断絶世界のウィザード   作:てんぞー

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俺達がナンバーワンだ Ⅲ

 ニーズヘッグを回収して装備をシャーリィに修理して貰ったら、作戦開始が昼過ぎになるという事を教えて貰った。どうやら師匠の予測通りだった。そのせいで王城は全体が騒がしく、兵士の出入りもいつにもまして激しい。正直、今までで一番活気があるとさえ言える。と、まぁ、そんな様子だからダリルシュタット全体が”今日は何かが起こるぞ”というちょっとした騒がしさに包まれている。或いは、既に耳の早い者であればアビサルドラゴンの討伐と、街道の確保を行おうとしていることを理解しているのかもしれない。

 

 そんな状況の中で、機工房に装備が発注されているので受け取りに行ってほしいと言われたので王城を出て受け取りに行く事になった。流石に毎度チェーンソーを破壊していたことを反省して学習したのか、今回はチェーンソーの代わりにサイズの近い両手剣を使って戦闘していたおかげでチェーンソーを壊す事もなかった。おかげでジークフリートは漸く、修理費を支払う事から逃れる事が出来るようになったのだが、

 

 王城を出て、工房へと行く道を歩きながら、口を開く。

 

「Hey、フィリー」

 

『私をそんな便利アプリの様に呼び出さないでくださいよ……』

 

 呼び出すとフィエルの表示されるホロウィンドウが浮かびあがった。ドアップで半泣きの表情のそれを掴んで掲げると、横から伸びてきた手がそれを掴んで眺めている。

 

「でも反応はするのね」

 

『習性みたいなものですからね……』

 

 でも無視しないところは好きだよ、フィエルの事。根本的な部分で奉仕者としてプログラミングされているのだろう、この娘はルールに抵触しない範囲であれば恐らくは逆らえない気がする。それともまた別の要因だろうか? どちらにせよ、便利に使える娘だとは思う。それに疑問に答えてくれるとは言質を取っている。

 

「俺さ、ちょっと思ったんだけど……というか聞きたいんだけど」

 

『はい?』

 

「初達成称号ってのは存在するんだよな?」

 

『はい、あります。アインさんとニーズヘッグさんの獲得したワールド内初の断絶解決称号の他、国家解放称号、都市解放称号なども存在します。現状。ポート・エルの解放が都市解放称号の獲得条件を満たすので、クリアすれば今回参加した全てのプレイヤーが取得する事になりますね』

 

「成程成程」

 

 ファースト称号。この世界で初めてを奪った者達の称号だ。かなり希少性の高い称号だ。

 

「だけどエルちゃん」

 

『ついに略されましたね』

 

「ファースト称号に関してはそれが全てじゃないだろう?」

 

『……』

 

「あるんだろう? ()()()()()()()()が」

 

 少なくとも、俺達が目指しているファースト称号は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。云わばこれは前座、練習、ウォーミングアップ。ぶっちゃけた話、現段階で取得できるファスト称号は全部いらないとさえ言える。

 

 俺達が目指すワールド・ファーストの称号は、最難関コンテンツ、運営がクリアする事を想定していないような難易度で調整されているコンテンツを一番最初にクリアする事で得られるものだ。よく考えてみよう。ガラドア解放はPSが高ければどうにかなる。アビサルドラゴンはNPCと協力すればどうにかなる範囲だ。

 

 こんなものを高難易度とは言えないだろう?

 

 だってほら、擦り減る程苦しんでないし。

 

 人数と連携でどうにかなる範囲だったら高難易度とは言わないだろう。

 

 だから俺は思う。本命となるコンテンツがあるはずだ。膨大なクエスト、広大な世界、得られる達成感、そして飽きのない冒険。まぁ、それはいいぜ? それは良いんだ。だけど絶対にある筈なんだ、あらゆるゲームに搭載されているものが。

 

 エンドコンテンツが。

 

 最高難易度としてのコンテンツが。

 

『……ありますよ』

 

 フィエルが、何かを確認するように口にした。ニーズヘッグが掲げるホロウィンドウの中でしっかりとそれを口にした。

 

『条件に関してはメインクエストが現段階における最高進行度に達した時、とまでしか言えませんけど』

 

「それは言える情報なんだ」

 

『はい、確認した所”そういうコンテンツを求めるユーザーに隠す意味はない”って言われまして』

 

 納得の返答だった。まぁ、確かにエンドコンテンツは存在するよ、と教えて発生するデメリットなんてものはないだろうし。寧ろメイン進めるモチベーションになるだろうなぁ、とは言えるのだが。だがそれはそれとして、

 

「メインシナリオの進め方は」

 

『申し訳ありませんが、それは言えません』

 

「まぁ、そうなるか」

 

「こっそりでもダメなの?」

 

『こっそりとかいう問題じゃないと思うんですが』

 

「じゃあリアルで会いましょう。そこでならきっと大丈夫よ」

 

『私はAIです!』

 

「……気合で出てこれない?」

 

『……???』

 

 ニーズヘッグとフィエルが異次元の会話を開始し始めていた。気合でバーチャル存在が現実に出てくる訳ねぇだろ、ファンタジーじゃねぇんだから。

 

 だけどまぁ、良い事を聞かせて貰った。目標としているエンドコンテンツが存在するという事実が存在する事が解ったのは僥倖だ。ならそれを目指して、戦力とレベルアップを目指してメインクエストの進行を全部他のプレイヤーにぶん投げるという手段が取れるのも解った。本命に向けた準備、というのをして良い事が解ったのだから。問題はその本命の解除方法だ。

 

「エル、それってこのパッチ内で挑戦可能なコンテンツなんだよな?」

 

『はい、既に機能としては完成されて、実装されてます。ちなみに開発で挑戦したところ進行度6割ぐらいが最高記録でしたが』

 

「開発がクリアできてないの」

 

 でも既に実装されてるならコンテンツを解放するだけが問題だな、となる。メインクエストの進行がこのパッチにおける実装段階でのクリアになれば出現するのだから、おそらくはこのパッチ範囲でできる一番大きな事が今パッチのクリア条件なんだろうと思う。それでも、大体は予想がつく。たぶんそれはこの大陸における断絶現象の除去だと思っている。

 

「現在のパッチだと実装されているのはこの大陸だけだよな?」

 

『正確には海の向こうも既に存在しています』

 

「だけどシステム的に到達不可能になっているのね」

 

『そういう事です……あ、だからと言って海と港の解禁は無意味って訳ではありませんよ!? 港を開放すれば行ける場所はたくさん増えますから! 体が1つでは全然足りないぐらいに一気に世界は広がりますからね!』

 

 必死に無意味じゃないとフォローしているフィエルを見て笑い声を零す。そりゃあ無駄になるのは嫌だろうが、そんな悪辣な設定をしていないだろうと思っているし。そんな苦労して解放した港は全くの無意味でした! ……なんて事をやったら確実に暴動もんだろう。

 

「というかこれ、公開されてないだけで結構色々と情報あるな」

 

『質問機能を使えば答えられる範囲であれば即座に返答するんですけどね? 意外と利用者が少ないんですよね』

 

「宣伝が足りな―――あぁ、いや、宣伝すらしてないのか」

 

『はい』

 

 多分、質問できるとさえ知らない人が大半なんじゃないかなぁ。まぁ、普段から運営に質問するプレイヤーなんて仕様を理解したり、その研究をするプレイヤーばかりだから一般プレイヤーはこんな機能利用しようとは思わないだろう。俺はどっちかというと別口なのだが。ただ、フィエルが零せる範囲の言葉を拾って集めて判断できる事は、おそらくこのメインクエストの最終着地点がどこか、という話だ。

 

「たぶん大陸解放だな」

 

「この?」

 

「この」

 

 大陸というか、主要国家全ての解放なんじゃないかなぁ、と思っている。現時点で確認できているこの大陸の国家は確かマルージャとエルディア含めて3だっけか? 爺師匠の国が確かメゼエラだった筈だ。魔導の国だったか? 東国は海の向こうだからカウント外。後は他に何かあるかもしれないが、調べないことには解らない。だが思うに、ここら辺の国家を全て解放し、街道を繋げる事に成功すればこの大陸におけるメインクエストは達成されると思っている。

 

 或いはその復興ちょい進めたら、いー感じにこの事態を監視している奴が出てきて、そいつをボコってパッチ1.0End! って感じだと思っている。フィエルに確認しても絶対に応えてくれないだろうから正解かどうかは解らないが、

 

「こりゃ長丁場になりそうだ……」

 

『1週間でクリアされたら発狂しますよ……』

 

 それもそうだな。多分数か月という単位でクリアする事を想定してるかもしれない。少なくとも今月で終わるとはとてもだが思えない。まぁ、それでも進められる範囲を進めるしかないのだが。そうしないと挑戦すらできない。

 

 どーしたもんか。

 

 ルート、多すぎる問題。自由度が高すぎてどこをどうすれば良いのか、最短ルートの構築が全くできない。いや、現時点シナリオを最速攻略した所で特にメリットはないというか……個人的に準備期間が長い方が助かる。スキルとか装備とか消耗品とか、明らかに準備にかかる時間が長そうだし。

 

『まぁ……私としてはアインさんやニーズヘッグには楽しんでもらえるならそれで結構なのですが』

 

 フィエルのその言葉にニーズヘッグと顔を見合わせ、笑う。

 

「元々全力で楽しんでるよ」

 

「その心配はないわ。今度こそジークフリートは殺すわ」

 

『発言がなんかちょっとおかしくありません……?』

 

 ジークフリートに対する隠せない殺意を感じた気がする。が、たぶん気のせいだろう。重要人物をいきなり抹殺しに行く奴なんてふつうはおらんやろ。こいつ普通じゃなかったな。じゃあやりそうだわ。菓子折り持っていけば許されるか?

 

 そんなくだらない脳内寸劇を展開していると、いつの間にか機工房に到着していた。フィエル・ウィンドウを両手で掴み、それをニーズヘッグの口元へと運ぶと、当然の様に齧りついた。

 

『えっ!?』

 

「むしゃむしゃむしゃ」

 

「すいませーん! 王宮の方から装備があるって言われてきたんですけどー」

 

『待って、本当にこれで放置するんですか!? いえ、影響は特に何もありませんけど! 食べている人は初めてですよ!?』

 

「無味無臭」

 

『ホロディスプレイですからね!?』

 

「でも食べごたえはあるわ」

 

『あるんですか……?』

 

 あの2人の組み合わせ、もしかして面白すぎない?

 

 装備を回収しながら、徐々に齧られて面積が減って行くホロウィンドウの姿を眺めた。




 Q.今全力で急いで攻略してのメリットは?
 A.称号を獲得できるかも。その代わり本命のコンテンツの準備が薄くなるよ。

 それにしてもMMOは幅広くとも、ヒロインにホロウィンドウで餌付けする主人公とそれを食い始めるヒロインのコンビは初では。
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