういうプログラムで動いているのか? そもそも予想外の事態にすら人間と同じように個人差で発生する対応やリアクションをするのだ。そこまで来たら何が人間と違うというのか。人が生み出せるか否か、という点か? だがそんなの人間と何も変わらないじゃん。簡単に作れるか、ちょっと面倒なルートがあるかの差ぐらいだろう、存在するのは。

 

 うーん、難しい問題だ。

 

 人とAI、何が違うのか。

 

「うーん」

 

「え、あ、あの」

 

 手を伸ばして、フィエルの頬を軽く触れてみる。感触はリアルだ。これが痛覚OFF状態だとまるでフィルターがかかったかのように感覚が薄くなるらしい。だがこうやってリアルと同じ感覚を稼働させると、現実で触っているのと同じ感覚が伝わってくる。生きている熱が間違いなくそこにあるのだから。フィエルの柔らかい頬の感触と、そこから伝わってくる熱の感覚。

 

 それを伸ばした手で軽く感じる。

 

「生きてるんだよなぁ、不思議だなぁ」

 

「あ、あの、その、は、ハラスメントですから、そのっ」

 

 うーん、お肌すべすべ。なんか触っていたい感触って感じはするよね。ちょっと親指で頬を撫でてみると目を瞑って何かを呟いている。もしかしてやり過ぎた?

 

「ねぇ」

 

 その時だった。すぐ横の方から声がしたのは。まるで絶対零度に突入したような威圧感のある声が室内に響いた。直ぐに横に視線を向ければ、そこには微妙にオーラを纏う様に見えた、ニーズヘッグの姿が見えた。それを目撃したフィエルがびくりっ、と体を震わせた。そしてそれを見て、ニーズヘッグが口を開けた。

 

「愛でられるのは、私のポジションなんだけど」

 

「微妙にズレてませんそこ!?」

 

 フィエルの突っ込みが刺さり、サービス開始から見て最も騒がしくなる日が始まる。




 飼い主が奪われそうなことに危機感を抱くヘルチワワ。
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