工房から装備を受領する。ドクが作成した装備のスペックは高く、今まで装備していた物を遥かに超える性能を誇っている。制限レベルは20からで、それ以外は条件が特になし。それだけ聞くと軽く聞こえるが、実際は王宮からかなり金が入り込んでいる。そのおかげで破格のスペックの装備を手に入れる事が出来たのだ―――改めてアークに感謝しなきゃいけない。義務感か、或いは使命感か、それとも必死だったのか。それでもアークが勝利の為、俺を信じて投資したという事実には変わらない。だからありがたく今、装備品という積み荷を受け取り、それをインベントリウィンドウに格納してから装備ウィンドウで装着を開始する。
デザインは予想外に現代風カジュアルだった。いや、考えてみればこの世界における未来とは現代の様なもんだ。そう考えればある意味納得できるかもしれない。だが個人的には着慣れた服装がベースとなっているだけあって、助かるものがあった。デザインの方もかなりまともで、あのドクが手掛けたとは思えない姿になっている。黒いトラウザーに赤いインナーシャツ、その上から黒いジャケットに指貫グローブとINT向上用に10の指輪が用意されている。それ以外にもチョーカー、タトゥーがアクセサリーとして用意されている。どれもこれもキャスターとしての能力を伸ばす為の物となっている。ブーツも足にジャストフィットして違和感がない。これなら足場が不安定な場所で派手に暴れても何も問題ないだろう。
武器もこれに合わせて新しい物を貰っているのだから本当に至れり尽くせりというもんだ。
ニーズヘッグもニーズヘッグで新しい衣装に装備を更新して着替え終わっている。此方もベースはインナーシャツにジャケットという格好に変わりはないが、ニーズヘッグの場合はノースリーブのものになっている。胸元は最初のシャツ同様軽く開けており、こっちが指輪とグローブに対してニーズヘッグはバンテージと腕輪という格好で、こっちのトラウザーに対してニーズヘッグは動きやすさ重視に短めのスカート、それにXの字に交差するベルトを装着している。こいつ、普段は良く動き回るからスカートよりもズボンばっかり履いていてスカート姿は意外と新鮮なのかもしれないなぁ、と晒される生足をチラ見しながら思う。
惑わされるな、俺。その先はデッドエンドだぞ。
「ボス見て見て、これ見て。見て」
「はいはい、見てる見てる」
そう言って興奮したように頭に装着している髪飾り―――ドラゴンの角を模した細工の黒いアクセサリーを頭をこっちに向ける事で見せつけていた。その内尻尾と角を生やしてドラゴンごっこしたいとか言っていた怪獣女だが、ついにその一歩を踏み出しただけにテンションがめちゃくちゃ高かった。正面までくるとほぼ密着する距離できゃっきゃっしながら見せつけようとしてくるもんだから、視線を下に向けて谷間が見えそうになってうぼぉぁ―――。
「いやぁ、若いっていいっすわ」
「若いねぇ」
そんな視線を逸らしたくても中々目を逸らせない此方の様子をライネルとドクが一歩離れた距離から腕を組みながらにやにやと眺めている。
く、クソ! 良い仕事をしているだけに怒れねぇ! 生足はグッジョブだぞ! でもちょっとその谷間あけた着こなしはお父さんちょっと文句を言いたいと思うの! そこら辺の男の子が寄ってきたら殺されちゃうでしょ! というか殺しちゃうでしょ君。
良し、脳内で茶番劇を繰り広げるとちょっと落ち着く。それを受けて片手でニーズヘッグを抑えつつ、工房のおなじみコンビに軽く頭を下げる。
「装備ありがとうございました!」
その言葉にドクとライネルが応えた。
「いやいや、気にする必要はないよ」
「そうそう、どうせドクが王宮から貰った金を全部ぶっこんだだけだしな」
「いやぁ、私としても非常に楽しかったよ。本来得る筈だったスペックを制限しダウングレードする事で低位の者でも使用可能とする事、それでいて機能性や素材を損なわず、本来の機能をある程度保った上で拡張性を考慮する……その上で普段着としても着こなせるようにデザインも考えなきゃいけないからねぇ! いやぁ、外からぶん投げられた内容としては久々にやりがいがあって楽しかったよ」
「え、デザインドクの発案なんすか」
結構イイ感じのデザインをしているので驚いていると、ドクが頭をがくがくと震わせながら肯定した。ホラーかよてめー。
「そうだよぉ? だって機能を追求するだけなら猿にだってできるからねぇ。クライアントやパトロンを求めるならやっぱりデザイン面も重要なんだよねぇ。どう足掻いても性能だけじゃなくて見てくれも重要だし。それに魔導的にはデザインも力の一部として運用されるからねぇ、絶対にやってはいけないパターンとかあるもんさ。そういう事を全部考えながら機能性を追求するっていうのは実はそこそこ面倒な事なんだけどやはり研究者としてはそこら辺を探していくという作業が楽しくて私としてはまたこうやって全力でお金をぶん投げて作業できるってなら喜んでやる訳なんだがやっぱり回数増えると他の研究にも差し支えるし―――」
「あ、ドクの話は適当に聞き流して良いぜ。本気で語り出すと時間かかるからな」
なんとなく察した。ともあれ、武器防具、その両方がアップデートされたことでレベルアップによるステータスへの数値の追加が誤差とも言えそうなレベルでINTが上がった。いや、ベースの数値としては馬鹿にできないのだが、装備での追加分がかなり大きい。今ならこれまでの倍レベルで火力が出るだろうと思う。ただそれもこの装備のスペックが大きく影響している部分があるだろうから、ふつうの装備で同じだけの数字になるとは思ってはいけないのだろうが。
「ま―――君は精々頑張って殿下の期待に応える事さ。あのお方はあの歳としてはしっかりしておられるが、それでも心細いのは事実なんだ。きっと君たちにこれだけ投資したのも自分が何かをしている、という安心感を得るための行動の1つだろう」
知ってる。それを良く見た。だからこそサムズアップでドクの言葉に対して答えると、ニーズヘッグも横に並んでサムズアップを向けた。
「任せなさいドク。私とボスが揃った以上勝利は確定よ。貴方達は安心して領域の外でピクニックしてなさい。目の前まで遅めのランチを届けてあげるから」
ニーズヘッグの言葉にライネルが噴き出した。腹を抱えながら笑うと、息を吐き出し、そりゃあ良いと言葉を続けた。
「俺も参戦予定だしな。しっかりと引っ張り出してくれるならこれ以上ねぇわ! 自分の手であのクソカス共に引導を渡して、道を開くチャンスなんだ」
明らかに怒りを含んだ声、その笑みはいつの間にか獰猛な獣が獲物を前に放つような、狩猟者の物へと変わっていた。
「楽しみでしょうがねぇなぁ、おい」
明らかにブチギレた声色で、愉快そうに言葉を放っていた。それを見てドクも笑い、ニーズヘッグも楽しそうに笑っている。明らかにどいつもこいつも殺気で溢れた声色で楽しそうに笑い声を響かせているんだが、
俺自身は怖すぎてちょっと笑えない。助けて。
そこから逃げ出すように工房から東門へ。作戦開始まではまだしばらくあるが、適当に時間を潰すよりは先に現地入りして軽くウォーミングアップしながら準備していた方が遥かに有意義だろう。そう思って東門へとニーズヘッグと共にやってきたら、そこで見てしまった。
大量に布陣したエルディア兵の皆さんの姿を。
武器を抜き放ち、楽しそうに磨いている姿を。
殺気立ちながらも楽しそうにそこら辺のモンスターをスキップ混じりに蒸発させる姿を。
良し、正直に言おう。
めっちゃ怖いから帰って良い?
装備シリーズはドクが《エルディアン・セイバーズ》セットとか名付けてる。そしてそれによりついに谷間に加え生足まで解放されてしまった。まぁ、生足も素敵だから良いよね。