「なんじゃ、その後ろからぶら下げとるのは」
「不要なオプションパーツですわ。とりあえず訓練場に飛ばしておいてください」
「やだやだやだ」
「年寄りを便利に使うのぉ……」
後ろから両手足でコアラのごとく抱き着いていたニーズヘッグを魔法で訓練場までテレポートさせてもらい、漸く体に張り付いていた重荷を剥がす事に成功する。最近、ニーズヘッグ以外の女子とエンカウントするのが理由なのか愛犬のアピールが激しくなってきてちょっと疲れる。まぁ、アイツが何を思わんとしているのかは解るのだが、そこは面倒なので通じないフリをしておく。とりあえずニーズヘッグが消えたから腕を回して体をほぐす。
ちなみにだがフィエルは当然ながらいない。あまり他の者に姿を見られたくはないらしい。
お前の同僚、街中でケツワープ追いかけてたんだが?
まぁ、見られたくないって言ってるならしゃーない。それはそれとして、日課となった爺との鍛錬の為に爺の私室までやってきた。相変わらず謎技術によって空間が拡張されているが、前見た時よりも更に広くなっている気がする。部屋を軽く見渡していると、爺が髭を撫でながらさて、と声を零した。
「恐らくは今日中に……いや、昼過ぎぐらいには作戦が実行されるじゃろうな。儂にも出動要請が届いたわい」
「師匠にも?」
「うむ、あの坊主が直々に、な。頭を下げずに正面から一緒に戦ってほしいと真っすぐな目で言われたんじゃ、儂には断れんかったわ……ま、弟子が居る事だしのぉ」
ほうほうほう、と笑いながら言葉を続ける。
「お主が目指す頂きの一端、それを見せるのも良かろうて」
「おぉ、そりゃあ楽しみですわ」
目指すべきビルドとしての完成された姿。それを見せてくれるというのだから歓迎するほかない。それはそれとして、今日が作戦の実行日なのだから何時も以上に気合を入れてスキルトレーニングをしたい所だ。
「宜しい、準備の方は良いようじゃな? なら今日は厳しめに行くぞ」
「え、待ってこれでも厳しくなかったの一体俺どんなことをさせられうぉわあああ―――」
「ま、こんなもんじゃろ」
たっぷり2時間みっちりとトレーニングを詰め込まれた。おかげで終わった頃にはぼろ雑巾と呼べるような状態になって転がっていた。全身が痛い……超痛い。室内で隕石って普通落ちてくる? 落ちてくるんだなぁ、これが。というか落ちてきたわ。原理ほんとどうなってるの? いや、上位の魔法と言えばメテオ系列の隕石落下は基本って言えば基本だよ? だけどそれを室内でぶっ放すって何事? 俺も将来撃ちたい。
ただ、成果の方は割と出たもので全てのスキルがレベル6にまで上昇した。流石2時間ひたすらメテオ地獄の中鍛錬させられただけある。一体どこの世界の拷問ですかこれは。でもちゃんとスキルレベル上がっているから何も文句が言えない……というか次のレベルまでのトレーニングもだいぶ埋まってる状態じゃん……。
「さーて、儂も久々に技を振るう事が出来るし、少しはオシャレするかのぉ」
「あ、やっぱ師匠レベルだとそういう領域に」
「いや、人前に出るんじゃったらおめかしぐらいするじゃろ」
そういうノリなのか、アビサルが相手でも。やっぱレベルキャップ超えてるキャラは怖いなぁ。
「さて行け行け。昼過ぎまでには準備する時間も欲しいじゃろうて」
師匠が本棚から本を取り出そうとしたのを見て、思い出す。
「あぁ、そうだった」
昼過ぎごろに作戦開始ならその前に色々と準備ができるがその前に、
「師匠、スキル枠に空き枠1つあるんだけど」
レベル20に到達した事実を告げると、少し驚かれたような表情をする。
「む、もうか? 流石稀人は成長が早いんじゃな……普通であればそこに到達するまで年単位の鍛錬が必要になるんじゃがなぁ」
「ほえー……あ、とりあえず師匠」
思考の海に溺れそうだったAの意識を呼び戻すと、まぁ待てと言葉を置かれる。
「先に《結界術》を取ったほうがええじゃろう」
《氷魔法》ではなく、と首を傾げると、
「《火魔法》を極めれば自然と魔法の作成に入るじゃろう。その時新しく魔法を習得すれば、その時点で習得している魔法の要素を取り込んで作成が行えるんじゃよ」
「あぁ、成程。今習得しても効率が悪いんすね」
「うむ」
魔法エディットを解禁した状態としてない状態だと、知っているほうが強く、効率の良い魔法が使えるだろう。《火魔法》がSL10でエディット解禁されるのなら、そっちで解禁してから《氷魔法》を学び、そこからエディットされた氷の魔法を使えば効率よくレベリングが行えるという話だ。それは考えていなかったなぁ、と頷く。となると確かに《結界術》を習得して、誤射対策をしたほうが良いだろう。
「それに《結界術》は道半ばでも敵味方の識別は出来るようになるからのぅ。片手間に育てれば問題はなかろう……現時点でも驚異的な成長力じゃが」
「成程成程。ではお願いしまーす」
「ほいほい」
ちなみにこの間、立ち上がるのも辛いので常に地面にぐちゃあ、となった状態のまま喋っている。それをこの爺は解っていて放置している。それとも自動的に回復する魔法システムでも組まれてるのだろうか? 死んだら自動的に蘇生してたしなぁ。
と、師匠にこんこん、と頭を叩かれるとシステムウィンドウに《結界術》習得、と表示された。こんなあっさりと……。
「あぁ、そうじゃ。ここから離れて魔法を覚えたければ部屋の本棚にいくらか教本を仕込んでおいたから、それを使えば覚えられるからそっちで覚えると良いぞ」
「アレ、アレってそんな便利なもんなんですか」
「熟読が必要じゃから多少は面倒じゃがの。その代わりにどこでも覚えられるんじゃよ」
はえー、本って便利なんすねぇ、と呟きながらずりずり床を這いながら出口へと向かう。確か機工房で装備が用意されているんだっけ? 一度そっちに行かないとなぁ、と思っていると後ろから師匠の声が投げられてくる。
「あぁ、そうじゃ。まだ先の話じゃろうが、《基本魔法》は習得する必要はないから予定から抜いておくと良いぞ。それで習得できる魔法は《火魔法》を覚えた時に叩き込んでやるわ」
「え、いいんすか」
「便利じゃが強くなる要素はないからの、時間を取ってまで習得するようなもんじゃないわい」
成程なぁ、と頷きながらぼろ雑巾状態で部屋を出る。
それで何時になったら回復してくれるんですかね?
部屋を出たらちゃんと回復された。やっぱなんかギミックあるっぽい。というか最初はちゃんとヒールしてたのにこの扱い、さては日常的にヒールするのが面倒になってギミック組んだ疑惑があるなこれ?
ともあれ、これで大体のスキルが6になった。《火魔法》は〈ドライ〉という水分を蒸発させるちょっと使いどころの難しい魔法を習得した。《時魔法》は〈ディストーション〉という時間関連のバフデバフの影響を受けている相手にして威力が上昇するという攻撃魔法だった。《時魔法》初の攻撃魔法にして特攻魔法という珍しい魔法を習得した。これは狩りにおいて出番がある強いタイプの魔法だと思う。少なくとも〈バインド〉や〈スロウ〉ハメをしている時はこれでかなりダメージが稼げそうだ。
《杖術マスタリー》は最終魔法ダメージが+8%に更新、《詠唱術》は何もなし、そして《二刀流》は事前に登録していたサブウェポンと現在の手持ちの武器を入れ替える〈ウェポンスイッチ〉というアビリティの習得だった。これで即座にインベントリの武器と状況に合わせて切り替える事が出来る、便利系のアビリティだった。
そして最後、新しく習得した《結界術》、最初に覚えるアビリティは〈守護結界〉で敵味方関係なく設置範囲内ではダメージを軽減する模様。
クッソ使い辛い。
あぁ、でも、敵に攻撃が出来ず奥義クラスの一撃を喰らうという状況だったら迷わず使えるタイプのアビリティだと思う。軽減に軽減を重ねる必要があるタイミングとかで使うと輝くかもしれない。でも間違いなく日常的には使えないだろう。まぁ、まだSLが1なのだからそこらへんはしゃーないと思うしかないだろう。スキルは根本的にSL10にしてマスターしてからが本番って感じが強いし。
ぼろ雑巾から綺麗な雑巾に復活したので、今日もニーズヘッグ元気よく死んでるかなぁ? と確認する為に訓練場へと向かう。どうせアイツの事だから思いっきりはしゃいでいるだろう。
「さーて、本日の虐殺はー」
そう思いながら訓練場へと向かえば予想通り激しい爆音と衝撃が空気を揺らしていた。
「はあああ―――!」
光の斬撃でニーズヘッグを吹き飛ばした先に、重鎧を全身に纏い、一部の隙間も見せぬ程鋼鉄に覆われた城砦とでも表現すべき鎧騎士が対面側に立っており、ジークフリートの攻撃を喰らい、それを纏いながら吹っ飛んでた姿を
当然、ミンチになりながら吹き飛ばされるニーズヘッグはジークフリートの方へと吹っ飛んで行く。見せられないよ! と看板を掲げたくなる光景に良い子はゲロ必須の光景だ。というか端の方で吐いている騎士が見える。大丈夫? ここまでやるとは思わなかった? そうかそうか、見てごらんあのミンチ、蘇生を受けたら楽しそうに突っ込むでしょ? まったく痛みとか気にしてないからこっちも気にしないで? 無理? そう……。
俺もちょっと身内がミンチになりながら吹っ飛んで行く姿は見たくなかったかもなぁ……。
裏で成長データとか作成してるけど雑に纏めてるから偶にアレ? レベルなんだっけ? ってなる事がある。